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目に余るNHKの
情報操作による世論誘導
〜放射線量報道(川内村)〜
青山貞一

環境行政改革フォーラム(FEAR)代表幹事
掲載月日:2012年5月4日
 独立系メディア E−wave Tokyo

転載禁


 2012年のGW中の5月1日〜3日、今年に入ってはじめて福島県内の放射線測定調査を敢行した。

 会津若松のホテルでNHKの総合テレビを見ていたら、夕方の定時ニュースで福島県内の空間放射線測定値を報道していた。

 以下は5月2日夜の報道内容である。



図1 2012年5月2日夜 NHKの総合テレビ定時ニュース
の福島県内の空間放射線測定値(1)


図2 2012年5月2日夜 NHKの総合テレビ定時ニュース
の福島県内の空間放射線測定値(2)


●川内村の場合

 一見どってことない放射線測定値のようだが、私がとりわけ驚いたのは、図2の映像、すなわち原発から20km圏内にある自治体の放射線量である。

 とくに驚いたのは、よく放射線測定で行く、楢葉町、広野町、そして川内村の線量だ。

 なぜかと言えば、たとえば川内村は最近、帰宅が許されたとして、村民の15%程度が帰宅した村だが、どうみてもNHKニュースの放射線量が低すぎると感じたからである。

 もちろん、データのもとになっている文部科学省や福島県の測定方法、測定場所の問題もある。

 しかし、それとは別に、国や県が多くの場所を計っていながら、NHKが勝手に著しく低い地点のデータをあたかも、その自治体の代表値のように報道していることが大きな問題なのである。

◆福島県川内村:被ばく、通院に不安 生活難しく帰村進まず
毎日新聞 2012年04月22日 13時54分(最終更新 04月22日 17時25分)

 東京電力福島第1原発事故に伴う警戒区域が1日に解除された福島県川内村で22日、村長選が投開票される。日中は自由に出入りできるようになって3週間たつが、村民約3000人のうち帰村したのは約500人だけ。

 選挙戦は帰村の是非が争点となったが現状では、医療機関や買い物などのライフラインに事欠き「生活が成り立たない」と二の足を踏む住民が少なくない。

 村で建設会社を営んでいた吉田和浩さん(48)に帰村をためらわせるのは苦い記憶だ。「今、息を引き取ったよ」。昨年11月、避難先の郡山市の総合病院。胃がんで危篤に陥った父(当時74歳)の病室に向かうエレベーターの前で、付き添いの母(72)から携帯電話に連絡が入った。あと数分早ければ……。

 父の死と前後して、母が狭心症と診断された。病院までどれだけかかるか。震災前は車で20?30分だった隣の大熊町の県立病院は、警戒区域なので立ち入れない。今もし村に戻れば、最も近い小野町の総合病院まで約1時間。古里に「戻りたい」と訴える母と、吉田さんら息子3人で今年1月、家族会議を開いたが「お母さんが戻るのは難しい」と結論を出した。

 川内村の放射線量が0.147μSv/hといえば、東京の3倍弱の値である。原発から20kmの地点にある川内村がそんなに低いはずがないと思ったわけである。

 そこで東京に帰宅後、鷹取さんに調べてもらうと、以下の表1のデータがでてきた。

 NHKが報道しているのは、川内村で常時測定している25〜27カ所のデータのうちのひとつであることは分かったが、その値は、5月2日で下から2番目、5月4日(以下)で下から3番目に低い値、すなわち川内村役場で測定した値であった。

表1 福島県川内村放射線量 2012年05月04日 09時10分時点
観測地点 線量率 [μSv/h]
すわの杜公園 0.264
川内村立川内小学校 0.118
川内村立川内中学校 0.154
かわうち保育園 0.162
第1区集会所 0.223
第2区集会所 0.169
第3区山村活性化支援センター 0.176
第4区集会所 0.208
宮ノ下集会所 0.332
第6区集会所 0.247
手古岡集会所 0.467
第7区集会所 0.408
舘山公園 0.546
川内村役場 0.149
村営バス停留所(貝ノ坂地区) 1.350
五枚沢集会所 0.884
毛戸集会所 0.532
川内郵便局 0.182
川内村 渡辺商店 0.323
川内村大字上川内字木ノ葉橋付近 0.199
第1区分団屯所駐車場 0.185
川内村保健福祉医療複合施設ゆふね 0.187
下川内地区農業集落排水処理施設 0.970
川内村下川内坂シ内付近 0.156
ふたば農協川内支店 0.115
出典:文部科学省 放射線モニタリング情報・全国及び福島県の空間線量測定結果 http://radioactivity.mext.go.jp/map/ja/

 表1ではわかりにくいので、グラフにした。

 グラフにすると、図3のようになる。25−27あるデータのうち、最も低い値に近い赤くマークしたのが川内村役場のデータなのである!

 一番高い値と比べると1/10近くではないか!


図3  福島県川内村放射線量 2012年05月04日 09時10分時点
出典:文部科学省 放射線モニタリング情報・全国及び福島県の空間線量測定結果
http://radioactivity.mext.go.jp/map/ja/
 

 さらに私達の環境総合研究所が開発し全国の大学や研究所の研究員等が使っているスプライン補間システムで川内村、富岡町、大熊町、いわき市などの測定データをもとに分析してみた。

 結果は以下の図4である。

 図中、右側の赤〜紫の高線量率地域は、大熊町、富岡町の一部である。図4から分かることは、NHKが連日報じている0.147μSv/h程度の放射線量は、図中真ん中の青紫色部分の村役場地点(NHK報道地点と書いた部分)である。


図4 スプライン補間法による川内村の放射線線量率分布の分析結果 
    出典:青山貞一、環境総合研究所Super Geigerで解析

 以下は川内村の地形図である。

 国、福島県が測定したポイントはいずれも山間の低地であえることが分かるが、当然、測定していない山林、高地(それらの多くは高線量率値であるだろう)から次第に汚染が除染地に風雨により降りてくることが容易に推定できる。


図5 川内村の地形図 出典:グーグルマップ

 参考のためl、以下に政府の避難指示解除区域、居住制限区域のマップを示す。

 私たちが作成したスプライン補間地図にほぼあってはいるが、川内村のスプライン補間用データは除染地域のものが大部分であり、高線量率地域は大熊町、富岡町などの測定値を補間し用いている。

 したがって、果たして川内村の西2/3の地域がスプライン補間図にあるように福島市の線量より遙かに低い線量なのかが問われる。

 最低限、。。。集会場など、除染してある区域だけでなく、西2/3の森林、草地などにおける測定値がなければならないだろう。


図6  政府の避難指示解除区域、居住制限区域のマップ
出典:日本政府 警戒区域と避難指示区域の概念図(平成24年3月30日現在)

 NHKの報道が意図的であるかどうかという問題は別として、この種の情報を、何も福島県内に限ったことではなく、首都圏でも同様に、同じ自治体内でもとりわけ低い県庁所在地などの値、それも地上数10mの値を何ら註釈無く毎日報じている。

 しかし、図3を見れば明らかなように、これは「情報操作による世論誘導」以外の何物でもない。

 しかも、通常、川内村に限らず、町の中心部はいずれも巨額の税金を使って、ゼネコンなどがいわゆる「除染」をしている場所である。測定地点周辺をしっかり除染し、その真ん中で敢えて低い値を測定し、連日ニュースで流しているのである。

 図3では、NHKが連日報道する6倍から10倍も放射線量が高い地域が多数ある。それらの場所には公園、集会場なども多数ある。このような汚染状況にあって、国は安易、拙速に帰宅許可を出したが、「除染」は「移染」であり巨額の税金を投入しいくら庭先を掃除しても、風雨などで汚染濃度が高まる可能性があるはずだ。

つづく