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福島県の甲状腺検査の問題

2015年9月末データより

甲状腺がんの割合の検討


鷹取敦

掲載月日:2015年12月10日
 独立系メディア E−wave
無断転載禁


 東京電力福島第一原発事故と甲状腺検査に関してこれまでに、何度か考察を行ってきた。先日最新データが公表されたことから、新たに甲状腺がんの割合に注目し、データを解析して、考察を行った。

■福島県甲状腺検査の概要

 平成27年(2015年)11月30日、第21回福島県「県民健康調査」検討委員会が開催され、福島第一原発事故による影響を調べるための甲状腺検査の最新データが公表された。

◆第21回福島県「県民健康調査」検討委員会(平成27年11月30日)の資料(福島県)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-21.html

 甲状腺検査は、事故時に0〜18歳だった福島県の子供を対象として実施されている。

 平成23年度(2011年度)〜平成25年度(2013年度)には「先行調査」が実施されている。事故が起きた平成23年(2011年度)には、浪江町、飯舘村、双葉町等の汚染の大きかった13市町村、平成24年度(2012年度)には、福島市、郡山市等を含む12市町村、平成25年度(2013年度)には、いわき市から会津地域までを含む汚染の小さかった残りの市町村が対象である。

 平成26年度(2014年度)、平成27年度(2015年度)には「本格調査」の第一回目が実施され、現在実施中である。平成26年度は「先行調査」の平成23年度、平成24年度で対象とされた、相対的に汚染の大きかった自治体を対象としている。

 今回の公表資料の段階では平成26年度調査分がおおむね確定しつつある段階である。

■被ばくによる甲状腺がんが増えているかどうか評価する方法

 ところで、福島第一原発事故以前には、今回のような悉皆調査が行われていなかったため、福島県内の検査で甲状腺がんが発見された数をみただけでは、被ばくによる増加の程度は分からない。

 他県との比較として、青森県、山梨県、長崎県の一部の子供を対象とした調査が行われており、B判定、C判定の年齢別の割合で比較することは出来るものの、母集団が小さいため、甲状腺がんの増加の比較対照とはなりにくい。

 福島県内の調査結果だけで、被ばくによる増加を評価するためには、次の3点について検討すればよい。

(1)汚染が大きい地域ほど甲状腺がんの割合が大きいか
(2)年齢が低いほど甲状腺がんの増加が大きいか(チェルノブイリの特徴)
(3)先行調査より本格調査の方が甲状腺がんの割合が増加しているか


 なお、甲状腺検査による所見(B判定、C判定、甲状腺がん)の割合は、被ばくが無い場合でも、年齢が上昇すれば増えることが分かっていることから、比較する場合には検査時の年齢をそろえる必要があることに注意が必要である。検査時年齢を無視した検討は全く無意味である。

■現時点までの検査データの検討

 公表されたデータは、上記の検討を行うために、必ずしも十分な情報がそろっ
ていない。

 たとえば、「先行調査」で見つかった検査時年齢別の甲状腺がんが、どの地域で発見されたか(つまり平成23〜35年度のどの検査で発見されたか)、明確なデータとはなっていない。この点については、「先行調査」(確定版データ)より、事故時年齢別の甲状腺がんの人数と、検査時年齢別の甲状腺がんの人数を比較することにより、事故時と検査時の年齢差(0年差〜4年差)毎の人数を推計した。これを用いて検査年毎の人数を、年齢差0〜1年は平成23年度、年齢差1〜3年は平成24年度、年齢差3〜4年は平成25年度と推測されることから、それぞれ均等になるよう割り振った。

 また、検査年毎の年齢別人数は、幅で4区分に分けて示されている。たとえば「先行調査」は事故時年齢0〜5歳、6〜10歳、11〜15歳、16〜18歳となっており、1歳毎の人数は分からない。そのため、これを検査時年齢に置き換えて、甲状腺がんの人数をこの4区分毎に集計した。

 論文ではないので詳細は省くが、このようにして集計した、母集団(検査結果が確定した人数)に対する甲状腺がんが見つかった人数の割合を、グラフに示す。横軸が検査時年齢(年齢幅の中央)、縦軸が母集団に対する甲状腺がんが見つかった人数(正確には「悪性ないし悪性の疑い」と表記されている)である。



 これをみると、下記のいずれの特徴も見られないことが分かる。すなわち、先行調査の平成23年度が高いことはなく、低い年齢で増加していることもなく、本格調査で増えているわけでもない。少なくとも「激増している」わけではないことが分かる。

(1)汚染が大きい地域ほど甲状腺がんの割合が大きいか
(2)年齢が低いほど甲状腺がんの増加が大きいか(チェルノブイリの特徴)
(3)先行調査より本格調査の方が甲状腺がんの割合が増加しているか


 今後は、本格調査の2巡目以降を見守っていく必要がある。

 また、公表されているデータでは、十分な検討を行うことができなことから、個人情報として問題ない範囲で、年齢や地域に関してもっと詳細なデータを公表することが望まれる。

 福島県は、データの公表の仕方だけでなく、その評価についてもっと丁寧に行って、福島県民にわかりやすく伝える必要がある。子供の甲状腺がんの問題は、福島県の家族にとって大きな不安要因であり、ストレスの原因となっているからである。

 マスメディアも、単に県の公表データから新たに見つかった甲状腺がんの数のみを報道して誤った印象を与えたり、福島県の言い分だけを伝えるのではなく、第三者的な検証を伴ったわかりやすい報道が必要であろう。