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韓国ソウル視察リポート

朝原真実(旧姓斉藤)


掲載日:2007年11月14日


 2007年11月9〜12日までの日程で、環境総合研究所のメンバーと共に韓国ソウルを訪れた。実質稼働時間2日間であったが、青山所長の綿密なプランニングのお陰で要所を効率よくまわることが出来た。初めての韓国であったので、どこもかしこもが真新しかった。

 一番印象に残ったのは大規模デモ隊と、それを過剰牽制する警察官・警察車両の大群に遭遇したことであった。状況については既に独立系メディアに掲載されている青山

 ソウルの街は全体的に道路も歩道も広く、ビルも東京のようにゴミゴミと建っているわけではなく、整然とした印象を受けた。

 以下、簡単ながら主な見学先での感想を述べる。主要視察先の詳細についても、独立系メディアで既に青山所長がまとめておられるので、参照されたい。

青山貞一:大新聞が報じないソウルの「反格差社会」大規模デモ


西大門刑務所歴史館

 まず真っ先に向かったのが西大門刑務所歴史館である。日本の植民地時代に日本によって作られた広大な刑務所である。反抗する韓国人たちを片っ端から投獄し、想像を絶するほど悲惨な拷問を繰り返し、挙句処刑した場所だという。訪問前から、しっかとこの目で見て、この事実を受け止めなければならないという覚悟があった。

 館内では、写真・資料の展示や映像を使用して当時の状況を克明と示していた。説明には日本語が無く、不明なものが多かった。所長も指摘していることだが、日本語を充実させて欲しい。日本人こそが見るべき施設だからである。


西大門刑務所にて。中央が筆者。
撮影:青山貞一 Nikon Cool Pix S10

 展示のほか、当時使用された拷問器具や独房が再現されており、自分がその中に入ったらどうだったかと、背筋の凍る思いで見てまわった。とりわけ、地下にある再現された拷問室がショッキングであった。幾部屋も拷問室を作り、その中でありとあらゆる拷問の状況がありのままに再現されているのである。人形が動き、日本人のものである怒号、韓国人のものである絶叫が(どれもテープ音声であるが)、各部屋から館内に響き渡っていた。土曜とあって、見学の小学生・中学生たちが大勢館内につめかけていたが、このような品性下劣・動物以下な行為をした同じ日本人として顔を隠したい思いに何度も駆られた。


西大門刑務所にて 左が筆者
撮影:池田こみち ソニーサイバーショット 5.0MegaPixel

 再現されたものだけではなく、本物の獄舎や死刑場なども残っている。獄舎には生々しい血の跡が残っていた。過去に、実際にこの血を流した人が確かにいたのだと、その人の一生に思いを馳せた。日本人が壮絶に拷問し、虫けらのごとく残酷に殺していった大勢の韓国人にも、一人ひとりに貴い命があり、幸福におくるべく人生があり、人間の尊厳があった。自分がその一人だったらと思うと耐えられない。一日本人として深く謝罪をしたい。


西大門刑務所の慰霊碑の前にて 左が筆者
撮影:鷹取敦 CASIO EXILIM EX-Z750


西大門刑務所の慰霊碑の前にて 右が筆者
撮影:鷹取敦 CASIO EXILIM EX-Z750

 歴史を知ることは、現在の日本、そして自分の立ち位置を知る最も有効な手段のひとつである。そして歴史に学ぶことによって、過ちを繰り返さずより良い道を選択していけるのである。その歴史の重要な部分を実感して来られた貴重な体験となった。子供たちに歴史を教える教科書が操作される時代である。情報操作するほうに問題があるが、情報の受けてである我々も、教科書だけで歴史を勉強するのではなく、現地を訪れ、その国々の視点を多角的に見聞きしたうえで像を結ばなければならないのだと強く実感した。

景福宮

 門といい建物といい、美しい建造物であった。さすが朝鮮最高の宮殿と称されることはある。中心部はシンメトリーに整然と配置され、極彩色でありながらけばけばしくなく、計算された色の配合であることがうかがえた。周囲の木々の色とりどりの紅葉とあいまって、ため息の出る美しさである。

 池の中心に人工島を作り、そこにこじんまりとした建物と植物を配置した香遠亭は格別な趣きがあった。どの建物も色のモチーフが同じなので統一感がある。守門将の交代儀式というのが毎時に行われるのだが、人々は鮮やかな赤、青、黄の衣装に身を包み、持つ旗も太鼓も実にカラフルである。王族たちは昔から色を積極的に楽しむ文化があったようだ。


景福宮にて。撮影:青山貞一 Nikon Cool Pix S10

 王族の住まい、そして執政の場ともなれば、当時の最高峰の技術、最先端の文化をもってして建てられたことは想像に難くない。そのような「国の顔」とも言うべき宮を破壊し総督府をドッカと置いた日本軍は、まさに国の顔に泥を塗ったわけであり、最大の侮辱である。韓国の人々の怒りがいかばかりであったかと思うと胸が痛い。今や世界中の人々が観光地として訪れていることを考えれば、復元されているとは言え、重要な文化財を破壊したことは世界的な大罪とも言える。


大統領府(青瓦台)を背景に。右が筆者
撮影:青山貞一 Nikon Cool Pix S10

清渓川

 清渓川は約16年かけて埋立てられ、高速道路が建設されたが、人々の環境意識の高まりなどを理由に再度復興された川である。

 川の起点である清渓広場から途中まで歩く。清渓広場にはシンボルモニュメント「spring」がそびえたつ。赤と青の巻貝状の高さ20mもある巨大モニュメントである。スウェーデン出身で現在アメリカに住む世界的に有名なポップアートの芸術家、クレス・オルデンバーグとコーシャ・ヴァン・グリュッゲン夫妻による共同製作である。氏いわく、「空へほとばしる水と泉の源泉、流れる韓服のリボン、陶磁器から作品のインスピレーションを得た」とし、「スプリングは人間と自然の調和を象徴する」と説明している。

(韓国ニュース
http://contents.innolife.net/news/list.php?ac_id=2&ai_id=63675)なぜ彼らが創作するに至ったかは不明。ポップアートを用いて老若男女が親しめる環境にしたかったのであろうか。個人的にはあまりいい趣味ではないと思うが、このようなシンボルを作るということからも肝いりの事業であることがわかる。springとは源泉、始まりといった意味である。

 人々が集まる場、憩いの場になるような工夫は随所に見られる。ただ単に川をまっすぐ流すのではなく、河川敷が親しみやすいデザインで造形されている。ちょっとした滝を途中でいれてみたり、川の途中に飛び石を置き、反対の河川敷へ渡れるようにしてみたり、あるいは、ライトをはめ込むことによって夜間はきれいにライトアップされたりする。


ソウル特別市の中心部を流れる清渓川にて。右が筆者
撮影:青山貞一 Nikon Cool Pix S10


ソウル特別市の中心部を流れる清渓川にて。右が筆者
撮影:青山貞一 Nikon Cool Pix S10

 また、河川敷の壁には巨大な壁画が描かれていたり、絵画の展示がされていたりなど、歩行者を飽きさせない工夫がされている。水の透明度が高く、
魚が泳いでいるのが確認できる。季節柄か、独立系メディアに阿部賢一氏が寄稿された「清渓川復元現地訪問記」で指摘されているような臭気は確認できなかった。

 土曜日ということもあってか、かなり大勢の人々が河川敷に集まっていた。特に子供たちは大はしゃぎである。日本の田舎に行けば川で遊ぶ子供たちを見ることは珍しくないが、これが都心の風景かと思うと、改めて復興事業の偉大さがわかる。水べりというのは無条件で気持ちいいものであり、さわやかな気分で歩いた。

 清渓川復興事業は、経済優先社会からのパラダイムシフトとしての環境的側面が大きいが、人の集まる地域コミュニティの創造という点でも注目されるべきと感じた。

 環境問題と、人々のコミュニティに対する意識とは、とても根深いところで関連している。かつてゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ、と言われていたわけだが、その流れは決して可逆ではないにしろ、コミュニティの再創造が出来る選択肢はあるのである。それに気づくかどうか、選択するかどうかが、私たち日本人にも問われていることだと強く感じた。

宗廟・昌徳宮・昌慶宮

 宋廟・昌徳宮は世界遺産ともなっている。今回の韓国視察においては初日から紅葉の美しさにただ見惚れるばかりであったが、敷地面積が広く、樹木の数も一層多いため、ここでの紅葉は一際素晴らしかった。

 燃えるような、あるいは淡いやさしい赤・黄・緑のコントラスト及びグラデーションの洪水は、筆舌に尽くしがたい美しさである。葉の一枚一枚がまるで抽象画の一筆一筆のように空を覆う。


昌慶宮にて。
撮影:池田こみち  ソニーサイバーショット 5.0MegaPixel


昌慶宮にて。
撮影:池田こみち ソニーサイバーショット 5.0MegaPixel


 主にイチョウやもみじの色合いが素晴らしかったが、イチョウやもみじが大木であったのは知らなかった。日本では切りそろえられた木しかあまりお目にかからないが、のびのびと育っている木々には溢れんばかりの生命力を感じる。敷地内には日曜学校なのか、大勢の子供たちが引率されてやってきていた。

 現場で歴史や文化を学ぶことは重要だが、何よりこれだけの植物に日常的に接することが出来ると情操教育上にも良いに違いない。都心にこれだけ広大な自然と触れ合える場所があるというのは日本からしてみれば驚異である。


植物園にて。左が筆者。
撮影:青山貞一 Nikon Cool Pix S10

 宗廟・昌徳宮・昌慶宮の建物は、景福宮とはまた趣が異なり、荘厳な、落ち着いた雰囲気であった。とりわけ宋廟の正殿・永寧殿の前に広がる石畳の空間は、そこに立ち止まると、まるで世界中にたった一人になったかのような静謐を感じた。


植物園にて。左が筆者
撮影:鷹取敦 CASIO EXILIM EX-Z750

 なにしろ、歴代国王と王妃の位牌を祀っているところであるから霊的・神秘的な力が宿るようにと建設された建物である。その点で言えば、建築は大いに成功していると言えよう。

ソウル歴史博物館

 景福宮や宋廟など、これまで訪問した先で国王や妃といった高貴な人々の生活スタイルは知りえた。その後訪れたソウル歴史博物館では、宮中の文化についての展示に混ざり、平民の日常的な生活スタイルが伺える資料や展示などを見ることが出来た。


ソウル歴史博物館前にて。左が筆者
撮影:鷹取敦 CASIO EXILIM EX-Z750

 衣食住や市場など生活に根ざしたテーマでの数々の展示を見ることによって、朝鮮時代から現代までの韓国人の生活の全体像がおぼろげながらつかめたような気がした。

 一角には企画展示室なるものがあり、ここでは時期を区切って様々なテーマで展示を行っている。訪れたときは、丁度「サイエンストンネル」という科学をテーマにした展示が行われていた。次々と新しい企画をすることによって、何度来ても楽しめる施設となっている。

その他

 その他、韓国の消費文化を知るためにデパート(ヒュンダイデパート)やショッピングセンター等にも趣いた。日本のデパートと比べ、通路が狭く、それだけ商品の密度が高い印象を受けた。そのせいか、ずらっと並べられた洋服の列に、ある種熱狂的な、ギンギンとした消費への欲求、物への欲求というものを感じた。


ソウル市南部の新たな掲載拠点、Coexセンター
撮影:池田こみち ソニーサイバーショット 5.0MegaPixel

 ランドマークである漢江にも足を運んだ。ソウルの南北を隔てる境界線でもあり、生活の要となっている巨大な川である。

 ところで、ソウル内見学中の移動手段はすべて地下鉄と徒歩である。地下鉄は全部で10路線あるが、どの線に乗り換えても距離で10km以内なら1000ウォン(約130円)である。日本の場合、JR等と併用したり、あるいは同じ地下鉄でも路線によっては乗り継ぐことによって運賃は高くなってしまうが、その点韓国は廉価に動き回れるから良い。

 以上、主な見学先における私見を述べた。

 最も大きな成果は、これまで日本で生きてきた中で作られた日韓問題に対する問題意識が、韓国側から日本を見ることにより、よりリアリティーをもった形で自分の中に生まれたことである。

 自分が産まれる前の過去の出来事に関しては、何が本当の事実だったかは直接知る術がない。情報操作が平気で行われるこの世の中で、いかに事実に肉薄するかは極めて難しくなりつつある。しかし過去の事実を知ることが、未来への道しるべになることからも、事実に基づいた歴史認識をすることが肝要なのだと感じた。