「退避等措置計画」編における 町民への情報伝達の課題 青山貞一 東京都市大学名誉教授・環境総合研究所顧問 掲載月日:2013年7月19日 独立系メディア E−wave Tokyo 無断転載禁 |
●緊急事態、退避情報等の町民への伝達 第四章で重要なのは、以下の町民への緊急事態を受け手の退避情報等の周知である。 第四章 広報及び指示伝達 第一節 伝達手段 第二節 伝達経路 第三節 伝達内容 伝達内容は、(1)事故の概要、(2)泊原発での対策状況、(3)災害の現状及び今後の予測、(4)ニセコ町及び北海道並びに防災関係機関の対策状況、(5)町民等のとるべき措置及び注意事項、(6)その他必要と認める事項、とある。計画案には、実際に町民等に伝える例文まである。 伝達経路は、福島第一原発との関連での「いわき市」の例が掲載されている。 問題の多くは伝達手段にあると思われる。 ニセコ町では、住民等への周知は、(1)テレビ、ラジオ等の報道機関の緊急放送、(2)コミュニティFMによる緊急放送、(3)広報車による巡回広報、(4)携帯電話等へのメール配信、緊急速報エリアメールの活用、(6)インターネットを活用した広報などとある。 これら町民等への緊急事態時の通報では、苛酷な原発事故が起きていることを知らせるだけでなく、避難経路や移動手段、集合場所などについても周知、広報、伝達する必要がある。 当然のこととして緊急事態に至れば、既存メディア(NHK、HBC、HTB、STVなどのテレビ局、ラジオ、FM放送)などの無線放送メディアが伝達内容の大部分について緊急報道されることになる。 しかし、(4)ニセコ町及び北海道並びに防災関係機関の対策状況、(5)町民等のとるべき措置及び注意事項、(6)その他必要と認める事項など、ニセコ町ならではの伝達内容、とりわけ退避の具体的方法やヨウ素剤摂取などの個別具体な情報の伝達には、限界がある。 NHKなど大テレビメディアについて、永井 研二:大災害時、放送が果たすべき機能の検証 など、機材整備の課題もあるが、それとともに原発事故の実態やSPEEDIシミュレーションをマスメディアが報道すべきことを自粛したり報道を自主規制したという指摘もあるので、大テレビメディアに多くを依存することには課題もあるだろう。 たとえば、以下の青山貞一:目に余るNHKの情報操作による世論誘導 〜放射線報道(川内村)については、参議院環境委員会で議員から指摘されても参考人のNHK幹部は指摘された内容すら満足に理解していなかった。 <参考> ◆青山貞一:摩訶不思議なNHKのアナウンス取り止め! ◆鷹取敦:NHKで厳重注意されるべきは誰か ◆青山貞一:目に余るNHKの情報操作による世論誘導 〜放射線報道(川内村) ◆鷹取敦・池田こみち:結論先にありきのNHK時事公論〜がれき広域処理 ニセコ町では従来からコミュニティFM放送の緊急アナウンスが防災用に使われてきた。しかし、このコミュニティFM放送局はもともと出力が小さく(20W)、緊急時に出力の増加(50W)が認められているものの、それでも出力が少ない。 下のコミュニティFM放送の概要を見ると、通常の放送区域、サービスエリアは、ニセコ町の一部とある。町民のFMラジオが100Vコンセントにつながっていれば、緊急時にコミュニティFMから情報が流れるが、つながっていない場合にはまったく伝わらない。 ラジオニセコの概要
ラジオニセコのサービスエリア 出典:http://www.niseko.net/fmniseko/ ニセコ町では、防災無線と連動した拡声器によるアナウンスが現状ではできない。そのため、畑、水田などでのら仕事中の農民等へのいわゆる防災無線拡声器による音声連絡ができないことになる。代替的な方法として、既存の防災サイレンの音や鳴らす方法を変え、原子力防災用に用いる方法があるが、その場合に、緊急事態であることは分かっても、、(5)町民等のとるべき措置及び注意事項、(6)その他必要と認める事項などの伝達は、まったく不可能である。 <サンディエゴの「リバース911」>について 米国のカリフォルニア州サンディエゴ市等では、「逆110番」と言って、あらかじめ市民の電話番号を自分で所定のデータベースにWebから登録してもらい、緊急時に行政、警察、消防等から登録した番号の携帯やスマホに伝言を流すサービスがある。私が巨大山林火災の直後に現地を調査した際にこのサービスを知ったが、日本の場合、個人情報保護などからどこまで町民が自分の電話番号を登録するか課題がある。サンディエゴの場合、ほぼ毎年、秋に大規模な山林火災があることから、大部分の市民が電話番号を登録していると現地で聞いている。 サンディエゴ市の「逆110番」の概要については、以下の「青山貞一:米カリフォルニア州サンディエゴ郡の「巨大山林火災」現時実態調査報告(1) 」にある。 <参考> ◆青山貞一:米カリフォルニア州サンディエゴ郡の「巨大山林火災」現時実態調査報告(1) 環境行政改革フォーラム論文集 Vol.1、No.1 ◆青山貞一:米カリフォルニア州サンディエゴ郡の「巨大山林火災」現時実態調査報告(2) 環境行政改革フォーラム論文集 Vol.1、No.1 ◆青山貞一:サンディエゴ山林火災 @速報・巨大山林火災の爪痕 ◆青山貞一:サンディエゴ山林火災 Aサンオノフレ原発との関係 ◆青山貞一:サンディエゴ山林火災 Bサンディエゴの概要 ◆青山貞一:サンディエゴ山林火災 C山林火災の時間的経過 ◆青山貞一:サンディエゴ山林火災 D甚大被害地域(ホッジ湖周辺) 次第に住宅地に迫るサンディエゴの巨大山林火災 2007年10月25日 23:00現在 海兵隊基地があるサンディエゴの山林火災写真(10月23日火曜夜に撮影) The Camp Pendleton Fire raged on Tuesday evening. 出典:現地関係者 パウエイ市で火災被害が大きかった地域。火炎が谷を燃やし尽くした。 撮影:青山貞一(Nikon Cool Pix S10)、2007.11.24 以下は、「逆110番」(英語では、リバース911)について書いた部分の転載である。 現地での住民への聞き取り調査によれば それは 、 「リバース911」という緊急逆通報用の携帯電話(メール)による行政当局から市民への連絡通報ネットワークの存在により、大きなパニックとなることがなかったからと推察される。 この「リバース911は、市民 」 Reverse 911が行政当局に携帯の番号やアドレスを事前に登録することによって実現する緊急災害時の通信ネットワークの機能を指す。通常は110番同様、市民が警察など行政当局に緊急通報する際に使うが、リバース911は、その逆、大規模災害時に警察や行政当局が市民向けに緊急避難などに関連した情報を音声として通報している。 メディアとしての「リバース911」は、音声メッセージで流す方法と、耳の不自由なひと向けにテキストメッセージ( )を提供する2つの TTY/TDD方法があるという。サンディエゴの場合、メキシコから流入した住民が多く、スペイン語が重要な言語となっており、メッセージの言語も市民が選べるようになっている。 出典 ◆青山貞一:米カリフォルニア州サンディエゴ郡の「巨大山林火災」現時実態調査報告(1) 環境行政改革フォーラム論文集 Vol.1、No.1 また以下は、英文Wikipediaにあるリバース911の説明(日本語訳と英文)である。日本語訳は鷹取敦氏。 「リバース911」はCassidian Communications(EADS北米の一部門で以前はPlantCMLと呼ばれていた)によって開発された公衆安全伝達システムである。カナダと合衆国の公衆安全に関する機関が特定の地理上の区域の人々へ情報伝達するのに用いられる。このシステムは電話番号と住所のデータベースを用い、住所を地理情報システム(GIS)と結び付け、あらかじめ録音された緊急時のお知らせを、電話サービス加入者のうち選択された人達に伝えるものである。この名称は合衆国の登録商標として登録されている。 Reverse 911 is a public safety communications system developed by Cassidian Communications, formerly PlantCML, a unit of EADS North America.[1][2] It is used by public safety organizations in Canada and the United States to communicate with groups of people in a defined geographic area. The system uses a database of telephone numbers and associated addresses, which, when tied into geographic information systems (GIS), can be used to deliver recorded emergency notifications to a selected set of telephone service subscribers.[3] The term is a registered trademark in the United States. さらに以下は、サンディエゴにおけるリバース911について書かれたブログ。
携帯・スマホのソーシャルネットワークサービス(各種SNS)やインターネットのWeb・MLなどの活用もあるが、あらかじめ町民の携帯・スマホの電話番号を登録しておく、またメールアドレスをあらかじめ登録しておかないと、緊急時の情報伝達は困難であり、遅れる。わざわざWebなどに見に行く方式ではなく、緊急時に町民の携帯やスマホに自動的に情報が伝達される方法のアプリ開発が必要であろう。 一方、ニセコ町職員間では防災、緊急時用の無線を使ったアナログあるいはデジタルのトランシーバー(車載、ハンディー)の活用もある。 つづく |