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ゴミ弁連シンポジウム in 夕張市
(4)産廃処分場問題

青山貞一
24 June 2010
独立系メディア「今日のコラム」
無断転載禁


●産廃処分場計画とその経緯

 その夕張市で安定型最終処分場の設置をめぐり紛争が起きている。

 民間事業者が県に設置許可を申請している安定型最終処分場は、何ら遮水シートも水処理施設もない構造の処分場である。いわば素掘りの土地に5品目に限定し、産業廃棄物の処分を認めるというものだ。

 まずは以下の北海道新聞をご覧いただきたい。

メロンの里・夕張 産廃施設計画で混迷
北海道新聞 2009/11/19

○夕張市紅葉山地区の産廃処理施設の建設予定地

 【夕張】
 夕張市紅葉山地区に計画されている産業廃棄物処理施設をめぐり、建設を容認してきた藤倉肇市長が一転して反対し、事態が混迷している。環境汚染を懸念する市内外の反対住民と、農業用ビニール資材の処分先として期待する地元農協などが対立する構図も表面化し、事態打開のめどは立っていない。
(夕張支局 田島工幸、栗山支局 小華和靖)

○市長が一転、反対表明/農協「廃材処分に必要」

 産廃施設は、東亜建材工業(千歳)が2年前から計画し、敷地面積2万3千平方メートル、容量15万9400立方メートル。コンクリートなどの建設廃材や農業用の廃ビニールなど「安定5品目」を埋める安定型最終処分場で、今年7月末、許可権を持つ道に設置許可を申請。道は有識者による専門委員会で審査している。

 建設予定地が夕張川に近いことから9月、下流域の空知管内長沼、南幌両町住民から反対の声が上がった。両町と同管内由仁町も「汚染物質が出れば、水源にしている上水道や農作物に被害が及ぶ」と、道に環境保全策を求める要望書を提出。10月に入り、夕張市内でも反対派が市民グループを結成し署名活動を始めた。

 藤倉市長は同社と公害防止協定を締結しており、「安全の徹底を求めていく」などとして条件付き容認の立場を取り、道にも同様の意見書を提出していた。ところが11月4日の記者会見で「安全、安心に対する不安を払拭(ふっしょく)できない」として、一転して反対に回った。

 市長は、10月の財政再生計画の住民説明会で市民から計画に不安の声が出たことなどを挙げ「熟慮の結果。改めるのに遅きはない」と説明する。しかし市内部からは「環境汚染などの問題は最初からわかっていたこと。なぜ今になって」と戸惑う声も漏れる。

 市長の方針転換に対し、市内の夕張メロン生産者や夕張市農協などは反発。「メロン栽培のハウスなどに使った廃ビニールを市内で安定的に処分したい」と、施設建設推進を打ち出した。

 同農協は産廃施設について「道内の他施設ではトラブルは起きていない」とし、安全面で問題はないとの立場。廃ビニールは東亜建材工業を通じ中国でリサイクルしてきたが、世界的な景気悪化のあおりで難しくなり、処理施設の確保が急務という事情もある。同社の牟田幸雄社長は「事前調査などで7千万円近くを投じている」と話し、予定通り計画を進める意向だ。

 道によると、安定型の産廃処理施設は、全国で法定品目以外の産廃が投棄されるなど環境汚染が問題化したケースはあるが、道内の約160の同様施設では問題は発生していないという。

 また、地元自治体が施設計画に反対したケースは、2008年の芦別市の例があるが、道は最終的に設置を許可している。

 夕張市は近く、道に建設反対の意見書を提出し直す構え。これに対し道環境生活部は「市長の反対は重要だが、住民生活に具体的な支障がなければ、法律上の条件を満たす以上、許可せざるを得ない」と困惑している。




 道は「安定型の産廃処理施設は、全国で法定品目以外の産廃が投棄されるなど環境汚染が問題化したケースはあるが、道内の約160の同様施設では問題は発生していないという」と言うが、全国規模で環境訴訟、廃棄物施設関連訴訟を担当しているゴミ弁連によれば、安定型の最終処分場の大部分は環境汚染の元凶であり、安定型最終処分場に対し起こされた裁判の圧倒的大部分は、地域住民側の勝訴となっている。

 廃棄物処理法では、(1)安定型最終処分場、(2)管理型最終処分場、(3)遮断型最終処分場の3種類がある。(1)から(2)、(2)から(3)に向かうに従ってそれなりに環境保全の配慮がなされている。

日本における廃棄物処分場の種類

(1)安定型処分場
    @廃プラスチック類、Aゴムくず、
   B金属くず、C建設廃材、Dガラスくず、
   E陶磁器くず

(2)管理型処分場
   (1)及び(3)以外

(3)遮断型処分場
  有害物質が基準を超えて含まれる燃えがら、
   ばいじん、汚泥、鉱さいなどの有害な
   産業廃棄物が対象

 (1)の安定型最終処分場は、何ら遮水構造となっておらず、同時に水処理施設もついていない、環境保全面から見て極めてずさんな構造であることが以前から指摘されている。

 にもかかわらず、環境省や都道府県は、安定型5品目「だけ」を処分するのだから問題ないの一点張りである。これはおよそ現場、実態を知らない官僚、役人の言い草である。

 多くの現場では安定型5品目どころか、夜陰に乗じてありとあらゆる廃棄物が捨てられている。しかも、許可主体の都道府県は、めったに立ち入り検査をしないし、いわゆる行政指導である勧告、公表、命令も出さないから、業者はやりたい放題となる。

安定型処分場=素ぼり(途上国並) 
 
 <処分対象物:安定型5品目>
  物理化学的に性状が安定している次の産廃5品目に限定。
  @廃プラスチック類
  Aゴムくず
  B金属くず
  Cガラスくず・コンクリートくず・陶磁器くず
  Dがれき類
 
 こんなものが今時、法的に設置許可されること自体大問題である。

 事実、ゴミ弁連が過去10年以上、日本各地でこの産廃の安定型最終処分場相手に訴訟を行い、上記のように圧倒的多くの訴訟で勝訴しているのは、安定型最終処分場が、構造面そして運用面で、いかにいい加減なものであるかを示している。
 
 構造がいい加減であることに加え、処分される廃棄物は法に定められた安定5品目に限定されているにも関わらず、多くの場合、安定型5品目以外のさまざまな廃棄物、それも有害な廃棄物が処分されている。

 私が過去調査に関わった多くの場合でも、焼却灰や医療廃棄物などもそのまま廃棄されていた。有機物を含む一般廃棄物が廃棄されている場合もある。その結果、安定型最終処分場から浸出する排水が、川などの表流水や地下水を汚染する。

 また仮に操業差し止め訴訟などで地域住民側が勝訴しても、違法に処分された廃棄物を掘削し、汚染を除去する、すなわち原状回復することは事実上困難となるケースが多い。仮に裁判に勝ってもなかなか原状回復が困難となるなど、この安定型最終処分場には問題が山積している。

 そもそも、いまどきメロン栽培温室用の使用済みのビニールシートを安定型最終処分場に処分するなどあり得ないだろう。環境に配慮し持続可能なメロン栽培をするためには、生産者はビニールシートのリユース、リサイクル体制をあらかじめ用意するのが当然だ。

 以下は地元市民がWebに書いた概要である。

 
夕張のお山に、産業廃棄物処分場を誘致する計画があります。夕張再生市民会議から送られて参りました情報です、札幌圏の住民のみなさま、また、おいしい夕張メロンや、下流水源利用地域の農産物を購入なさってくださるお客様にとっても農家にとっても観光にとっても、影響のある産業廃棄物処分場の立地ではないかと、憂慮しております。
 
 まさにその通りである! 全国的に有名な夕張メロンを栽培し、販売するのはよいとして、その過程で産廃を自然豊かな夕張市紅葉山地区に埋め立てるなど、言語道断である。


安定型産廃最終処分場の計画地
出典:グーグルマップ

 その後、市民団体は反対署名を展開し、市8112筆の反対署名をとり、北海道知事に提出した。

反対署名8112筆提出、下流域農協幹部らも 夕張産廃処分場 
北海道 2009.12.08 

 夕張市紅葉山で業者が産廃処分場の建設を計画している問題で、「夕張メロンと夕張川の水を守る市民ネットワーク」の清野宣昭代表らは7日、知事に対し、施設設置を許可しないよう求める反対署名8112筆を提出した。

 地元住民の半数近くが署名し、夕張川下流域の農協幹部らも反対を表明している。  同日、提出された署名のうち、市内分は5016筆。市外分は3096筆で札幌市や江別市、栗山、由仁、長沼各町の農家や住民が含まれる。  

 JAながぬまやJAそらち南(栗山・由仁農協が合併)は、厳しい規制を条件に処分場を容認する意見を表明してきたが、組合長を含む幹部らは「道から環境汚染の不安を払拭(ふっしょく)する説明がいまだにない」などと反対に転じ、両農協では職員の多くが署名に協力。

 「処分場は必要」とする夕張市農協に対し、「下流の者の懸念は同じ農業者として理解してほしい」(長沼農協幹部)などと話す。

 清野代表らは、紅葉山に計画されている施設と同種の「安定型処分場」が、都道府県知事が安全と認定して許可した後に、多くの汚染を引き起こしていると指摘。原口忍・道環境局長は「環境を守りたいという皆さんの気持ちは十分伝わり、理解した。責任をもって知事に伝えたい」とした。


 これを受け北海道庁で「廃棄物処理施設専門委員会」が開かれ、現地調査も検討するとした。

夕張の産廃施設 道の専門委が審査
北海道新聞 2010年01月21日

 道の「廃棄物処理施設専門委員会」(委員長・谷川昇北大大学院准教授)は20日、千歳市の民間業者が夕張市紅葉山地区で計画している産廃処理施設ついて審査した。

 夕張市が、予定地に近い夕張川などに土石流で有害物質が流れ出る危険性があるなどと重ねて指摘したため、同委員会は結論を出さず、継続審査とした。

 この計画は、建設廃材や農業で使った廃ビニールなどを埋める安定型最終処分場を建設する内容。当初は容認姿勢だった夕張市が「農産物への風評被害がある」などと建設反対に転じる一方、廃ビニール処理に苦慮する市内農業団体が早期実現を求めるなど、混乱している。

 この日の委員会では夕張市が文書で「(土石流の規模や発生場所によって)処分場付近の堰堤(えんてい)が決壊する恐れがある」と指摘し、現地調査を求めた。このため同委員会は「土石流被害の心配はない」と主張している業者側の提出資料を再度分析した上で現地調査も検討することにした。

 さらに夕張市の市民団体「夕張メロンと夕張川の水を守る市民ネットワーク」(清野宣昭会長)は処分場の予定地周辺で絶滅危惧(きぐ)種のエゾホトケドジョウやニホンザリガニの生息を確認 したと発表している。
 
絶滅危惧種:夕張の産廃施設建設予定地の近く池、生息を確認 /北海道
2010年5月15日10時25分配信 毎日新聞

◇市民ネット、道に配慮を求め
 夕張市の市民団体「夕張メロンと夕張川の水を守る市民ネットワーク」(清野宣昭会長)は14日、 夕張市内の民間業者が夕張市紅葉山に計画している産業廃棄物施設建設予定地近くで、絶滅危惧(きぐ)種のエゾホトケドジョウやニホンザリガニの生息を確認 したと発表した。

 産廃施設建設に反対している同ネットは、今年の雪解け後、建設予定地域の環境調査に着手。

 日本昆虫学会会員でメンバーの福本昭男さん(68)が11日、建設予定地から約2キロ離れた小さな池で確認した。

 エゾホトケドジョウは体長6センチ。8本のひげを持つ北海道の固有種で、環境省の絶滅危惧種2類。ニホンザリガニも同類に指定されている。

 同ネットは今後、産廃建設の可否を決める道に地域の自然環境に配慮するよう求める。【吉田競】

 
今回のゴミ弁連シンポジウムの翌日、産廃処分場の計画地を視察したが、現地は素晴らしい自然環境と生態系を有する地域であり、レッドデータブックに掲載されている多くの絶滅危惧種が生息していることが分かった。


夕張市紅葉山地区の現地視察 2010年6月21日
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8

 
また現地は地形、地質、土質的に見て極めて脆弱な湿地であり、安定型最終処分場に降り注ぐ降雨が棚田的構造をもつ処分場の上から下に流れ、夕張川の上流に流れ込むことも分かった。


2010年5月15日 読売新聞

 にもかかわらず、北海道の「廃棄物処理施設専門委員会」は、以下の新聞記事にあるように、建設計画が「生活環境保全に配慮されている」との意見書を大筋でまとめた。護岸設置などの付帯意見を付けたうえで6月中にも高橋はるみ知事に提出し、その後30日以内に建設が許可される見通しとなった。

夕張の産廃処分場建設計画:建設許可へ−−道専門委最終審議 /北海道
毎日新聞 2010年6月3日

◇「生活環境に配慮」
 夕張市紅葉山地区で計画されている産業廃棄物最終処分場建設計画について、道の廃棄物処理施設専門委員会は2日の最終審議で、建設計画が「生活環境保全に配慮されている」との意見書を大筋でまとめた。護岸設置などの付帯意見を付けたうえで6月中にも高橋はるみ知事に提出し、その後30日以内に建設が許可される見通し。

 産廃施設は市内の産廃業者「環境システム」が計画している。建設に当たっては▽近くのがけが地滑りを起こしやすい▽地滑りに伴い、がけと施設の間を流れる峠川の流れが変わって施設内に流入する−−ことなどが指摘されていたが、専門委は川沿いに護岸(延長約270メートル)を設けることなどで解決を図れると結論付けた。

 同社は昨年7月、旧空知支庁に建設の許可を申請。「自然環境に影響を及ぼす」ことなどを理由に地域住民が反対運動をしているほか、夕張市の藤倉肇市長が昨年11月、道に建設反対の意見書を提出していた。専門委は異例の7回に及ぶ会議を重ね、5月には委員3人が現地調査にも訪れた。

 産廃建設に反対する地元の市民団体「夕張メロンと夕張川の水を守る市民ネットワーク」の清野宣昭会長は「夕張の自然を残し、メロンを風評被害から守ろうという思いで活動してきたが、専門委の結論は残念で情けない。今後も反対を訴え続ける」と話した。

【和田浩幸】


つづく