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石原都政の検証C

〜国家主義の教育現場への強制〜

青山貞一


2007年2月11日


 2007年2月9日、東京都立学校の教職員173名が東京地裁に損害賠償訴訟を提起した(以下の記事参照)。

 記事の内容は、卒業式や入学式で君が代を起立して斉唱しなかったなどとして懲戒処分を受けた教職員が提訴したことだ。

君が代不起立で処分は違法
173人が提訴 東京地裁

朝日新聞 2007年02月9日

 卒業式や入学式で君が代を起立して斉唱しなかったなどとして懲戒処分を受けた東京都立学校の教職員173人が、都に処分の取り消しと1人あたり55万円の賠償を求める訴訟を9日、東京地裁に起こした。

 国旗国歌を巡り、処分の取り消しを求める訴訟としては全国でも最大規模となる。

 訴えたのは、03年秋の創立記念行事と04年春の卒業式や入学式で、起立やピアノ伴奏を拒否したり会場への入場を拒否したりして、戒告や減給処分とされた教諭ら。

 原告・弁護団は提訴に先立ち、今春の卒業式や入学式で起立や斉唱を強要しないように都教委などに申し入れた。


 周知のように、類似の裁判で東京地裁は昨年9月に起立や斉唱の強要は違憲・違法であるとして、東京都教育委員会の処分を禁じている。

 私は数年前から独立系メディアで「忍び寄る国家主義」と言うテーマで、石原都政下での異常としか言いようもない一連の国家主義的な教育の教職員、さらには生徒への押しつけ、強要問題を独立系メディアに連載してきた。

■教育に忍び寄る国家主義
青山貞一:忍び寄る国家主義 @国旗・国歌の強要  
青山貞一:忍び寄る国家主義 A職務命令  
青山貞一:忍び寄る国家主義 Bひとつの根源
青山貞一:忍び寄る国家主義 Cポストにビラ入れただけで2ヶ月拘留  
青山貞一:忍び寄る国家主義 D柏村議員の「異常な発言」を批判する  
青山貞一:忍び寄る国家主義 E東京教師養成塾
    :忍び寄る国家主義 F中学生の証言   
青山貞一:忍び寄る国家主義 G都立高校の教育現場
青山貞一:忍び寄る国家主義 H都教育委員、米長氏の資質を問う声
青山貞一:忍び寄る国家主義  I東京都教育庁OBが要請状!
 
 米国はじめ主要先進国で、この種の国旗、国歌を教育の現場に強要している国は、ほとんどない。以下は、文部科学省のWEBからの情報であるが、各国の法、判例を見るとそれがよく分かる。

国旗掲揚、国歌斉唱に関する諸外国の判例・事例

 言うまでもなく日本で公立学校の教職員に職務命令により国旗、国歌を強制したのは石原都政における東京都教育委員会である。

 以下私の上記のブログから経緯を振り返ってみよう。

 まず、日本の「国旗・国歌法」そのものには何ら罰則規定がない。

 東京都が挙げ句の果てに考え出した方法は、職務命令による教職員への国旗・国歌の強要である。

 地方公務員法32条、地方教育行政法43条2は公立高校などの教職員に対し、教育委員会その他上司の職務上の命令に忠実に従う義務を負うと定めている。

 職務命令に従わない場合,地方公務員法29条に基き任命権者である教育委員会による懲戒処分の対象となる可能性がある。これを東京都教育委員会は国旗・国歌の教職員への強要に使った。

 その背景には、東京都には国旗・国家法、すなわち日の丸・君が代が法制化されたことで学習指導要領にあるように、各種式典で学校が日の丸を掲揚するとともに、教員は生徒が君が代を斉唱するよう指導することが事実上“義務”づけられた、と言う解釈をとっていることがある。

 それを職務命令という方法で強要した背景だが、まず職務命令とは一体なんだろう?

 職務命令は、簡単に言えば、管理職から一般職員に発せられるものだ。それは業務命令とも呼ばれる。

 これらの職務命令は労働規約にもとづき出されるもので、通常、@各種法規、条例等に適合していること、A職務命令の発令者が職務上の上司であること、B職務命令の内容が受命者の職務の範囲のうちであること、C職務上の独立に違反しないことなどを要件としている。

 逆に言えば要件を満たしていなければ、職務命令あるいは業務命令そのものが法令違反となる。

 2006年9月の東京地裁判決は、国旗・国歌を教職員に強制するそれらの職務命令が法律違反であるとしたのである。

 よくあるのは管理職が組合活動に対し集会をやめろ、掲示を除去しろといった職務命令ををだすことである。

 この場合、労働組合法によって設立された組合活動には、憲法で保障された労働者の権利がある。したがって、このような場合、管理職の指示に従わなくとも服務命令、業務命令に違反したとして懲戒の対象になることはない。逆に、かかる職務命令や業務命令は不当労働行為とみなされることが多い。

 国旗掲揚、国歌斉唱問題については、たとえば政令指定都市や都道府県の教育委員会が卒業式や入学式に向け校長に職務命令を出していることがある。

 ある政令指定都市では、市立学校の全校長に文書で職務命令を出し「国旗は式場の正面に」などと細かく指示している。東京多摩部ある基礎自治体も市立小中学校11校の全校長に「学習指導要領に基づき適正に実施」するよう求める通達を出すなどの方法で職務命令を出していた。

 東京都の教育委員会は都立の全高校長に「通達」を出しており、毎年それに従うよう通知していると言う。この通達には「命令を伝える文書」としての性格があるとしており、何と文部科学省もこれを「職務命令と同等」と把握していると言う。

 これらは、まさに忍び寄る国家主義どころか、露骨な国家主義の教育現場への押しつけである。

 逆説すれば、ここまでして国旗の掲揚と国歌の斉唱をひとびとの心のなかにねじ込まなければならないものとは、いったい何なのか? 

 これでは、国家主義的な思想をもつ為政者らが考える教育現場の「左翼偏向」の是正どころか、その対極、すなわち「右翼偏向」の強制を権力をもってしているだけのこと、ではないのか?

これはまさに、戦前教育への回帰である、と言う素朴な疑問が沸いてくる。

....

 ところで、東京都の教育委員会の委員と言えば、将棋連盟の会長、米長邦雄氏を思い出す。

 米長氏を委員に形式的に任命したのは東京都教育委員長となっているが、その実態は言うまでもなく石原都知事である。これは、教育への知事の介入を抑制するため、制度的に教育委員長は仮に知事(事務局)が委員長候補や委員を推薦することはあっても、議会の承認がなければ委員長や委員の千人はできないようになっている。しかし、議会の多数を知事与党が握っている場合、知事の意向が委員に反映することが通例となっている。

 逆に田中康夫知事下の長野県教育委員会の場合、田中知事が出した委員長や委員の案を県議会はことごとく否決していた。

 その米長氏だが、最近有罪判決を受けた石原知事やその盟友である西村前衆議院議員(弁護士)同様、いわずとしれた国家主義者である。

 一昨年の園遊会で東京都教育委員会委員の米長氏が粋がって話した内容が、天皇陛下からたしなめられたことは記憶に新しい。

 以下、園遊会での天皇陛下と米長委員の会話を再掲する。


 天皇:今は、将棋のほうは

 米長:将棋のほうはやめましてですね

 (中略)

 天皇:教育委員会としては、本当にご苦労様です。

 米長:はい、一生懸命頑張っております。

 天皇:どうですか。

 米長:日本中の学校に国旗を上げて国歌を斉唱させるというのが私の仕事でございます。

 天皇:ああそうですか。

 米長:今頑張っております。

 天皇:やはりあの・・・、その、強制になるということでないことがね

 米長:ああ、もう、もちろんそうです。

 天皇:望ましいと

 米長:ほんとにもう、すばらしいお言葉をいただきましてありがとうございました。

 天皇:どうぞ元気で。

 米長:はい、ありがとうございます。

 このようなひとを教育委員としていること自体、東京都は時代錯誤である。

つづく