エントランスへはここをクリック   

メディアと世論誘導
C大メディアに誘導される世論という仮説

青山貞一
Teiichi Aoyama
掲載月日:2010年11月9日
独立系メディア「今日のコラム」
無断転載禁


●大メディアの論調で誘導される世論という仮説

 ここでは日本国民の世論が、いかに新聞・テレビなどの大メディアの影響を受けやすいか、逆説すれば大メディアを信頼している国民であるかについて論じてみたい。

 ここ数年の日本における政治、政局を見るまでもなく、日本国民は、新聞やテレビの影響を非常に受けやすいのではという仮説を設定することができる。

 この仮説は政治のあらゆる局面で考えられるものである。その背景には日本国民が新聞やテレビなどの大メディアの記事やニュース、番組に他の先進国ではないほどの信頼を置いているという事実がある。これについては別途詳細に論じる。

 この仮説は最近では2010年9月の民主党代表者選挙で顕著なものとなっている。

 2010年9月14日を投票日に行われた民主党の代表選に関連して新聞、テレビ、通信社などの大メディアは、民主党の鳩山氏から菅氏に変わった後の内閣支持率や誰が民主党の代表にふさわしいかなどについて世論調査を頻繁に行った。

 その際、大メディアは世論調査において必ず同時に「政治とカネ」問題そして「頻繁に日本の総理が頻繁に替わることの対外的印象」問題などの設問をたてていた。

 当時、国民は直前の参議院議員選挙に消費税を打ち出すなどで大敗した菅直人氏に政策的には不満をもっていたが、大メディアが頻繁かつ執拗にくりだす「政治とカネ」問題と「日本の総理が替わることの是非」に関連する記事、ニュース、特番などの影響を受け小沢氏ではなく菅直人氏に圧倒的に高い支持を与えるようになる。


●仮説の予備的な検証

 このことは民主党代表戦の投票結果(表2参照)に象徴的に現れていた。

 国会議員の得票数では菅氏と小沢氏の得票はほぼ二分され、それぞれ約200票と五分五分となったものの、地方議員による得票さらにサポーターによる得票では菅氏は小沢氏を大きく引き離し代表に選ばれたのである。

表2 2010年9月民主党代表選挙の得票結果
候補者 国会議員票 党員・
サポーター票
地方議員票 総ポイント
菅直人 412(206人) 249 60 721
小沢一郎 400(200人) 51 40 491
無効など 10(5人)








出典:民主党

 大メディアは代表選挙報道のなかで2011年に行われる統一地方選挙への影響についても執拗に報道していたこともあり、民主党の地方議員の多くは統一地方選挙における自身の当落を意識し小沢氏でなく菅氏を支持した。サポーター得票は、ほぼ大メディアによる世論調査結果と同様の結果となった。

 そこでは本来、民主党関係者が勘案すべき国のあり方や国と地方のあり方、さまざまな将来ビジョン、外交、財政、税制、年金、医療、公共事業、地方分権、沖縄問題といった個別具体の政策の違いはほとんど問題にされず、大メディアの論調が菅氏への得票を誘導することになった。菅氏が消費税を唐突にもちだしたにもかかわらずである。

 他方、衆参の国会議員は、ことが民主党代表=総理となる選挙の重要性を考慮し両候補が主張した将来ビジョンや個別具体の政策内容において卓越していた小沢氏に得票していたと考えられる。世論調査の結果を考慮したとしてもである。これは仮説を考える上できわめて重要な点である。

 後日、菅氏が一年生議員や中堅議員に自分が当選した場合、政務三役などのポストを与えるかのような発言を電話などでしていたこともあって、軸足が定まらない中間層議員が菅氏に投票したこともあるだろう。にもかかわらず、小沢氏が大メディアからの批判、攻撃の嵐の中で肝心な民主党国家議員の約半数の得票を得たことは、特筆すべきことであったと思う。

 上記の仮説は2010年9月の民主党代表選だけで検証すべきものではないが、この2年弱、大メディアが小沢一郎氏に大して執拗に「政治とカネ」問題、「説明責任」問題で連日連夜にわたり激しく批判、攻撃してきたことによる国民へのすり込み効果が顕著に表れたという点で重要である。

 大メディアの論調をして小沢氏に対する一般国民のイメージが確定してきたことの証左であると言っても過言ではないだろう。だが、私が「青山貞一:小沢一郎とメディアと法」 の論考のなかで指摘したように、この事実は、大メディアの情報操作による世論誘導の典型であると言えるものである。

 しかも大メディアの論調は、一昨年3月、突如はじまった東京地検特捜部による小沢氏攻撃に関連したものであり、その根拠は特捜部の恣意的なリークを真に受けた大メディアが真実性に乏しいリーク内容を1年半にわたり紙面、ニュースであたかも真実であるかのごとく報道してきた実態と現実にあると思える。

 事実、大メディアに誘導された世論で民主党代表に就き総理となった菅直人氏のその後の展開を見れば、いかに大メディアに誘導された世論の選択が日本の政治、外交で隘路に入っているかが分かろうというものだ。

 とりわけ外交では、尖閣中国漁船問題、ロシア大統領による北方領土視察、外交防衛関連情報の度重なる漏洩で決定的な失政を行い、さらに経済対策のための補正予算、円高対策・景気・雇用のための財政・経済政策、来年度予算におけるシーリングの再来など、いずれも政治主導どころか官僚主導による致命的な失政を重ねた。

 菅政権はこのような外交、経済はじめ多くの政策で失政を重ねたことで、就任後わずか1ヶ月ちょっとの2010年11月上旬には内閣支持率を約30%も下げている。短期間におけるこの下げ幅は歴代内閣で最大である。

つづく