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本特集では、2009年2月13日(金)から15日(日)に行った武蔵工業大学環境情報学部(この4月より東京都市大学環境情報学部)の青山研究室と株式会社環境総合研究所による合同沖縄県現地調査についてその概要を報告する。 2009年2月13日(金)から14日(日)にかけて、環境総合研究所の青山貞一所長(武蔵工業大学環境情報学部教授)、池田こみち副所長とともに沖縄本島に視察に行く機会を得た。 その19%の面積を基地が占めている沖縄本島には、以前にも3回ほど環境問題に関連した仕事のために訪れたことがある。今回は実質的に2日ちょっとの短い日程ながら、沖縄の置かれた現状、そして日本全体が直面している問題を象徴する数多くの場所を訪ねることができた。 ■2009年2月13日(金) ◆道の駅かでな(嘉手納基地)◆ 嘉手納基地に面した展望台付きの道の駅、基地内の滑走路がよく見え、軍用機の音がよく聞こえる。戦闘機による訓練等が行われている時には90ホンを超えるすさまじい騒音がするそうである。この時はいわゆる戦闘機の飛行は見られなかった。 道の駅 嘉手納 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10 道の駅 嘉手納から 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10 15日の報道によると米軍は北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えるため嘉手納基地に2機の電子偵察機RC135Sコブラボールを13日に緊急配備したという。当日、基地の上空を飛行していた航空機の1つ(当日はやけに低空を飛んでいる民間機と思っていた)がコブラボールによく似ていたので、あるいはこれだったのかも しれない。 道の駅には巨大な望遠レンズをつけた一眼レフのカメラを準備した人達が飛行機の飛来を待っており、大勢の中高生らしき若者も見学・見物に来ていた。 道の駅 嘉手納の屋上にはいつも報道陣が 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10 展望台からは左右に見渡す限りの広大な滑走路が広がっている。一般の空港の2倍くらい、成田空港や関西空港にそれぞれ1本しかない4キロメートル級の長さの滑走路が2本ある巨大な飛行場である。 ◆沖縄の交通機関と基地の存在感◆ 沖縄での移動手段は基本的に自動車しかない。空港から首里城付近までモノレールはあるものの、それ以外の場所に移動するためには、観光客はレンタカーで移動する以外(団体ツアーのバスを別とすれば)他の手段は皆無である。 当然、地元の方も基本的な移動手段は乗用車となる。平日の朝夕は場所によっては道路が非常に混雑するため、レンタカーで夕方の混雑した時間帯に空港に向かう時には、時間に余裕を持って移動する必要がある。 平地のいい場所を基地に占有されている沖縄本島では、米軍基地の占める面積19%という数字以上に基地の存在感・圧迫感は大きく、残られた狭い平地から丘陵部の斜面にまで住宅が密集してはりついている。この中の道路を自家用車・商用車が渋滞して走行するから、朝夕は道路交通騒音、自動車排ガスが住宅に直撃することになる。 ところで、日本の最近の乗用車タイプのレンタカーはほぼ全てGPSナビゲータを標準で装備している。沖縄をレンタカーで走ると、GPSに示される地図に、見慣れぬ濃いグレーの何も表示されない広大な範囲が、島の至る所にあることが分かる。 GPS上に示される基地(グレー部分) 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10 これが全て基地なのである。一般の道路だと思って走っているとその両側が基地であるということも珍しくない。極端な表現をすれば、基地と山に占められた残りの部分に街がある、という感じすらする。 ◆読谷村の産廃処分場◆ 嘉手納基地から離れて北上し、島の西に面した場所にある読谷村に向かった。ここには民間によって運営されている産業廃棄物の安定型最終処分場、破砕等の中間処理施設があり、さらにその上に管理型最終処分場が計画されている。この問題については、池田こみち氏が詳述されているので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。 ◆池田こみち:読谷村の安定型最終処分場問題 沖縄県読谷村の安定型最終処分場 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10 既存の処分場による汚染の問題を解決せずに、さらにその上に別の最終処分場を作ろうという計画には驚愕せざるをえない。現地を敷地のまわりの道路からみた。敷地の西側にある道路からは処分場の敷地は見えない。北にあるインターナショナルスクールの側は、土が盛り上がっており、直接見えにくいようになっていた。 以下は最終処分場と沖縄クリスチャンスクールインターナショナルの位置関係を示すグーグルアースのちず。 グーグルアースで見た読谷村の安定型最終処分場 南側の道路からみたところ、敷地は広大で、かつ高さ30mはあるかと思われる切り立った(人工的に掘削された)ガケに囲まれている。敷地内はその下の廃棄物や汚染の状況が分からないように(一部だけ廃棄物が表面に露出している部分があったものの)綺麗に整地されている。今後、もし管理型処分場になり、ガケの高さまで廃棄物を埋めたてたとすれば、極めて膨大な量が埋め立てられることになる。 ※以下は沖縄現地視察の最中、2月14日に出た新聞記事 沖縄タイムス 2009.2.14(土)朝刊総合2面 これだけの広い敷地であるが、周辺からは見えにくく、汚染の広がりも目には見えないため、関心の無い人には存在しないかのようですらある。 横浜市の住宅地のまっただ中、高級住宅地のすぐ隣に巨大な最終処分場があるが、これも周辺からは見えにくい構造となっている。いわゆる「迷惑施設」はとりあえず目に届かないようにしてあればいい、ということだろうか。 景観上はそれでいいのかもしれないが、汚染のリスクという観点からは十分に監視が行き届かないということでもある。隣接する学校の校庭では子供がサッカーボールで遊んでおり、西側にはすぐ近くに太平洋が見えた。 ◆沖縄の道路事情◆ 自動車が事実上、唯一の交通手段である沖縄本島をレンタカーで走っていて気がついたことがある。道路が非常に「使いにくい」のだ。「使いにくい」とは道路が狭いとか曲がりくねっている、という意味ではない、そこら中で工事が行われており、片側交互通行になっているのだ。 実感としては、ちょっと走るとすぐに片側交互通行待ちになる、という感じである。人里離れて、下水工事でもないだろう、というところでも至る所で道路工事が行われている。1つ1つの工事の内容までは分からないものの、人口密度や走行する自動車の台数、大きさが圧倒的に大きな東京でもこれほど頻繁に工事に行き当たることはないと思う。 島内どこにいっても道路は工事中 撮影:青山貞一 Nikon Digi Camera CoolPix S10 既存道路の他にも、少しでも曲がった道路があれば、まっすぐにする工事が行われている箇所、自動車の走行がほとんど見られないにもかかわらず、道路幅員が広く、きれいに舗装してある区間が少しだけ続く箇所なども目に付いた。 おそらく都道府県別完全失業率が突出して高い沖縄(2007年度、7.4%、総務省統計局労働力調査)において雇用機会を一時的に作ろうということではないだろうか。しかし道路工事などの公共工事では、将来世代の負担にはなっても、持続的な雇用にはなり得ないし、沖縄の活性化にはつながらない。 作られている道路、歩道は、本土と同じ規格・デザインの変哲のないものである。自然環境、文化・歴史が最大の資源であるはずの沖縄らしさはみじんも感じられなかった。 ◆残波岬◆ そんなことを感じながら、1日目の最後は沖縄海岸国定公園に指定されている残波岬へ行き、沖縄本土で一番高いという灯台と美しい夕日をみた。近くにはホテルとそれに隣接して岬からも見える風力発電の風車があった。 残波崎の場所はここ 残波岬の岩肌の海岸は美しく、夕焼けも素晴らしかった。周辺だけは公園の体裁が整っていたものの、ここに向かう道路の両側に見える景色には、残念ながら観光地としての魅力が欠けていたように思う。 観光地はその一角だけ「きれいに」整備されていれば魅力がある、というものではない。地域全体として、自然や文化、風土を活かした演出がないと訪れるものを引きつけるものにはならないだろうと感じた。 つづく |