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「八方美人」安倍首相は
”キャッチ22”状態


田中康夫

掲載日2006年10月18日



「安倍晋三首相は“キャッチ
22”に直面している」と報じたのは103日付の「ニューヨーク・タイムズ」紙です。

「彼は、靖国神社に参拝するとも約束出来ないし、参拝しないとも約束出来ない」と続く件の記事は、「あいまいな日本の八方美人な私」を演じ続ける彼の心的苦悩に言及しています。

が、“キャッチ22”。聞き慣れぬ単語です。訝しく感じていたら、秀逸なる記事を掲載するWEBサイトとして僕が以前から会員購読する「日刊ベリタ」の「時事英語一口メモ」に、解説が掲載されていました。

「どうしても上手くいかないディレンマ、或いはパラドックス。あちらを立てればこちらが立たず」。それが“キャッチ22”が意味する所で、アメリカのジョーゼフ・ヘイラーが1961年に物した小説「Catch-22」から来ているのだとか。

 ナポレオン1世の流刑地として知られるエルバ島。その南方に位置するイタリアのピアノーサ島に第二次世界大戦末期に置かれていた米空軍基地で勤務するヨッサリアン大尉が主人公。

 鳥居英晴氏の解説から引用すれば、「彼の願いは生き延びる事であった。狂気であれば、出撃を免除される規定が有り、彼は狂気を装い、何とか出撃を免れようとする」のです。が、好事魔多し、軍規22項には落とし穴=キャッチが「用意」されていました。

 仮に、出撃免除を受けるべく願いを申し出た瞬間、狂気の状態には非ずと認定され、彼は出撃に参加せねばならなくなるのです。

何故でしょう? それは、「現実的にして且つ目前の危険を知った上で自己の安全を図るのは合理的な精神の動きである」と軍規22項で規定されているからです。

 では逆に、出撃したいと欲するパイロットが居たら、どうなのでしょう? 無論、彼の精神は正気とは言えません。けれども、その彼が免除される為には願いを出さねばならぬのです。

が、出撃の狂気に陥った人物が辞退の願いを出す筈もなく、仮に出せば、そのパイロットは正気な状態だと看做されてしまうのです。

いやはや、「戦争が代表する現代資本主義社会の社会的不条理が如何に狂気じみたものであるかを読者に痛感させる」小説の題名である“キャッチ22”は、正に安倍晋三内閣の内憂外患そのものではありませんか。

「支那・朝鮮、何するものぞ」と差別用語ギリギリのネオコン体質な攘夷論者の熱烈支持で誕生した筈の内閣が、信心深き善男善女の平和主義に阿る一心尽で国辱外交を展開した、と国内問題化しているのですから。

 況や、後見人の小泉純一郎氏に、「来年は消費税の増税だ」と選挙応援に訪れた大阪9区で広言され、側近人の中川昭一氏にも「核武装を議論すべき」と高言されてしまう状況に至っては。

 参院選後の消費税増税は既に安倍内閣の合意事項とも認められず、嘗て自身も講演で小型核爆弾の検討を、と大言壮語した過去を認める訳にもいかぬ安倍晋三氏は、正に“キャッチ22”状態。はてさて、南カリフォルニア大学での遊学履歴をお持ちの彼は、その意味を御存知でありましょうか。

「日刊ベリタ」

http://www.nikkanberita.com/