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(9)環境 OECDの幸福度指数では、「環境」は大気汚染と水質汚濁の2項目だけを問題としているが、世界的に見た国別の「環境」評価には、世界経済フォーラム(WEF)で米国のコロンビア大学とエール大学による環境保全持続力指標が有効であろう。 下の表は、過去2000年、2001年、2002年、2005年にWEFで公表された国別の環境保全持続力のランキングである。 これを見ると、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、アイスランド、カナダなどの国々が上位1位〜5位の常連であり、日本は18位、22位、62位、30位とまったく振るわない実態が明らかになっている。 日本政府は常々、日本の環境保全技術を自画自賛しているが、それはスループット経済、すなわち膨大なエネルギーを浪費し、鉄鋼や工業製品を製造し輸出する日本型経済に対応した汚染、汚濁の削減技術の力を示すだけのものであって、本来の環境面から見た持続可能性を示すものではないのである。 さらに、日本は世界で一番、家庭から出る廃棄物の焼却量が多い国として知られている。廃棄物を焼却すれば様々な非意図的な有害化学物質が環境中に排出されることからも日本の「環境」保全持続力は高くない。これは、東日本大震災によって生じた膨大な量のがれきを焼却していることから、さらに悪化していると言えよう。 表 世界の「環境保全持続力」ランキング 出典:青山貞一、世界の「環境保全持続力」ランキング、AISブログ (10)原発密度 エネルギーという指標がないので、本来これは環境に含めるべきだと思うが、今後、今まで以上に、原発問題もOECD加盟国などで環境や健康、ひいては人々の生活に甚大な影響をもたらし、人々を不幸にする要素と言っても過言ではないだろう。 ここでは、OECD諸国の原発立地数と面積比、人口比についての表を作成してみた。 日本は稼働中及び建設中の合計で、面積当たりの原発密度は、ベルギー、韓国に次いで世界第3位となっている。 3.11の福島第一原発事故で分かったように、原発はひとたび甚大な事故が起これば、住民の健康や居住(住まい)に大きな影響を与え不幸の底に陥れる意味できわめて重要なものと考えられる。 表 OECD諸国諸国の原発密度ランキング
但し、原発数は稼働中及び建設中を含む 出典:青山貞一が指標及び順位表を作成 以下は調査時期が上の表の調査時期と違うので国別基数が異なるものがあるが、OECD以外の国を含めた世界の国別原発数(基数)と合計出力である。 表 世界各国の原発稼働数ランキング
出典:世界の原子力発電所の原子炉の数 2010年 (11)健康 OECDの個別指標では、健康は国民の寿命と自己申告健康度を採用している。日本は先進諸国のなかで最も寿命が長く第一位となっているが、自己申告健康度は逆にOECD諸国で最下位となっている。 この意味するところは、がんはじめ深刻な病気が生じた後に、高度な手術によって延命する技術力が高いことを意味する。日本には国民皆保険制度があるものの、この種の高度医療にはかなりの医療費がかかることから、平均的所得者以下の国民にとっては、医療費の面で必ずしも幸福とは言えない状況がある。 ※国民皆保険 全国民を義務的に加入させる公的・準公的な社会保険としての医療保険 の仕組みである。 以下は、2004年の世界各国の一人当たりの公的(国民皆保険)及び私的な医療費の支出額のランキングである。図中、大豆色が公的支出、青紫色が私的支出額となっている。一人当たりの年間医療費支出は米国、ルクセンブルグがダントツである。米国では公的支出を私的支出が上回っている。 ちなみに米国では一人が年間公私を含め平均約52万円(1ドル=85円として)を負担していることになる。一方、日本では、一人が年間公私を含め平均約18万円を負担していることになる。ともに2004年段階の額である。 日本はOECDの平均より低く、国家財政との関係はあるものの、結果的に他の先進諸国に比べて負担は少ないと言える。 但し、日本の皆保険制度では、自由民主党が75歳以上の後期高齢者の医療負担を高めたことから、現在、高齢者にとって医療費の負担は従来に比べ高くなっている現実がある。 ※後期高齢者医療制度 日本国内に住む75歳以上の後期高齢者全員と、前期高齢者(65〜74歳) で障害のある者を対象とする、他の健康保険とは独立した日本の医療保 険制度。根拠法は高齢者の医療の確保に関する法律。 OECD諸国の医療費(公的、私的)ランキング 小豆色部分が公的医療費、薄紫色部分が私的医療費負担を指す 出典:OECD 2004年 以下のグラフは、古いデータだが、医療費に占める薬剤比率の国際比較である。日本の薬剤比率が他の先進諸国に比べ圧倒的に高いことが分かる。このことは、日本の健康保険制度が医師らの医療行為に見合うレセプトとなっていないことを、薬剤をより多く患者に出すことで補っているように見える。 その結果、日本国民は本来必要とは言えない薬剤を提供され、医療費のうち一部を国庫(税金)がまかなっており、最終的に国民は「薬漬け」状態になっていると言える。 図 医療費に占める薬剤比率の国際比較 出典:日本の医療費について また、以下の表は古いデータではあるが、医療関連機器の値段の先進主要国比較である。表より直ちに分かるように、我が国の医療機器の単価は他の先進諸外国に比べ、非常に高額のものとなっていることが分かる。 表 医療機器価格の国際比較 出典:日本の医療費について さらに以下のグラフは、国民一人当たりの年間平均受診回数の国際比較である。先進諸国のなかで日本の受診回数が突出して多いことが分かる。これは結果的に先の薬剤比率の高さと関係するものであろう。 図 国民一人当たりの年間平均受診回数国際比較 出典:日本の医療費について OECDの幸福度調査では、日本は加盟諸国随一の平均寿命(第一位)となっている。 しかし、逆説すれば日本の医療は、国民を検査漬けそして薬剤漬けとすることを意味し、それにより国民が生かされていることを意味しないだろうか? これは、本来医療行為に支払われるべき費用が薬剤と医療機器の購入(償却)費用に支払われている現実があるように思える。 さらに、日本は先進諸国のなかで最も寿命が長く第一位となっているが、自己申告健康度は逆にOECD諸国で最下位となっていることを考え合わせると、日本ではプライマリーケアはじめ予防医療がまったく機能しておらず、すなわち未然防止医療が機能せず、起こってしまった疾病を高度検査機器と多量の薬剤で対応している不可思議な実態が見えてくる。 つづく |