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2 福祉国家の登場
それは「福祉国家」です。そこでは、固定したヒエラルキーのために形骸化した夜警国家的な自由・平等ではなくて、流動性を保障する自由・平等を確保し、国民の生存を配慮することが国家の重要な任務です。
福祉国家の政府は、ヒエラルキー構造を解体するために、私有財産制を維持しながら、累進課税や相続税を導入して資本家的財産に制約を加え、富の不平等の是正を試みます。
さらに、国民生活を安定させる目的で、景気変動を調節し、金融・財政政策や社会保障政策を積極的に推し進めるのです。
福祉国家は固定した階層化を避け、流動性の高い社会を続けるために、社会保障制度を拡充し、それが夜警国家との最大の違いにほかなりません。
福祉国家は、多くの場合、「ケインズ主義」と形容されますが、それが1929年に始まる世界恐慌から脱却するために、イギリスの思想家ジョン・メイナード・ケインズの経済理論を用いて、福祉国家が形成されたからです。
彼は失業対策として公共投資の重要性を説きます。それは不況になって失業者が増えたら、公共事業を行い、景気を扶養させるというものです。
国民の四人に一人が失業者に陥ってしまい、さすがのアメリカでも、フランクリン・D・ローズベルト大統領がケインズ主義的政策を実施していきます。
ただ、経済活動への政府の介入は福祉国家における行政の必要性を拡大し、行政権強化につながってしまいます。
福祉国家は行政国家化しかねないという危険性があるのです。だからと言って、行政の大きさを改善するために、社会保障を国家が放棄するのはあまりに暴論です。
すでに論じたように、近代官僚制は国家総動員体制という有事体制の産物であって、社会保障制度とは機嫌を異にしています。規制は市場の失敗を補うはずで採用されたにもかかわらず、時代の変化を無視して、それ自体が目的化している状態が問題なのです。
社会的な安全性を確保しなければ、情報や富を保有している者が優先的に上位を占めるヒエラルキーが生まれてしまいます。あくまでそれを防止するための規制です。
ケインズ革命から遡った1919年のドイツのワイマール憲法は、一五一条において、「経済生活の秩序は、すべての者に人間に値する生存を保障する目的を持つ正義の原則に適合しなければならない。
個人の経済的自由は、この限界内で保障される」と規定しています。「人間に値する生存の保障」が福祉国家の理念・目的であり、これは日本国憲法第25条にも影響を与えています。
人権自体はそれ以前から認められてきましたが、ジェンダーやセクシャリティ、障害、病気、出自、宗教、言語、エスニシティへの生存権に基づく一切の差別は、社会の階層化を防ぐ点からも、積極的に禁止されなければなりません。
戦後日本もこの福祉国家を理想として、その実現に向かったはずだったのです。
つづく