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原子力安全委員へ
電力業界から多額献金

青山貞一
掲載月日:2012年1月4日
 独立系メディア E−wave


 昨年秋、中央大学の研究所で開催された講演会によばれたとき、私の後に講演された朝日新聞 元経済部長で「東電帝国―その失敗の本質」(文春新書)の著者でもある志村 嘉一郎 氏は東京電力が多額の交際費などの資金でマスコミ、大学研究者等を接待漬けとしている実態を赤裸々に話されていた。

中央大学研究所:公開講演会 3.11複合災害と日本の課題 

 講演の段階でもかなり個別具体に記者にいかに接待したか、大学研究者に研究費を寄付していたかを話していた。
 
 講演会終了後、大学近くで食事した際は、講演会で話されなかったすさまじい実態を話され、その場に居合わせた私や法学部教授ら一同は本当に仰天させられた。私もあちこちでこの種の話は聞くが、それらは伝聞に次ぐ伝聞であり、志村氏のように現場に居合わせた大新聞の部長の口から出た話は格段にリアリティがあるからだ。

 後日、大学の同僚に話したら、志村さんの東電帝国を読むと、どうみても虎穴にいらずんば孤児を得ずのたとえの通り、志村さんはかなり電力業界に足を踏み込んでしまったところもあるようだが、朝日新聞退任後、東電や電気事業者だけでなく、日本のメディア、マスコミが如何に広告費だけでなく、巨額の営業、接待費によって報道がゆがめられて来たかを辛辣に世に問うたわけでり、立派だと思う。

 私は仮に志村氏が、虎穴にいらずんば虎児を得ずで虎穴に入って行き、彼自身がかなり東電の接待などを受けていたとしても、事故後、記者、デスク、部長時代に書けなかった実態を赤裸々に暴露することはジャーナリストとしてよいことだと思っている。

 志村氏はいつでも呼ばれれば知っていることを何でもお話ししたいと言っていたこともあり、そのうちぜひ、お話を伺いたいと思っていた。

 志村氏は講演会の冒頭、興味深いことを話してくれた。それは3.11により福島第一原発事故が起きたあと、東電帝国のエッセンスを朝日新聞の私の主張的な欄に投稿したが、朝日新聞社から掲載を断られたいきさつについてである。

 周知のように、朝日新聞に限らず新聞、テレビなどの大メディアは、福島原発事故が起きる前までは、個々の電力会社、電事連、原子力産業会議などの電力業界社から多額の広告収入を得ていた。

 その結果、たとえば諸外国で深刻な原発事故やイギリスの核廃棄物再処理工場事故で大量のプルトニウムが海に流出した際に、地元英国のマスコミはもとより、欧米のマスコミが一面トップでそれを報じたにもかかわらず、日本では通信社がベタ記事でほんのちょっと報じただけだった。

 スウェーデンの原発が事故を起こした際も、欧米のメディアは結構大きく報じていたが、日本のマスコミはまったく報じていなかった。

.....

 ところで、今年に入って飯田哲也さんが言う原子力村あるいは私たちが言うところの政官業学報ペンタゴンのなかでの個別具体の金銭授受が日本のマスコミを賑わすことになってきた。

◆安全委員長らに原子力業界が寄付 310万〜400万円
2012年1月2日 16時59分

 原発の設置許可申請などについて、安全審査のダブルチェックとして2次審査を担当する原子力安全委員会の5人の委員のうち、班目春樹委員長と代谷誠治委員が、就任前の3〜4年間に、原子力関連企業や業界団体から310万〜400万円の寄付を受けていたことが2日、分かった。

 安全委の下部組織の専門審査会で、非常勤で審査を担当する複数の委員も、審査対象企業などから寄付を受けていた。いずれも審査の中立性への影響はないとしている。 班目氏は2010年4月に東京大教授から安全委の委員長になった。同氏によると、09年までの4年間に三菱重工業から計400万円の寄付を受け
た。(共同)

原子力業界が安全委24人に寄付 計8500万円
 朝日新聞 2012年1月1日

 東京電力福島第一原子力発電所の事故時、中立的な立場で国や電力事業者を指導する権限を持つ内閣府原子力安全委員会の安全委員と非常勤の審査委員だった89人のうち、班目(まだらめ)春樹委員長を含む3割近くの24人が2010年度までの5年間に、原子力関連の企業・業界団体から計約8500万円の寄付を受けていた。朝日新聞の調べで分かった。

 うち11人は原発メーカーや、審査対象となる電力会社・核燃料製造会社からも受け取っていた。

 原子力業界では企業と研究者の間で共同・受託研究も多く、資金面で様々なつながりがあるとされる。中でも寄付は使途の報告義務がなく、研究者が扱いやすい金銭支援だ。安全委の委員へのその詳細が明らかになるのは初めて。委員らは影響を否定している。





 上記の記事を見ると、もらって何が悪いかと開き直っているふしがあり、あきれてものが言えない。

 私も大学人だが、今回の話は、研究費を企業一般からもらう話とは全く違う。仮に委員就任前であれ、その種の委員会にかかわることがあり得る教授は、審査対象となる関連企業からのいかなる献金を受けてはならないだろう。

◆東京大学の原子力安全委員会委員長、斑目春樹教授 紹介ウェブ

専門:社会工学核
社会工学は、技術と人間生活との関係や相互作用を探る新しい研究分野です。 社会的受容性は、技術政策の重要課題です。 もう一つの問題は、先進技術の効果的な規制システムです。 外交政策は日本に核開発を推進する必要がある。 例として、核技術を生かし、学際的な研究は心理学、政治、経済、哲学、社会科学と連携して実施しています。


 HIV事件がきっかけとなり文部科学省の科学研究費を受ける大学研究者等に対し、やっと「利益相反」に関わる情報が公開されるようになってきた。これは医療、医学、薬学分野で問題が発生したのがきっかけだが、原発分野でも同じである。

 研究費をもらう電力会社、原発関連メーカーから研究費や補助、助成金を得ている研究者が原発関連の審議、審査、委員会、検討会などに関与するのは明らかに大問題である。

 私の手元にも、かなり以前だが「利益相反」関連確認調査書が来ていたが、たとえばある都市再開発業者から研究費補助を受けている研究者が、その業者が事業者となって建築される高層ビルの環境アセスメントの審査委員になっていたら、どうみてもおかしいわけだ。

 しかし、文部科学省などがこんな基本的なことを従来、研究者にまともに問うていなかったことも大問題である。

 そもそも、委員あるいは委員長就任以前のことだというがおかしい。委員を任命する側は、過去に関連業界からいかなる理由があれ資金供与を受けている研究者は、委員を任命してはいけない。

 たとえば、私が日隅一雄弁護士と共著でだした「審議会革命〜英国の公職任命コミッショナー制度に学ぶ」では、利益相反問題を中心に、独立行政法人の所長や幹部、国の委員会などの委員の専任に際し、コミッショナーが徹底的にその人物の素性を調査し、情報をすべて公表している。

 以下はその任命手順である。

1 公職任命コミッショナー(Commissioner for Public Appointments)

 審議会、諮問委員会、特殊法人などの公的機関の代表者や役員を大臣が任命する際、選任が実力本位で公正に行われるように監督する職務を行う。

2 コミッショナーの下での公職選任手順

(1)公募
(2)確定した採用基準に沿った人選
(3)公募から面接までの全てのプロセスへの「独立した査定者」
  ※(第三者)の関与(※コミッショナーなどによって厳正に公募採用され、必要な訓練を受けた人)
(4)主要な手続きの全てを記録に残し、情報公開・監査に堪える公明さを確保する。
(5)通算任期など長期化防止策
(6)任命手続き終了後、手続きが適正であったかチェックする「独立した監査者」(第三者)による監査




 日本はどうだろう。

 この種の委員選任はほとんどすべて官僚など行政機関、それも事業を推進する省庁の官僚の裁量で選定している。国会承認の場合でも、形だけとなってきた。

 英国であれば絶対、今委員となっている研究者の大部分は委員に選任されないだろう!

 こんな甘い倫理観の研究者とそれを選ぶ官僚が跋扈している限り、いくら委員会の所管を環境省に移してもまったく状況は変わらないと断言できる。しかも、500人規模とか言っているが、この種の問題を改革せず、焼け太り的に人員を増やしても意味がないし税金の無駄遣いである!

 以下は、審議会革命の青山貞一のあとがきである。


監修者(青山貞一)あとがき
   

 日本は明治維新以降、一貫して脱亜入欧を旗印に、欧米に追いつけ追い越せと科学技術や経済だけでなく、法制度や行政機構を次々と導入してきた。だが、よくみると導入したのは欧米の制度や機構の「うわべ」であって、それらを実社会でしっかりと機能させるための「たましい」や「しかけ」は根付いていない。

 たとえば民主主義の基本となる情報公開、行政手続、公文書管理、行政不服審査、環境アセスメントなどの制度・手続はその典型である。いずれも先行する欧米諸国に30年〜40年遅れて導入したものの、どれも例外規定が多かったり、行政機関や官僚の裁量が多く、結果として社会経済的弱者の救済ではなく、行政や事業者など強者の既得権益擁護に活用されているといってよいだろう。

 民主主義の基本は立法府が行政府をコントロールすることだが、日本はここでもうまくいっていない。その結果、「政」「官」「業」が強固な利権の構造を構築し、さらに「学」「報」、すなわち御用学者と御用メディアが加わり、民主主義がまったく機能せず、いつも市民、国民は蚊帳の外におかれている。

 本来、GO(国、自治体)やPO(企業)を監視すべきNPO・NGO(非営利、非政府組織)も、日本ではGOやPOの補完物となり本来の社会的役割を果たしているとは言い難い。

 本著が主題としている公職任命コミッショナーは、英国で生まれた制度・手続である。日本は政治制度として大統領制ではなく英国同様、議院内閣制を導入したが、ここでもよく見ると同じ議院内閣制でも日本と英国では著しく異なることが分かる。

 日本では大部分の立法が議員立法ではなく、通称閣法、すなわち霞ヶ関の官僚が法案の骨子から肉付けまでをつくっている。そのうえ国会審議でも議員はその内閣法案を追認するだけだ。与野党で法案について一字一句まともな審議をしている英国とは異なるのである。

 さらに日本では行政改革や民営化の一環としてサッチャー首相時代のエージェンシーをもとに独立行政法人(独法と略)制度を導入した。だが、これまた日本と英国では全く様相が異なる。日本では独法や国立大学法人は特殊法人などの看板の掛け替えに過ぎず、相も変わらず省庁の天下り再就職先、そして高級官僚のいわゆる「渡り」の温床となっている。

 また省庁や自治体の審議会、審査会、委員会なども同様だ。行政組織や官僚に都合の良い御用学者や御用メディアを委員に選任しており、役所のシナリオ通りの「出来レース」が横行している。そこではまともな審議、審査はされず、「政」「官」「業」「学」「報」のペンタゴンの権益が追認されている。

 「審議会革命」公職任命コミッショナー〜市民のための行政を実現する方法〜は、その題にあるように、日本の行政を市民の手にとりもどすための政策提言である。独法や審議会委員などを選ぶための方法が提案されている。基本は情報公開によるプロセスの透明性の確保であり、それとともに独立性、第三者性、実力本位、清廉潔白、機会均等などをどう確保するかがポイントである。

 翻訳を含め執筆に当たられた日隅一雄弁護士は、NHKの経営会議委員などメディアを重視している。しかし、当然のこととして本著で提起していることは国、自治体のあらゆる行政に関連するものである。

 本著の刊行がきっかけとなり、日本社会で公職任命コミッショナー制度が議論され導入され御用学者の温床となっている審議会が本来の役割を果たすようになることを切望するものである。

◆NPJ編集長 日隅一雄:連続対談企画〜無制限10本勝負