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イタリアの最新テレビ事情
Ultima situazione televisiva di Italia

青山貞一 Teiichi Aoyama

Feb 29, 2016
独立系メディア E-wave Tokyo
Independent Media E-wave Tokyo
無断転載禁

<本調査の目的>

 2016年2月16日から27日まで、南イタリアのソレント半島、アマルフィ海岸に第四次の基礎自治体持続可能性の現地調査で出かけました。

 今回初めて、ホテルや B&Bではなく、現地の民家が経営するアパートを前半5日間、後半4日間連続的に借り、そこを拠点として現地調査を敢行しました。

 本調査ではローマやナポリなどの大都市から遠く離れた南イタリアの地方都市においてさまざまな情報、とりわけテレビを通じて情報をどうやって得ているかについての調査結果です。ちなみに、インターネットは宿泊先民家のアパートでWiFiを通じ接続できています。

 本調査では、イタリアの国営テレビ局(RAI)の所有チャンネル数、従業員数、予算規模などとNHK(日本放送協会)との比較も試みました。


<本調査における実受像画像一覧>

(1)調査地点

 以下は実受像実験を行った南イタリアの地点です。


出典:グーグルマップ

 @イタリア ・カンパニア州サレルノ郡トラモンティ(コムーネ) ノヴェッラ地区
  具体的場所は以下の地図参照。


出典:グーグルマップ


トラモンティで宿泊した民家  撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S9900

 Aイタリア・カンパニア州ナポリ郡サンタガータ・スイ・ドゥエ・ゴルフィ(コムーネ)
  具体的場所は以下の地図参照。


出典:グーグルマップ


サンタガータで宿泊した民家  撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S9900


(2)受像チャンネル

 以下はイタリア・カンパニア州サレルノ郡トラモンテ(コムーネ・山岳の僻地)の民間家屋で電波により受像出来たテレビ画面の一覧です。ナポリ郡サンタガータ・スイ・ドゥエ・ゴルフィ(コムーネ)でも、ほぼ同じチャンネルが受像出来ています。

【1】 Rai1


【2】 Rai2


【3】 Rai3


【4】 Rete4


【5】 Canale 5


【6】 Italia1


【7】 La7


【8】 TV8


【9】 Deejay TV


【10】 Rai4


【11】 Iris(via Mer24)


【12】 La5


【13】 Rai5


【14】 Rai Movie


【15】 Rai Premium


【16】 Mediaset ITALIA DUE


【17】 Mediaset EXTRA


【18】 TV2000


【19】 Blaldnews 24


【20】 Rai News 24


【21】 Rai Sport1


【22】 Rai Sport2


【23】 Rai Storia


【24】 Dgcam24


【28】 DMAX


【29】 La7d


【31】 Real Time


【32】 QVC


【33】 Rai Scuola


【35】 R. Italia TV


【36】 RTL 102.5 TV


【37】 HSE24


【38】 GIALLO


【39】 Topcrime


【40】 Boing


【41】 Cartoonito


【42】 Rai Gulp


【43】 Rai yoyo


【56】 Focus


【60】 Euronews


【61】 BBC World News


【62】 CCTV NEWS


【63】 Frace 24(フランス語)


【64】 France 24【英語】


【65】 Bloomberg European TV


【66】 Al jazeera


【67】Al jazeera Intl


【69】TV 5MONDE EUROPE


【70】DW


【71】NHK World


【73】SMtv San Marino


【74】TV K-C


【75】 Sonlife


【76】 CCTV4(中国語】


【77】 UKRAINE Today


【80】 Juwelo


【110】 Rai 4 HD


【113】 Rai 3 TGR FVG


【120】 People TV Rete 7


【701】  UNINETTUNO UNIVERSITY TV


【805】  Mediaset On Demand



<本調査の結果>

(1)海外テレビ局を含む日常的受像チャンネル数

 日本では地デジ化に移行後でさえ、CSを除けば東京でも「地デジ」と「BS」の合計で12チャンネルのテレビ局が受像できる程度ですが、今回の調査により、イタリア・カンパネラ州トラモンティコムーネは、ラッテリー山脈の中山間僻地でも、約60チャンネルのテレビ局がケーブルテレビではなく、地上波電波や衛星を経由して受像できることを確認しました。

 ただし、イタリアのテレビはデジタル化され大部分のチャンネルは16:9にはなっているものの高精度ハイビジョン(HD)ではなく、低画質です。

 しかし、日本のように高精度ハイビジョン化しても、その内容が「社会の木鐸」どころか「時の政権の広報機関」そして低俗下劣(地デジ)さらにショッピングチャンネルとなっている(BS)現実を見ると、以下に示すようにイタリア国内外の約60チャンネルのテレビ局が簡単に見られることの意義はきわめて大いと言えます。

 本調査では、有料ケーブルテレビではなく、電波受像のテレビによってイタリア国内のRaiなどのテレビ放送(国内だけで40局以上)だけでなく、ユーロニュース(イタリア語)、BBCワールドニュース(英国局、英語)、DW(ドイツ局、英語)、フランス24(フランス語)、フランス24(英語)、TV5 Monde Europe(フランス語)、ウクライナ・トウデイ(ウクライナ局、英語)、ブルームバーグ欧州(英語)、アルジャジーラ(中東局、アラビア語)、アルジャジーラ国際(中東局、英語)、NHK国際(日本局、イタリア語)、CCTV国際(中国局、英語)、SMtv San Marino(イタリア語)など、海外テレビ局が常時受像出来ることも判明しました。

 なお、受像したテレビ信号は、中山間地においてもMER(以下参照)が24でデジタル信号を通常受像上まったく問題なく受信できていました。

◆MER(変調誤差比):Modulation Error Ratioの略。
 受信したテレビ信号が、デジタル変調(振幅・位相)において放送局から送信された振幅・位相と 実際の振幅・位相との差を数値化したもの。25dB以上が 受信良好の目安となります。


(2)地上波テレビ以外に海外衛星テレビの受信

、イタリアで受像出来た地上波のテレビ以外に海外衛星テレビのうち多くの国の多くのチャンネルをASIASAT 5 と ASIASAT 3S で日本でも簡単に受信できます。

 具体的にはドイツ 、 フランス 、 スペイン 、 ポルトガル 、英国、 ユーロニュース、ロシア、 インド 、 パキスタン 、 アルジャジーラなどイスラム教国など80チャンネルが無料で見られます。その他としてはCHINASAT 6B から 中国 の CCTV や地方局が60チャンネル以上が無料で見られます。ASIASAT 5 と ASIASAT 7 はアンテナを建てる方向を調整すれば受信できます。

 上記の外国衛星テレビを受信する機材は、イタリアはじめ欧州ではどこでも容易に入手できますが、何と日本では全く生産されておらず、一般の電器店では扱いません。日本の近隣諸国では、韓国、台湾、中国で生産しています。もっぱら、上記の海外衛星テレビは大部分が現地語か英語なので、仮に日本でチューナーなどを市販してもどこまで売れるか??と言えます。

 機器構成は以下のように非常に簡単です。単独チューナーとは別にデスクトップパソコンのマザーボードに接続するPCIカード型チューナーも安く(8000円程度)市販されているので、日本でも簡単に受像出来ます。


出典:コンテック公式Web

 今回の調査でも上記の海外衛星テレビが標準でサンタガータ、トラモンティそれぞれの家庭で簡単に見られました。これらの放送を受信している限り視聴料は一切かかりません。


(3)RAIとNHKの比較について

◆イタリア国営テレビ 「RAI」について

 放送局名でたびたびでてくる「Rai」は、RAI = Radiotelevisione italiana S.p.A.、すなわちラジオ・テレビジョン・イタリア(通称、イタリア放送局)の略です。

 このRAIは、国有企業の公共放送で創立は1954年、創業者はイタリア政府、2010年の年間売り上げ高は、2010年時点で1ユーロを124円として3,735億円となります。ちなみに、NHKの2010年度の予算は、6,786億円です。2010年時点での従業員数は、11,402人(NHKは2016年時点で10,242人)です。

 なお、Raiの運営収入は国民からの受信料と広告収入からなっています(NHKは視聴料とごく一部が国家予算、ただし国会承認が必要)。

 Raiは国営放送であっても日本と違う点は、放送中にコマーシャルがしっかりあることです。その意味ではスポンサーがあるのに年間受信料約14,000円(NHKは年間25,320円)を視聴者に請求しています。当然、日本同様、視聴者の不満は大きく、毎年受信料不払いの世帯は25〜28%に上るそうです。

 Raiはガスパリ法により分割民営化されることになっていましたが、ベルルスコーニの率いる民間放送局グループ「メディアセット (Mediaset)」に有利だという反発を内外で招き、法案は成立していません。メディアセットについては後述。

イタリアのガスパリ法について 

 ガスパリ法 (Legge Gasparri) は、イタリアのテレビ・ラジオ制度再均衡法のことです。ガスパッリ法とも言われています。 名称は提案者のマウリツィオ・ガスパッリ通信大臣から名付けられています。2003年12月2日、ベルルスコーニ内閣の下、議会で可決されましたが、ベルルスコーニ首相自身が民放3局を持つメディア王であることから、この法案は首相個人を利するものであり非民主主義的だ、としてイタリア内外の非難を浴びていました。このため、2003年12月15日、チャンピ大統領は法案への署名を拒否し、法案を下院に差戻しました。その後、2004年5月3日に成立しています。
 主な内容としては、@メディアの寡占規制を緩和する、A同一人物が新聞社とテレビ局を共に所有することを可能にする、B公共放送RAIの分割民営化などです。

RAIとNHKの比較について

 調査結果からは、Raiが持っているチャンネルはHDをあわせ14Ch(チャンネル)あります。もちろん他に多数のラジオ、FM放送、インターネット放送などもあります。

 RAIとNHKを単純に比較すると、RAIがテレビ14Ch、従業員11,402人で予算が3735億円、一方NHKはNHK World を含めテレビ5Ch、従業員数10,242人で予算が6786億円となります。収入源は既述。

 結果としてテレビのチャンネル数が3倍多いRAIが、ほぼ同じ従業員数で予算が半分ということになります。


出典:Wikipedia

◆クロスオーナーシップについて

 一方、クロスオーナーシップについては、OECD調査によれば、日本は92%で主要国で断トツであり、テレビと新聞などが同一資本系列により経営されています。他国ではカナダが73%、ドイツが71%、アメリカが45%、イタリアが45%、フランスが44%、インドが37%、韓国が37%、メキシコが34%、イギリスが33%、トルコが31%、ロシアが11%となっており、イタリアは米国、フランスとほぼ同レベルです。


(3)テレビ局の政権との関係

 
ここ数年、日本の政権政党自民党によるテレビメディアへのさまざまな形での影響力行使が問題となっています。実質国営放送であるNHKへの影響力行使はもとより、民放テレビに対してもBPO、放送法、電波法などをベースにした政権与党による圧力とも思える影響力行使も問題となっています。

 イタリアの場合、Raiはもともと国営放送であり視聴料を徴収している点で、NHKと類似する部分があります。下表は、2000年以降のイタリアの政権の推移ですが、放映内容のコンテンツについても、たとえばベルルスコーニ政権時代と現在のレンツィ民主党政権では、放映内容、とくに政治、外交などに関わるコンテンツにおいては、政権色を反映しているかどうかいう問題があります。

 筆者自身、イタリアのRai関連局の内容を熟知しているわけではありせんが、第三者によるさまざまなコメントを総合すると、やはり政権色を反映しているのは事実のようで、現在はもともとユーロコミュニズムの流れを組むイタリア共産党が名称を変えた民主党政権下では、左派的な色合いがあるのは間違いないようです。

 しかし、だからといって数ある民放テレビ局への安倍政権のような一連の影響力行使については、ほどんど聞いたことはありません。もとより、2つのチャンネルを持つMediasetはベルルスコーニが創業者であり常時ベルルスコーニ色をコンテンツに反映しているとも言えます。


出典:Wikipedia


参考:Wikipedia

 とはいえ、たとえばお隣の韓国のKBSのコンテンツは政権与党の色合いを強くもっていることは周知の事実であり、他のテレビ局もどちらかといえば新聞に比べ与党よりであるなど、どこの国でもテレビ放送やテレビ局はときの政権がさまざまな意味で影響力を行使しやすいメディアであると言えます。

 したがって、国営放送と民間放送との間には、民主主義の基本であるいわゆるチェック・アンド・バランスが機能しているかどうかが問われます。

 イタリアでは上述のように、Rai関係テレビが全体の半分の視聴率をとっている現実があるようですが、民放テレビと諸外国のニュースなどが容易に視聴できることで、チェック・アンド・バランスが機能しやすい環境にあると言えます。
 
 2011年3月9日、南イタリアを現地調査で訪問した際、日本で東日本大震災が起きました。Raiでは3つのチャンネルを使い福島第一原発事故やイタリアの今後のエネルギー政策について二手に分かれて徹底議論をしていました。同時期、日本のテレビ局はいずれも御用学者の大学教授をつかって「直ちに問題ない」を連呼していた時期です。

 今回(2016年2月)では、シリア難民や北アフリカ難民のイタリアやEU諸国での受け入れについて、やはり二手に分かれて徹底議論をしていました。スタジオだけでなく、諸外国の専門家も映像ライブで参加し、かなり激しい議論をしていました。

 NHKの日曜討論に顕著なように、国民的課題や関心事に真っ向から議論しようとしない現在のNHKに比べ、これなどRaiの真骨頂と言えるものと思えます。

 以下は青山が書いた論考の当該部分です。

◆青山貞一:海外メディアは大震災・原発事故をどう伝えたか

 ........

 そんな国柄もあり、テレビでは連日、原発事故についてRaiのTG1、TG2,TG3では御用学者ではない専門家、研究者、活動家、実務家などが右左に分かれキャスターの司会のもと、原発建設再開論者と脱原発派による激しい議論が闘わされていた。


イタリアTG3テレビにおける福島原発巨大事故
報道をつとめたBianca Berlinguerさん


現地に入った東京支局員からの現地リポートも


現地に入った東京支局員からの現地リポートも


現地に入った東京支局員からの現地映像も


イタリア国立原子物理研究所の
ジョバンニ・フィオレンテーニ所長




議論に参加していたイタリアの女性研究者?

 ただし、現在の左派政権のイタリアといえど、G7及びEU、NATOの一員であることには変わりなく、ウクライナのテレビ局は常時見ることが可能であり米国資本のテレビ曲QVCは見られても、ロシアの主要テレビ局であるRT(ロシア・ツウデイ)は、常時見られるテレビ60局の中に入っていない現実があります。

<参考>

・QVC(キューヴィーシー)
 24時間テレビショッピングを放送する専門チャンネル。名称の由来は quality(品質)、value(価値)、convenience(便利)の頭文字である。アメリカ合衆国で1986年に開局。2012年現在、アメリカ以外には日本、イギリス、ドイツ、イタリアでも放送しています。

・Mediaset(メディアセット)
 メディアセット(Mediaset S.p.A.)は、イタリアのミラノに本部を置く大手メディアグループであり、創業者はベルルスコーニ。2007年11月にオランダのテレビ製作会社エンデモルが株の75%を取得しました。以下はメディアセットが所有するテレビチェンネルであり、上記の60局に含まれています。

 ・カナレ5(イタリア)
 ・イタリア1(イタリア)
 ・レテ4(イタリア)
 ・テレシンコ(スペイン)
 ・ボイング
 ・メディアショッピング
 ・メディアセット・プレミアム