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第三セクタによる産廃焼却処理の破綻
「神奈川廃棄物処理事業団」

鷹取 敦

掲載日:2008年10月23日


 神奈川県、横浜市および川崎市は、第三セクタ「神奈川廃棄物処理事業団」を設立、平成12年11月に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃棄物処理法」)に基づく「廃棄物処理センター」の指定を受け、平成13年4月に産業廃棄物及び特別管理産業廃棄物の処分業許可を取得、川崎市川崎区千鳥町の「かながわクリーンセンター」において産廃の焼却処理を行っている。

 「廃棄物処理センター」とは、産業廃棄物、特別管理産業廃棄物などを広域から集めて処理するために、自治体の出資等によって設立され、大臣(厚生大臣、現在は環境大臣)が指定するものである。「廃棄物処理センター」に指定されると、財政上、税制上の優遇措置を受けられるというものである。

 「廃棄物処理センター」は、産廃処理施設の立地が難しくなっていること、特に危険性が高く適正処理が困難とされる特別管理産業廃棄物などの処理施設の設置を広域(都道府県単位)で進めること等を目的とし、廃棄物処理法によって定められたものである。いわゆる「公共関与」で事業主体を設立することで、国の補助金等の財政的優遇措置、税制的優遇措置の受け皿として財政的な基盤を支え、一方で施設立地・建設を「円滑に」(近隣住民の反対をものともせずに)進めることを意図しているものと思われる。

 廃棄物処理法では、産業廃棄物(事業活動によって排出される廃棄物のうち定められたもの)、特別管理産業廃棄物(特に危険性が高い産廃として定められたもの)は、原則として事業者の負担と責任において処理するよう定めている。従って、産廃処理には原則として税金が投入されることは無いはずである。

 適正に処理することを義務づける各種規制・制度と、事業者の負担と責任における処理を義務づけることによって、事業者が廃棄物のそもそもの排出量を減らすためのインセンティブ(誘因)となる。そのためには不法投棄、不適切な処理が行われないようにするために、国、自治体等の行政がこれを厳しく監督する必要がある。

 この点から言えば「廃棄物処理センター」は、監督すべき立場の自治体が設立し、破綻した場合には税金の投入がありうる第三セクタ等として設立されるため、本来の原則から外れた存在であるのではないだろうか。

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 そのような存在である、「神奈川廃棄物処理事業団」について、神奈川新聞は10月22日の記事「三セク「神奈川廃棄物処理事業団」改善計画案に問題指摘相次ぐ、川崎市議会環境員会」で、「神奈川廃棄物処理事業団」が2010年度までに破綻する恐れがあるという県の包括外部監査の指摘を受けてまとめられた経営計画案が、川崎市議会環境委員会で報告された、と報じた。(文末に記事を引用)

 経営悪化の理由の1つは、搬入される廃棄物量の減少である。記事によるとピークだった2002年度の搬入量は約52,000トンに対して、2007年度は約38,000トンと約27%減少している。特に大きく減少している品目はプラスチックや汚泥、木くず、建設系混合廃棄物リサイクルの進展をうかがわせるものであると指摘されている。

 もう1つの重要な理由は、焼却炉の故障であると指摘されている。廃プラ焼却による高温に炉が耐えられず、2005年からの緊急停止が100回以上、2007年度は149回に達し、修繕費に毎年数億円を要しているという。

 廃プラ焼却と言えば、東京23区では今年度(2008年度)より廃プラを燃やさないゴミから燃やすゴミに変更し、廃プラ焼却による売電を開始する。(ただし港区は廃プラを資源化、他の10区ではプラマークのプラを資源化、12区でトレー等をのぞき前面焼却。)廃プラ焼却に伴う、炉への負担等のコストの増大とともに有害物質、CO2などの環境負荷の増大、資源化の消失等が指摘されてきたにも関わらず、4月、10月と相次いで本格実施に入った。

 23区では、実証確認試験と称して短時間、少量の廃プラ焼却と非科学的な方法をもって安全であると主張してきた。しかし、当初より廃プラ焼却を想定して建設された「かながわクリーンセンター」においてさえ、廃プラ焼却が原因でこのように極めて頻繁な緊急停止とコストの増大が発生している。緊急停止の際等に発生しているであろう有害物質等は全くといっていいほど測定されていない。ましてや、そもそも廃プラ焼却を想定していない23区の焼却炉では、試験を行うまでもなく、廃プラ焼却など行うべきでないのは明らかではないだろうか。中長期的にみても財政、環境への影響が懸念される。

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 「かながわ廃棄物処理事業団」は、経営の安定化のために「産廃の確保」と人員削減によるコスト削減を図ろうとしている。現在、処理方法について国が検討しているPCBの焼却処理の受け入れも検討され、地元、川崎区選出の議員から「安全性が確立される前からPCBに期待するのはおかしい。そもそも産廃は排出者責任で処理するのが筋だ」と強く批判されているという。

 本来、廃棄物の排出量、処理量削減は喜ぶべきことであり、「廃棄物の確保」に血道を上げなければならない、という事態は本末転倒ではないだろうか。公共関与、第三セクタによる廃棄物処理、焼却処理に依存した廃棄物処理のゆがみがここにも現れている。


神奈川新聞
http://www.kanaloco.jp/localnews/entry/
entryxiiioct0810593/

三セク「神奈川廃棄物処理事業団」改善計画案に問題指摘相次ぐ、川崎市議会環境員会

 県と横浜、川崎両市の第三セクター「かながわ廃棄物処理事業団」が二〇一〇年度までに破たんする恐れがあるとする県の包括外部監査の指摘を受けまとめられた経営計画案が川崎市議会環境委員会で二十二日報告され、委員からは問題点を指摘する声が相次いだ。公共が関与して産廃を焼却処理するモデル施設として〇一年度に川崎臨海部にオープンした同事業団運営の「かながわクリーンセンター」だが、産業界でもリサイクルが進み産廃確保もままならない実態が浮き彫りになっている。

▽減少する搬入ごみ

 「センターを視察した際にあまりの(産廃の)量の少なさに驚いた」とある委員は指摘した。報告によると、ピークだった〇二年度の搬入量は約五万二千トンだったが、〇七年度は約三万八千トンと一万四千トン近く減らしている。激減しているのが廃プラスチックや汚泥、木くず、建設系混合廃棄物。産業界のリサイクルの進展などをうかがわせるものばかりだ。

 産廃処分の思わぬ出費として足かせになっているのが焼却炉の故障。廃プラスチックなどの焼却で炉が高温に耐えられず、〇五年度から炉の緊急停止が百回以上を数える。〇七年度は百四十九回に達し、安定稼働をさせるため修繕費を毎年数億円かけなければならない。

▽浮島への埋め立て

 事業団は、収入増として(1)搬入量を確保する民間企業との連携(2)大規模修繕による安定稼働体制、支出を抑えるために(3)人員削減(4)ごみを埋め立てる最終処分費の削減など−を挙げている。しかし委員らからは「先の見通しが甘いのではないか」「追加の市民負担がないようにしてほしい」などの声が相次いだ。

 特に最終処分費では、横須賀・芦名の「かながわ環境整備センター」での処理費が産廃一トン当たり二万五千九百円と高いため、来年度は横浜の南本牧(一トン当たり処理費一万五千五百円)、川崎の浮島(同五千円)で受け入れる案を示しており、「処分場の延命のために家庭ごみの減量化を市民に求めている中で説明できるのか」との指摘も出た。

 横須賀・芦名の年間受け入れ量の45%を事業団の産廃の焼却灰が占めているため、市によると、かながわ環境整備センターの経営にも影響が出かねないという。

▽どうするごみ確保

 産廃搬入量の確保策の一つとして示された処理困難物についての批判もあった。川崎区選出の委員からは「これ以上産廃を持ち込まないでほしいというのが区民感情」。現在、試験焼却で可能性が出ている低濃度PCBなどの処理が示された計画案に「安全性が確立される前からPCBに期待するのはおかしい。そもそも産廃は排出者責任で処理するのが筋だ」との批判も出された。