外郭環状道路「地下化」の まやかし 鷹取 敦 掲載日:2006年6月28日 |
外環道の世田谷−練馬間、正式には都市高速道路外郭環状線(世田谷区宇奈根〜練馬区大泉町間)の環境アセスメント準備書の縦覧、閲覧および意見書の提出が7月3日まで行われている。 http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/assess/ho-gaikan.htm このアセス準備書の報道の問題については以前のコラム「朝日新聞の恣意的報道による世論形成の怖さ〜東京外郭環状道路アセス〜」で言及した。今回はこの事業そのものの問題点について論じたい。 ●外環道とは 外環道は国土交通省のサイトから引用すると「東京外かく環状道路は、都心から約15kmの圏域で放射方向の高速道路を環状に連絡する延長約85kmの道路」である。 関越道から常磐道までの約30kmについては高架道路などの地上の道路として既に開通しているが、西側(千葉県側)の20kmについては事業中で、都内の練馬・大泉ジャンクションより南側、世田谷・東名高速区までが今回のアセスの対象となっている。 事業者である国土交通省は、この都内部分(世田谷−練馬間)について、環境影響を心配する地域のに応えた形をとって、外環本線を地下40m以下の地下構造へ変更した。そのため、都市計画の変更手続きが行われ、アセス準備書とともに都市計画変更案についても縦覧・意見の提出の手続きが東京都によって行われている。 http://www.ktr.mlit.go.jp/gaikan/jigyo/2006_01/index.html ●地下化された外環道の環境影響 これまでの経緯とそれに関する報道をみると、外環道の世田谷−練馬間については地下にもぐってしまい、環境への影響はほとんどないという印象を受ける人が多いだろう。現に計画地周辺の住民も多くの人がそのような印象を持っているようだから、事実上の事業者である国土交通省、東京都もそのような印象を世の中に広めるべく努力してきたに違いない。先のコラムで指摘したように報道もそれに全面協力している。 また、国土交通省の立場としては、パブリックインボルブメント(PI)と称して地域の声を汲み上げる努力をしてまいりました、というところでもあろう。 しかし、外環に関わるアセス準備書や関連資料を精査すると、とても環境に影響がない、などと言えるものではないことが分かる。 まず外環本線で言えば、4カ所のインターチェンジとジャンクション(大泉ジャンクションを含む)が設置され、既存の高速道路や幹線道路と接続している。これらは垂直に地上と接続している訳ではないので、勾配部となる前後区間を含め、相当の延長において地上部(掘割、平坦)に交通と大気汚染・騒音が地上に流出する。また、既存道路から外環へ流入・流出する自動車交通も増加、既存道路においては渋滞も悪化するだろう。 外環本線の大気汚染はトンネル抗口や換気所(排気塔)を通じて地上に排出される。アセスには排気塔は15mから30mの高さから上空に排ガスを吹き上げるから地上への影響は少ないと書いてある。しかし上空に吹き上げた排ガスは広い地域へ広がるのであり、東京都の実測データ等でも確認できるように都心部の大気汚染はそのように広域からの複合的な汚染、すなわち面的汚染が特徴だから、上空に吹き上げたから問題なしということにはならない。 また、インターチェンジ、ジャンクションの地上部では、相当な範囲において、事業地の買収による立ち退きが必要となる。筆者もその地域の1つを歩いてみたが、そもそも閑静な住宅地であるから、仮に立ち退かずに済んだ場合でも、非常に良好な環境が一変して幹線道路沿道地域になってしまい、環境が悪化することからは逃れられないだろう。また地域の生活道路が分断され、街・コミュティとしての機能も破壊される。 ●隠された地上部幹線道路 これだけでも十分問題なのだが、実はもっと大きな問題が「隠されて」いる。 実際にはインターチェンジ、ジャンクション周辺の立ち退きだけでは終わらない。「外環ノ2」と呼ばれる都道が地上部の幹線道路として、練馬から中央自動車道と交差する付近にまで計画されているのだ。 元々の高架道路としての外環道の計画にはいわゆる側道として、中央道(正確には東八道路)より北側は都道(外環ノ2)が、南側は附属道路が計画されていた。 附属道路については、外環道本線の地下化に伴い「原則廃止」となったが、「外環ノ2」については形式的には都道であり、外環と「別の事業」であるため、計画はそのまま残っている。今回の都市計画変更にあたっても外環ノ2が廃止された形跡はない。 また、外環本線は地下40m以下とし大深度地下で、といわれているが、大深度法の適用を本当に受ける(受ければ地上部の用地買収は不要となる)かどうか疑問との地元の声がある。国交省の外環サイトをみても「大深度」「大深度法」の文字はあるものの、明確な説明はない。 もし外環ノ2の計画が地上部に残っているのであれば、いずれ用地買収をしなければならないのだから、手続きの煩雑な大深度法の適用を受けるメリットはないと考えるかもしれない。もっとも手続きの先行している外環の工事を外環ノ2より先に進めるのであれば、用地買収にかかる時間を考えて大深度法は適用されるのかもしれないが。 外環ノ2について「今後の検討」を示した事業者配布資料(東京都都市整備局資料)がある。これによると(1)幅員40mのままで外環ノ2を残す案、(2)都市計画区域を縮小して幅員を狭くする案、(3)「代替機能を確保して」廃止する案がある。 3つ目の「代替機能を確保して」ということは、いずれどこかに道路を造らなければならないということを意味するのであろうから、実際には採用される可能性は非常に少ないだろう。 2つ目の幅員を狭くする案だが、昨今の幹線道路計画は「環境施設帯」と称して植栽部分を含めて幅員を広くとる傾向があり、これも可能性は低いだろう。 結局、従来案どおり幅員40mの幹線道路(都道)計画が採用される可能性が高いのではないだろうか。そもそも2つ目、3つ目は複数案あるように見せかけるために作った可能性すら否定できない。 以上をまとめると、地域の住民にとっても都市計画としても事実上一体である「外環本線」と「外環ノ2」を、事業として切り離し、時期をずらし、計画変更の可能性があることを匂わせることによって、事実上「隠している」実態が明らかになってくる。 「外環ノ2」は環状8号線(都道)の外側に位置する都道、すなわち幹線道路であるから、その環境影響が小さいものであるとはとても考えられない。また、地上部の道路であれば、相当数の立ち退きも必要となる。 形式的な手続きを理由に、地域住民の問題意識を分断することは、住民・納税者にとって「まやかし」以外のなにものでもない。 |