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放射能汚染土最終処分場問題で揺れる南大隅町を撮る。 撮影:有川美子氏 ◆ 序 「見えてきました、見えてきました。この先に見えますのが、最終処分場の候補地です。切り立った崖が見えます!」(記者が、海上の船舶から中継する映像) 2012年8月23日の夕刻、TBSのTVである。 「福島第一原発事故の除染による高濃度汚染土壌の最終処分場候補地として、南大隅町が浮上」という、衝撃的なニュースが、唐突に、スクープとして全国に報道された。 なぜ、そのように危険な物が、わざわざ、このように遠い、この鹿児島に?? 報道の直後から、私の住む、南九州・鹿児島県は、俄かに騒然とした。 知人は、「驚きすぎて、手に持っていたお箸を落としそうになった」、と、語る。 当然だ。悪名高い「放射性物質汚染対処特措法」 (国際的なクリアランス・レベルを、政府の都合で無視している、と非難を浴びている) の基準をはるかに凌駕する、「正真正銘の超高濃度の核ゴミ」が、ドラム缶に密閉されて、わが県に運ばれようというのだから。 現地の大隅半島にも、恐らくは、半島の歴史始まって以来、最大級の激震が走った。 世界遺産に匹敵する、風光明美な自然環境、深い針葉樹の森、大いなる静寂が支配する美しい南大隅は、一瞬にして県の「台風の目」になった。 一応は全国版で報道された様子であるが、あまりに遠い南大隅で勃発した事件なので、他府県の一般には、良く知られていない、としても仕方ない。 しかし、SNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)の世界では、瞬く間に、このニュースが広がって行った。 「反対派が起きないうちに、田舎の人を騙して、極秘裏に推進派と交渉、話をまとめる」=従来型の、核施設誘致のプロシージャの出現。みなが異変に気付いた。 この件に触れた知人たちのブログ、Facebook、ツイッターにも、北は北海道から、南は沖縄まで、全国津々浦々からの反応があったという。 私自身、現地視察の直後、「鹿児島県の自殺」という、このレポートと同名の短い投稿をFacebookにしたところ、全く予想しないほど、驚くほど先々までシェアされてゆき、全国の皆さまからのメッセージがあり、この問題の国民的関心の高さを実感したのである。 ◆ 南大隅の地理的条件 地図@,A 作成:橋口由布子 Google Earthより まずは、現地南大隅の地理的条件を確認しよう。 (地図@ : 鹿児島県を大きく引いた地図、大隅半島の最南端が南大隅。) (地図A : 最終処分場候補地として狙われている、「辺塚」周辺を拡大。) 鹿児島県肝属郡南大隅町は、本土でありながら、ほぼ亜熱帯に近い気候だ。街中には紅いハイビスカス、針葉樹の深い森を抱いて、たいへん貴重な動植物・昆虫が生息している。問題の辺塚の眼前にも、へヴン・ブルーの東シナ海の大絶景。 近隣の観光名所は 佐多岬 を最南端に、また、隣接の肝付町に、有名な探査機 「はやぶさ」 が発射された、 内之浦宇宙空間観測所 もある。 (NHKさわやか自然百景2011/8/7でも放映され、大きな反響があった ↓http://www.nhk.or.jp/sawayaka/contents/program/2011/08/2011_0807_oosumi.html ) その南大隅町の「辺塚」(へつか)というのが、今回狙われている現場である。 辺塚集落には「ダイダイ」(ダイダイ - Wikipedia)という柑橘類が自生しており、そのフルーティーで穏やかな酸味から、酢の代用品として、この地域で使われて来た。 近年、その価値が認められ、ネット上の産直市場でも、徐々に人気が高まっており、県内大手外食チェーン店も、「辺塚だいだいぽんず」、として商品化している。 ご覧のように、辺塚エリアは、左に辺塚漁港、対岸の右山の上に自衛隊の射撃場、そして、さらにその右上に、稲尾岳がある。 射撃場と稲尾岳の間、急峻な山岳エリアが、今回の計画の候補地になっているようだ。 南大隅町辺塚エリア。 撮影: Shuuichi Endou / Tuvalu Overview代表理事) 大手外食チェーンに商品化された「辺塚だいだいぽんず」 ◆ 報道の経緯 2012年8月23日の最初のニュースより、TBS一社だけが、4,5日間、執拗に報道を続けた。そして、隠蔽された事実が次々と一般の人々に示された。 残念ながら、それらのニュース映像は、既に全て強制削除されている。 しかし、幸い、反対運動の中心となる、「南おおすみの自然を守る会」のメンバーによって、その貴重な文言が、丹念に書き下されている。 (ここで全文の閲覧が可能なので、ぜひご参照されたい。南おおすみの自然を守る会) 以下には、簡単な報道の経緯を示す。 なお、報道関連の全容は、 http://shizenmk.web.fc2.com/ にある。
◆ 8月25日 反対集会開催 これら一連の報道を受け、「南おおすみの自然を守る会」の肥後隆志会長が呼びかけ人となって、急遽、地元の南大隅町役場3階で、反対集会が開かれた。 いつもは静かな町に、当事者の誰もが予想もしない、60名以上の人々と、報道6社ほどが駆けつけて来た。用意した会議室に入らず、その場で大会議室に変更した。私は不参加だったが、多くの知人が出席。その様子を報告された。 幸い、中継員が駆けつけて、IWJの中継が入ったおかげで、客観的な映像が残された。(IWJ ⇒2012/08/25 南大隅町最終処分場反対集会) IWJ が中継したUSTREAM http://iwj.co.jp/wj/open/archives/27887 南大隅の反対集会。 撮影: Shuuichi Endou / Tuvalu Overview代表理事) 反対集会には、まず、大隅半島で最大規模の市である鹿屋から、かなりの人数が駆け付けた。到着までに2時間以上を要する、反対側の薩摩半島にある、県庁所在地の鹿児島市からも、数多くが大隅入りしました。 肥後会長は、集会の初めのころ、おもむろに、会議室黒板に、こう書いた。 「NUMO」 ご存知、原子力発電環境整備機構、である。 肥後代表の口から明かされた「暴露」の事実は以下の通り。 @TBSの全国放送は、まったく根拠のない報道ではない。数ヶ月前から入念な取材が行われていた。 A森田町長はじめ、地元業者とはブローカーとの癒着が、長きに渡ってあった。森田町長は、すでに東電の予算で六ヶ所村と、福島第一原発の視察に行っていた事実がある。しかも帰りに、東京の六本木で、東電の接待まで受けている。 B「南おおすみの自然を守る会」発足は2009年12月。南日本新聞により、南大隅町まちづくり推進協議会が「高レベル放射性廃棄物処理場誘致のための勉強会」の開催を求める陳情書を計画している事が報道された。それ以前から持ちあがっていた問題が再燃して、強い危機感を抱いた有志で会を発足した。 C2009年以前からも、「NUMO」の根回しにより、密かに南大隅の商工会議所を中心に核関連施設の誘致による過疎地の活性化プランが水面下で動いていた。現町長森田氏の前職は商工会議所会長。その一代前の会長の時から動きはあって、森田町長はそれを会長になり引き継いだ形になった。 D南大隅役場の総務課長と、森田町長、民主党あみや議員が、細野豪志大臣と会っていることは事実。 …集まった人々は、肥後会長の話を聞いて、焦った。事がことである。 口々に「核関連施設を拒否する条例制定を急ぐべきだ」、と切迫した様子で、緊急行動を訴えていた。 「南大隅だけに任せていい問題ではない。南大隅だけでは負担が重いのでは」、と、気色ばむ様子すらあった。故郷を守りたい強い気持ちが、思わず言葉になった。 そんな中、肥後会長は、あくまで冷静だった。 「南大隅町だけの問題ではなく、大隈全域、鹿児島県全域を巻き込んだ大きな問題になる。地元の我々が中心になって反対していかない」と、25日のTBSのインタビューで答えた。 (後半に続く) |