エントランスへはここをクリック   

「原発はクリーン」は不適切!
日本広告審査機構が裁定

青山貞一


掲載月日:2009年2月3日
独立系メディア「今日のコラム」時事評論


 日本のテレビ、新聞など大メディアがスポンサーの顔色を見てニュースの取捨選択や番組制作をしていることは、今やよく知られるところである。

 今年3月の決算では、在京テレビ局の多くがテレビ事業単独で赤字が見込まれている。景気が極度に悪化してくると、一層、新聞社やテレビ局がスポンサーに気を遣うことが憂慮される。
 
 「独立系メディア」では、以前から日本の大メディアが海外で起こった原発事後や核燃料廃棄物再処理などに関連した事故を、まともに報道していないことを実例を挙げ批判してきた。

 ※独立系メディア アーカイブ<原発・核>
 ※青山貞一:スウェーデン原発事故と日本のメディア
 ※青山貞一:英セラフィールド再処理施設から漏れ出る放射能汚染(1)

 そんな中、社団法人日本広告審査機構(通称、JARO)が東京電力など電力会社でつくる電気事業連合会(通称、電事連)が雑誌に掲載した広告に関連し、原発がCO2を出さないというだけで「クリーン」であるという表現は適切ではない、という裁定を電事連に出していたことが分かった。この裁定は昨年11月25日付で出されていた。

 下はそれを伝える西日本新聞の記事である。

「原発はクリーン」不適切と裁定 電事連広告にJARO裁定

西日本新聞 2009年1月30日 20:10カテゴリー:社会

 電気事業連合会(電事連)が雑誌に掲載した「原子力発電はクリーンな電気のつくり方」という広告のコピーについて、日本広告審査機構(JARO)が「原子力発電にクリーンという表現を使うことはなじまない」と裁定し、電事連に表現の再考を促していたことが30日、分かった。

 裁定は昨年11月25日付。JAROが原発の広告について、再考を求めるのは異例という。

 JAROは神奈川県の男性の苦情申し立てを受け、学識経験者7人でつくる審査委員会で審議。「安全性について十分な説明なしに、発電時に二酸化炭素(CO2)を出さないことだけをとらえて『クリーン』と表現すべきではない」と結論づけ、電事連に通知した。

 申し立てによると、広告は昨年4月発行の雑誌に掲載された。男性は翌月、JAROに「事故時の放射能汚染の危険性があり、到底クリーンとは言えない」と申し立て。電事連は「発電の際にCO2を出さないという特長をクリーンと表現した」と説明していた。

 裁定には法的拘束力はなく、広告内容を変更するかは広告主の判断に任される。電事連は「裁定を受けたのは事実だが、中身についてはコメントできない」としている。


 神奈川県の苦情申し立て人が言われる通り、「事故時の放射能汚染の危険性があり、到底クリーンとは言えない」ことは言うに及ばない事実である。

 日本でも東海村のJCO事故はじめ過去、数多くの原発事故が起きている。

 海外では米国のスリーマイルズ島原発事故、ウクライナのチェルノブイリ原発事故など深刻な原発事故が起き、広範囲にわたり深刻な放射能汚染が起きている。

 さらに原発で使用済みの核燃料の再処理を巡り、イギリスのセラフィールド核燃料処理工場では膨大な量のプルトニウムが環境中に放出されている。

 ※主な原発事故

 今回、JAROが出した「原子力発電にクリーンという表現を使うことはなじまない」という裁定は、至極もっともなことである。

 冒頭述べたように、日本の新聞やテレビなどの大メディアが一大広告主である電事連や原子力産業会議、さらに東京電力などに気を遣い、原発事故や核燃料サイクルに関わる様々な問題をまともに報道せず、取り上げてこなかったことこそ重大問題であるといえるが、今回のJAROの裁定は遅きに失したとは言え、広告主だけでなくメディアに対しても、大きな影響を与えるものと期待できる。

 電力会社は一般の私企業と異なる公益事業であり、電気事業法にもとづく電気の供給義務だけでなく、国民の健康、安全、環境問題に正面から取り組むべき義務を負っている。

 にもかかわらず、全国各地の原発立地や原発稼働に関わる問題では、情報の公開、説明責任、企業の社会的責任を果たしているとは言えない。各地で起きている原発訴訟をみても、そのことが言える。

社団法人日本広告審査機構
Japan Advertisement Review OrganizationJARO(ジャロ))

 JAROは日本の社団法人であり、広告に対する苦情や疑問点(ウソ、誇大、わかりにくさなど)を受け付け、審査する機関である。公正取引委員会の様に法的措置を取るのではなく、制作者に注意を呼びかける。JAROをもじったテレビCMでよく知られている。なお、法的な処置は取れないためそのような場合は公正取引委員会が好ましい。

 事務局は東京(東日本地区)、大阪(西日本地区)の2カ所に所在するが、名古屋(東海地区)、札幌(北海道地区)にもその地域専用の電話を設置している。

 公共広告機構(AC)、放送倫理・番組向上機構(BPO)同様、CMのスポンサー企業が広告を自粛した際やCM枠が余った際にJAROのCMが代わりに放送されることが多く、震災、天皇崩御、テロの際や深夜・早朝で頻繁にCMを目にすることがある。ACやBPOのCMはNHKでも放送されることがあるが、JAROのCMはNHKでの民間の広告放送がないため、放送されていない。

 JAROには年に約9,000件の苦情が寄せられ、広告主に改善を求める。ただし政治・宗教関連及び裁判中の広告は取り扱えない。また、競馬予想会社の広告など、ギャンブルに関する広告も扱っていない。

 現在の理事長は、時事通信社元社長の村上政敏。


 JAROの裁定には法的拘束力はない。しかし、電事連は原発=温暖化防止=クリーンなエネルギー源など、事業者による短絡的な情報操作による「世論誘導広告」は厳に慎むべきであると思う。