米牛肉ダイオキシン問題 で分かった 日本のお寒い実情 青山貞一 武蔵工業大学環境情報学部教授 池田こみち 環境総合研究所副所長 2006年12月25日 |
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以下の東京新聞の記事にあるように、ここ数年来のBSE汚染問題とは別に、米国産牛肉に1脂肪グラム当たりに含まれるダイオキシンの濃度が韓国の基準値である5pg-TEQ/g lipid を超えていたとして、韓国政府(農林省)は米国産牛肉を返送もしくは廃棄処分している。
日本人の多くは、ダイオキシン問題は所沢ダイオキシン騒動の後、議員立法で制定されたダイオキシン類対策特別措置法によって、あたかも問題がすべて解決したような錯覚に陥っていると言っても過言ではない。 しかし、日本政府は、こと食品や飼料に含まれるダイオキシンについては、韓国のような基準を一切設定していない。 ダイオキシン類対策特別措置法で設定したのは、大別し、(1)焼却炉からでる排ガスや焼却灰、排水中のダイオキシン類の規制基準、それに(2)大気、土壌、水に含まれるダイオキシン類の環境基準(排出基準、環境基準)のみである。 ... 今回、なぜかくも韓国政府が牛肉中のダイオキシン類を問題にしたかについて、さまざまな憶測が政治家などから出されているある。 たとえば、レームダック化しているノム・ヒョン大統領が基地問題、駐留米軍反米問題、イラクへの韓国軍派遣問題にはじまり、ありとあらゆる反米政策を打ち出しており、その一環であるという見方もある。 だが、こと、今回のダイオキシン問題は、そうではないだろう。もちろん、韓国政府が発表している分析値が事実であり、通常の測定分析方法に間違いがなければのことであるが...。もし、事実であり間違いが無ければ、決して韓国の今回の措置は、反米的な言いがかりなどとは言えない。 .... と言うのも、主要先進国で食品や飼料に含まれるダイオキシンを公的にあるいはまともに規制していないのは、今や日本くらいとだからである。 あえてここで”まとも”と言ったのは、次のような理由による。 まず、日本を含め主要先進国では、厳しさの程度はあるものの、1日当たり生涯摂取し続けて健康上問題が少ないとされる指針を持っている。これをTDI(耐容一日摂取量)と言う。どの先進国もこれを定めていると言ってよい。しかし、このTDIは一日に食物、大気、水、....から人間が摂取する総量についての指針に過ぎない。 問題は「TDI」としてではなく、魚介類、肉類、乳製品、野菜など、食べ物、食品毎にそれに含まれるダイオキシン類について濃度基準をもっているかどうかだ。それらの食品、飼料が一定の値を超過した場合、出荷停止とするなどの措置があるかどうかが重要である。 .... かの所沢ダイオキシン騒動では、日本政府が食品単体にダイオキシン濃度の指針を設定していなかったがために起こったと言ってよい。 1998年暮れ、農家から頼まれが分析した結果を評価する「物差し」がなく、結果的に放映したテレビ朝日と環境総研に、国、メディアからのバッシングが集中した。このダイオキシンの分析の実務は、環境総合研究所ではなくカナダの民間分析機関が行った。 もちろん、この問題でテレビ朝日と環境総研に手紙、電話、Fax、メールなどで寄せられた圧倒的多くの反響は、国、自治体、事業者が不作為(やるべきことをしないこと)を決め込んでいる中、よくぞここまでやってくれたと言うものであった。 では、日本中を震撼とさせた、あの所沢ダイオキシン騒動の後、日本政府が肉、魚介、牛乳、野菜など個別の食品、飼料についてダイオキシンの濃度基準を設定しかと言えば、まったくノーである!! 現在に至るまで、日本政府はもとより、自治体、事業者いずれも濃度基準や指針を設定していない。 .... 話しを戻そう! 韓国で米国産牛に含まれるダイオキシンが基準を超えているとして韓国政府(農林省)が牛肉の韓国への市場化を規制したのは、言うまでもなく韓国に基準なり指針が存在し、しかるべき機関が牛肉に含まれるダイオキシンを測定分析し、評価、監視していたからである。 これが最も重要な点である。 ....... ところで、青山貞一、池田こみち(環境総合研究所副所長)、そして最近では鷹取敦(環境総合研究所調査部長)は、毎年、世界各国で開催される通称、国際ダイオキシン会議に研究論文を提出し、発表してきた。 参考:Dioxin Related Research Papers in International Symposium on Halogenated Environmental Organic Pollutants and POPs 2004年、ドイツのベルリン工科大学で開催された国際ダイオキシン会議で、ドイツ政府の関係者は、EUが食品及び飼料に含まれるダイオキシン類に関する次の3つの基準、指針を提示した。 それは@最大許容値(Maximum limits)、A行動指針値(Action levels)、B目標値(Target levels)の3つ(3段階)である。@→A→Bの順で厳しい値となっている。通常、出荷停止などの根拠となるのはAの行動指針である。 もちろん、EUは単に物差しを考案しただけでなく、以降、順次、EU各国で指針となり実施に移されている。またドイツのようにEU統一指針より厳しい数値を設定しているくにもある。 出典:EU, Commission proposes strategy to reduce dioxin in food and feed Reference: IP/01/1045 Date: 20/07/2001 .... 少々専門的となるが、それら食品、飼料毎に提案された指針、基準の値を巻末に示すので見てもらいたい。 たとえば、牛、豚、鶏などの肉類は、1脂肪グラム当たり、3pgが行動指針となっている。乳製品も同じく3pgである。この値は、韓国の5pgより遙かに厳しい値である。 .... ところで、所沢で大騒ぎとなったホウレンソウだが、下のグラフを見て頂ければ分かるように、環境総合研究所が公表した値は、0.64〜0.75pgの範囲である。 EUの食品中ダイオキシン規制では、果物、穀物、野菜は、いずれも0.4pg(正規の表記は、0.4pg-TEQ/g)である。 したがって、環境総合研究所が公表したホウレンソウに含まれるダイオキシンの濃度は、いずれもEUの指針を大幅に上回っている。分かりやすく言えば、出荷停止となる汚染濃度である。 ひるがえって日本政府は未だに何ら基準値、指針を設けていない。 設けていなければ韓国のようなことは起こらない変わりに、国民は大きなリスクに常時さらされることになるのである。 出典:環境総合研究所、所沢ダイオキシン問題の本質について(2) グラフ中、宮田研とあるのは、摂南大学薬学部食品衛生研究室。 ちなみに、米国政府(EPA、環境保護庁)は、早期の段階から魚介類について、非常に厳しい警告値を持っている。その物差しで日本の近海魚類を評価すると、よくて2ヶ月に1度食べれるかどうか、大部分は食用に適さないことが分かる。 「知らぬが仏ではすまされない」のが、日本の実態、実情である。 これは次号で詳しく示したい。 次号につづく |
EUの食品・飼料中のダイオキシン3段階規制の概要
(5) upperbound concentrations; upperbound concentrations are calculated assuming that all values of the different congeners less than the limit of determination are equal to the limit of determination. (6) These maximum limits shall be reviewed for the first time before 31 December 2004 in the light of new data on the presence of dioxins and dioxin-like PCBs, in particular with a view to the inclusion of dioxin-like PCBs in the levels to be set and will be further reviewed before 31 December 2006 with the aim of significantly reducing of the maximum levels. 2. Maximum limits for dioxins in food
(1) upperbound concentrations; upperbound concentrations are calculated assuming that all values of the different congeners less than the limit of determination are equal to the limit of determination (2) These maximum levels shall be reviewed for the first time before 31 December 2004 in the light of new data on the presence of dioxins and dioxin-like PCBs, in particular with a view to the inclusion of dioxin-like PCBs in the levels to be set and will be further reviewed before 31 December 2006 with the aim of significantly reducing the maximum levels. (3) The maximum levels are not applicable for food products containing < 1 % fat. 3. Action and target levels
(1) upperbound concentrations; upperbound concentrations are calculated assuming that all values of the different congeners less than the limit of determination are equal to the limit of determination. (2) The target values will be set before 31 December 2004 simultaneously with the first revision of the action levels with a view of the inclusion of dioxin-like PCBs in the levels 4. Action and target levels for the presence of dioxins in food
(1) upperbound concentrations; upperbound concentrations are calculated assuming that all values of the different congeners less than the limit of determination are equal to the limit of determination (2) The target levels will be set before 31 December 2004 simultaneously with the first review of the action levels with a view of the inclusion of dioxin-like PCBs in the levels to be set. (3) The action levels are not applicable for food products containing < 1 % fat. |