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行政訴訟はやはりやるだけ無駄!
〜圏央道訴訟〜
阿部 泰隆

掲載日:2004.5.11

■圏央道、東京地裁藤山判決要旨

 東京都あきる野市の居住地が首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の建設予定地に指定され、土地収用の対象となった住民らが、国土交通相による事業認定と、都収用委員会による収用裁決の取り消しを求めた行政訴訟の判決(東京地判2004年4月22日)は、報道によれば、「騒音被害や大気汚染が予想され、交通渋滞の緩和も具体的な裏付けを欠く。

 事業の必要性は低く、事業によって得られる公共の利益の判断の過程には、社会通念上見逃せない過誤欠落があり、違法だ」として、事業認定を取り消した。収用裁決についても「事業認定の違法が承継される」として取り消した。

 しかし、圏央道の事業認定が取り消されても、既に収用裁決が執行されているので、最終的には事情判決(行訴法31条)が予想される。そのときの賠償も、補償を得ている以上はほとんど期待できない。裁判を受ける権利が死んでしまう。長年の訴訟は何のため?

 執行停止についても、1審(平成15年10月3日判時1835号34頁、判タ1131号90頁、判例自治245号67頁)は認めたが、高裁(平成15年12月25日判時1842号19頁)、最高裁は否定した(平成16年(行フ)第2号事件、平成16年3月16日第三小法廷)。

 一審は、首都圏中央連絡自動車道新設工事のための収用裁決申請事件につき、東京都収用委員会がなした明渡裁決の効力を収用裁決取消請求事件の本案判決が確定するまで停止することを求め(第一事件)、同様に東京都知事、国及び日本道路公団に対し明渡裁決の手続の続行につき本案判決が確定するまで停止することを求め(第二事件)た事案で、第一事件についてはいずれの申立ても却下されたが、第二事件については、本件裁決の執行としての代執行の手続が停止されることによって、公共の福祉に与える影響は軽微なものにとどまるというべきであって、建設される道路に瑕疵があって本件事業認定及び収用裁決が違法である可能性があるにもかかわらず、その可能性の有無を十分見極めないままに、あえて建設を強行することを正当化するものとはいえない等とし、申立人らの申立ての一部を認容した。

 最高裁は、地権者が「本件明渡裁決の執行によって行政事件訴訟法25条2項にいう回復困難な損害を被るものとは認められないとした原審の判断は、正当として是認することができる」と指摘した。

 しかし、本案判決で勝訴して、かりに土地を返還して貰っても、建物は既に取り壊されているから、建て替えなければならないが、中古を建てることは物理的に不可能であり、その補償額は中古建物に対する補償であるから、それでは新築できない。新築資金がなければ、結局はその土地を売って、転居せざるをえない。

 しかも、原告の土地以外は既に道路用地になっているのであれば、この事業は違法であるが、やはりこのまま道路にする方が公共の福祉に寄与するとして、いわゆる事情判決(行訴法31条)により、結局は土地建物を回復できない。金銭による填補で足りるというなら、最初から、取消訴訟は無意味で、補償請求訴訟以外は認めないという警察国家と同じである。これでは「回復の困難な損害が生ずる」と考えるしかない。最高裁は、このようなことまで考慮しても、回復の困難な損害はないというのであろうか。

 こうした事態を惹起しないためには、まずは早期の執行停止が必要であるが、起業者は収用裁決を待たずに任意買収で取得した部分で工事を行うので、ルート変更が経済的に極めて不利だという既成事実が発生して、収用裁決を争うころには、もともと公共性の薄い事業でも、その部分が道路建設のために不可欠として、公共性を取得してしまう(浜秀和座談会発言「道路をめぐる諸問題」ジュリスト543号61頁、1973年)。

 公共性が既成事実によって生み出されてしまい、もともと行われるべきであった、当初の事業計画時点での「土地の適正かつ合理的」かどうかの判断が行われなくなるのである。これも事情判決同じ効果を生ずるから、私見では収用対価のほかに、別の上乗せ補償が必要になる。 

 本来なら、事業認定時に公共性の有無について地権者を交えて広く論争して決め、その段階で司法審査は手続を中心に迅速に行い、事後の段階ではもはや事業認定の適法性を争うことはできないこととすべきであり、また、執行したが結局は違法とされる場合には、「やれば勝ち」にならないように、せめて割増し賠償が不可欠である。