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福島県産米の全量全袋検査現場視察

−白河市内の検査場−
(その1・検査の流れ)


鷹取 敦

掲載月日:2013年8月3日
 独立系メディア E−wave
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 2013年8月3日(土)、任意非営利市民グループ「適切な情報提供プロジェクト」の入澤朗氏([政策学校]一新塾 卒)にお誘いいただき、福島県内で実施されていお米の全量・全袋検査の現場視察に参加した。

●背景

 福島第一原発事故による農作物等の汚染について当初、厚生労働省は暫定基準を設定(一般食品500Bq/kg)し、平成24年4月1日には100Bq/kg(一般食品)へと厳しくした。なお、事故前から定められている輸入食品に対する暫定限度370Bq/kgは廃止され、国内食品と同様に対応されることになっている。

 福島県は「基準値を超える米は絶対に流通させない」「消費者が安心できる米の出荷体制を整えて、理解を得ていく」ことをめざし、平成24年産米から田植え前の段階で「除染や放射性物質吸収抑制対策」を実施し、収穫後はすべての県内産米を検査し、放射性セシウム基準値を超える米を流通させない「全量全袋検査」を始めた。

 それにも関わらず、福島県産のお米の安全性について疑問を持つ消費者が少なくないことから、入澤氏は消費者にまず事実を知ってもらおう、ということから、第三者としてお米の検査のプロセスの評価、現地見学会等の取り組みを始めた。今回はその現場に同行させていただくこととなった。


●白河市役所駐車場の空間線量率

 視察には、入澤氏と一緒に活動されている方、市内にお住まいの方、首都圏の方などが参加された。白河市役所の駐車場で参加者のみなさんと待ち合わせた。

 待ち合わせの間に、駐車場の空間線量率をDoseRAE2で測定したところ0.13μSv/h(地上1m)であった。新白河駅前0.12μSv/hと変わらないレベルである。ところが、駐車場の端の背の高い植え込みに並べて設置されているリアルタイム線量測定システムの表示をみると0.22μSv/hある。


白河市役所駐車場のリアルタイム線量測定システム

 ちなみにいわゆるモニタリングポストは従来から各都道府県の代表地点に設置されているもので空気1kgが吸収する空気吸収線量率(単位:μGy/h)の表示であるが、リアルタイム線量測定システムは事故後に福島県内に多数設置され人間の被ばく量を評価するための指標である1cm線量当量率(単位:μSv/h)を表示している。両者はセシウムの影響を見る場合、1cm線量当量の方が2割ほど大きな数値を示す。

 DoseRAE2(個人線量計)もリアルタイム線量測定システムも同じ1cm線量当量率を表しているのに数値に大きな開きがある。リアルタイム線量測定システムのすぐ隣に背の高い植え込みがあるので、その近くの植え込み内の地面近くでDoseRAE2を用いて5分ほど測定したところ0.22μSv/hまで上昇した。リアルタイム線量測定システムは植え込みの影響を大きく受けている可能性がある。周辺の値としては過大評価となっている可能性があり、設置場所として適切かどうか疑問に感じた。


●検査の流れについての説明

 視察参加者集合の後、白河市 産業農政課 農政振興係の担当者とともに車に分乗し、市中心部から少し離れた場所にある検査現場に向かった。検査は各農家で行うのではなく、精米所等の米が集められる場所にスクリーニングのための機械を設置して実施されている。なお、消費者に直販する米、農家が自家消費する米、縁故米(親戚に配る米)も原則として検査の対象となっている。このような場合は、市に持ち込めば検査してもらうことができる。

 精米所では「全量全袋検査の実施フロー」等の関連資料が配付され、まず市担当者より全量全袋検査の方法、流れについて説明があった。

 検査は下記のサイトにあるような手順で行われる。今回視察した場所では、日立造船製のベルトコンベア式の検査器が用いられている。(日立造船に放射能測定の技術があるとは考えにくいので、検出器等は日立アロカメディカルなどの測定器メーカーのものを用いているのではないかと思われる。)

福島県・全量全袋検査の流れ



ベルトコンベア式の検査器


●測定の準備、信頼性管理

 機器を立ち上げた後、いきなり測定を始めることはできない。まずは検査器の中に何もない状態の放射線を測定する。これをバックグラウンドという。検査器の中に検査試料がない状態でも、自然起源の放射線が存在するため、その分を差し引かなければ正味の放射線量の検査ができないからである。バックグラウンドは日々、変化するので、毎日、検査器を立ち上げた後にはバックグラウンドを測定しなければ、検査を始めることはできない。ちなみに雨天の時には、自然起源のウラン系列の放射性物質の影響があるためバックグラウンドは上昇する。

 バックグラウンドの測定以外にもうひとつ重要なのが、エネルギー較正(エネルギーのずれがないように調整すること)である。放射性物質が1回崩壊する時に、核種毎に決まったエネルギーの(核種によっては複数の)γ線を出す。なお、ストロンチウムのように崩壊時にγ線を出さない核種も存在し、その場合は測定に前処理が必要となり手間暇がかかる。また、セシウムはγ線だけでなくβ線も出す。エネルギーを見れば、それがCs-134かCs-137か、あるいはもともとカリウムに一定割合で含まれる放射性カリウムK-40かなどを判別できる。検査器が正しくエネルギーを判別できているかどうか確認することが重要なので、1月に1回、エネルギー較正を行う。

 もう1つ重要なのは、そもそも放射線を正しく検出できているかどうか、である。これはあらかじめ量がわかっている放射性物質が含まれた標準試料を検査器に何回か通すことで確認する。検査結果はばらつきがある(放射線がランダムに発生するという性質が理由)ことから、複数回確認する必要がある。今回視察した現場では標準試料として塩化カリウム(Kcl)が用いられていた。カリウムは植物の生育に欠かせない物質で、食品にも人間の身体にも存在するが、天然カリウムには0.0117%の割合で放射性カリウム(K-40)が含まれ、崩壊する際にγ線を放出する(β線も放出)ため、これを標準試料として利用しているのである。ちなみにK-40は体重60kgの成人男子に約4000ベクレル(約66Bq/kg)が自然に存在している。


●スクリーニング検査の実施方法の説明

 視察したベルトコンベア式の検査器では、30kgの米袋を約10秒でスクリーニング検査できる。スクリーニング検査とは厳密な濃度を測定することを目的とするのではなく、確実に目標とする値(今回は100Bq/kg)を下回っているかどうか確認することを目的とした検査方法である。

 たとえば100Bq/gのスクリーニング検査のためには定量下限値が25Bq/kgとなるよう測定する。この条件で60Bq/kgを下回った試料は、99%の確率で100Bq/kgを下回ることになる。放射線は確率的現象(一定の割合でランダムに崩壊が起きて放射線が発する)ため、測定結果にはばらつきが生じる。このばらつきを想定してもなお99%の割合で100Bq/gを下回るためには、66Bq/kg以下でなければならない、ということである(定量下限値25Bq/kgの場合)。

 ちなみにわずか10秒程度で検査できるのには理由がある。ふつうの食品検査では数百グラム〜1キログラム程度の検査試料を用いるが、この検査器では30kgの試料を用いるからである。試料の量が多ければ、検出することができる放射線の数も増えるので、より短時間で検査が可能となる。検査時間は重量に反比例するから1キログラムの米を測定する時間の30分の1ですむ、ということである。同じ検出効率の検出器で1キログラムの米を使うと約10秒×30=約300秒=約5分かかることになる。

 所要時間はいつも10秒で固定ということではなくて、スクリーニングレベルの判定に必要な条件が整ったら自動的に検査が終了し、これがおおむね10秒程度ということである。厳密にはバックグラウンドレベルや検体によって多少変化する。

 この方法で100Bq/kgを下回っていることが確認できたものは合格となり、自動的に機械によってバーコードラベルと検査済みラベルが貼られる。検査済みラベルはQRコード付で、ウェブ経由でデータを確認できる。その都度、個別に印字され貼付されるので、偽造することは困難なものとなっている。

 なお、60Bq/kgを下回らなかったもの(100Bq/kgを99%の確率で下回っているかどうか確認できなかったもの)は詳細検査に回され、より精密に測定できるゲルマニウム検出器により測定される。この結果100Bq/kgを下回ったものには検査済みラベルが貼付され合格、上回ったものは隔離され保管場所に移動される(出荷されない)。

 以上をまとめると、100Bq/kgを確実に下回っているかどうか確認し、下回っていれば合格。下回っているかどうか分からないものは詳細検査して下回っていれば合格。合格しなかったものは隔離・保管され、出荷されない、という手順である。合格したものは機械が自動的に検査済みラベルを貼付する。ラベルは1枚1枚異なりデータベースで照合できるので偽造や再利用はできない、という仕組みである。

<「検査のデモ」へつづく>