エントランスへはここをクリック   

原子力防災計画と原発再稼働届出

青山貞一

東京都市大学名誉教授・環境総合研究所顧問
掲載月日:2013年7月18日
独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁


 2013年7月11日、第6回目の原子力防災計画策定委員会が北海道のニセコ町であり出席してきた。昨年10月上旬に第1回委員会が開催され、早10か月が経過しようとしている。

 この間、昨年暮れに総選挙があり、脱原発モドキの政策を主張してきた民主党がボロ負けし、原発再稼働を公言してきた自民党が大勝した。そしてこの7月上旬、9電力のうち北海道、関西、四国、九州の4社が泊、美浜、伊方、玄海、川内の5原発の計10基の再稼働を原子力規制委員会に届け出た。

 舌の根も乾かぬうちにという、日本語があるが、まさに福島第一原発事故の原因解明や今なお続く高濃度汚染水漏れなどの対策もままならぬうちに、再稼働を申請した。その理由は電力会社としての経営、経済性にあるという。一言でいえば、原発を再稼働させないと経営難に陥るというわけだ。
 
 そもそも、原発から半径5kmなどPAZ自治体から半径30kmのUPZ自治体に原子力防災計画策定の範囲を広げたのは、福島第一原発事故が起き、その影響、被害範囲が拡大したからに他ならない。原発から50km以上の福島市、二本松市、郡山市などにおける影響を考えると、半径30kmのUPZ自治体を計画策定の対象とするだけでは不備ではないかと思える。

 ところで135自治体に及ぶ全国各地の原発から30km圏にあるUPZでは、昨年の10月頃から原子力防災計画の策定が義務づけられた。そして、何とそれから半年も経たない3月18日が計画策定の期限とされた。

 私に限らず他の委員からも何で3月28日なのか、従来全くと言って良いほど原発事故に係わる影響、被害、待避・避難などの知識や経験がない自治体において、わずか半年の間に実効性のある計画策定など無理ではないかという疑問がでていた。

 しかし、今回の電力各社による再稼働申請によって、その疑問が氷解した。おそらくことのはじめから、電力各社再稼働届出の第一陣のスケジュールは、2013年7月上旬と決まっていて、それにあわせてUPZ自治体における計画策定の期限が決められていたのである。

 実は、私達の委員会では、3月28日ではあまりにも拙速ではないかという疑問がわき起こり、結果的に計画の目的など骨子は、3月18日に提出するとしても、原発事故時の住民の待避・避難の指針などは、今年の秋までとすることになった。

 だが、仮に今年の秋を計画策定の期限としたとしても、私が委員となっている北海道ニセコ町の場合には、北海道電力が泊原発の再稼働申請を7月上旬に出している。住民の避難・待避などの指針を含む計画が策定される前に、再稼働申請するのはあまりではないかと思える。

 ただし、おおくのというより、ニセコ町以外の全国のUPZ自治体では、住民参加、専門家参加の計画策定はほとんどなく、市町村行政職員が国、道府県の計画策定マニュアルや策定見本(テンプレート)をもとに、いわば形式的な計画を策定しているようなので、原子力規制委員会、規制庁、電力会社にすれば、30km圏にかかわる135の自治体ですでに原子力防災計画ができているという「アリバイ」となることは目に見えているのである。
 
 さて、電力会社が再稼働届出の理由としている原発稼働なしによる電力会社の経営や経済性の悪化問題だが、福島第一原発事故で、見るも無残にぶっ飛んだ現実を再稼働を申請した電力会社はどう考えているのだろうか? 

 福一の事故は決して東京電力だけのものではない。事故後の損害賠償や使用済み核廃棄物処理などは9電力が当たっている。

 ここで再稼働を急ぎ、9電力のひとつの原発、一基の原子炉で事故が起きれば、日本全体の原発は終わりである。ここ数年の目先の利益、経営の話では到底すまないことを経営者はどう理解しているのだろうか?

 規制委員会に提出された再稼働申請書について、ここで細かく指摘、議論はしないが、いずれも多かれ少なかれ安全対策が見切り発車となっている。なぜ、最低限、安全対策を終えてからとしないのか?

 東京電力の広瀬社長が新潟県の泉田知事のもとを訪れ、再稼働を懇願したが、取りつく島もないまま、実質門前払いを食った。当然だろう。

 これに関連し、東電幹部と経産省幹部との間での驚愕のメールのやりとりが暴露された。以下である。

驚愕! 東電幹部 原発再稼働へ向けて猛暑を念じ、経産省幹部へメール
〈週刊朝日〉. 7月10日(水)7時16分配信

 電力4社は7月8日、原発の再稼働を申請する。その直前、経済産業省幹部が「柏崎は、やはり反発がきましたね。根回し、ウラでどの程度、されたのでしょうか?」などというメールを東京電力幹部に送っていたことがわかった。

 本誌が入手した10通のメールには安倍政権の“再稼働シナリオ”が赤裸々に記されていた。ジャーナリストの今西憲之氏と本誌取材班が取材した。

 冒頭のメールを出した経産官僚が気にしていたのは、東電が再稼働を目指す新潟・柏崎刈羽原発6、7号機についてだ。福島原発事故の当事者である東電だけに、再稼働のハードルは高いため、6月に東電幹部に宛てたメールでこう危惧していた。

〈反発、怖いのは御社がKK(柏崎刈羽)で動かれる時でしょうか。一気に世論が高まり、地元もNOというしかない状況になりかねません。過去の裏での積み重ねが、一気に壊れてしまう。そのところ、いかがでしょうか? 巧妙にされておられるとは、思ってはいますけれど〉(経産官僚)

 後に経産官僚の不安は的中した。

 東電は7月2日、柏崎刈羽原発の再稼働申請の意向を表明したが、これに対し、新潟県の泉田裕彦知事がこう猛反発したのだ。

「地元に何の相談もなく申請する。こういう態度で、立地地域との信頼関係を築けるはずがない」

 翌日の新聞、テレビ各社がトップで泉田知事の発言を大きく取り上げたが、それを読んだ東電幹部はメールでこうぼやいていた。

〈どの新聞もトップで、新潟県知事でほとほと、まいりました〉

 さらに東電幹部は地元の対応については、こう暴露している。

〈離れたところで地元と話をすると、早く再稼働してもらわなければ困るんだよ、東電さん、とみんな話している。それで、再稼働を申請しますよとなれば、反対だ、地元の同意を要求でしょう、本当に。あなたたち、どうすればいいのって、言いたくもなります。議員さんたち、たいてい、(原発関係の)商売にかかわっている。再稼働しろという、だが、議会になれば、ダメダメ〉

 一方の経産官僚は冷静に事態を分析し、その先の展開をこう予測している。

〈柏崎は、やはり反発がきましたね。(略)先に地元の了承をとりつけろとの論になるでしょう。それやっちゃったら、永遠に再稼働は無理なことは明白。わが社OB、新潟県知事(泉田氏は経産省OB)、次の選挙はまだ先。つめたいでしょうね、きっと。他の事業者の動向を眺めつつ、申請となるのでしょうか〉

 この予測は現実となりつつある。

 泉田知事は7月5日、説明に訪れた東電の広瀬直己社長に再稼働の拒否を改めて表明し、申請は延期となった。

 本誌が入手した計10通のメールは、いずれも今年5月から7月にかけ、東電はじめ複数の電力会社幹部と経産官僚との間で、“情報交換”として交わされたものだ。いずれも原子力ムラの露骨な「本音」が赤裸々に記されていた。

〈夏は猛暑という世論形成はどうなるのでしょうか? 1F(福島第一原発)の事故で2度の夏を経験。結局、原発なくとも電力がまかなえたので、大丈夫だとの意識が国民に植え付けられているのではないでしょうか。もう、足りないだけでは、国民の意識は変えられない。/(他メールの引用)気温40度が3日間ほど続けば、原発再稼働してほしいとの声が高まるはずです。/天に任せるのも、つらいところです。昔のようにお金だけでは世論は操れず、時代がかわってしまいましたね…〉(経産官僚)

 これは5月頃に経産省幹部官僚と東電の原発部門幹部の間で交わされたメールの一部だが、さらに生々しい記述もあった。

〈今年の夏、気温40度くらいまで猛暑になれば、議会、世論ともに再稼働容認になるだろうとか、つい期待して、毎朝、天気予報を見ています。あがれ、あがれと新聞の天気図に手を合わせていると、ビール飲みながら、笑わせている上司もおります。情けないですが、今のうちには、猛暑頼み、すがるしかありません。株じゃないですが、あがれ、あがれ!〉(東電幹部)

 事故の反省もなく両者が「猛暑」の話でこうも盛り上がる背景には、原発再稼働の命運を決める“一大イベント”を前にしても再稼働に否定的な世論へのいら立ちが垣間見える。

 原子力規制委員会は福島第一原発の事故を受けて作った原発の新規制基準を7月8日に施行。これを受け、全国4電力会社が6原発12基の再稼働を申請するという。申請を前に、メールで入念な情報交換をしていたことが読み取れる。

※週刊朝日 2013年7月19日号

 政官業のこんなやりとりで、原発再稼働が議論されていると思うと、3.11以降、日本は何をしてきたのか? とトコトン嫌になる。

 経済産業省と9電力などで蔓延する無責任さ、責任のなさは、すさまじいものである。個別電力会社の経営、経営というなら、それぞれ倒産してもらい、原発部門は一時国有化、その他は、発送電所有権分離後、新たな会社としたらどうか? 

 原発部門は巨大非採算部門そして前代未聞の負の遺産となるだろうが、最後は国有化しても順次廃炉の手続きに入るべきではないだろうか? こんな無責任で経営能力もない電力会社に任しておいても、ろくなことはないからだ。

 当然、廃炉プロセスとあわせて、発送電所有権分離後、新たな会社のもと、自然エネルギーの開発を進める。当然、新電力会社だけでなく、太陽光だけでなく、風力、洋上風力、地熱、波力、潮力、中小水力など海洋国家、日本が本来進めるべき持続可能なエネルギー開発を国、自治体、企業、市民らが進めるべきだ。

 昨年、坂本龍一さんが、「たかが電気」と言われた。至言である。たかが電気のことで、これほどまでに国中が右往左往していること自体、異常なのである。経営能力も技術力なく、ただ電気事業法という悪法の上に胡坐(あぐら)をかき、「政官業学報」の電力村、原子力村で利益をむさぼってきたのが9電力体制だとすれば、それを根底、根本からオールクリアーし、あらたな体制を構築しないと駄目である。 付け焼刃的な対応では、だめなのである。

つづく