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「アラブの春」と傲慢・不遜

極まりない米国

青山貞一 Teiichi Aoyama
 
October 5, 拡充7, 2016
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁

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 米国などによって仕掛けられ、それぞれの国民がその扇動にのせられた一連のいわゆる「アラブの春」は、シリア、リビア、チュニジア、エジプトなど、中東と北アフリカ諸国に及び、さらにはウクライナでも同様の政府転覆劇がつづいています。広義の意味では、アフガン、イラクもこれに含まれます。

 下図はドイツのカルロス・ラトゥッフによる「アラブの春」の風刺漫画です。チュニジアでの政権崩壊がエジプトのムバーラク政権を始めとする周辺諸国に広がる様を描いてます。しかし、これらは単なるドミノ倒しでは説明がつきません。


出典:Wikipedia

 これら「アラブの春」と呼ばれる民衆の動きによって、米国が「独裁政権」と呼ぶ政権はシリアを除き転覆されました。しかし、その後に成立した親米傀儡政権は、従来の米国が言うところの「独裁政権」よりもさらにひどいものとなっており、国家のガバナンスもなく、難民が続出するなど悲惨なものとなっています。

 一方、北アフリカでは政権が転覆された国々の中央銀行にあった巨額の国家資金や蓄財がどこに消えたのか、どこかの国などに持ち去られていたのかについても不明です。また政権転覆後に設立された銀行は民間銀行となっていますが、その実態は、いまだ十分明らかにされていません。もっぱら、G.W.ブッシュが米国大統領だったときは、アフガンにしてもおそらくイラクにしても、石油・天然ガス権益(利権)が中東侵略とその新植民地化のひとつのメルクマールであったことは、間違いがないところでしょう。

 ※これについては、以下の拙稿をご覧ください。
   ・青山貞一:エネルギー権益からみたアフガン戦争 岩波「世界」
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 そして、もし上記の諸国の政権を「独裁政権」と言うならば、米国の中東における盟友国、サウジアラビアなど大部分の国は、はもとより「独裁国家」です。よく見ればわかるように、米国やその有志連合国の狙いの多くは、「独裁政権」を標的としているというよりは、シーア派系の国家や反イスラエルを公然と掲げる国家を標的にしていると言えるのです。

  ※ アサド大統領詳細
 バッシャール・ハーフィズ・アル al-Asad, 1965年9月11日 - )は、シリアの医師、
 軍人、政治家で、大統領(在任2000年 - )、バアス党地域指導部書記長です。
 宗教的にはアラウィー派に属しています。ハーフィズ・アル=アサド前大統領の
 次男です。

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中東、北アフリカにおけるイスラム教宗派の分布  出典:青山貞一作成


世界各国におけるイスラム宗派の分布  

 たとえばシリアはその典型国家と言えます。シリアは中東のパレスチナを継続的に支援しており、当然、反イスラエルの国です。もとよりシリアはイスラエルにより自国の領土、すなわちゴラン高原(もともとはシリア高原と呼ばれていました)を占領されています。


ゴラン高原におけるイスラエル入植地  出典:Wikipedia

 下はゴラン高原(シリア高原)の位置を示しています。
 

シリア高原(シリア高原)の位置    出典:Wikipedia
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 ところで中東や北アフリカ諸国において米国などによる「アラブの春」などにより政権が転覆後にできた政権、すなわち傀儡政権政権に対し、当初、アラブの春に参加した勢力や国民にも、次第にその事実、真実が判明してきました。ネットの時代、大メディアからのニュース、情報ではなく、その真実を知るようになるのです。
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 そして「傀儡政権」を打倒すべくの国民による大反乱が起きています。その結果、周知のように数100万人とも2000万人にも及ぶという難民が、シリア、イラク、リビア、チュニジア、エジプトなどで発生し、その一部がEU諸国に流れ込みました。私達がよくゆく南イタリアの海岸に次々と北アフリカの難民を乗せた船が到着し、他方、トルコ、ギリシャ、マケドニア経由でEU諸国に膨大な数の難民がなだれこんだのです。

 下の地図はEU諸国への中東及び北アフリカ諸国からの難民の流れと数です。ドイツが圧倒的に多いことが分かります。


出典:Wikipedia

 以下の6枚の写真は、過去48時間で11000人の難民をリビア沖で救助というニュースの中にあった写真です。本当に悲惨そのものです。


Source:RT   5 October 2016


Source:RT   5 October 2016


Source:RT   5 October 2016


Source:RT   5 October 2016


Source:RT   5 October 2016


Source:RT   5 October 2016


シェンゲン協定とダブリン規約  出典:Wikipedia

<参考> シェンゲン協定(シェンゲンきょうてい)は、ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定です。詳細は、シェンゲン協定をご覧ください。


出典:Wikipedia

 当初、難民受け入れに積極的だったドイツなどEU諸国では、国民の多くが大規模な受け入れに対し、雇用が奪われる、テロが発生するなど、必ずしも人種差別の観点からではなくても、受け入れ反対となります。受け入れた政権への一大批判となります。上の地図を見ると流入する難民の数ではドイツが圧倒的に多いことが分かります。
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 各種の調査で世界一「幸福度」が高い国、デンマークなでも、難民反対の動きが起きることになります。EUのエンジン、ドイツでもメルケル政権がひん死の状態にあります。すでに地方議会ではかつてドイツの首相だったシュナイダーの社民党が第一党となりつつあります。もともとメルケルは東ドイツ出身ですが、その中心地のひとつ、ドレスデンでは今週はじめに、大きなメルケル退陣要請のデモが起きています。


‘Merkel must go!’ Hundreds protest in Dresden on German Unity Day
(PHOTOS, VIDEOS)  Source:RT

 このように、難民の大規模受け入れを認めたEU諸国では、EU成立後最大の大混乱が起きており、中央、地方を問わず選挙のたびに大規模受け入れを表明した政権が議席を失い首相が辞任に追い込まれるようになってきたのです。

 下は2016年9月4日、ドイツ北東部メクレンブルク・フォアポンメルン州で州議会選挙が行われた応援演説のため同州を訪問したメルケル首相(中央)です。そして難民を進めるメルケル首相の与党の州議会選では次々に選挙で難民受け入れ反対党に敗退しています。


出典:News Week

 
出典:ハフィントンポスト 2015年9月5日
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 さらに周知のように、英国は国民投票によりEU離脱を決定し、キャメロン首相は辞任しました。


Source:Sputnik


Source:Sputnik

 米国のCIAやネオコン、軍産複合体が独善的かつ自分たちの権益のために行ってきた中東、北アフリカ、ウクライナなどでの政権転覆、クーデターの試みは、中東、北アフリカ、ウクライナの大混乱とそれらの国民の生活基盤を失わせています。また、米国に追随してきたEUやNATO諸国は、根底からその政権は揺らぎ、英国のEU離脱など国家存亡の危機に直面しているのです。
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 にもかかわらず、傲慢、不遜の米国は、これらの事態に対し、一度たりとも謝罪などしていません。これが米国なのです。もちろん、米国の一般国民ではなく、中枢部、すなわちWASPの共和、民主の連邦議員とネオコンに指示を受けたCIAや軍産複合体らによる地球規模での行為です。ヒラリー・クリントンもその中心的人物と言えます。
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ヒラリー・クリントン

 ※ ヒラリー・クリントンの一連のアラブの春などについての記述には次のものがあります。
  ・ヒラリー・クリントンのシックス・外交政策の大惨事
  ・「ウクライナ・ゲート」:米国関与の真相 ちきゅう座

 この種の米国による行為は、何も中東、北アフリカが最初ではなく、中米、カリブ諸国、南米、たとえばパナマ、ハイチ、チリーはじめ多くの地域と国で起きてきたことです。これについては、マサチューセッツ工科大学(MIT)の現在、名誉教授となったノーム・チョムスキー氏が詳細を書かれています。


ノーム・チョムスキー

 ※比較的最近の執筆物・インタビューとしては、以下がありますが、
   米国による中南米政権転覆、クーデター、軍事介入の歴史は古くからありました。
  ・マスコミに載らない海外記事: 中南米
  ・「世界の誰もが知っている: アメリカは世界最強=最悪のテロ国家だ」 

 またとりわけウクライナについては、ヒラリーが国務長官だったときその腹心、ヴィクトリア・ヌーランド国務次官補が親ロシアのヤヌコーヴィッチ大統領の転覆工作を行い、その結果、米国、NATOの極右傀儡政権が誕生した結果、親ロシアそしてロシア語を母国語としていた住民が亡命したり、ウクライナ東部に移住しています。


ヴィクトリア・ヌーランド
 
 ※ウクライナ政権転覆とユーランドとの関係については、以下が参考になります。
  ・青山貞一:米国が画策しNATOが追随したウクライナ、シリア紛争の結末
  ・青山貞一: 歴史的版図でひもとくロシア 48頁(pdf) 
  ・マスコミが報道しないアメリカ外交の“真相”の一旦、国務次官補ヌーランドの内政干渉
  ・塩原俊彦:高知大学准教授 「ウクライナ・ゲート」:米国関与の真相
 

◆シリアについての追記

 、もともと米国とスンナ派(スンニ派とも言います)のサウジ、カタールなどが仕掛けたアサド政権転覆のための反アサド戦線ですが、その後、反アサド勢力などからISILが誕生しました。

 ISILがシリア、イラクなどで猛威を振るった頂点で、アサド政権から正規の要請でロシアがISIL掃討に全面協力すると約束し、その後、ロシアのISIL掃討は大きな成果をあげました。

 米国は国際世論を気にかけ、いったんISIL掃討でロシアと共同歩調をとる気配を見せたのですが、米国による大規模誤爆事件が起きた後、再度、ISILやヌスラ戦線などシリア反政府勢力支援に回帰しつつあります。やはり、米国はISILの生みの親だけでなく育ての親でもあるようです。

ロシア国防省、1年間のシリアでの作戦の結果を評価 Suptnik日本

 セルゲイ・ショイグ国防相は1年前に開始したシリアでの作戦の結果を評価した。ショイグ国防相の演説は、軍備改良をテーマとした軍事技術カンファレンスで行われた。

 ショイグ国防相は次のように述べた。 「われわれの軍がシリアで軍事任務を遂行して1年になる。この間、同国での情勢を安定し、国際テロリストのギャングから同国の大部分を開放し、ロシアの紛争当事者和解センターの活動を確立することに成功した」

 ショイグ国防相によると、軍はまたカスピ海と地中海域にいる戦艦と潜水艦からの高精度遠距離武器砲撃の実践的な経験を得た。

 そして戦略戦闘機は4500キロの射程を持つ新型空中発射巡航ミサイル「Kh-101」を、実際の戦闘で初めて使用した。 ショイグ国防相は、多くの国産兵器のモデルがシリアの砂漠という状況でチェックされたが、信頼性と効率性を示したと指摘した。

 現在ロシアは将来性のある兵器を開発しており、開発にはシリアでの経験が考慮されているとショイグ国防相は述べた。カンファレンスではこの兵器をどのように作りこんでいくかという、専門家の意見と助言を聞く予定だとショイグ国防相は付け加えた。


 もちろん、ISILの掃討が外交でどうにかなれば別ですが、中東や北アフリカで猛威を振るうISILに対し、ロシアがアサド政権の要請を受け、2015年秋から2016年秋まで一年間かけて行った掃討作戦は大きな効果をあげ、それに焦った米国やNATOはいったん、ロシアと共同歩調をとる姿勢をとったものの、最新の情報では、あれこれと理由をつけています。

 以下はISWによるシリアにおけるロシア掃討作戦図です。ただし、この図はロシア、シリアが公表したものではありません。



 また以下の地図(Wikipedia版)は2016年8月30日版です。次のシリア詳細図を含めて見ればわかるように、ロシアによるISIL掃討作戦後、ISIL(灰色)はイラク側に大きく流出していることが分かります。




 以下はシリア部分の詳細拡大地図(Wikipedia版)です。




 なお、上記の地図の凡例では、シリア人権監視団推計で約17万人となっていますが、内戦状態にあるシリアでは11年以降現在までに25万人以上の死者が出ているという統計もあります。