エントランスへはここをクリック   


「再処理=核兵器=危険」

のメッセージを広げよう!


齋藤真実
掲載月日:2015年11月12日
 独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁


 先週は、「核兵器」と「原発」を繋ぐ糸である「再処理」(プルトニウム)が話題となった週であった。

 まずは、11月1日から11月5日までの5日間、長崎で開催されたパグウォッシュ会議世界大会である。

 核兵器廃絶を訴える当該会議が、かつて原爆が落とされた長崎で開催されるとあって認知度は高かったかもしれない。

 プログラムの中で注目すべきは、11月3日の全体セッションで「原子力の平和利用のリスク」がテーマに挙げられたことだ。「原子力の平和利用」とはすなわち原発のことである。3.11の福島原発事故以降、パグウォッシュ世界大会で取り上げられてきたテーマであるが、今回は日本の再処理政策にも一歩踏み込んだ議論がなされたようだ。

 再処理とは簡単に言えば、原発の使用済み核燃料からプルトニウムとウランを取り出し再度燃料として加工するための処理である。このプルトニウムを分離することを核拡散の観点から危険とし、会議参加者の有志は六ヶ所再処理工場の無期限延期(中止)を呼びかける書簡を安倍首相に送った。

 核兵器廃絶を求める世界規模の団体が、有志とはいえ日本の原発政策について強く申し入れる書簡を首相に送り付けたのだ。

 首相がどう対応するのかは興味深い。この書簡に強制力はないが、核兵器と原発が強く結びついていることをわかりやすく一般に示せるという意味でも貴重なメッセージだ。

 次には11月6日に都内で行われた2つの催しである。パグウォッシュ会議の参加者を招いた研究会&記者会見(共催:IPFM、原水禁)が午後に行われ、夜には「原発と核」をテーマにしたシンポジウム(主催:新外交イニシアティブ)が開かれた。

 パグウォッシュ会議には参加できなかったが、11月6日の研究会及びシンポジウムには参加したので、以下に概要・内容・感想をまとめる。


●研究会・記者会見概要(主催者の田窪氏からの案内文より抜粋)

「六ヶ所再処理工場運転計画中止を呼びかけるパグウォッシュ会議参加者ら」

ゲスト:フランク・フォン・ヒッペル(プリンストン大名誉教授)
    カン・ジョンミン(米NRDC研究員:韓国出身)
共催:IPFM 原水禁

趣旨:
 50トン近く(核兵器6000発以上)のプルトニウムを保有しながら来年3月の六ヶ所再処理工場完成を目指す日本。長崎市長・知事に対して政府に計画中止を呼びかけて欲しいと訴えるパグウォッシュ会議参加者等が安倍首相にも計画中止を要請。米・韓の会議参加者等と六ヶ所の世界的問題について語り合う。

ゲスト紹介:

フランク・フォン・ヒッペル
核物理学者。プリンストン大学公共・国際問題名誉教授。非政府団体「国際核分裂性物質パネル(IPFM)」共同議長。1993─94年、ホワイトハウス「科学・技術政策局」国家安全保障担当次官として、ロシアの核兵器物質セキュリティー強化のための米ロ協調プログラム策定に関わる

カン・ジョンミン(姜政敏)
米国天然資源防護協議会(NRDC)核プログラム客員研究員
ソウル大学原子力工学学士・修士号、東京大学原子力工学博士号
鈴木達治朗・鈴木篤之両氏らと原子炉級プルトニウムで核兵器利用可能性について論文
プリンストン大研究員などを経て現職。IPFMメンバー

◆「国際核分裂性物質パネル(IPFM)」
2006年1月に設立。核兵器国と非核兵器国両方を含む18カ国の軍備管理・拡散防止問題の専門家からなる独立したグループ。核兵器の原料となるプルトニウムと高濃縮ウランの管理・削減政策を提案

●プログラムの内容報告


【写真1:フランク・フォン・ヒッペル氏のレクチャー(連合会館にて)】

 ヒッペル氏が「経済性:プルトニウム・リサイクルVS.使用済み燃料貯蔵」と題したレクチャーを30分ほど行った。その後姜氏が発言され、会場からの質疑となった。

 ヒッペル氏のレクチャーをお聞きするのは3回目だ。以前より何度も来日し、日本の再処理政策が如何に安全性・経済性を欠いているかを指摘し、代替案として使用済み核燃料の乾式貯蔵を一貫して主張している。今回もその趣旨をグラフや図表で解説して下さっていた。

 まず「日本はこれまで約50トンのプルトニウムを分離しており、それは核兵器約6000発分に相当する。」と発言。核兵器に換算すると、途端に50トンの重みが増す。とりわけ、これまで日本が分離してきたプルトニウム量の経年変化と将来予測の図は印象的であった。

 そのグラフでは日本国内で保管されている分、ヨーロッパで保管されている分、そしてMOX燃料として使用された分(僅か2トン台)が示されており、そのグラフを見ると、分離されたプルトニウムが使われることなく殆ど残っていしまっている現状と、今後六ヶ所再処理工場が稼働されると、更に分離プルトニウムが積みあがっていってしまう将来予測が見て取れる。

 また、再処理をしてMOX燃料を作りだすコスト(3,568,000円/kg)が、通常の低濃縮ウラン燃料の製造コスト(259,000円/kg)の10倍以上だということも、経済的に破綻していることがよくわかる。更にヒッペル氏は、使用済み核燃料の燃料プール保管の危険性を説明した上で、乾式貯蔵が方法として優れていることを説明した。

 一方、姜氏の発言で印象的だったのは、核燃料サイクルは今や単なる夢にすぎないと強調していた点だ。この理解はおそらく日本の核燃料サイクル推進者の中でも共有されていることだろうが、日本国内では公にされず、隠された事実となっている。

 質疑応答では、韓国での再処理への態度についてや、もんじゅの件などの質問がなされた。


【写真2:最近話題の増殖炉(もんじゅ)についても言及(連合会館にて)】

●シンポジウム概要

ND日米原子力エネルギープロジェクトシンポジウム
原発と核−4人の米識者と考える−

趣旨:
今回、米国から4人の専門家をお招きし、再処理により生ずるプルトニウムの核兵器への転用可能性、東アジア地域における安全保障の視点からの原発・再処理問題、核燃料サイクル政策の経済性や放射性廃棄物の管理についてご意見を伺います。

主催:新外交イニシアティブ(ND)
共催:
Nonproliferation Policy Education Center(核不拡散政策教育センター)

登壇者

フランク・フォン・ヒッペル氏(プリンストン大学名誉教授)
1993年からはホワイトハウス科学技術政策室で国家安全保障補佐官を務める。30年以上、プルトニウムと高濃縮ウランの管理に関する政策立案に携わり、使用済み燃料からのプルトニウムの分離(1977年に決定した再処理の取りやめに繋がった)などの研究に貢献。

ヘンリー・ソコルスキー氏
(核不拡散政策教育センター(NPEC)理事・元米国防省核不拡散政策副長官)
米国防省総合評価局や、CIA、米議会の指名を受け就任した「大量破壊兵器拡散・テロリズム阻止委員会」のメンバーなどを経て、現在は米ワシントンD.C.の国際政治研究所にて非常勤教授を務める。また、米上院・上院軍事委員会などで核政策に携わってきた。

ブルース・グッドウィン氏
(ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)国家安全保障政策研究所副所長)
1981年からロス・アラモス国立研究所、1985年からLLNLにて米国の核兵器開発に従事。従来とは根本的に異なるプルトニウムの態様を実証した革新的な武器科学研究に対し、米エネルギー省より、E.O.ローレンスアワードを受賞。

ビクター・ギリンスキー氏(核不拡散政策教育センター(NPEC))
1975年から1984年まで、米国原子力規制委員会のメンバーを二期にわたり務めた。ランド研究所物理化学部長を経て、現在、核不拡散政策教育センター(NPEC)にて、核エネルギーに関して独立したコンサルタント業務を行う。


●プログラム内容報告

 第1部は「安全保障の観点から見る核燃料サイクルと東アジアにおけるその影響」と題され、ブルース・グッドウィン氏とヘンリー・ソコルスキー氏が登壇した。

 第2部は「経済的観点から見る核燃料サイクル政策と放射性廃棄物の管理」と題され、前出のフランク・フォン・ヒッペル氏とビクター・ギリンスキー氏が登壇した。ヒッペル氏のプレゼンは前出なので割愛する。


【写真3:第1部の様子(日比谷コンベンションホールにて)】

第1部:グッドウィン氏のプレゼン

 原子炉級プルトニウム(普通の原発から発生するプルトニウム)は核兵器になりうるのだというプレゼンであった。原発推進派の研究者は、民生用プルトニウムからは核兵器になりえないとよく言うが、それは明らかな間違いだということがよくわかる内容であった。

 プルトニウムが原子炉内に入れたままにされる時間の長さが同位体組成に影響を与える、といった情報や、原子炉級プルトニウムと兵器級プルトニウムの違いを同位体組成で示すなど、プルトニウムの物性についても良く説明して下さっていたのが大変興味深かった。

 核兵器にとって重要な3つの特性(@核分裂性物質の核反応率、A取扱いの容易さ、B中性子バックグラウンド)を挙げ、それぞれの項目において、原子炉級と兵器級のプルトニウムの比較を考察した。

 その結果、プルトニウムのすべての同位体は核兵器として直接使うことができると結論付けた。実際、1962年に米国では原子炉級プルトニウムを使った核兵器の実験を実施しているとのことだった。

第1部:ソコルスキー氏のプレゼン

 プルトニウムを取り出す日本の再処理政策が東アジアの安全保障を脅かしかねない、という内容であった。

 前のグッドウィン氏のプレゼン内容を受けて、原子炉は核兵器に使えるプルトニウムを大量に生み出すものであると断言。1987年にレーガン大統領が原子炉を核兵器に使用するためのプルトニウムの生産に使うことを提案したこともあったという。

 このような原子炉級プルトニウムの危険性に対し、IAEAの保障措置には欠陥があることも指摘。IAEAの査察と査察の間の期間は4週間であるが、プルトニウムを核兵器の中核部品として挿入可能な形態にするのに必要な期間は、わずか1から3週間だという。つまり、IAEAの査察では、原子炉級プルトニウムの核兵器転用を抑止することは不可能である。

 こういった背景においては、日本の再処理政策が続いて分離プルトニウムの保有が更に増えると、中国も増やす方向へ向かい、韓国も再処理をやりたがるだろうということである。これは核拡散とも考えられ、東アジアの安全保障を脅かすものであると説明した。


【写真4:第2部の様子(日比谷コンベンションホールにて)】

第2部:ギリンスキー氏のプレゼン

 再処理は国際的危険性であり、経済性もなく、廃棄物処分の助けにもならない、という内容であった。

 六ヶ所再処理工場の経済性の無さを指摘し、無用の長物と評した。

 経済性がないこともさることながら、最優先事項は、再処理が国際的安全保障と相いれないことだと強調。1976年のフォード大統領の発言、「プルトニウム燃料の使用は、世界が、関連した核拡散のリスクを効果的に克服できるまで中止すべきである」を引用し、未だ「効果的に克服」していない現状では制限すべきと主張した。

 更に、廃棄物リサイクルの利点でもって説明される再処理が、実際には放射性廃棄物の貯蔵・処分を複雑にし、事故や漏れのリスクを大きくしていることにも言及。使用済み燃料はそのまま乾式貯蔵にいれることが、最も単純で安上がりかつ安全とのこと。


●質疑応答について
 プログラムの構成が良く、再処理についての理解を多面的に深める内容だった。それゆえ、会場から、あるいはコーディネーターからの質疑とその応答の内容も大変参考になった。

 数多くの質問がなされたが、なかでも2018年に満期を迎える日米原子力協定のその後の見通しに関する質疑に対しては、「おそらく自動更新されるのではないか」という回答であった。「再処理を隠して表面化させないように(自動更新)するのであれば、それは問題である。

 韓国は米韓原子力協定について5年以内に米と交渉したいと思っている。日本が再処理を続ければ韓国も再処理をしたいと言うだろうし、そうなればアメリカはイエスと言うだろう。」との回答であった。まさに、東アジアの安全保障は日本の再処理政策次第とまで言えるような甚大な問題である。世界も注目していることだろう。

 その他、日印原子力協定リスクについてや日本の核武装の可能性などについて質疑応答がされた。 会場からは「再処理を中止というより、そもそも原発を停止すべきでは?」という意見も出て、回答者をうならせる場面もあった。


●斎藤真実の感想

 3.11の福島原発事故以降、原発そのものや再稼働問題に関する一般的な関心はそれ以前と比べて飛躍的に高まった(とは言え、現在はまた関心が低くなっている感はあるが)。

 しかし、「再処理=危険」という認知度は未だ低い。「再処理=リサイクル」の良いイメージを日本政府が国民に植え付けようとしていることが功を奏しているのかもしれない。六ヶ所再処理工場についても各地の原発よりも知名度・理解度は低いと思われる。

 より多くの人々に「再処理=危険」をわかってもらい、日本政府の再処理政策を転換する必要がある。しかし、肌身で危険を感じた原発ならば理屈はいらないが、「再処理」と聞いてピンとくる人はまだまだ少ない。ハードルは、まず「再処理って何?」ということを分かりやすく提示することから越えられるだろう。難しい説明をしようとすれば人は拒否反応を示すものである。

 「核兵器」という誰しもが危険と認識している概念を間に挟むこと、つまり「再処理=核兵器=危険」とする分りやすいメッセージ性が有効なのだと考える。

 そのような意味では、今回の長崎パグウォッシュ会議世界大会及び研究会&記者会見、シンポジウムは「再処理=核兵器=危険」を伝える素晴らしいイベントであった。惜しむらくは、これらのイベントの存在と意義が限られた人々にしか共有されなかったことだ。

 本稿冒頭で、「先週は、再処理が話題となった週であった」と書いたが、「話題となった」と思っている人口はまだまだマイノリティである。

 恐らくは、先週のイベントの内容を誰でも分かるように翻訳する必要があるのであろう。

 ということで、本稿でご紹介したイベントに参加された方は、ご自分が理解された内容を分かりやすく翻訳し、「再処理=核兵器=危険」というメッセージを、より多くの人々に広めてゆきましょう!

以上