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疑わしい「自主調査」



鷹取 敦

掲載日:2006年5月26日


 神戸製鋼所が、2つの製鉄所の施設から環境基準を超えるばい煙を排出していた問題で、自動的に1時間に1回、排ガス中の有害物質濃度が測定・記録され、神戸市への回線を通じてデータの送信を行っているシステムにおいて、測定値が基準値を超えた場合には、記録も神戸市への送信も行わないようなプログラムとなっていたことが明らかになった。

 読売新聞・大阪
 http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20060524p301.htm
 神鋼ばい煙、基準超え数値は“自動省略”

 このシステムは市の条例や協定に基づいて設置されているものであり、神戸製鋼が「自主的に設置した」ものではないが、この類の事業者が自らの施設について自ら行う調査のことは「自主調査」と呼ばれることがある。

 例えば、排ガス中のダイオキシン類調査は、ダイオキシン類対策特別措置法などで、年に1回の事業者自らが(調査機関に委託して)調査することが義務づけられているが、これも「自主調査」と称されることがある。

 問題はこの「自主調査」なるものの信憑性である。神戸製鋼所に限らず、過去にこの種の「自主調査」について、ごまかし、偽造が報じられたケースは少なくない。

 記憶に新しいところでは、三井物産のディーゼル車の排気微粒子除去装置(DPF)データねつ造事件や、クボタが岩手県北上市内につくった産業廃棄物処理施設のダイオキシン濃度の測定値を改ざんし、子会社に引き渡していた事件などがある。
 また、排ガス中のダイオキシンの測定(年1回、4時間採取が義務づけ)の時だけ活性炭を噴霧して濃度を低下させている実態が報道されたこともある。

 規制ではないが、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:環境汚染物質排出・移動 登録)制度において、届け出られる化学物質の排出量は、事業者が自ら測定、もしくは推定し、集計するものである。

 この制度の問題点は、以前に
「正直ものがバカをみるPRTR?」
http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col37.html

で指摘したように、根本的には「事業者が自ら行う」点にある。

 測定調査だけではない。開発事業等を行う際に、事前に環境への影響の予測・評価等を行う、環境アセスメント(環境影響評価、生活環境影響調査など)も同様の問題点を抱えている。

 開発事業を行う当の事業者が、自ら現況把握、将来予測・評価、事後調査等を行うことから、「自分で問題を作って自分で回答し自分で採点」すると例えられ、それによって事業が大幅に変更になったり中止になることはまず考えられない。 昨今問題となっている建築確認と同じような構図だ。

 環境総合研究所では、環境アセスメントやそれに類する調査、環境調査等について疑問を持った住民から、第三者的なチェックや調査のやりなおし、いわゆる「セカンドオピニオン」を依頼されることが多い。
 その結果、アセスを行った機関の環境調査・予測に関する基礎的な知識の欠如による誤りの多発から、国等の作ったマニュアルに起因する非科学的な予測まで、問題点が山積している事例に事欠かない。このことからも、「自主的な」調査・予測の実態がよく分かる。

 「自主調査」に頼った制度設計は、やはり「正直ものがバカをみる」制度と言わざるを得ないだろう。しかし大企業たる神戸製鋼所、クボタ、三井物産(これらは氷山の一角と思われるが)において、このような実態であるとすれば、そもそも「正直もの」が存在するかどうかすら疑わしいのかもしれない。