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春日井市の産廃処理施設
許可取り消しへ
〜問われる司法〜

鷹取 敦
掲載日:2009年12月5日


 愛知県春日井市と名古屋市の市境には庄内川が流れている。庄内川の春日井市側の堤防のすぐ外側に名古屋市内のパチンコ業・名成産業が産業廃棄物焼却施設の建設を計画し2001年には愛知県に施設設置の許可申請を行った。庄内川両岸は住宅地が広がる地域である。

 計画された焼却炉の煙突は低く、当然のこととして周辺大気への重大な影響が懸念されたため、地域では激しい反対運動が起こった。双方、解決策を求めて事業者と住民の間で議論を行うシンポジウムが開催(ごみ弁連会長の梶山弁護士、環境総合研究所の池田副所長が住民側に依頼され専門家として参加)されたものの決裂し、建設差し止めの仮処分が名古屋地裁に申し立てられた。

 仮処分においては、債権者(仮処分を申し立てた住民)に求められて、筆者は春日井市および春日井市の住宅地域への影響についてシミュレーションを行い意見書を裁判所に提出した。焼却炉の技術的な問題点については広島県立大学の三好教授が専門家として支援したが、仮処分は2005年7月には申立却下となった。

 一方、2004年には愛知県は設置を許可し、試運転が開始されたものの、正常な稼働に至らず、愛知県は2度の改善命令を出している。

 住民が申し立てた仮処分は抗告審でも主張が認められず、その後、操業差し止めを求める本裁判が行われていた。筆者は本裁判でも大気汚染の影響に関わる意見書を求められたため、2007年に専門的な観点からの意見書を作成し名古屋地裁に提出し、2008年には法廷で証言した。さらに立証を補強する目的でシミュレーション調査も行った。三好教授は愛知県が2度の改善命令を出すほどのおそまつな焼却炉について、データに基づいて専門家として問題点を裁判所に詳細に説明した。

 それにも関わらず、2009年10月9日、名古屋地裁は住民敗訴の判決を出した。この時点で、問題の焼却炉は未だに本格操業を開始できず、愛知県の改善命令が続き、試運転が続けられているという異常事態にも関わらず、である。

 判決に先立つ5月から6月にかけて行われた4回目の試運転の結果は判決が出た10月になってもまだ公表されていなかった。前年12月に県は名成産業に改善命令を発しており、改善命令違反があれば、廃掃法の規定で設置許可を取り消さなければならないことになっていた。このような炉であるにも関わらず、操業差し止めの判決が出なかったことは極めて驚きである。

 試運転の結果、2度の改善命令にも関わらず、臭気等が維持管理基準を達成できなかったため、12月に入り愛知県は設置許可の取り消しの手続に入ったっことが報じられた。稼動前の施設の設置許可取り消しは極めて異例の事態であるという。

 裁判所には維持管理基準の点からも問題のある試運転のデータが提出され、専門家によってその意味するところが詳しく説明された。さらに周辺環境に及ぼす影響についても科学的に立証されている。県が自ら出した許可を取り消すことは、極めてまれであるにも関わらず、愛知県は設置許可の取り消しの手続に入っている。このような施設にも関わらず、裁判所は仮処分でも地裁でも住民敗訴の判決を出すとは司法がまともな判断を行わず、その役割を果たしていないとみられても仕方がないのではないだろうか。

 先に本コラムでも紹介した10月に仮処分では住民の訴えが認められ、東京都板橋区のペット火葬炉の使用差し止めが東京地裁で認められた。対照的な事例である。板橋区の例は問題のある焼却炉、住宅地域に与える影響という点で名成産業の事例と共通する点が多い。裁判所はこれらについて提出された科学的な証拠等に基づき差し止めの処分を出したのである。

■ペット火葬場に差し止めの仮処分
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col180.htm

 名成産業の裁判では、原告住民はすぐに控訴状を提出し、年内には控訴審手続が始まるという。判決が出る前に愛知県の許可取り消し手続で問題が解決されることが望ましいが、一方で裁判所のまともな判決の知らせも聞いてみたいとも思う。


中日新聞
春日井の産廃施設、設置許可取り消しへ

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2009120290104106.html
2009年12月2日

 愛知県春日井市に建設された産業廃棄物処理施設について、同県は、稼働前の試運転中に2度にわたる改善命令を出したにもかかわらず、臭気などの測定値が維持管理上の基準値を超えたとして、設置許可を取り消す手続きに入った。環境省によると、稼働前の産廃施設に対し、設置許可を取り消すのは極めて異例という。

 同施設をめぐっては、地元住民らが操業差し止めを求める訴訟を起こし、名古屋地裁が10月、「施設は構造基準に適合し、健康が侵害される可能性を認めるだけの立証がない」などと請求を棄却。司法と行政の判断が分かれることになる。

 施設は、名古屋市東区の遊技場経営会社「名成産業」が事業主となっている産廃中間処理の焼却施設。2004年に県が設置を許可し、庄内川右岸沿いの春日井市松河戸町の約1700平方メートルに建設された。

 08年3月と同年10月の2度の検査で、いずれも排ガスや騒音、臭気が基準を超えたとして、県は改善を命令。廃棄物処理法では、改善命令で是正されなかった場合はただちに設置許可が取り消されるが、県は「基準超過の物質や測定場所が異なった」などとして、異例の2度にわたる改善命令を出した。

 しかし今年6月の3度目の検査でも臭気などの項目で基準値を超えたため、県は近く、許可取り消し処分にあたって事業主の言い分を聞く聴聞を開く。

 県によると、通常の手続きでは、事業主が設置許可の申請時に、臭気や騒音、排ガス量などが周辺の生活環境に影響しないよう維持管理計画を策定。県は施設の稼働後に、計画に適合しているか検査する。

 今回の施設は構造が特殊な上、周辺住民からの反対運動も強く、県が試運転の段階で検査を実施していた。

 設置許可が取り消された場合、環境アセスなどを含む申請手続きをすべてやり直す必要があり、再び許可を得るのは困難。事業主側が処分の取り消しなどを求めて訴訟を起こす可能性もある。

(中日新聞)