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会計検査院の
RDF施設への問題点の指摘と限界

鷹取敦

16 Dec 2010 無断禁転載
独立系メディア「今日のコラム」


 前回のコラム「福山RDF処理委託料問題の本質」で言及したように、会計検査院は環境省にRDF化施設に関する問題を指摘し改善を要求した。

★鷹取敦:福山RDF処理委託料問題の本質
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col198.htm

 この時点では概要のみが公表されていたが、その後、全文が公表され、会計検査院のウェブサイトでも公表されている。

◆会計検査院:「ごみ固形燃料(RDF)化施設の運営に資する情報を提供するなどして、施設の健全な運営及び市町村のごみ処理事業の安定化に資するよう意見を表示したもの」
http://www.jbaudit.go.jp/report/all/pdf/fy21_05_18_05.pdf

 ちなみに、会計検査院関連以外も含め、RDFの問題点に関する環境総合研究所への取材が、複数の全国紙、地方紙、業界誌等からこの秋以降、続々と続いており、RDF事業のもつ問題が、あらためて注目されていることを実感する。

 RDF(ごみ固形燃料)化施設には、環境省(以前は厚生省)が平成16年度までは国庫補助(廃棄物処理施設整備費国庫補助金)を、平成17年度からは名目をかえて交付金(循環型社会形成推進交付金)を、自治体に交付している。平成10年度からはRDF化施設だけでなく、RDFを焼却して発電する施設(RDF発電施設)も補助対象としている。

 環境省は自治体が設置するごみ焼却施設に莫大な額の国庫補助・交付金を交付してきており、RDFへの国庫補助・交付金もその一環である。補助の割合等の仕組みについては、下記の解説をご覧頂きたい。

★青山貞一:廃棄物処理施設を事例とした国から自治体への補助金及び地方交付税交付金の仕組みについて
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-col15266.htm

 会計検査院が全国のRDF化施設50施設、RDF発電施設(焼却施設)4施設を調査して指摘した問題点の概要は次のとおりである。会計検査院では具体的な数値、山梨県、和歌山県などの自治体の事例を挙げてこれらの問題を指摘している。(比較的順調な事例として北海道の自治体の例も紹介されている。ただし会計検査院は指摘していないが、北海道の事例にも問題はある。)
  • 多くの事業主体では、RDFの品質や引渡先、RDF化施設の運営に係る収支等について、十分な検討が行われていなかった。
  • 多くの事業主体で多額の燃料費や維持修繕費を要したり、発熱量が低く、塩分濃度が高いなどの問題等により引渡単価が低額となったり逆有償となっている例もある。
  • RDF発電施設においてはごみの減量に伴いRDFの搬入量が減少し、自治体の負担金が増している例がある。
  • RDFは発酵、発熱し爆発するおそれがあるため、より安全な管理が求められ、特殊な車両が必要であったり経路が制限され運送費が割高となっている。また、引渡先の確保に苦慮し、多額の運送費を支払って、遠方まで運送し財政負担が重い状況となっている
  • 事業主体の中には、RDF化施設の運営を休止して他の市町村にごみ処理事業を委託したり、RDFを多額の費用を負担して廃棄物処理事業者等に引き取らせたり、焼却して埋立処理したりしているものも見受けられた。
  • RDF化施設におけるごみ1tあたりの経費は焼却処理に比べ約1.5倍となっている。
 以上は、会計検査院の立場、すなわちお金の面だけからの指摘である。会計検査院では事例として挙げられていないが、御殿場・小山(静岡県)、三重県、福山市(広島県)、大牟田市(福岡県と熊本県の自治体が参加)などで、大きなトラブル、事故等が起きていることは何度も報道されよく知られている。財政面だけでなく、安全面からもRDFには大きな問題があるのである。

 エネルギーを余計に必要とすること、エネルギーの消費、焼却に伴い温暖化ガスを排出すること、廃棄物の焼却により有害物質を大気中に排出し、有害な灰が大量に発生しその処理コスト、環境負荷も増大することなどの環境面からも問題がある。

 つまり財政面、安全面、環境面について大きな問題があるのがRDFであって、会計検査院は、これらのうち財政に直接関わる側面だけを指摘したと言うことができる。

 財政面の問題点を踏まえて、会計検査院が環境省へ示した改善意見は、かいつまんでいえば、
  • 成功事例を研究して自治体に情報提供し、運営の在り方について検討を促すこと
  • RDFを利用できる他の施設にも交付対象とすることを検討すること
  • 施設整備にあたっては引受先の検討、収支見積もりの精緻な検討を条件とすること
などであり、指摘した問題点の大きさからみて、とても不釣り合いな内容である。

 たとえば会計検査院が成功事例としている例は、分別して生ごみを入れないようにしている例である。しかし既存のRDF施設で生ごみを抜けば、RDFの総量が減るため、会計検査院が問題事例として指摘しているように処理費用が増大し、自治体の財政負担が増してしまい解決策にはなりえない。

 そもそも生ごみや汚れた紙などの有機物(堆肥化可能)を分別し、プラスチックのうちリサイクルの容易なものを分別し、燃やすと危険な金属類や有害物質の含まれたものを分別すると、RDFの「材料」などごく僅かになる。わざわざRDF化施設でエネルギーとお金を使って「加工」する必然性はどこにもない。

 RDFは目的ではなくて、ごみ処理の手段の1つに過ぎないから、他に財政面、安全面、環境面等からみて、より適切な手段があればRDFに国のお金、地方のお金を投じ続ける必要は全くない。会計検査院の提案には代替案の検討という考え方は全くない。あくまでもRDFへの交付金の継続を前提とした意見である。

 本来、会計検査院が環境省に意見すべきだったのは、RDFへの交付金の交付の廃止と、失敗した多くの施設についてどう「後始末」するか頭をひねることである。また、金融危機等に金融機関に税金を投入する際にも指摘されたように「モラルハザード」を防がなければ将来、同様の問題を繰り返しかねない。つまり、RDFを推進した国、自治体の責任者の責任を厳しく問うことである。

 ちなみに、RDF問題の取材に来た複数の記者によると、環境省に取材をすると、多くの失敗事例は自治体が自ら選択し、運営しているのだから、国の責任ではなくて自治体の責任だ、と担当者が長々と言い訳するそうである。

 そもそも、不十分ながらも会計検査院が事例を調べ指摘した問題は、本来、環境省が自ら、行わなければならないことである。そして失敗が分かった時点で、その分野から撤退する判断を出来るだけ早くする組織でなければ、納税者として税金を預ける気にはなれない。もっとも、取材にきた記者のひとりに言わせれば、RDFがうまくいかないことは始める前から分かっていたはず、であるなら、RDFに税金を投入してきた動機は別にあるのだろうか。

 国の補助金、交付金は国が儲けた要件に合致する自治体の事業にお金を交付するのであるから、自治体からみれば「お墨付き」のようなものだ。残念ながら、日本では「国の言うことを聞いていれば問題ない」とする主体性のない自治体の人任せ体質が主因ではあるものの、「選択した自治体の責任」とするのは環境省の保身体質を示すものに他ならない。一方で、ただ国のいうなりにしていれば間違いないと思考停止してきた自治体にも当然責任はあるが、これをもって国の責任が減ぜられることにはならないだろう。そして、福山のRDF発電施設にメーカーであるJFEが一番多く出資していることからも分かるように、そしてトラブルや事故を多く起こしている施設を作ってきたのがメーカーであることからも分かるように、メーカーにも当然、大きな責任がある。

 ごみ処理は本来、2R(リデュース・リユース)を最優先にし、3R目であるリサイクルを製造者負担で行うことによって、廃棄物を減らす経済的なインセンティブを作るのがあるべき姿である。これを十分に行った上で残ったものをどうするか、というのが、あるべき優先順位であって、国も建前としてはそう提唱してきた。

 私たちが出したごみをどう処理するかは、自治体が住民参加で、諸外国や国内の意欲的な取り組みから学び、頭をつかって考えるべきことである。そのためには国は要件を設けた国庫補助や交付金を交付するのではなく、使途を限定しない交付金、財源を自治体に移すなどして自治体の主体的な取り組みに任せるべきであり、国が、霞ヶ関が示していることに誤りがないなどという無謬性神話から脱却すべきである。

 以下は取材を受けた記事のうち最も最近掲載された中日新聞の記者によるものである。

東京新聞
夢のごみリサイクル “失墜” 固形燃料「RDF」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/
living/life/CK2010122002000099.html

2010年12月20日

 家庭などの一般ごみからRDF(固形燃料)を製造する施設について、会計検査院が今年10月、環境相に改善を求める意見表示をした。「ごみを焼却するのに比べ、経費がかさむ一方で、RDFの販売価格が安いケースが多い」と指摘。かつて「夢のごみリサイクル」などと宣伝されたRDFの失敗例が目立っている。
 (白井康彦)

 人口九千人余りの山梨県南部町。静岡県との県境近くにあるRDF製造施設は、同町などでつくる一部事務組合が一九九九年に完成させた。ごみは破砕や石灰添加、圧縮成形などを経て、クレヨン状のRDFになる。施設のパンフレットは「運搬しやすい。保存できる。再資源化できる」とメリットを強調する。

 組合は、山梨県がRDFを燃料とする発電所を造り、同町など県内自治体の製造施設から集められたRDFを使ってくれると見込んでいたが、県の計画は白紙化。組合はRDFの引き渡し先の確保に追われた。

 同町環境センターの古屋秀樹所長は「うちのRDFは、原料に生ごみを含み、塩素濃度が高いのが難点」と話す。塩素濃度が高いと、RDFを燃やす炉の傷みが早いなどの問題がある。

 今は、RDFを愛知県の廃棄物処理会社に一トン五百円で販売。そこで、塩素濃度を希釈する加工がされてから、さらに北海道の製紙工場に転売されている。山梨から愛知までと、愛知から北海道までの運送費と加工費の合計は一トン当たり約二万一千円で、同町の負担。引き渡し先の確保のために、多額の経費を抱え込んだかたちだ。

 RDFの製造費も一トン約九万三千円かかっている。通常、一般ごみの焼却処理の費用は一トン二万〜三万円程度。同町がRDFの製造、加工、運送に投じる費用の負担はあまりに重い。

 同町同様、会計検査院が失敗例として挙げるのが和歌山県湯浅町。二〇〇二年に稼働したRDF製造施設は、火災事故後の維持修繕費の増大や施設から漏れる臭気などの問題で、〇六年に休止。ごみ処理は近隣自治体に委託されている。


 一方、順調な事例とされているのは、北海道富良野市のRDF製造施設。道内の工場にRDFを一トン二千六百二十五円で販売し、生ごみは別に堆肥化で処理されている。生ごみが原料に混ざっていないRDFは、品質が確保できている。

 会計検査院の〇七年度の調査では、全国四十六のRDF製造施設でのRDFの平均製造費は、一トン当たり六万二千六百六円。焼却費用に比べ、相当に割高だ。

 四十六施設のうち二十四施設は、三重、石川、広島、福岡の四県などの主導で設置された発電所にRDFを供給。

 一方、これ以外の二十二施設のRDFの引き渡し先は、製紙工場やセメント工場など。このうち、有料で販売できていた二十施設も、平均価格は一トン当たり五百四十五円と安い。残りの二施設は、お金を払ってRDFを引き取ってもらっていた。これら二十二施設では、運送費の負担も平均で一トン当たり四千五百十九円と、重い。

 会計検査院は環境省に「運営状況が良好なRDF製造施設の要因や、工場でのRDFの受け入れ条件を調べ、その情報を市町村に提供して、検討を促すべきだ」などと注文を付ける。

◆故障、事故も相次ぐ
 RDF関連の施設では、故障や事故などのトラブルも相次いだ。

 静岡県御殿場市と小山町が同町に1999年に完成させた大規模なRDF製造施設では、試運転の段階から故障が頻発し、火災も発生。RDFの引き渡し先の確保にも四苦八苦。市側がメーカーに損害賠償を求めて提訴する事態にまで発展した。

 2003年には、三重県桑名市のRDF発電所で、7人が死傷する衝撃的な爆発事故が発生。RDFの評価が失墜した。

 環境総合研究所の鷹取敦調査部長は「RDFに関する技術が未成熟なのに国が補助金を出し、施設整備が続いた。環境省、自治体、メーカーとも責任が問われる」と指摘。「環境省はRDFで失敗が続いた理由を検証し、ごみ処理方式として不適切であることが明らかになったRDF事業への交付金を打ち切り、各地のRDF施設についての“敗戦処理”を自治体と一緒に検討すべきだ」と強調する。