長野県の阿部知事は、本年11月29日に和田副知事をリーダーとするチームからの論点再確認意見書を受けて、浅川ダムの建設続行を決定しました。浅川ダムはいわゆる補助ダムですが、駆け込みで本体工事に突入したいわくつきのダムです。まだ本格的な本体工事には着工していません。

　阿部知事は本年の選挙戦において、十分なる情報を得て自らの判断で建設の続行か中止か決定すると公約していました。その公約に基づいて論点再確認意見書を提出させ、自らの判断を下したものです。

　しかし残念ながら村井県政の治水安全度1/100における基本高水流量450立方メートル毎秒（以下m3/s）を引き継いだ決定でした。私が論点再確認意見書と参考資料や更に情報公開で得られた資料を検討した結果は次の通りです。

　阿部知事は浅川の河川整備基本方針について正確な理解に基づく正しい判断を下していません。その原因は長野県建設部河川課が正確な情報を提出していないことにあり、阿部知事はその事実に気がついていないか気がついていないふりをしている状況だと受け止めています。

　論点再確認意見書には重大な瑕疵は認められなかったと阿部知事は述べていますが、別途入手した情報も含めて、浅川の河川整備基本方針について重大な瑕疵を二点だけ取り上げます。

　先ず論点再確認意見書で治水安全度1/100における基本高水流量450m3/sは合理式と比流量で検証したと述べていますが、国交省の「河川砂防技術基準（案）調査編」に合理式の適用においては、「最大流量の生起確率は、それに対応する雨量の生起確率に等しい」は仮定であると記述されています。

　つまり合理式での検証では、450m/3sの治水安全度が雨量確率の1/100と同じであるとは言えないのです。この仮定が仮定でないことを立証しない限り、検証の先送りになっています。

　また比流量による検証も比較の対象の河川の治水安全度が1/100である保証もなく、その治水安全度は浅川と同様に過大に決定されている例がほとんどです。絶対的な検証にはなり得ません。

　別途に情報公開で入手した平成19年の村井県政下で作成された最新の浅川の流出モデルに基づく流出計算に関して、河道の遅延時間の算出式の適用に間違いがありました。

　適切な算出式を適用すると、今まで基本高水流量450m3/sの根拠になっていた昭和61年9月のモデル洪水のピーク流量が444m3/sでなく340m3/s程度になることが判明しました。

　今まで浅川の流出モデルでは河道の遅延時間は考慮されていなかったのですが、河道の遅延時間を考慮したら治水安全度1/100における基本高水流量450m3/sの与件は完全に否定されます。ダム建設を前提として未改修である上流部の河川改修をすれば、浅川ダムは不要であるとの結論になります。

　最新の流出モデルは村井県政下で作成されましたが、その間違いに気がつかずに確実性、経済性、効率性を考え浅川ダムの建設に踏み切った村井県政の方針を、阿部県政は論点再認識意見書でも十分な検証ができずに引き継いだのが現状と言えます。

　したがって「阿部県政の浅川の基本高水への方針は、村井県政の方針の引継ぎに過ぎない」と言えます。特に村井県政下で作成された浅川の河道を取り込んだ流出モデルの流出計算の間違いに気がつかず、そのままその負の遺産を引き継いだことは致命的な失政と断言できます。

以上