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「安倍晋三は古い自民党
の申し子」のユエン


田中康夫

掲載日2006年9月16日



IT(情報技術)や通信分野での技術革新が経済成長を生み出す」と合同記者会見で述べた安倍晋三氏を、「訴えの軸足を経済に移した」と評価する向きが居ます。

呵々。この発言こそは20世紀型のハコモノ行政発想の延長です。麻生太郎、谷垣禎一の両総裁候補を横目に、「私は一番若い」と胸を張った彼こそが実は、公共事業依存型で利権誘導的な古い自由民主党の申し子に他ならぬ、との露呈です。

 と申し上げると、首を傾げる読者諸氏も居られましょう。無理からぬ話です。誰もが表立っては否定しにくいITや環境への巨大投資は、その期待とは裏腹に、目に見えにくい21世紀型のハコモノ行政を増殖させているのです。

 12700万人を数える国民の中で、未だ保有者が90万人台に留まる住基カードの愚行は、畏兄ならぬ畏姉たる櫻井よしこ女史の指摘を受けるまでもなく明らかです。

その必要性を国民が感じていないから保有者が一向に増加しないシステム保持に、少なく見積もっても年間350億円もの出費を全国の自治体は強いられています。

2011年実施と大本営発表に固執する地上デジタル放送の愚行も、畏友の批評家・坂本衛氏が喝破する通りです。 

同じく少なく見積もってもアナログ受像機は全国に12000万台は存在し、今後5年間=1800日でハイビィジョン受像機へと交換するには166666台=12400万台のペースでなくては実現不可能。にも拘らず、驚く勿れ、その交換台数は、デジ・アナ併せた国内白物家電メーカーの現行年間出荷台数を25倍も上回る、非現実的計画なのです。

米国映画の題名に因んで性的魅力を意味する「イット」とITを誤読した森喜朗内閣を経て、小泉・竹中コンビで本格稼働したeジャパン戦略は、政官業学報の一廓に巣くう御用学者や平成の政商に、“濡れ手に粟”の利益を齎しました。オリックスの宮内義彦氏に関しては、改めて言及する迄もありますまい。

元「日本経済新聞」の俊英・阿部重夫氏が今春に創刊した会員制経済総合誌「ザ・ファクタ」9月号は、「『次世代ネット』の大風呂敷 村井グループの利権にクサビを打ち込めるか」と題する特集を組んでいます。

 慶應義塾大学の村井純教授設立の「WIDE」が、商用インターネット業者の相互接続を実現する一方で、「ドメイン名サービスの運営という“おいしい利権”」を独占してきた実態を踏まえ、「ネットは見た目ほど公平でも自由でもない」と、小坂憲次文部科学大臣や世耕弘成党広報本部長代理とも親交が深い村井純の実像を看破しています。

「ドメイン名を登録する際に誰もが唖然とするのは、米国など他国より何故、日本の登録料がこれほど高いか」。「殆ど暴利」。「村井グループは、eジャパンなど政府のインターネット関連予算も使いまくったが、その割に基幹産業が育っていない」。

 安倍氏が言明した「大胆な政策減税」も、増税に怯える国民個人ではなく、政官業学報の政商を利するだけなのです。

北朝鮮問題で殊更に「毅然」を装う一方、安倍家とは“刎頸の友”を自任する遊技業界のドンに地元・下関で君臨を許す「安倍は組閣でドジを踏む」。「ザ・ファクタ」が組んだ、もう一つの特集のタイトルです。