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いつまで続く「言った・言わない」論争

青山貞一

掲載日:2005.1.19
 
 今回のNHK番組改変への政治家圧力の有無問題は、第三者としてきわめて納得が行かない。はがゆい。

 理由は、いうまでもない。この高度情報化社会、IT時代にいつまでも「言った、言わない」の水掛け論争がつづいているからだ。

 朝日新聞記者はNHK幹部や自民党幹部への取材に際し、当然、あとになって「言った、言わない」論争になることを想定していたはずだ。

 であれば、面談取材であれ電話取材であれ、記者はテープレコーダーなり、ICレコーダー、さらに通話録音マイクがついたICレコーダーを所持していたはずである。

 というのも、私自身、記者の取材を受けるとき、あのソニーが売り出している通話録音マイクとICレコーダをつなげ、記者と自分のやりとりのすべてを鮮明に録音するようにしている。とくに昨年4月から長野県に特別職で赴任し、なかば公人となったこともあり、その点はとくに気をつけている。

 あとで、自分が発言しなかったことが、まことしやかに大きな見出しの記事になったり、よくあることだが、ねじ曲げられた記事に厳しく対応するためだ。

 また長野県に赴任してよく経験していることだが、記者が私に取材した内容がほとんど記事にならず、そのまま議会で特定会派の特定議員の質問になることが多い。

 日本新聞協会の新聞倫理規定にもとるようなこの種の取材を世に問うためには、最低限、「言った・言わない」レベル問題での水掛け論や泥沼化は避けなければならい。

 さらに、この防衛策は、1日10回以上、ストーカーまがいの一方的な取材電話をしてくるトンデモ表現者の執拗な取材へのささやかな対応策にもなる。これなど取材と言うより明らかなイヤガラセ、さらには刑法に言うところの職務強要に類する行為と言えると思う。

 閑話休題

 ところでNHK幹部は、一方で朝日新聞側に「2時間に及ぶ取材をメモなしでどう正確に記録したのか」と言う趣旨のことを言いつつ、他方で「無断でテープ録音していたとしたら取材倫理にもとる」、と言う趣旨の矛盾したことを言っている。

 通常、要人、公人などにレコーダーを差し向け一方的に取材しまくっているマスコミの幹部がよくまぁ、こんなことが言えるなあ、と疑問を感ずる。

 いずれにせよ、いくら記憶力の良い記者であっても、2時間に及ぶ「オフレコ」取材の内容を正確に記憶し、あとで記事にするためにトランススクリプトすることは不可能と言って良いだろう。

 ところで、この種の録音また通話録音のファイルは、当然のこととして、名誉毀損裁判になった場合、重要な証拠に使える。また警察や検察に刑事告訴する場合に必要不可欠な証拠となる。

 あまりにもひどい取材や電話攻撃、さらにネット上での名誉毀損、侮辱的行為に関連し、刑事告訴を念頭において警察に相談に行くと、出てくる捜査担当者は、必ず「証拠」はありますかと言う。

 その昔、ある大きな騒動で私の事務所に連日無言電話や脅迫電話などがかかってくるので、事務所のそばにあるオウム捜査の所管警察でも有名な東京都品川区にある大崎警察署に出向いた。

 出てきた防犯課長にその間の事情を説明し調書を取ってもらい、警備を依頼したことがある。結果的にその後一年間、事務所周辺の警備をしてくれた。

 だが、その場合でも防犯課長が開口一番言ったのは、やはり「青山さん。通話録音テープがありますか」であった。記録ではなく、テープの有無が重要なのである。

 この種の事件や問題で警察や検察と言った当局が犯罪捜査や刑事告訴を受理するかどうかは、まともな証拠の有無とその提出が大きなポイントとなることは言うまでもない。

 これは相手が新聞や週刊誌などマスコミの場合であっても変わらない。

 また取材対象者のプライバシーなど人権を侵害する可能性がある記者の取材に対しても「証拠」が要求されるのは当たり前のことではないだろうか。取材を受ける側にとって、新聞記者が書いた「記事」がいつでも=事実であり=真実となってはたまったものではないからだ。

 まして、本件のように中央政界の現職の幹部政治家を巻き込む、しかもシビアーな内容にかかわる取材では、仮に朝日新聞記者2名で取材に当たった場合でも、「言った、言わない」に対し万全とは言えない。

 したがって、表面上、記者が通常、メモ取り方法による取材をした場合でも、背広の内ポケットなどにICレコーダーを忍ばせる。電話取材の場合でも、通話録音マイクをつけ、取材相手と取材者(自分)の全通話録音をしているのが常識である。実際、私の知っているある新聞記者は、私が所持しているタイプと同じソニーの通話録音が可能なマイク
(*)をつけ取材している。
  
※ ソニーの通話録音マイクは、今のところ唯一のアイディア製品。
   イヤホンの形をし、実際イヤホンと同じように耳につける。相手か
   ら電話がかかってきた場合、携帯電話であれ、固定電話であれ
   すべて鮮明な音で録音が可能である。
ICレコーダーによっては
  
MP3ファイルとして転送可能となる。右のソニー ECM-TL1は、
    わずか2000円程度で市販されている。
ソニーのイヤマイク

 もとより政治家やNHK幹部の発言は重い。二転三転は許されない。

 本件の場合、仮に朝日新聞の記者が声紋が確認できるテープレコーダーなりICレコダーで取材内容をすべて録音していたとすれば、最低限言った、言わない論争は終止符をうつはずである。実際、いつまでもその種の堂々巡り議論をしているのではなく、はやくそれを超え本題に入ってもらいたい。それが国民、視聴者、読者の願いであるはずだ。

 首相会見などで、政治部配属の若い記者がICレコーダーを首相につきだし取材しているのをよく見かける。ベテラン記者は、それを「近頃の若い者は.....」などと揶揄する。しかし、今回のような場合、証拠能力が高いICレコーダーの録音内容の「証拠能力」はきわめて高い。司法の場でも威力を発揮すると思える。まして相手が「天下のNHK」「皆様のNHK」であればなおさらのことである。

 少々技術的な話になるが、最近のICレコーダーでは、録音内容がMP3形式の電子ファイルクリップとなる。PHSやオペラと連動させたノートPCなら、新聞社にいる複数の幹部、デスクにファイルをその場で転送することも容易である。こうすれば後で発生する「捏造」騒動などへの対応はさらに高まるはずだ。複数の関係者が同時にファイルを受信していれば、より証拠能力が高まるからだ。

 今回の場合、朝日新聞以外のマスコミは、自民党幹部とNHK幹部の会見、再会見などをそのまま読者に伝えるしかない。しかし、朝日新聞がもし上記の証拠ファイルをもっているなら、堂々と一字一句正確に読者に開陳すべきと考える。それが常日頃、言論界の雄を辞任する朝日新聞社が最低限すべきことであるからだ。

 繰り返すが、本件が万一裁判となった場合でもそれはきわめて重要なものとなると確信する。というより、朝日新聞側はそれに備え、「伝家の宝刀」として隠しているのかも知れないが...。


 以下は続編
 青山貞一:言った・言わない論争が訴訟となった場合〜法的分析〜

朝日新聞記事
NHK公表情報      
   1月21日朝日新聞報道問題(18項目質問)
   1月21日朝日新聞社への公開質問状
     1月19日関根放送総局長の記者会見要旨
      1月18日朝日新聞社への抗議文
     1月14日朝日新聞社への抗議文
     1月13日関根放送総局長の見解