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キーワード:新型コロナウイルス、COVID-19、致命率、CFR、死亡者数/感染者数、 リスク総合評価、Case Fatality Rate、世界各国、世界地域、日本、 G7,G20、ASEAN、旧社会主義諸国、北欧諸国、非同盟国、 中南米カリブ諸国、アフリカ諸国、中東諸国 はじめに 本調査の目的は世界各国。地域、経済グループ等を対象に、致命率(CFR:死亡者数/感染者数)を明らかにすることである。 本稿では、致命率(CFR: Case Fatality Ratio)をCOVID-19感染がもたらすリスクの代表的な指標として、総合評価を行うこととした。それは、単なる感染者数、死亡者数だけでなく、感染者がその国、地域で死に至った背景、具体的には、今回のようなパンデミックに対応できる救急搬送体制から病院数・病床数・医療設備・医師・看護士などの医療リソースの充足度、また、医療体制の有無、さらには国や自治体のリスク管理政策の妥当性など、如何に死者を減らせるか、医療崩壊に至らずに済むかを反映した指標であると考えたからである。 その結果、これまで分からなかったCOVID-19がもたらす「医療に関するカントリーリスク」についての国際比較が可能となりつつある。 ◆COVID-19リスクの調査評価指標 本調査では、2020年5月15日時点での106各国の致命率を求め、評価している。 以下は致命率とは何かの説明である。 まず、類似の指標として死亡率があるが、致命率と死亡率との関係は以下の通りである。分母が罹患数の場合が致命率、分母が人口の場合が死亡率である。ここでは、世界各国のCOVID-19に感染した人を対象としているので、致命率となる。 <用語解説> 致命率 (CFR: case fatality rate) は、疫学において特定の疾病に罹患した母集団のうち、その感染が死因となって死亡する割合。致命率は通常、%で表されリスクの測定値を表す。 なお、致命率は英語ではCase Fatality Rateであり、略称CFRである。 またCFRは、死亡者数数と感染者数の間でのタイムラグによって結果が異なる。以下は、タイムラグ0日、タイムラグ9日間、タイムラグ15日間の3つのモデルの比較を試みた結果である。本調査では、タイムラグ0日モデルを用いている。 ◆死亡者数と感染者数のタイムラグとCFRモデル検証 タイムラグによるCFRの違いの実例 CFR単位:%
◆調査対象国 次に調査の対象だが、世界106ヵ国とともに、以下に示す国家グループを対象としている。但し、国際機関、事務局は含めていない ①G7加盟国(7ヵ国) ②EU加盟国(27ヵ国) ③G20加盟国(19ヵ国) ④北欧諸国(5ヵ国) ⑤それ以外国(3ヵ国) ⑥アフリカ諸国(25カ国) ⑦BRICS加盟国(5ヵ国) ⑧旧社会主義諸国(17ヵ国) ⑨中南米島嶼諸国(15ヵ国)、 ⑩中東諸国(14ヵ国) ⑪アセアン加盟国(10ヵ国) 注)一部、11グループ間で重複している国がある。 また調査対象国は全部で106である。 ◆調査年月日時 調査日は、2020年5月15日、UTC 1時32分である。 ◆基本データの出典 国別のCOVID-19感染者数、死亡者数などの基本データの出典はJohns Hopkins University(JHU,米国)である。 ただし、フランスのJHUの感染者数がWHOやフランス政府保健当局発表の感染者数と大きく異なっていたので、フランスについては、フランス政府保健当局発表値を用いている。その他はすべてJHUである。 ◆赤色線 赤線はCFRの全世界平均値である。今回の場合CFR=4.4である。各グラフではこれを赤線で入れている。 主要国の第一位、フランスの致命率は、約19%なので、100人中19名が死亡していることを意味する。実際には、フランスの調査日の感染者数は、140,734人、死亡者数は27,425人である。 ◆調査結果 ①世界106カ国の平均CFR(フラフは巻末参照) 世界106ヵ国のCFRの全平均は、4.4 ちなみに、日本のCFRは、4.3 なので、世界のほぼ平均と言える。 ②世界の地域別・経済圏別の致命率(CFR) 以下のグラフの上にある数値及び左のグループ説明の右にある数値はCFR=死亡者数/感染者数(CaseFatality Rare)である。 グラフ1 世界の地域別・経済圏別の致命率(CFR) 出典:青山貞一・池田こみち 致命率(CFR)による世界各国・地域別 COVID-19リスク総合評価 2020-5-20 上記グラフ1は、調査対象とした世界における11の地域、経済等のグループ別の致命率(CFR)の結果である。 G7が世界平均の2.27倍で最も高く、次いでEU諸国、G20、北欧諸国、それ以外の先進諸国が世界平均値を超えていた。北欧諸国、それ以外の先進諸国を除く、G7、EU、G20はいずれも、経済開発志向のグローバル経済の国家グループであると言える。 グローバル経済はいうまでもなく、資本、もの、情報に加え人の国際移動を自由そして活発とするものであり、CFRが高いのはいわば当然であると言える。 一方、アフリカ諸国、BRICS、旧社会主義諸国、中南米諸国、中東諸国、ASEAN諸国は世界平均値の4.4を下回っており、とくに中東諸国、ASEAN諸国のCFRは中東諸国は3.2%、ASEAN諸国は2.1%と低くなっている。 旧社会主義圏の多くはEUに加盟したが、G7諸国のように経済成長至上主義でない点がこの結果に表れているとも言える。 以下は上記の国別詳細結果。 タイトル末尾の()内の%の数字は、CFRの世界平均値以上の割合を%で示している。 たとえばG7の86%は、G7参加国の86%がCFR=4.4の平均値を超えていることを意味する。 ③G7、G20、EU諸国の国別CFR グラフ2 G7(86%)・G20(58%)・EU諸国(59%)・その他国(67%) ()内はCFR平均値超の国の割合 出典:青山貞一・池田こみち 致命率(CFR)による世界各国・地域別 COVID-19リスク総合評価 2020-5-20 上記の調査結果から明らかなように、G7の欧米諸国の致命率は非常に高いが、とりわけフランスの致命率はCFR=19で世界最高となっている。フランスでは感染者の5人に1人が死亡していることになる。なお、フランスとイタリアは、G7、G20、EUに属しており、それぞれのグループのCFR平均値を押し上げている。 COVID-19感染による死亡は、既往症、持病、とくに呼吸器系疾病をもつひとと、ともに、高齢者に多いことがデータから分かっている。その2つの観点のうち、高齢化から見ると、フランス、イタリア、スペインなど西欧ラテン諸国(但し、ポルトガルは別)のCFRが高いのは、高齢化が大きく原因していると考えられる。 以下は、左からフランス、イタリア、スペインの人口ピラミッドである。いずれも高齢化が深刻なことがわかる。 フランスの人口ピラミッド イタリアの人口ピラミッド スペインの人口ピラミッド 出典:青山貞一・池田こみち、人口ピラミッドから見える世界各地、国家の現状と将来 2019年2月24日、独立系メディア E-wave Tokyo 一方、EUから離脱した英国だが、CFR=14と非常に高い。英国はG7、G20に属している。またカナダもG7、G20に属しているがCFR=7.5と高い。 G7、G20に属する米国の感染者数は世界的に群を抜いて多いこともあり、結果的にCFR=6.1とフランス、イタリア、英国、カナダなどと比べるとCFRは低いといえる。 なお、G7のうち、ドイツ、日本はCFR=4.5、CFR=4.3と世界の平均値近くで上記の諸国よりCFRはかなり低い。 日本は、この間、PCR検査数の低さが内外の識者から指摘してきされてきたが、仮に検査数が多くなっても、感染者(陽性者)及び死亡者数の如何でCFRが変わるので、直ちに日本のCFRの妥当性を評価するのは困難である。言えることは、欧米諸国のようにPCR検査ができず、実際にはCOVID-19陽性でありながら、自宅などで亡くなるひとびとがどこまでCFRの母数(感染者数)と死亡者に正確ににカウントされているかどうがという問題あると推察する。 また日本の死亡者が少ないことに関連し、京都大学の山中教授は、一部、BCGの摂取が低死亡に関連していると言う指摘に対し、そのような「確証」はないと、2020年5月20日のNHKの番組で証言している。 グラフ3 EU諸国ズームアップ(59%) 出典:青山貞一・池田こみち 致命率(CFR)による世界各国・地域別 COVID-19リスク総合評価 2020-5-20 上のグラフはEU加盟国のCFRをぬきだしズームアップしたものである。 上のグラフから分かるように、フランス(CFR=19)からスペイン(CFR=12)までの非常にCFRが平均値より高い諸国に比べると、スロベニアからドイツまでの諸国は、一気にCFRが低くなっており、さらにクロアチアからマルタまでの諸国CFRは平均値以下にありチェッコからスロバキアの旧社会主義国(ルクセンブルグは別)はEUのCFRを押し下げているといってよく、これは特筆すべきことである。 EUの加盟国には、1990年代初期ののベルリンの壁の崩壊以降、東欧州、バルカン半島国で旧社会主義国の多く加盟してきたが、ハンガリー以外の旧社会主義国のCFRはいずれもフランスの1/4から1/10(スロバキア) と低く、EU諸国の平均を下げる原動力になっている。 ④BRICS・ASEAN・旧社会主義諸国・北欧諸国のCFR グラフ4 BRICS(40%)・ASEAN(20%)・旧社会主義諸国(29%)・北欧諸国(60%) ()内はCFR平均値超の国の割合 出典:青山貞一・池田こみち 致命率(CFR)による世界各国・地域別 COVID-19リスク総合評価 2020-5-20 上記のグループは、世界平均値(CFR=4.4)を超える国数の数の割合の割合は20%~60%、北欧諸国を除くと20%~40%と低い。 旧社会主義国については、EUのところで触れたが、青山、池田はロシア、中国、バルト三国(リトアニア、ラトヴィア、エストニア)、ポーランド、チェコ、スロバキア、クロアチア、モンテネグロなどに現地調査、などで何度も足を運んできたが、こと医療については、西側諸国に比べ医師、看護師、病床数、教育、保健制度、関連費用などどれをとっても、卓越していると推測ている。 また、これらの諸国は、一言で言えば、G7、G20、EUの多くの国々のように、自由主義経済の立場を鮮明にとっていないことが低い理由にあると想定される。それは中国、ロシアの場合でも同じである。中国、ロシアのグローバリズムは一言で言えば、「節度あるクレバーなグローバリズム」であり、欧米のような多国籍企業などによるグローバリズムとは明らかにことなるからと推察できる。 事実、中国はあれほどのパンデミックの元となった国でありながら、CFR=5.5、またロシアはCFR=0.9である。これは平常時の医療に加え、緊急時の医療の凄さに見事にあらわれているといってよい。中国ではわずか10日程度で膨大な病床を新たに建設し、ロシアもやはり短期間に巨大な病床を建設し稼働させている。 一方、CFR平均値を60%が超えている高い北欧諸国は、社会民主主義的システムをベースにしつつも、「原則として自由主義に類するあるいは準ずる経済システムを採用している。そのあたりが、幸福度ランキングなどで世界で5位、10位以内にいる北欧諸国だが、スウェーデン、デンマーク、フィンランドは図らずも、COVID-19で墓穴を掘ったかもしれない。ノルウェー、アイスランドは見事であり、さすがである。 またASEAN諸国の中では、タイの医療体制に見られるように、欧米日本を超える先進医療を売り物して、患者を呼び込むまでの国があり、今回のCOVID-19のCFRからみると、その実力がデータとして明らかになっているといってよいだろう。 一方、CFRは世界300都市の2000年~2014の経済成長率(1人当たりGDPppp 、雇用)を示したものである。調査は米国ブルッキングス研究所が行い英文報告を出している。 以下の図は、その結果を世界地図に落としたものだが、地図中ブルー系が経済成長率がプラスの都市、一方赤系はマイナスの都市である。一目して分かるように、CFRが高い西欧諸国及び米国東海岸、日本、南米のブラジル、アルゼンチンなどは赤色が卓越している。つまりこれらの地域は長期にわたり経済成長が停滞しており、賃金なども低く据え置かれていることを示す。 一方、中国全土、東南アジア、西アジアなどのブルーの都市、都市圏は経済成長が顕著であり、今回のCOVID-19感染の発祥地の中国はじめ、東南アジア、西アジアなどは西欧諸国のようなCFR悪化状態はなかったことになる。 おそらく中国が短期間にCOVID-19の危機的状況を克服できたのは、世界300都市の上位50の大部分を占める大都市の圧倒的な経済成長率がその基盤になっているものと推察できる。 出典:青山貞一・池田こみち編 「一人当たりGDPと雇用の伸び率で見た世界300都市経済圏ランク」, 原典、米国ブルッキングス研究所,2018/7/28 ⑤中南米島嶼国・アフリカ諸国・中東諸国のCFR グラフ5 中南米島嶼国(33%)・アフリカ諸国(32%)・中東諸国(21%) ()内はCFR平均値超の国の割合 出典:青山貞一・池田こみち 致命率(CFR)による世界各国・地域別 COVID-19リスク総合評価 2020-5-20 上記の中南米島嶼国、アフリカ、中東の地域グループは、世界平均値(CFR=4.4)を超える国数の数の割合は21%~33%と上記のグループよりもさらに低い。 これらの諸国は、G7やEUのように、自由主義経済やそれに準ずる経済制度をとっていないことが理由にあると想定される。またアフリカ、中東諸国は、イスラム系の国が多く経済とは別に、一般的に国境を超える人口移動は上記グループに比べ少ないと推定される。 また中南米島嶼国にはキューバを筆頭に、医療、医療制度が拡充している国が多い。米国の映画監督、マイケル・ムーア氏の作品「シッコ:SiCKO」では、、監督がキューバ国内を回りながら、キューバの医療の現場を紹介し、いかに自国(米国)とことなるかについて紹介している。キューバの医療は、早期段階でメキシコなど中米を除き、他の南米諸国にも移転されており、それが今回のCOVID-19問題で発揮されたと考えられなくもない。 中東諸国で平均値を超えているのはいずれも戦争中の国であり、特にイエメンはすさまじい状況になっており、悲劇である。 青山、池田は今回の調査対象国の多く(半数以上)に現地調査著、学会発表などで訪問しているが、上記のコメントでは、それらを踏まえている。 |