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大阪市の瓦礫焼却受入は
誰のためか
池田こみち 環境総合研究所顧問
掲載月日:2012年12月30日
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 大阪市は平成24年6月に災害廃棄物、いわゆる瓦礫の焼却処理の受け入れを表明した。

 その後半年にわたり、市民らによるさまざまな抵抗運動があったが、ついに、平成24年11月29日-30日の二日間にわたり、115トンの災害廃棄物の試験焼却を行った。

 その結果、安全性に問題がないとして、いよいよ平成25年2月から本格受入を開始すると発表した。年明け、1月16日に改めて市民説明会を開催する予定とのことである。

・受入がれき総量   36,000トン
・災害廃棄物搬出先  岩手県宮古地区(宮古市・岩泉町・田野畑村)
・実施期間      平成24年11月〜26年3月
・受入に係る費用   総額約16億円

 この間、大阪市の受入に反対する市民の活動はねばり強く続けられ全国各地で瓦礫の広域処理を問題視してきた運動家や市民との連携も進められていた。しかし、12月9日には大学教員を含む3名が反対行動を理由に逮捕され、28日に2名は釈放されたものの、1名が起訴されるという異常な事態に及んでいる。

◆下地准教授不当逮捕に対する法務大臣、検事総長への要請書

 ここに来て、市民により大阪市の瓦礫受入に関連する情報開示請求が行われ契約書等が一部開示されたとの知らせを受けたので、改めてその問題点を整理して見ることとした。

 今回目を通したのは次の契約書等である。

開示請求で得られた契約書等
・岩手県と大阪府による「災害廃棄物処理業務委託契約書」
  契約期間:平成24年11月13日〜平成25年3月31日

・大阪府と大阪市による「廃棄物処理委託契約書」
  契約期間:平成24年11月22日〜平成25年3月31日

●大阪府Webサイト掲載情報(予算編成過程公表サイト)
 平成25年度当初予算(政策的経費)災害廃棄物広域処理対策事業

1)必要性について

 岩手県のがれき量は宮城県に比べて大幅に少ないことが知られている。この間、瓦礫発生量の再精査・見直しが行われ岩手県でも瓦礫の質に応じた必要処理量は当初に比べ大きく変化している。

 また、岩手県内では可燃物について太平洋セメントや三菱マテリアルなど県内事業者が大量に瓦礫を受入れ、また、県内の既設焼却炉による処理も進められていると聞いている。さらに、6月に筆者が宮古市長とシンポジウムで同席した際に市長は、木くずなどは分別され汚染も少ないことから各地で引っ張りだことなっており、もはやほとんどなくなってきているとも話していた。

◆池田こみち・青山貞一:仮設焼却実態調査報告 C岩手ブロック(宮古)

 こうした状況の中で、現時点でまだ遠く1500km離れた大阪で木くずなどを総額16億円もの税金(国費)を投じて焼却処理する必要があるのかどうか、現地での処理の状況や来年度に向けての処理計画などを精査してみる必要がある。

2)処理費に係わる問題点

 今回の受け入れ事業は平成24年度と25年度の2年度に渡って行われる予定となっている。24年度分について、上記の契約書からその費用を整理してみると、以下の通りであることがわかる。

 つまり、24年度は試験焼却分約100トンを含み6100トンを受け入れるとしており、それを岩手県から大阪市舞洲の清掃工場まで運んで焼却し、埋立処分するのにおよそ3億円かかると言うことになっている。表及びグラフを参照のこと。

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    費目             委託額  (負担先)
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基幹輸送費(宮古埠頭→大阪舞洲工場)145,103,458円(大阪府)※1
借上料(積替施設)       28,271,614円(大阪府)
処理費(焼却及び埋立)    88,413,400円(大阪市)
測定分析費           15,172,495円(大阪府+大阪市)
事務費               14,500,123円(大阪府+大阪市)
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合計 291,461,090円(大阪府+大阪市)

※1 輸送費にはこの他、各地の瓦礫仮置き場から宮古港埠頭までの運搬費  (岩手県負担)と舞洲工場から焼却灰を埋立処分場に運ぶ輸送費(大阪市負担)も必要となる。




 
 宮古市から大阪市舞洲までは陸路で約1200km、コンテナ船による海運では、紀伊半島を回る必要があるため、1500kmを超える距離となることから、全体の費用の約半分に相当する1億4500万円が輸送費となっている。また、放射能はじめ各種測定分析費だけでも1500万円を超えている。送り出す側の岩手県での測定、輸送前後の大阪府による測定、処理前後及び処理中の大阪市による測定などが含まれるからである

 加えて、平成25年度には3万トンの瓦礫を受け入れる計画となっており、平成24年度の5倍の量であることから、それにかかる費用は、25年度予算において以下の通り計上されている。総額で13億円を超えている。

  費目       大阪府の予算額
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 現地事務所費       7,121,000円
 事務費           3,657,000円
 委託費        1,208,160,000円※2
 積替施設使用料     93,000,000円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  合計       1,311,938,000円

※2委託費には輸送費と処理費(焼却及び埋立処分)が含まれていると思われる。 大阪市における処理費は24年度の契約書でトン当たり14,494円とされているので、 3万トンとすると434,820,000円となる。従って、12億の内の残り8億円が輸送費と分析費と言うことになる。

 結局、2年で総額16億円余りの国費が投じられるがこれらはいずれも、被災地には落ちず大阪府や大阪市に処理費、事務費として落ちるほか、関西地区の運送業者に支払われることとなる。これだけの税金を投じるならば、被災地での処理を進め現地の企業や市町村で有効に活用できるように検討すべきではないだろうか。

 大阪市は4月の段階で環境省に対し次のように国に要望を出している。

 大阪市が環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長宛に提出した「災害廃棄物の広域的な協力の要請について(要望)」(平成24年4月3日)より財政措置についての部分を抜粋する。

2.財政措置について

 災害廃棄物を受け入れるにあたり、焼却工場設備の維持管理や埋立処分場における対策など、必要となる経費については、特段の財政措置を講じられたい。
(例)
@バグフィルターのろ布等の交換、処分費用
A湿式ガス洗浄装置や触媒脱硝装置等におけるメンテナンス費用
B炉内作業等における作業員の被ばく対策等、安全衛生に係る費用
C放射性物質を吸着するゼオライト等、埋立処分場で必要となる追加施設整備等の費用
D放射線計測装置(シンチレーションサーベイメーター等)の購入費用 など

 上記を見るにつけ、何から何まで国が丸抱えするのであれば、協力しても良いというものであり、到底、予算書に書かれているような「被災地を支援する目的」は見えてこない。

3)宮古地区の瓦礫処理について

 今回、大阪市が受け入れる、宮古地区の可燃物量は今年5月の総量見直し後、108,000トンとされている。仮に、これらを既存の宮古清掃センターと仮設焼却炉で処理したとすると来年末までに処理できる量は稼働率を考慮しても約7万トンとなる。

@宮古清掃センター(既設炉)日量27トン 23年4月〜受入開始
 今まで:27トン/日×20ヶ月(600日)=16,200トン×稼働率0.77=約12,500トン
 今 後:27トン/日×12ヶ月(365日)= 9,855トン×稼働率0.77=約7,500トン
   合計 2万トン

A宮古仮設焼却炉      日量95トン 24年3月〜受入開始
 95トン×1年9ヶ月(630日)=59,850トン ×稼働率300日とすると 49,000トン

 @+Aは約70,000トン

上記から、残りは3万トン弱となり、どう考えても16億円を掛けて大阪で処理する理由が見つからない。それだけのお金をかけるのなら、地元岩手県内で焼却処理以外の利用方法を検討するなり、既設炉の活用を進める方がよほど現実的であり地元支援となるのは明らかである。

 以上、みてきたことから、大阪市における岩手県宮古地区の瓦礫の受入は、かりに放射能レベルで問題がなくても公費の適正な支出の観点から大いに問題があり、看過できないものである。

 筆者は大阪市内に土地勘がないため、グーグルマップで周辺の土地利用を見てみたところ、舞洲工場の周辺はスポーツ公園やレクリエーション施設などとなっていて、今後、本格焼却が進められれば、放射能ばかりでなくいわゆる有害化学物質も無視できない。


舞洲工場の周辺  出典:グーグルマップ


舞洲工場の周辺  出典:グーグルマップ

 舞洲工場は大阪市で最大規模の焼却炉ではあるが、余力があるからといって無駄な税金の投入をしてまで受け入れるというのはその背後に利権が絡んでいるのではないかとの疑いをもたれても仕方がないだろう。

 大阪市長は、来年1月16日の市民説明会でどのような説明をするのか、見物である。民主主義の手続きと公費の適正利用の観点から果たして市民、国民がが納得できる説明ができるのか、注目したい。