御嶽山になかった噴石シェルター 青山貞一 Teiichi Aoyama October 6, 2014 Alternative Media E-wave Tokyo 無断転載禁 |
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御嶽山火山噴火は戦後最大の犠牲者(10月5日時点で51人の死亡者)を出した。まったく入山規制などの予知情報があらかじめなかったことが、被害を大きくした最大の原因であることは間違いない。 私達(青山貞一、池田こみち、鷹取敦ら)は、環境総合研究所(東京都目黒区)の別荘が群馬県の北軽井沢地区にあることもあり、浅間山や草津白根山など日本を代表する火山に何度も登っている。また登山とは別に、それらの火山の周辺地域にも幾度となく足を運んでいる。 その際、もっとも重要なことは、登山などに際して事前に自治体が出しているの噴火警報レベルを確認することである。これについては、すでに何度か述べた。 以下は、2014年10月5日の共同通信の記事である。何と、日本で噴石シェルターがあるのは草津白根山(群馬・長野)、浅間山(群馬・長野)、阿蘇山(熊本)など10火山にとどまっていることが分かったとある。 ここでは、御嶽山に避難小屋、シェルターがまったく存在していない問題について、実際に現地に何度も行っている群馬県の浅間山、草津白根山との比較の中で指摘してみたい。
下の地図と写真は、この夏(2014年7月)、別荘の近くにある「鬼押し出し」に行ったときのものである。鬼押し出しは、下の地図を見てもらえば分かるように、浅間山の北北東数kmのところにある天明3年の浅間山大噴火の際、火砕流や溶岩流が流れ出してできた場所である。 一面、奇異な岩などが残っており、今では観光名所となっている。 下の写真は鬼押し出しに行く前日、「鬼押しハイウェー」の休憩所から撮影した浅間山である。見て分かるように、浅間山の噴煙がダウンドラフト、ダウンウォッシュし、噴煙が山から休憩所の方向に流れ出ている。 噴煙を上げる浅間山 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014年7月16日 下の2枚の写真は、鬼押し出しの奇岩である。いずれも、浅間山大噴火時の火砕流、溶岩流が固化してできた岩である。いずれも人間の身長よりはるかに大きく、2m以上ある。私達の別荘の裏にも高さが7m、2階建て家屋ほどの大きな岩(天明3年の浅間山爆発時のもの?)がある。 鬼押し出しの奇岩 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014年7月16日 鬼押し出しの奇岩 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014年7月16日 浅間山の山麓一帯は、標高が1000m~1200mある大きな浅間高原である。その北側は北軽井沢地区、南は軽井沢地区で、いずれも日本を代表する別荘地となっている。 しかし、その間にある浅間高原は、国立公園であるだけでなく、再度、浅間山が大噴火したときに備え、バッファーゾーン(緩衝帯)となっている。上の地図にあるように「鬼押し出し園」、「しゃくなげ園」、「浅間牧場」くらいしか人々が参集する場所はない。 登山者は浅間山の隣にある標高2000mの高峰山まで車で行った後、そこから登山することが多い。高峰山の山頂には、「ビジターセンター」など一部の公共施設があるものの、原則として住宅やホテルなどはない。一方、浅間山の登山者用にはかなりの数のシェルターが常備されている。 さらに浅間山の外輪山、黒斑岳(2200m級)に登ったときも、途中に何カ所かシェルターがあった。下はそのひとつの写真である。 黒斑岳の槍ノ鞘近くにあったシェルター 撮影:青山貞一 Nikon Cool Pix S10 青山・池田・鷹取(環境総研): 浅間山の外輪山、黒斑山に登る(1) 青山・池田・鷹取(環境総研): 浅間山の外輪山、黒斑山に登る(2) ところで、下の写真は、その「鬼押し出し」にあったシェルター(もどき)である。現地では、シェルターとは書いてなく、休憩場所となっていたが、間違いなく避難場所、シェルターである。 今年の7月17日に撮影したものである。鬼押し出しには間違いなくシェルターがあった。 ただ、今回の御嶽山噴火をみると、軽トラック大の噴石が飛んできたという生存者の話があった。したがって、果たして、この程度のコンクリートの厚さで果たしてもつかどうか、ひょっとしたらシェルターそのものが壊れる可能性があるのではないかと推察する。もちろん、当然のこととしてないよりは、はるかにましである。。 鬼押し出しの火山爆発時の一時避難小屋、シェルター 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014年7月16日 下の写真は2014年9月中旬に北軽井沢に行ったとき、浅間牧場で偶然撮影したものだ。この浅間牧場のシェルターには扉まであり、上から落ちてくる噴石だけでなく、横から入り込む噴石も避けられるようになっていた。 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014年9月15日 この浅間牧場から晴れた日に見る浅間山は本当にすばらしい。別荘に行ったときは、必ず浅間牧場に登り、そこから180度、浅間山~草津白根の大展望を楽しんでいる。 下は、青山がクレパスで描いた早春の浅間高原から見た浅間山である。毎年、決まって4月にコブシが花を咲かせている。 クレパスで描いた早春の浅間高原からみた浅間山 ◆青山貞一:クレパスで描いた群馬県北西部の自然景観(1) ◆青山貞一:クレパスで描いた群馬県北西部の自然景観(2) また春まだ浅い時期に、この牧場のコブシの花とともに見る浅間山は格別であり、多くの人々が集まる。その意味でも、万一に備えることは重要である。 シェルターの写真を見ると、緊急退避所とあり、さらに群馬県とあるので、間違いなく県が設置した物(構造物)である。 そこで、現地で撮影した写真を調べたら、浅間牧場の案内看板のなかに、凡例として<緊急避難所>があった。凡例にある黄色の●がそれだ。地図のなかには、ざっとみて7カ所あった。 浅間牧場の案内板、緊急避難所が7カ所あった 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014年9月15日 ※ 浅間山の火山活動解説資料(東京大学) 下の写真は、浅間牧場から遠望した草津白根山である。水墨画のようで美しい。 浅間牧場からみた草津白根山(火山) 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014年9月15日 下は雪をいただく草津白根山である。言わずと知れた草津白根山は活火山であり、いつも立ち入り禁止ゾーンがある。 撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 残雪のテーブルマウンテン、草津白根山 撮影:青山貞一、Nikon Cool Pix S8 2010.5.5 白根山で記念撮影 撮影:奈須りえ Digital Camera CASIO EX-H20G 下はかなりしっかりとした草津白根山の避難小屋(シェルター)である。 出典:日本列島 山だらけ http://tenten.daa.jp/yamadarake/kusatu.html 以下は、「草津白根山の火山活動(pdf)」にある草津白根山の監視測定の種類と位置である。気象庁、国土地理院、防災科学技術研究所、東京工大、東京大学の監視測定機器が備え付けられていることが分かる。 「草津白根山の火山活動(pdf)」における火山活動監視測定 http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/main/44_Kusatsu-Shiranesan.pdf 白根山を背景に 撮影:青山貞一 Nikon CoolPix S8 下は、青山研究室で山頂まで登った際の写真である。このあと、草津白根山の釜が見える登山道は入山規制されている。 大学院環境法ゼミの院生と一緒に白根山頂に登ったときに撮影 撮影:青山研究室 Nikon Cool Pix S10 草津白根山に登る途中の嬬恋牧場にて 青山研究室 ところで、2014年9月27日に起きた御嶽山の大噴火だが、どの映像、写真を見ても、ここに紹介した浅間山や草津白根山のようなシェルターがない。あれだけ多くの人々が登山したり、紅葉を楽しむ御嶽山にシェルターがないとすれば、これまだ大問題である。
もし、御嶽山に火山爆発時の多数のシェルターがなければ、それは長野県の故障地震計の置き去りとともに、行政責任が問われて当然であり、かつ行政の不作為であると思える。 それにしても、シェルターが全国10の火山にしか設置されていないのには、驚きである。自治体はシェルター設置について「費用負担重い」などといっているが、火山を抱える自治体にとって登山客や観光客を呼び寄せる上で、シェルター設置は不可欠なものとなるだろう。 とりわけ御嶽山大噴火以降、おそらく全国各地にある火山に登山やトレッキングする人々は激減するはずである。実際、登山やトレッキング者、紅葉時の観光客の多くは高齢者であることからして、シェルターを整備することは大切だと思う。 自治体が「費用負担重い」というのなら、国が補助の対象としたらどうか? 所管問題はあるが、国土交通省は全国各地に何万カ所もの砂防ダムをつくってきたことからして、せめて火山噴火を観測している47火山、できれば全国に100カ所ほどある火山に、シェルターを造ってもらいたいものである。 さらに大部分の火山は、国立公園あるいは国定公園にあり、環境省の所管地域である。環境省の自然保護局は、全国各地にビジターセンターや国民休暇村などをつくってきた。現在の環境省は3.11以降、国土交通省をしのぐ予算を使っている。そのごく一部をシェルターづくりに向けて欲しいものである。 |