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土壌汚染対策法の
デタラメな分析方法



鷹取 敦

掲載日:2006年6月16日


 以前に土壌汚染対策法の問題点を本コラムで指摘した。

 このコラムでは「●第2のハードル:汚染が見逃される調査方法」として、調査方法が極めて不備であることを指摘した。この時は「溶出試験」の問題点について指摘したが、実は「含有試験」についてさらに重大な問題がある。

 ここでは「溶出試験」の問題点についておさらいするとともに、「含有試験」の問題点について明らかにしたい。


●溶出試験(溶出量調査)とは

 「溶出試験」とは、簡単に言えば、土壌や廃棄物に含まれる有害物質が雨などによって水に溶け出して、川や地下水などを汚染する可能性がないか、について調べる方法である。

 そのため、一定の条件の液体(水など)に土壌や廃棄物を入れ、一定の時間、決められた方法でかき混ぜたり振ったりし、その液体に溶け出した(溶出した)有害物質の量を化学的に分析する。

 この液体は「検液」と呼ばれるが、溶け出した有害物質の量を検液1リットルあたりに換算した重量でその結果が示される。例えば検液1リットルあたり0.01mg(ミリグラム=千分の一グラム)のヒ素が含まれた場合、0.01mg/Lと表記する。

 ちなみに日本ではヒ素の土壌環境基準は溶出試験で0.01mg/Lと定められている。(土壌環境基準


●日本の溶出試験の問題点

 日本の公定法(法律やJISなど公的に示されている分析方法)に示された溶出試験の方法は、国際的にみれば極めて杜撰な方法である。

 まず検液(溶出に用いる水)のpHは中性(pH7)に近い5.8〜6.3である(数値が小さいほど強い酸性)。酸性雨のpHは一般的には5.6以下とされ、通常はpH4程度である。一般には酸性が強いほど土壌・廃棄物中の重金属類は水に溶け出しやすく、pHが1違うだけその効果は大きく異なるから、公定法の条件(pH)では酸性雨に遠くおよばない重金属類が溶け出しにくい条件で「溶出」を行っていることになる。

 一方、アメリカ(TCLP)、オランダ(Total Availability)、スイス、ドイツなどの溶出試験ではpH4を用いるから実際の酸性雨を想定した条件であると言える。

 さらに日本の公定法は、水にいれて振っている途中でpHが変化し中性に近づいてもそのまま振とうをつづける。つまり真水に土壌・廃棄物を入れて振っていることになる。水出し麦茶であれば水でも麦茶の成分を「溶出」できるだろうが、土壌・廃棄物中の重金属類が酸性雨に晒される状態からはかけ離れており、およそ非現実的だ。

 一方、上記に示した諸外国では「pH調整」と言って酸性度を一定に保つので、実際に酸性雨が降り続けている状態に近いから、その結果をもって現実のリスクを評価することが出来る。

 以上が、日本の「溶出試験」の問題点のおさらいである。この問題点は以前よりゴミ弁護士連合会の梶山正三氏(弁護士、理学博士)が指摘されていた。


●含有試験(含有量調査)とは

 「含有試験」とは、簡単に言えば、土壌や廃棄物に含まれる有害物質の全量もしくは(分析方法の制約から)全量により近い量を把握するのが「本来」の意味である。

 土壌との関係でいえば、なんらかの形で土壌を口等から摂取してしまった場合などのリスクを想定したものである。例えばダイオキシン類の土壌環境基準はダイオキシンの(全量を想定した)含有濃度について決められている。

 分析の手順としては、直接含有濃度を分析することは出来ないので、土壌等に含まれる有害物質を、液体(「溶媒」と呼ばれる)に溶け出させて、溶媒中の濃度を測定することになる。

 溶け出した有害物質の量を、元の土壌等の試料1キログラムあたりに換算した重量でその結果が示される。例えば試料1キログラムあたり150mg(ミリグラム=千分の一グラム)のヒ素が含まれた場合、150mg/kgと表記する。
 ちなみに日本ではヒ素の土壌汚染対策法の「指定区域の指定基準」は含有試験で150mg/kgと定められている。(土壌汚染対策法(特定有害物質及び指定区域の指定基準)


●デタラメな日本の土壌汚染対策法の含有試験

 土壌汚染対策法以前には、日本では土壌中の有害物質の含有濃度を評価する基準やめやすなどが一部の例外を除けば設けられていなかった。

 土壌汚染対策法を施行するにあたり、中央環境審議会は環境省に「土壌汚染対策法に係る技術的事項について」(平成14年9月20日)答申を行った。 ここで、「3 指定区域の指定に係る基準【法第5条第1項関係】」としてP.25に「(3)土壌中の対象物質の含有量測定方法」について以下のように述べている。


『土壌中の対象物質の含有量の測定方法については、土壌環境中での化合物の形態の変化及び土壌からの対象物質の体内での摂取の実態を考慮して、一定の安全性を見込むが完全分解による全量分析までは行わないような分析方法とする。』


 わかりにくい説明なので、かみ砕いて解説すると「口から摂取しても全量が体内に吸収される訳ではないから全量分析は行わない」ということである。一見もっとものようであるが、他の含有濃度基準でこのような話は聞いたことがない。ダイオキシンの土壌環境基準でさえ、全含有量を想定して含有試験である。

<事実誤認があったため一部削除いたしました。>

 このような試験方法が公定法として定められているということは、耐震偽造問題に例えれば、地震で簡単に倒れるような構造についても耐震強度1以上の数値が出るようなものである。

 「風評被害」を恐れるあまり、どんなものにでも合格点のつく試験方法を採用したというのが実態でなのであろうが、本来恐れなければならないのは「国民の健康へのリスク」であるはずだ。そのためには、仮に不合格が沢山出ることが想定されるとしても、科学的に正しい試験方法を公定法とすべきだ。