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鞆の浦埋め立て架橋問題に
再検討求める国交相発言の意義



鷹取 敦

掲載日:2009年2月4日




 世界遺産に値するとも言われる広島県福島市の景勝地・鞆の浦に計画されている埋め立て架橋問題について以前に本コラムで紹介した。
◆鞆の浦埋め立て架橋計画の必要性に疑問〜住民参加の交通量調査結果より〜
http://eritokyo.jp/independent/
takatori-col156.htm


◆鞆の浦埋め立て架橋事業の必要性の検証(環境行政改革フォーラム論文集)
http://eritokyo.jp/independent/
eforum-vol1-no2-1-03-takatori-tomonoura.pdf
 地域の住民は、この計画に対して歴史的景観を守るために、広島県に対し公有水面の埋立を免許する処分を差し止める仮処分を起こしている。

鞆の浦港を臨む風景(筆者撮影)

 2008年3月の広島地裁の決定では、差し止めは認められなかったものの「歴史的な町並みに暮らす住民には、景観利益を有する権利がある」ことを認め「工事が着工されれば鞆の浦や周辺の景観が害され、一旦壊された景観は原状回復が困難になる」との判断を示した。

 仮処分で差し止めが認められなかった理由は「たとえ埋立て免許が出された場合でも、工事着工には1ヶ月〜2ヶ月が必要となり、その間に現在進行中の免許差止め訴訟を免許取消し訴訟に変更し、同時に執行停止の申立てをして着工前に許否の決定を受けることが十分に可能である」と現時点での緊急性はないと判断されたためである。

常夜燈(筆者撮影)

 その後は仮処分における判断に沿って本裁判で争われ、本年(2009年)2月12日に結審を予定している。

 この間、公有水面の埋立の免許を審査する立場にある国土交通省は申請から半年以上経っても結論を出していなかったことから、その意向が注目されていた。
※上記訴訟は広島県知事が広島県及び福山市に
  対し埋立免許を差し止めを求めるものであり訴訟
  の対象は県知事。国土交通大臣の認可はその
  前提条件であり訴訟の対象ではない。
 先日(1月30日)の報道によれば、国土交通大臣は「住民同意」だけでなく「国民同意」を取り付けるよう計画の主体である福山市に再考を求めたという。

雁木(筆者撮影)

 そもそも今回の埋め立て架橋事業の必要性には大きな疑問があることは、以前にコラムで紹介した調査で定量的に示したとおりであるが、それ以上に国交大臣が、鞆の浦の景観を地域だけの財産ではなくて、国民の財産であるという立場に立った判断を示したことの持つ意味は大きい。

 福山市長はこれに不快感を示したというが、これは地域住民の立場にも国民の立場にも立っていないことが際だつものである。

 国土交通省には是非、鞆の浦だけでなく全国で計画されている公共事業について、国民の税金の使い途としての必要性・妥当性・正当性からの是非はもちろんのこと、その公共事業によって失われる自然や景観、文化遺産などが国民の財産であるとの立場に立った判断を示して欲しい。


毎日新聞
http://mainichi.jp/select/seiji/news/
20090130k0000e010062000c.html?inb=yt

鞆の浦:福山市に埋め立て架橋計画の再検討求める 国交相
2009年1月30日

 瀬戸内海国立公園内の景勝地、鞆(とも)の浦(広島県福山市)の埋め立て・架橋計画について、金子一義国土交通相は30日の閣議後会見で「住民同意だけでなく国民同意を取り付けてほしい。(検討過程で)計画見直しもあり得ると思う」とし、計画を進める福山市に再検討を求めた。

 鞆の浦は宮崎駿監督がアニメ映画「崖(がけ)の上のポニョ」の構想を練ったとされる。防災上問題があるとして、県と市が83年に一部埋め立てとバイパス橋(約180メートル)を計画。同市の羽田皓(はだあきら)市長は計画推進を掲げ、08年8月に再選。一方で、計画反対派は約10万人の反対署名を集めた。また、07年に反対派住民が埋め立て免許を出さないよう県を相手取り広島地裁に提訴し、係争中。

 金子国交相は「(羽田市長は話し合いに応じないとしているが)そんなことでは駄目だ」と批判し、協議の場を設けるよう求めた。【高橋昌紀】



毎日新聞
http://mainichi.jp/area/hiroshima/news/
20090203ddlk34010555000c.html

鞆港埋め立て・架橋問題:国交相発言、福山市長が不快感「地元、最善と判断」 /広島

 福山市鞆町の鞆港埋め立て・架橋計画を巡り、金子一義国土交通相が「国民同意が必要」などと発言したことを受け、羽田皓市長は2日の定例記者会見で「民主主義の手続きを踏んで地元が最善と判断した事業。何をもって国民同意となるのか定義付けがよく分からない」と強い不快感を示した。金子国交相が求める反対派住民との話し合いについては「裁判の原告と被告という立場もあり、現時点では協議は難しい」と述べた。

 羽田市長はまた「25年間議論を積み重ねた結果、住民が安心・安全に暮らすために現在の計画が最善と判断した」との考えを強調した。計画見直しの可能性については「到底考えられない」と述べた。今後は藤田雄山知事とも調整し、対応を検討するとしている。

 羽田市長は先月28日、国土交通省で金子国交相と約20分間会談。金子国交相は2日後の30日、閣議後会見で「住民同意だけでなく国民同意を取り付けてほしい。計画見直しもあり得ると思う」などと批判した。【重石岳史】

毎日新聞 2009年2月3日 地方版