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省益が優先する放射線管理の実態

池田こみち
12 May 2011
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁


 福島第一原発事故から2ヶ月が経過したが、依然として放射性物質は環境中に放出され続け、一向に収束の兆しが見えていない。そうした中環境中の放射性物質のモニタリングデータも多数報告されるようになってはいるが、基準値や規制値、管理値をどう定めるかで混乱も生じている。

 既に指摘したように、モニタリングそのものも各省庁の外郭団体の分析機関が一手に行っていることから信頼性、第三者性が問われているが対策についても各省庁が独自に検討を行っているため、果たして全体的な整合性がとれるのかどうか、今後に課題が残りそうである。

 環境放射線量の測定結果に基づいて、子供への影響を考慮したとして定められた20mSv/年という値が高すぎると国際的にも批判が出ている。測定される高さによって環境放射線量は大きく数値が異なり、人体への影響も変わってくる。天気予報のようにテレビでも各地域の環境放射線量が報じられるようになったが、測定位置(高さ)の情報は不可欠である。

◆青山貞一・鷹取敦:放射線の測定高と測定値について〜実測と単純モデルとの比較

 こうしたことについて環境省はどのような立場で役割をはたしているのだろうか。姿が見えないのは問題だ。

 子供の健康を守るために、校庭の土壌に含まれる放射性物質の除去や濃度を低下させる対策が求められているが、これについては、文科省が独自に実験を行い、表層土壌を下層土壌と入れ替える方法や、表層土壌を袋詰めして地中に埋設する方法などを提案している。一部自治体が、廃棄物処分場への持ち込みを前提に表層土壌を撤去したが、結局、処分場周辺住民の理解が得られないまま汚染土壌が校庭に積まれているといった状況だ。

 作付け制限の基本となる水田土壌や農地の土壌については、農水省が主導し、都道府県と連携して測定を行っているようだが、測定方法も、表層土壌5cmまでとするのが国際的には一般的なのに対して、1m四方の土壌を深さ15cmまでを均一化して測定するといった方法が採用されているという情報も聞こえてくる。

 野菜については厚生労働省の外郭団体が主として測定を行い、魚介類や海水は水産庁の外郭団体が測定を行っている。福島第一原発から約300km離れた神奈川県内で栽培されている茶葉からも放射性物質が基準を超える濃度で検出され始めている。これに対しては文科省が「土壌に落ちた放射性物質が根から吸収された可能性がある」などとコメントしている。測定マニュアルも文科省版と厚生省版があり、野菜を洗ってから測定するか洗わずに測定するかなどで混乱も生じていた。

 一方、高濃度のセシウムが検出された下水処理場の汚泥の扱いについては、セメントなどに転用できるかどうか、産廃として処理できるかどうかを国土交通省が検討し、方針を示している。2011年5月11日の報道によれば汚泥1kg当たり約10万ベクレル以下の放射性物質なら、セメントや道路建設に使用しても安全という考え方を示すとのことである。また、1kg当たり44万ベクレル超の放射性物質を検出した汚泥は「一定の盛り土をする」「すぐに掘り返さない」などの条件をつけて産廃としての処理を認めるということだ。

 海水や魚介類は、県と水産庁が主にモニタリングを行っているようだが、福島第一原発の地先や被害を受けた漁港周辺の海水や海草、魚介類の調査は行われておらず、不自然な状況となっている。これでは、漁民や漁協、さらには消費者の不安も払拭されないままである。

 海底の泥(底質)については、東京電力が測定し、通常より高い濃度のセシウムが検出されたと報告しているが、種類によって底質の汚染は魚介類そのものの汚染に直結することから体系的なモニタリングが求められる。

 環境省はと言えば、放射性物質に汚染された廃棄物、がれきの処理に手を焼いている。5月2日の報道によれば、福島第一原発事故の避難区域と計画的避難区域内の放射性物質に汚染された災害廃棄物について、移動と処理を当面行わない方針を発表した。これらの区域以外の福島県浜通り地方と中通り地方の災害廃棄物は仮置き場への移動は認めるが、その後の処理は同省が放射性物質汚染の基準や適切な処理方法を定めるまで行わないこととした。同省は原子力安全・保安院と協力し、浜通り地方と中通り地方の廃棄物仮置き場で、連休明けから空間線量率や放射能濃度の調査を始める。調査結果は汚染基準や処理方法の検討に反映するということだ。

 しかし、国交省はすでに汚泥の処理の方針を決めている。果たして相互の整合性はとれるのだろうか。全国の自治体が運営する焼却炉や溶融炉では、廃棄物は高温処理され最終的には焼却灰はスラグなどとして再利用されるケースが多い。廃棄物中の放射性物質だけでなく、焼却後の灰や溶融後のスラグ等についても監視が必要である。

 ことほど左様に、各省庁がそれぞれのテリトリーについて独自の方法で測定したり、測る範囲を決めていたり、結果の評価を行っていたり、では国民の健康や環境がほんとうに守られるのか、大いに疑問である。

 より透明性のある場で第三者性を確保しながら、データも公表し、検討を行い速やかな対応をしてほしいものである。