鷹取 敦 |
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愛知県春日井市と名古屋市の市境には庄内川が流れている。庄内川の春日井市側の堤防のすぐ外側に名古屋市内のパチンコ業・名成産業が産業廃棄物焼却施設の建設を計画し2001年には愛知県に施設設置の許可申請を行った。庄内川両岸は住宅地が広がる地域である。 計画された焼却炉の煙突は低く、当然のこととして周辺大気への重大な影響が懸念されたため、地域では激しい反対運動が起こった。双方、解決策を求めて事業者と住民の間で議論を行うシンポジウムが開催(ごみ弁連会長の梶山弁護士、環境総合研究所の池田副所長が住民側に依頼され専門家として参加)されたものの決裂し、建設差し止めの仮処分が名古屋地裁に申し立てられた。 仮処分においては、債権者(仮処分を申し立てた住民)に求められて、筆者は春日井市および春日井市の住宅地域への影響についてシミュレーションを行い意見書を裁判所に提出した。焼却炉の技術的な問題点については広島県立大学の三好教授が専門家として支援したが、仮処分は2005年7月には申立却下となった。 一方、2004年には愛知県は設置を許可し、試運転が開始されたものの、正常な稼働に至らず、愛知県は2度の改善命令を出している。 住民が申し立てた仮処分は抗告審でも主張が認められず、その後、操業差し止めを求める本裁判が行われていた。筆者は本裁判でも大気汚染の影響に関わる意見書を求められたため、2007年に専門的な観点からの意見書を作成し名古屋地裁に提出し、2008年には法廷で証言した。さらに立証を補強する目的でシミュレーション調査も行った。三好教授は愛知県が2度の改善命令を出すほどのおそまつな焼却炉について、データに基づいて専門家として問題点を裁判所に詳細に説明した。 それにも関わらず、2009年10月9日、名古屋地裁は住民敗訴の判決を出した。この時点で、問題の焼却炉は未だに本格操業を開始できず、愛知県の改善命令が続き、試運転が続けられているという異常事態にも関わらず、である。 判決に先立つ5月から6月にかけて行われた4回目の試運転の結果は判決が出た10月になってもまだ公表されていなかった。前年12月に県は名成産業に改善命令を発しており、改善命令違反があれば、廃掃法の規定で設置許可を取り消さなければならないことになっていた。このような炉であるにも関わらず、操業差し止めの判決が出なかったことは極めて驚きである。 試運転の結果、2度の改善命令にも関わらず、臭気等が維持管理基準を達成できなかったため、12月に入り愛知県は設置許可の取り消しの手続に入ったっことが報じられた。稼動前の施設の設置許可取り消しは極めて異例の事態であるという。 裁判所には維持管理基準の点からも問題のある試運転のデータが提出され、専門家によってその意味するところが詳しく説明された。さらに周辺環境に及ぼす影響についても科学的に立証されている。県が自ら出した許可を取り消すことは、極めてまれであるにも関わらず、愛知県は設置許可の取り消しの手続に入っている。このような施設にも関わらず、裁判所は仮処分でも地裁でも住民敗訴の判決を出すとは司法がまともな判断を行わず、その役割を果たしていないとみられても仕方がないのではないだろうか。 先に本コラムでも紹介した10月に仮処分では住民の訴えが認められ、東京都板橋区のペット火葬炉の使用差し止めが東京地裁で認められた。対照的な事例である。板橋区の例は問題のある焼却炉、住宅地域に与える影響という点で名成産業の事例と共通する点が多い。裁判所はこれらについて提出された科学的な証拠等に基づき差し止めの処分を出したのである。 ■ペット火葬場に差し止めの仮処分 http://eritokyo.jp/independent/takatori-col180.htm 名成産業の裁判では、原告住民はすぐに控訴状を提出し、年内には控訴審手続が始まるという。判決が出る前に愛知県の許可取り消し手続で問題が解決されることが望ましいが、一方で裁判所のまともな判決の知らせも聞いてみたいとも思う。
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