ゴミ焼却は思考停止 と利権の温床 池田こみち 掲載日:2006年12月11日 |
◇焼却炉は多大な税金の無駄 今年もまもなく暮れようとしている。最後まで官製談合のニュースが連日メディアをにぎわし、いったい役所というところはどこまで国民の血税を食いつぶすのかと、重苦しくいやな雰囲気が日本全体を覆っている。 環境総合研究所は、一貫して脱焼却・脱埋立の実現に向けて様々なキャンペーン、調査研究、普及啓発活動を展開してきているが、改めて、ごみ処理としての焼却のもつ意味について考えてみたい。 まず、焼却焼却炉を巡る談合によりどれほどの公金が無駄に使われてきたか、これについては、06年4月「独立系メディア」の下記に詳述されている。 ■「焼却炉入札談合、次々に高額返還判決」 青山貞一(独立系メディア主宰) 2006年6月以降についてみると、地裁レベル、高裁レベルで次々に返還命令が出されている。ざっと計算しても100億円に迫る額である。これは、返還請求訴訟を起こしたごく一部のケースに過ぎない。 ・横浜市ゴミ焼却炉談合(2件)30億1,790万円(5%)返還命令 横浜地裁 06/6/21 ・新潟県豊栄郷清掃施設処理組合ごみ焼却炉談合 48,925,000円(3回目の入札金額の5%から随意契約時に値引きした額を引いた額)返還命令 新潟地裁 06/9/28 ・兵庫県ごみ焼却炉談合 約13億6,000万円(5%)返還命令 神戸地裁 06/11/16 ・尼崎市ごみ焼却炉談合 約5億3,000万円(5%)返還命令 神戸地裁 06/11/16 ・京都市・京都市ごみ焼却炉談合事件 約18億3,000万円(8%)返還命令 大阪高裁 06/9/14 ・多摩ニュータウンゴミ焼却炉談合 勝訴12億8,647万円(5%)返還命令)東京高裁 06/10/19 (出典:全国市民オンブズマン連絡会議 談合分科会 http://www.ombudsman.jp/dangou/) 日本においては、焼却炉に限らず、あらゆる政府調達に談合がつきものであるため、このことだけを考えても国庫補助や地方交付金を当てにした焼却炉などの建設は厳しくその必要性・妥当性・正当性を問われることが望まれる。 ◇焼却炉は資源の無駄 注)以下の文章中、ごみの転換(Waste Diversion)は資源化・減量化という趣旨で用いることとする。 10月に開催したカナダNova Scotia州のごみ政策を学ぶ全国講演会ツアーにおいては、より本質的な観点から焼却炉依存がいかに廃棄物政策そのものを後退させているかが指摘された。 05年5月に我が国が呼びかけを行って3Rイニシャティブなる国際会議が、世界各国から閣僚級の参加を得て賑々しく開催されたが、排出されるごみの78%(全国平均)を焼却し、リサイクル率が17〜18%の我が国は、到底3Rのイニシャティブなどとれるはずもないと言うものだ。 さて、焼却炉の談合など起こりようもないというカナダのノヴァスコシアだが、同州で廃棄物政策を担当してきたBarry氏(2003年8月に来日しカナダ大使館で講演)は、05年11月に新たな挑戦の場として、オンタリオ州の観光地NaiagaraRegion(ナイアガラ地区)に活躍の場を移した。 同地では、折しも既存の廃棄物処分場が満杯となったことを受け、今後のごみ処理をどのように進めていくべきかで大きな議論が巻き起こっていた。市側が委託したコンサルタントは複数の代替案の中から、焼却炉の導入(エネルギー回収つき)を推奨案として提案したのである。 通常の自治体なら、その案を市案として住民に提示し、どんどん計画を進めていくところだが、ここでは、Barry氏が着任して以降、市民の間でも焼却炉導入の是非をめぐり大議論が巻き起こった。そして、最終的に、アセスメント手続きを 経る過程で、市は、焼却炉ではない選択肢を選んだのである。 そんな折、ローカル紙上で興味深い論戦が繰り広げられた。 ●焼却炉を導入しエネルギー回収を進めるべきだ、とするトロントスター紙、都市問題のコラムニストであるHume氏 Vs ●焼却はごみの資源化・減量化に逆行するとする市役所の廃棄物担当部長Barry氏 の論戦である。Hume氏は環境先進国スウェーデンの例を持ち出し、焼却炉を導入してごみ処理をすることによりエネルギー回収ができることが先進的であると主張している。それに対するBarry氏の反論を以下に紹介する。果たして、読者の皆様はどちらの主張に賛同されるか、ご自分の町のことと思って考えてみて頂きたい。 焼却処理はごみの分別・資源化に劣る方法 Incineration inferior to waste diversion 掲載日:2006年11月16日(木) 掲載欄:オピニオン 執筆者:Barry Friesen 出 典: The Hamilton Spectator A17面 クリストファー・ヒュームさんがオンタリオのごみ処理方法について関心を持たれたことについて、私は大いに歓迎したいと思います。ごみの廃棄は相変わらず環境問題を引き起こし続けています。 しかし大量に発生するごみをリサイクルすれば、燃やしたり埋めたりした場合の10倍もの雇用が生まれるのです。だからこそ、廃棄物に対する責任について訴えていくことは重要なのです。 ごみ廃棄の一形態である焼却問題に関するヒュームさんのご意見は、いくつか基本的な事実を見落としており、読者に誤解を招き兼ねないと思います。以下について考えてみてください。 1.「焼却」とは「廃棄」することなのです 「ごみ発電」でも「サーマルリサイクル」「ごみからエネルギー」でもお好きなように呼んでいただいて構いませんが、焼却は単に「廃棄」の一形態に過ぎません。ごみ発生量の削減(リダクション)・再利用(リユース)・再資源化(リサイクル)・堆肥化(コンポスト)の方が、埋め立て、焼却よりも(エネルギー回収を行ったとしても)はるかに環境面、社会面からの利益が大きいのです。 ナイアガラ地区とハミルトンでは、私たちは焼却をごみ処理のきわめて現実的な選択肢の1つと位置づけました。しかし、コンサルタント(市が依頼した)は、我々はまず焼却炉を選択すると表明したのです。 たしかに発電装置はあるかもしれませんが、これは発電事業ではなく長期的なごみ処理事業なのです。最新の技術を持ってしても焼却炉で回収されるエネルギーは、リダクション・リユース・リサイクル・コンポストによって節約されるエネルギーと比べてわずかなものにすぎません。 2.欧州、特にスウェーデンの拡大生産者責任などに注目し続けています 欧州は多くの異なった条件の国々で、焼却が埋め立てより有効と考えられる条件を持つ国もあります。例えばカナダと違ってEUは有害物質についての厳しい規制を持ち、多くの製品中の鉛、カドミウム、水銀やその他の有害物質を削減してきました。 スウェーデンはPBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)を含む多くの添加物を禁止しています。PBDEは難燃剤の一種で、カナダ人の母乳からは、スウェーデンと比べ極めて高濃度に検出されています。 また欧州の多くの国は厳しい拡大生産者責任の制度を実施し、生産者に多くの製品を回収してリユース・リサイクルすることを義務づけています。そのため、欧州で焼却されるごみ中の化学物質の含有量はカナダとは全く異なっているのです。 欧州では、工業、商業、公共機関を対象としたごみの転換(diversion:資源化と考えてよい)に関する法律が、非常に大きな成果を上げています。 付け加えて言えば、欧州の多くの国は国土が狭いために、埋め立ては事実上ありえない選択肢なのです。カナダと欧州を単純に比較するのはフェアではありません。 3.ごみをごみとして処理することは将来のごみの資源化を妨げる ごみは私たちの環境、社会文化、経済にのしかかっています。ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)を実現することができると多くの人が信じています。現在では工場で「欠陥品ゼロ」、「事故ゼロ」が実現されています。同じようにごみゼロが達成できない技術的な障害はありません。しかし、もし不幸にして焼却炉が建設されてしまったら、3Rによって資源に転換できる質のよいものであっても、焼却炉の燃料として供給しつづけなければならなくなります。 私は最近ノバスコシア州から引っ越してきました。そこでごみ処理問題に関わってきた10年の間に、21の焼却炉を閉鎖しました。なかには野焼きのようなものもありましたし、最新の「ごみ発電」施設を持った焼却炉もありました。どの焼却施設も、ごみの資源への転換(diversion)にとって障害となっていたことは事実です。 全ての焼却炉を閉鎖してはじめて、完全なごみの転換(diversion)計画を地域で実現することが可能になったのです。 しかし、根本的にものごとの考え方が変わったのです。パラダイムシフトを起こしたのです。ごみの流れが変わりつつあるのです。オンタリオにおいても私たちは、リサイクル・コンポスト計画を実施した後に、はじめてごみ焼却が選択肢の1つになりうると考えています。以前のようになにもしないでごみ焼却ありきということはありません。さらに私たちは焼却する代わりに堆肥化技術によって安定化した後に埋め立てる方法についても研究しています。この方が焼却炉よりもよっぽど柔軟性があります。 もしかすると将来、ごみ焼却を採用することになるかもしれません。しかし、その場合でも正当な理由に基づいていることが重要なのです。 焼却はごみ廃棄の一形態にすぎませんから、これによって現在のごみの転換(diversion)が阻害されることはあってはなりませんし、もっと重要なのは、将来のごみ転換(diversion)計画を阻害することがあってはならないのです。 過ちは、これを埋め立てたり燃やしたりしても、決してそれがどこかに消えてしまう訳ではない、ということを冷静に理解しなければならない、ということを最後に申し上げたいと思います。 Barry Friesen,P. Eng., is director of waste management services, Niagara Region. ちなみに、Hume氏の主張は以下の通りである。 ・市も市長もいいかげんに目覚めて、ごみの臭いでもかいでみたらどうなのか。 ・今やヨーロッパではごみをエネルギーに転換することが主流となっている。 ・焼却に反対するのは30年以上も時代遅れだ。 ・焼却せずに埋め立て処分場を建設しようというのはもっと環境にとって問題だ。 ・市長は、焼却炉がダイオキシンやその他の有害物質をまき散らすように主張しているが、そんなことはない。 ・むしろ処分場での野焼きの方が問題だ。 ・スウェーデンには30の焼却炉があるが、そこから排出されるダイオキシンの 量はわずか年間0.7グラムに過ぎない。(筆者注:ちなみに、平成17年度ダイオキシン類排出量の目録(排出インベントリー)によると、日本全体の排出量 は323〜348g-TEQ/年) ・もし市長がオンタリオとミシガン中の埋立処分場の方がダイオキシンの排出量が少ないと考えているなら、新たなアドバイザーを雇った方がよい。 ・ヨーロッパに行って、いかに近代的な焼却炉がうまく稼働しているかを見るべきだ。 ・EU諸国はカナダより厳しい排出基準を持っているが、同時に、埋立への課税率は高く、埋立処分は選択されない。 ・焼却炉はコスト高、というのも反対の理由のようだが、かりに3億ドル(日本 円にして315億円)としてもエネルギー回収により売電でき、スウェーデンでは10〜20年で元が取れている。 ・市長は焼却炉を導入するとリサイクルが進まなくなると主張している。しかし 、それはナンセンスである。市民が焼却炉があるからといってごみの減量化・再利用・資源化に不熱心になるという根拠はない。 ・カナダもスウェーデンも家庭ごみの40%はリサイクルされている。残りの60%が一方は焼却され、一方は埋め立てられているのだ。 ・リサイクルは確かに重要だが、今我々は残りのごみについて焼却か、埋立かを議論している。 ・市長は、焼却炉が立地する地域の人々の反対について減給しているが、それは処分場でも同じように反対がおこる。 ・スウェーデンでも70年代には焼却炉に対する猛烈は反対、拒否反応があったが、今では、新規立地に際しても既存プラントの増設にしても、なんら反対運動 はおこらず、スムースに行われている。 ・焼却炉からの煙に対する恐怖感をあおって反対するのは政治の貧困であり、行 政の不作為である。 Christpher Hume (Urban issue columnist at the Toronto Star) |