環境総合研究所 自主調査研究 30年間の軌跡 八ッ場ダム関連河川の水質調査 Construction of the Yanba Dam and issues 概要、論考、論文、報告、記事、文献 主担当:青山貞一 掲載月日:2017年6月10日 独立系メディア E−wave Tokyo 無断転載禁 |
<概要> 八ッ場ダム設置の主目的は、下流域の洪水の防止でしたが、計画当時から半世紀以上が経過する中で、利根川上流、支流には既に多くのダムが出来ており、八ッ場ダムが完成したとしても、その効果はかなり少ないものと推定されます。 一方、八ッ場ダムは吾妻川をせき止めるのですが、その上流、支流は白根山系など、草津温泉で有名なように強酸性の硫黄分が多く水に含まれており、飲料水、農業用水、工業用水には不適なのです。 すなわち、白根山系には万座や草津など温泉があり、なかでも草津温泉は日本を代表する温泉ですが、そこから流れ出る温泉のお湯はpH(ペーハー)で2.0前後の強酸性湯であり、同時にヒ素をはじめ多くの重金属類が含まれているのです。 下の図は、その全体像を示しています。ただし、ここでは簡略化のために、白砂川という河川がダムがつくられる吾妻川に入流するまでを示しています。実際には、我妻川には上流で、万座温泉で有名ややはり強酸性の湯水をもつ万座川などがあり、吾妻川に入流しています。 ★☆は発電所の位置 上図では、草津温泉から流出する川が「湯川」、それが流れ込む川を「白砂川」としています。さらにその白砂川は 八ッ場ダムによりせき止められる吾妻川に流入しているのです。このような構図は、万座温泉、万座川、吾妻川についても同じです。 国はこの事実を把握していたため、強酸性の湯川の水を中和するために、草津温泉の東端で強酸性の水を中和するために、年間を通じて大量の石灰の粉を湯川に流し込んできました。しかし、これら大量の石灰水の中には、有害物質にヒ素(As)が含まれていることから、強酸性の湯川の水を相当程度中和することはできたものの、下流域にヒ素を含み水を放流することになったのです。 そこで、国(国土交通省)は湯川が白砂川に流れ込む前に、品木ダムという(ダム)を設置し、品木湖の底に大量のヒ素を沈殿させ、年に1−2回、浚渫船によりヒ素を固定から回収し、草津温泉の北東で標高の高い地域に「安定型最終処分場」を設置し、そこに定期的にヒ素を含む汚泥を処分していたのです。 以下は、国土交通省品木ダムの湖畔の池田こみちです。 国土交通省の品木ダム。右は池田こみち 撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8 2010.5.5 下は品木ダムの湖水の水質調査を行っている青山貞一です。 品木ダムにて 撮影:池田こみち、Nikon Cool Pix S10 2010.5.5 この問題を最初に提起したのは、フリージャーナリストの高杉晋吾さんへのインタビューでした。インタビュー名は「八ッ場ダムが抱える本質的問題」(前編、後編)です。 当初、USTREAM版で公開し反響を呼びましたが、USTREAMの有料化にともないリンクが切れたため、その後、YouTube版を復刻版としています。 ◆(復刻版)高杉晋吾・八ッ場ダムが抱える本質的問題(前編) You Tube ◆(復刻版)高杉晋吾・八ッ場ダムが抱える本質的問題(後編) You Tube 高杉さんは国土交通省が定期的にヒ素を含む土砂を大量に処分している草津にある最終処分場の運用を廃棄遺物処理法違反ではないのかという疑念をお持ちです。 環境総合研究所では、研究所の保養所が比較的近くにあること、国土交通省関東地方整備局品木ダム水質管理所の展示物です。pHが2近前後の水(湯)は、わずか約10日間で五寸釘を溶かし、細い針金としてしまいます。 撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8 2010.5.5 出典:国土交通省関東地方整備局品木ダム水質管理所 またpH2の強酸性の水(湯)は、下の写真にあるように約一ヶ月でコンクリートの塊をボロボロにしてしまいます。 撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8 2010.5.5 出典:国土交通省関東地方整備局品木ダム水質管理所 下の写真でもpH2.0前後の水に約一ヶ月浸したコンクリート塊は、体積でも重量でも半減していることを示しています。 撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8 2010.5.5 出典:国土交通省関東地方整備局品木ダム水質管理所 上記は、いずれも草津温泉にある国土交通省関東地方整備局品木ダム水質管理所に展示されているものですので、現地まで行けばどなたでも見ることができ、職員に質問することも可能です。 当然のことですがpH2前後の強酸性の溶液(水や湯)は、何も釘やコンクリートを溶かすだけでなく、さまざまな金属、重金属類も溶かすことが知られています。事実、土壌や底質、水に含まれる鉄、亜鉛、銅、金、銀、鉛、クロム、ニッケル、マンガン、カドミウム、ヒ素などの重金属類を分析する時には、強酸性の溶液中で溶出することからはじめるのです。 したがって、同じ重金属類が存在する地域であっても、そこに流れる表流水、地下水、またそこに降る雨の酸性度が低ければあまり溶出せず、重金属類の濃度は低い。他方、白根山系のように強酸性の表流水、地下水が流れる地域では、重金属類の濃度が高くなります。 下の写真は吾妻川で水質調査をしている青山です。 前回(5月)に滝見橋近くの白砂川で水質測定している筆者 撮影:池田こみち、Nikon CoolPix S10 2010.5.5 下は2010年に環境総合研究所・東京都市大学青山研究室の共同で実施した水質調査結果の一部です。グラフ中、赤い横線は、pH=7、すなわち中性をしめします。右端が草津の湯川、左端が吾妻川の浅間大橋付近で測定した値となっています。 出典:青山貞一 政策学校一新塾講義ppt 以下は平成22年4月21日の国土交通省による品木ダムの水質(pH)の実測値です。品木子への湯川の流入pHが2.1、湖水はpH=5前後で、私たちの測定値とほぼ同じことが分かります。 |
国土交通省による平成22年(2010年)4月に実施した品木ダム関連水質調査結果から抜粋
執筆担当:青山貞一
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