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朝日新聞の恣意的報道による
世論形成の怖さ
〜東京外郭環状道路アセス〜


鷹取 敦

掲載日:2006年5月31日


 朝日新聞(5/31朝刊第2社会面)に『外環道アセス、「影響小さい」大気など都予測』という記事が掲載された。同じ記事は朝日新聞Webサイトに『外環道アセス準備書、大深度方式は「影響小さい」』と題して一時はトップに掲載されている。
http://www.asahi.com/national/update/0531/TKY200605300522.html

 記事の内容は、外環道(東京外郭環状道路)練馬―世田谷間の環境アセスメントの準備書(アセスメントの案)が2006年6月2日から縦覧されるが、これによると「環境への影響がない、もしくは極めて小さい」という結論であることを伝えるものである。

 具体的に記事を引用すると、
 国土交通省と東京都による東京外郭環状道路・練馬―世田谷間16キロの計画について、大深度地下方式で建設した場合の環境への影響は「極めて小さい」と都が予測していることが、30日わかった。予測を記した環境影響評価(アセス)準備書は、同区間の都市計画変更案とともに、6月2日からの沿線4市3区での縦覧開始に合わせて公表される。

<中略>

 アセス準備書は、大気、騒音、生態系など18項目について建設の影響を予測。大気や振動など6項目は「影響がない、もしくは極めて小さい」とし、騒音や生態系など12項目は「必要な保全措置を実施すると、影響の程度は極めて小さくなる」。全体としても「環境への影響はできる限り回避、または低減していると評価する」とした。
となっている。

 しかしながら、先のコラム『疑わしい「自主調査」』で指摘したように、環境アセスメントは、事業者が自分の事業について「自分で問題を作って自分で回答し自分で採点」するようなものであり、実際には耐震構造偽造問題のように、多数の問題点が指摘された事例に事欠かない類のものである。

 したがって報道が、事業者自身が行った環境アセスメントに記載された評価のみを伝えるのでは、公正な報道とはとても言えない。

 計画地周辺の住民、もしくはもっと広く都民が、この朝日新聞の記事を読んだとすれば、問題ないと書いてあるのだから、多くの人はこの道路事業について関心を持つことなく見過ごすか、最近の道路はよく出来ていて公害の無い道路なのだと誤解してしまうだろう。

 しかし、環境アセスメントが対象としている限られた観点からの評価だけでは、仮にその手法・内容に問題がなくとも、その評価は極めて限られた前提に基づいたものでしかない。

 例えば、大気汚染は5カ所設置された換気所から排出され、都心部の大気汚染のバックグラウンド(背景濃度)を押し上げることになるだろう。都心の大気汚染の構造は、このバックグラウンド濃度の高さに特徴があるが、アセスではこのような汚染の構造はそもそも予測・評価の対象としていない。

 一旦、道路が出来てしまったら、環境への影響を軽減することはとても困難であることは、国、自治体ともに自動車公害対策に長年にわたり苦戦してきたこと、喘息等の患者が増えていることをみればよくわかる。

 朝日新聞がこのタイミング(準備書が縦覧に供される直前)で、このような事業を一方的に評価する記事を掲載したということは、事業およびアセスメントに関心を持ってもらいたい、というよりも、事業の環境面の影響については関心を持つ必要はないのだというメッセージに他ならない。いわば、事業者である国交省と東京都の広報の立場に立つものである。

 そういえば、最近、環状八号線が50年ぶりに開通したという記事があったが、これも一方的な評価に終始しており、開通してよかった、という記事以外を主要各紙のいずれにおいても見いだすことは出来なかった。外環道、圏央道の必要性、早期完成を望む記事や広告も目立つ。

 いずれも事業者の主張を一方的に掲載したものであり、現に存在する地元住民の懸念や反対の声などは、裁判でも無い限り全くといっていいほど報じられない。環状道路礼賛の記事ばかりだから、一般の人からみれば反対の声など存在しないかのようだ。これでは民主主義国家の報道とはとても思えない。

 総論においては道路利権を批判しつつも、各論においては礼賛記事ばかりなのだ。新聞の「特殊指定」維持を主張するのであれば、報道にはジャーナリズムとしてもっと果たすべき役割があるのではないだろうか。