正当性なき米国のイラク攻撃(1)

(1)帝国化する米国

青山貞一 Teiichi Aoyama
全体内容目次
2003.1.1〜2003.1.8 Version 1.3

その2 その3 その4 その5  全体内容目次  本ホームページの無断転載を禁じます。 リンク歓迎です!
No Justification for US Attack on Iraq(1)

                          
はじめに 〜米国のベテラン記者の話を聞こう〜

 米国のイラク攻撃に関連し、今年(2003年、平成15年)はきわめて陰鬱な年はじめとなりそうだ。

 世界各国は、何としても、この戦争を未然に防がなければならない。今や2000年前のローマ帝国に比肩する物理的な力をもったアメリカ合衆国の「帝国」化によって、発展途上国はもとより、EU、カナダ、オーストラリア、日本など先進諸国も、理不尽な戦争に駆り出され、政治、経済のみならず民主主義国家の根底さえゆらぐ可能性がある。

 米国のイラク攻撃に関連し、昨年末の毎日新聞外報面に注目すべきインタビュー記事が掲載された。インタビューアーはケネディ政権以降、ホワイトハウス詰めの記者を務め、大統領が敬意を表し、いつも最初に指名することで知られる女性記者、ヘレン・トーマスさん(82歳)(※1)だ。

 ヘレンさんは2000年に57年間勤務したUPIを退社、現在コラムニストとして第一線で現役で活躍している。インタビューに答えたヘレンさんの言葉は、きわめて深く重い含蓄を持つ。 まず、そのインタビュー記事を読んで欲しい。

Q 対イラク戦争は回避できますか。
◆戦争のにおいを感じる。イラクをにらんだペルシャ湾への軍隊や戦闘機の派遭は口先だけ脅しではない。イラクが大量破壊兵器の開発問題で、どう対応しようと関係ない。米国はすでに戦争することを決めている。ひどいことだ。

Q イラク攻撃は正当性がありまずか
◆湾岸戦争後の過去11年間、イラクは完全に封じ込められてきた。米国はイラクの動きはすべて把握している。大量破壊兵器をめぐる議論はひどいものだ。世界で8カ国が核兵器を保有している。これらの国は「脅威」とはされず、いつか持つかもしれないという程度の国が「最大の脅威」になってしまった。全く論理的じゃない。

Q 米国社会のムードをどう説明しますか。
◆米国民はイラクのフセイン大統領が敵だと思い込まされ戦争は不可避だと受け止めている。なぜ今戦争する必要があるのか米国民はその疑問を持つべきだ。私は多くの戦争を見てきた。敵として戦った相手はすべてかつては米国の友だった。米国は違う敵をつくりあげては罪のない市民を殺してきた。しかし、戦った相手は本当の敵だったのか? 米国民はこういう議論をすること嫌がる。

Q 対イラク戦をめぐるメディアの状況は。
◆ホワイトハウスでの記者会見制度は重要だが、メディアは今、政府に強く影響されている。ジャーナリストが悲しいほど単純となっている。

Q 対イラク戦は米国にとって何のための戦争でしょうか。
◆英国の歴史家ば「永久の友好国などない。永遠の権益があるのみだ」と語った。米国にも見事に当てはまる。米国の「永久の権益」とは油、権カなどだ。 でも、米国は世界のいじめっ子になってはいけない。私が愛する米国は、そんな国ではないはずだ。

出典:2002年12月30日、毎日新聞朝刊
【関連情報URL】
(※1) ヘレン・トーマスさんの経歴 http://www.womcom.org/conference2001/helenthomas-bio.html
ヘレン・トーマスさんのプロフィール http://www.aeispeakers.com/Thomas-Helen.htm
ヘレン・トーマスさん関連コラム(ベテラン・ジャーナリスト、ブッシュ政権を咎める) http://web.mit.edu/newsoffice/tt/2002/nov06/thomas.html
ヘレン・トーマスさんプロフィール、コラム等

イラクの言い分を聞こう(アジス副大統領インタビュー)

 日本で流される米国のイラク攻撃に関する情報の圧倒的多くは、米国を起源とするものだ。

 なぜか、日本のメディアの独自取材はきわめて限られている。湾岸戦争のときも、アフガン戦争の時でさえ、圧倒的な情報は米国からのものであった。そもそも戦争やその前段階にあっては、事実が隠蔽される。国民は政府によるプロパガンダによって情報操作されるのだ。

 インターネット時代になり、その状況は随分変わったと思われている。だが、今回のイラク攻撃に関するマスコミ情報を見る限り、やはりその圧倒的多くは米国か、せいぜい英国からのものである。

 そんななか、2003年1月5日のテレビ朝日系「サンデープロジェクト」のキャスター、田原総一朗氏がバクダッドに入り、イラクのタリク・アジズ副大統領に直撃インタビューを行なった。

 田原氏はアジズ副大統領へのインタビューに先駆けてバクダッド市内を視察した。市内の病院で医師は米国などの経済封鎖で医薬品が足りなくなっていること、米国が湾岸戦争の時に使った劣化ウラン弾の後遺症で10年以上たった今でも癌が増えている実情をテレビ映像を通して訴えていたことが印象的である。

 以下はインタビューの概要である。一字一句の再現ではないことを最初にお断りしておく。

Q:米国のイラク攻撃のねらいは?

◆アジズ:イラクを支配することでイラクの地下に眠る資源エネルギーを自由にあやつることが目的だ。


Q:北朝鮮ははっきりと核開発をやっているといっているにもかかわらず米国のイラクへの対応と北朝鮮との対応の違いはどこから来るのか?

◆アジズ:それは、北朝鮮には石油がないからだ。


Q:石油産出国第一位のサウジは不満を持ちながらも米国と仲良くしている。イラクもサウジのように不満をもちながら、いやいやながらでも米国との関係をよくする気はないのか?

◆アジズ:イラクも80年代にはアメリカとよい関係を持とうとしていたが、アメリカが敵対的な態度をとったことが原因だ。90年代に入りソ連が崩壊すると、米国は超大国となりこの地域を支配しようとしている。


Q:米国の覇権主義に中東諸国は反対すべきではないのか?

◆アジズ:その通りだが、中東諸国は政治基盤が弱い。


Q:米国は世界中に自分にとって都合の良い情報をばらまいているが、イラクの情報は少ない。そこで今日はアジズさんの本当の気持ちを聞きたい。

◆アジズ:その通りだ。


Q:米国はイラクが中東での覇権をねらってて、サウジアラビアはイラクを脅威に感じていて、アメリカにイラクを潰して欲しい、そうすればアラブ地域が安定すると考えていると言うが?

◆アジズ:それは米国の言い分だ。私は、シリア、ヨルダン、サウジのいずれの国王からもそのようなことは聞いていない。彼らはみな戦争反対を訴えている。


Q:あなたはイライラ戦争時にラムズフェルドに会っているが?なぜアメリカはかわったのか。

◆アジズ:そうです。83年、レーガン大統領の特使としてイラクを訪問した際にあった。米国はイライラ戦争でイラクを支援していたわけではなくイランが怖かっただけだ。米国はイラクを支援する一方でイランにも武器を売っていた。後でイランコントラス・キャンダルで分かったように。米国はサウジなどの手前、イラクを支援しているふりをしているだけだった。


Q:アラブ諸国も湾岸戦争時のクウェート侵略のようなイラクの覇権をおそれているのではないか?

◆アジズ:それは違う。湾岸戦争はクウェートと米国がたくらんだことだ。イラクとサウジはよい関係だったが、問題は、サウジがアラブ諸国の問題解決を米国に頼りすぎたことだ。湾岸戦争後、91年にサウジは米軍を受け入れ、その後も米軍はサウジに居座っている。


Q:ではなぜサウジは米軍に出て行けと言わないのか?

◆アジズ:それはサウジの弱さだ。


Q:バクダッドの病院に行ったら経済封鎖で薬がないと言われた。米国にこれは人道問題だと言ったら、米国はイラクに薬品をわたすと、生物兵器や化学兵器に使うから、また、医療機器も、兵器にしてしまうと言っていたが?

◆アジズ:米国の言い分はうそだ。米国はイラク国民を殺そうとしている。経済制裁によってこれまでに150万人もの国民が殺された。この数は戦争での死者よりも多い。薬品などの輸入を止めているのは英国と米国の国連大使だ。日本も以前人道物資の輸出を止めたことがある。


Q:米国はクルド人やイライラ戦争でも化学兵器を使ったことがあり、実績があると言っているが?

◆アジズ:イランイラク戦争は15年前に終わったことだ。なぜ今そのような昔の話を持ち出すのか。


Q:米国は(化学兵器を使ったという)映像を盛んに流している?

◆アジズ:それは違う。あの場所で化学兵器を使ったのはイランだ。確かに、米国は国際宣伝をながしている。我々は情報戦争で負けたと思っている。


Q:米国はイラク国民は本当は米国と仲良くしたいが、フセインが怖くてできないので、イラク国民にかわってフセインを倒し、イラク国民を解放すると言っているが?

◆アジズ:フセイン大統領も米国とよい関係を望んでいたが、米国は帝国主義国家だ。米国は世界の国々と対等の関係としてでなく、自分の召使いだと思っている。


Q:日本、ドイツなどのEUも戦争を欲していない。日本の世論調査では日本人の70%以上が米軍のイラク攻撃に反対している。

◆アジズ:日本のそのような実情は知らなかった。イラク攻撃を欲しているのは米国とイスラエル(ブッシュとシャロン)だけだ。米国は自分の力に酔っていて他国の言うことを聞かない。


Q:1月27日までに大量破壊兵器やそれに関連する情報が発見できなかった場合、米国が引き下がると思うか?

◆アジズ:わからない。これについては答えられない。国連安保理は、戦争に反対すると思うが、米国はそれに同調しないだろう。米国の国内でも多数の反戦デモが行なわれているにもかかわらず、大統領はそれを無視している。


Q:ブッシュの大統領としての正当性は?

◆アジズ:ブッシュはゴア候補に50票しか差がなかった。


Q:父のブッシュ大統領は、湾岸戦争でイラクを徹底的にやっつけなかったから選挙で落ちたので、今回は徹底的に潰そうとしているのか。

◆アジズ:ブッシュ前大統領も、地上戦になれば、多くの犠牲者がでることを知っていた。今回ももし戦争になれば多くの犠牲者が出ることになることは間違いない。


Q:私服でインタビューに臨まれたのでびっくりした。軍服かとおもったが。

◆アジズ:服は関係ない。私服でも準備は出来ている。


出典:2003年1月5日、テレビ朝日系「サンデープロジェクト

イラクの言い分を聞こう(ラマダン副大統領インタビュー)
 さらに以下は、2003年1月12日のテレビ朝日系「サンデープロジェクト」での田原総一朗氏によるイラクのラマンダ副大統領への直撃インタビューの概要である。以下も一字一句の再現ではないことを最初にお断りしておく。
Q::ブッシュ大統領は、イラクを悪の枢軸のトップにあげているが、悪とはどういう意味なのか

◆ラマダン:その質問はブッシュにするべきである。


Q:私もそう思うが、この悪の意味がラマダンさんにわかるか。

ラマダン:世界中の利益を自分のものにしたがる人こそ悪だと私たちは思っている。ブッシュ政権が世界を支配しようとしていることは分かっている。アメリカはイラクに何を求めているのか。なぜ中東とその周辺国に軍隊を派遣するのか。イラクが軍隊を使ってあるいはテロリストを使ってアメリカを攻撃したことがあるのか。アメリカの同時多発テロにイラクが関わったという証拠でもあるのか。軍の派遣がイラク攻撃のためでないとすれば、何のためなのか。これは戦争ではなく一方的な侵略だ。世界中の国々はこの攻撃に立ち向かうべきだ。なぜなら、その他の国にも同じことが起こりうるからだ。アメリカの要望に応えなければ悪の枢軸やテロ国家として名指しされ、軍で攻撃される。アメリカが世界の支配者であり、すべてを決めている。世界中に恐怖、不安定、無秩序を広げ、大量破壊兵器を使用し各国を支配しようとしてテロを行っているのは他ならぬアメリカなのだ。


Q:湾岸戦争のときはサウジアラビアがアメリカをはじめとする多国籍軍に金もずいぶん支援し、基地も提供した。今度もやるんじゃないか。

ラマダン:いや、そうはならないだろう。サウジの人々や湾岸諸国の人々が攻撃に反対している。仮に攻撃があったとしてもアメリカの利益を損なうように動いてくれるはずだ。今の状況は91年とは違う。もはやアメリカのねらいは明らかだ。湾岸地域の石油を奪い、イスラエルを支援すること。アラブとイスラム教徒が憎いのだ。


Q:アメリカが一番憎んでいる人物が世界に二人いる。ひとりはフセイン大統領、もう一人は北朝鮮のキム・ジョンイルこの人だ。この二人は独裁者で国民を大切にしていない。国民は大変不幸だ。だから我々(アメリカ)はこの二人を追放し、それぞれの国の国民を解放し、幸せにしてやるんだ、と言っているが。

ラマダン:北朝鮮に対しては本気ではない。なぜなら北朝鮮には奪う石油もないし、パレスチナ問題もないからだ。しかし、イラクの場合、アラブの石油もあるし、アラブの土地を占領しているイスラエル問題もかかえている。イラクはパレスチナへの支持を明確にしている。当然ながらブッシュ大統領はフセイン大統領を嫌っている。性格が正反対だからだ。ブッシュ大統領には歴史もなければ過去に業績もない。裁判所のおかげで大統領になった人間でしょ。正当性を持って戦う姿勢などないのだ。フセイン大統領は16才のときからイラク国民とともに歴史を築き、過去の独裁的な政権に立ち向かってきた。民衆的な革命を指導し、イラクを復興させ、新しい時代をもたらした。くじで選ばれた大統領ではなく、国民的なリーダーなのだ。そんなコンプレックスがあるからブッシュ・ジュニアはフセイン大統領を嫌うのだ。それはフセイン大統領にとって光栄なことだ。好きになってほしくない。


Q:しかし、世界中の人々はその点を疑っている。フセイン大統領はほぼ100%の支持率で大統領に信任されたということは、逆にそうとう徹底的な国民の監視機関をつくって反対票が投じられないようにしたのではと。これは弾圧じゃないかと。

ラマダン:それはまちがっている。ほぼ全世界の意見と言うが、それはあなたの個人的な意見だ。世界の新聞や政党の代表者が投票に立ち会って結果を確認しているのだから。イラク国民は指導者であるフセイン大統領と固く団結しているのだ。これほど国民と指導者が団結している例は全世界でイラク以外にはない。あなたに尋ねるが、イラク国民は91年の侵略に対して、どのように立ち向かったのか。その後12年間の経済制裁に対し、どのように立ち向かったのか。悪人たちが破壊したあと、誰が再建したというのか。日本も悪人たちの一員として破壊に加わったではないか。イラク国民が建設した工場や橋も破壊されたが、誰がこうした施設を再建したのか。よその国の人たちが再建してくれたというのか。武力や権力による強制でこうした施設の再建が可能だと思うか。国が侵略されようとしている今もイラク国民は再建を続けている。フセインが独裁者だというのは間違っている。まやかしだ。それはアメリカとイギリスが言っているだけのこと。残念だが日本もそちら側だ。


Q:日本はアメリカイギリスに続き3番目の敵であると言われ、新聞やテレビで報道されているが、それは事実か。

ラマダン:事実だ。ただ、敵という言葉は使っていないが、日本は非常にアメリカ、イギリスよりの立場を取っている。だから日本は三番目といっているのだ。イラク政府もイラク国民も、なぜ日本がこのような立場を取るのか不思議に思っている。日本とイラクの間に過去に敵対していたことがあるわけではない。90年まで日本はイラクと経済的な結びつきが最も強い国の一つだった。しかし、日本は突然イラクに敵対的な行動をとる国へと変貌していった。日本は、トルコがイラクに敵対的な姿勢を取るよう要請し、イラクの石油の輸送を止めさせるためにトルコに数100万ドルを支払った。また、日本は経済援助を必要としている多くの国々に援助の見返りに反イラクの立場を取るように要請している、さらに、日本は国連のイラク制裁決議に加わり、イラクと結んだ契約を凍結している。日本政府は日本企業がイラクで行っている数百ものプロジェクトを中止させたのだ。もしかしたら、日本政府は広島と長崎に原爆を落としたのはイラクであり、アメリカがイラクに復習してくれるとでも思っているのではないか。


Q:ぜんぜん大誤解。そんなことは思っていない。ただ、日本人がもっている最大の疑問は、フセイン大統領は独裁者で人の言うことを聞かない人だということ。

ラマダン:イラクに住んでいるわけでもないのに、そんなでたらめを言うべきではない。日本に住んでいない私が日本を独裁政権だというのと同じではないか。


Q:そこは誤解している。私はそういうタブーを侵してまであえて質問をしている。私が思っているのではなく、アメリカがそういう情報を世界に流している。

ラマダン:アメリカが世界の基準ではないのだ。アメリカに大量破壊兵器と闘うという権利はない。大量破壊兵器を世界で一番多く持っているのがアメリカなのだから。アメリカは大量破壊兵器の使用を禁止すると言い、○○国が大量破壊兵器を使用していると言っている。しかし、実際に使用したことがある唯一の国がアメリカなのだ。広島、長崎、ベトナム、朝鮮半島で使ったではないか。なのに、アメリカはでたらめなスローガンを掲げている。


Q:通訳の問題かもしれないが、私は、アメリカが言うから信じているというのではなく、アメリカがそういう情報をいっぱい流している、毎日毎日そういう情報が世界中に流れると世界の人々は、あーそうか、と思ってしまう。それに対し、イラクからの情報はほとんどない。だから私はイラクまで来てラマダンさんの本音を聞こうと思っている。

ラマダン:その通りだ。アメリカとイスラエルの情報に牛耳られているマスコミは非常に危険なものだ。彼らは真実をゆがめて伝えている。実際にイラクを訪問してほしいのだ。


Q:そこで、聞きたいのは、ラマダンさんはフセイン大統領の考えることに意見を出したり、議論はできるのか。

ラマダン:フセイン政権と肩を並べるほどの集団指導体制はどこにも存在していない、と私は信じている。民衆も党もみなサダム・フセインを愛しているからこそフセイン政権が存続しているのだ。私たちイラクの統治者は日、米、英の指導者とは違う。イラクは民主主義、国民主義、民族主義を採っている。私たちの体制は50年間続いている。私たちはアラブの統一や公正な社会の樹立を目指している。だからこそ私たちの政府は若者や労働者、農民、そして貧しい人々を包み込んでいる。私たちの方針は資本主義社会の方針とは異なる。アメリカ政府もイギリス、日本も私たちの体制を理解することはできないだろう。


Q:こういうことを聞く人間はいないと思うので敢えて聞くが、そうするとイラクの閣僚の間で議論、ディスカッションを闘わせることが日常的にあるんですね。

ラマダン:もちろん、イラクでは大統領にお伺いを立てなくても様々な政策を実行することができる。そういうことはイラク以外の国ではできないだろう。


Q:世界の多く人々がそこを誤解しているとおもうが、フセイン大統領の気に入らないことを言ったらたちまち追放され、場合によっては強制収容所に入れられ、イラクは怖い国と思っている人が多い。

ラマダン:それはアメリカ政府やその支配の元でのマスコミが広めている全くのでたらめだ。みなさんもご存じだと思うが、2ヶ月前、アメリカの大統領とイギリスの首相が演説を行い、イラクの工場に大量破壊兵器が隠されていると決めつけた。しかし国連の査察団がそれらの工場を訪れると何も見つからなかった。これはアメリカとイギリス政府が広めている嘘、真っ赤な嘘だ。彼らはイラクが原爆を作っているといっている。しかし、イラクに原爆を作る能力がないことを一番よく知っているのが彼らなのだ。彼らは真相を知りながら侵略を正当化するためにそう主張しているのだ。原爆を嫌っている世界中の国々から支持を得られるから。昔からひとつお願いがある。マスコミを通じて訴えたいのだ。
 私はフセイン大統領とともに、1974年から日本との関係を築くことに力を尽くしてきた。中曽根元首相が74年にイラクを訪れたとき、イラクと日本は協定を結んだ。その協定はガス、石油、工業プロジェクトなどだ。私はこうした当時の良好な関係を無駄にしたくないのだ。日本がアメリカに加担しないこと、盲目的にアメリカに従属しないことを願う。アメリカ政府の言葉をそのまま信用しないでほしい。日本がイラクに代表団を送り、実際に目で見て確かめることを希望する。日本政府がアメリカ政府の言葉を鵜呑みにしないことを願う。


Q:私も同じ意見。だから私はわざわざイラクまで来た。ラマダン副首相の意見は日本中に、また、世界中に流される。だから第三の敵だ、などと言うと日本人のイラクに対するイメージを悪くするから、それは言わないでほしい。日本に「我々の味方をしろ」と言って下さい。

ラマダン:嘘は言えない。日本は敵ではないとは言えない。しかし、日本政府に呼びかけたい。日本の国益を考えるならイラクに来て真実を確かめてほしい。(日本は)私たちと友好関係を築くすべを知っているはずだ。イラクに進出した多くの日本企業はイラクやイラク国民がどれだけ日本と日本人を愛しているか知っているはずだ。


田原:どうもありがとうごじました。

ラマダン:お互いに厳しいことを言い合いましたが、イラク国民は日本人を愛しています。

出典:2003年1月12日、テレビ朝日系「サンデープロジェクト

「帝国」化するアメリカ合衆国

 この1年を通じて最も気になったことと言えば、それは「帝国」化しつつある、いやすでに「帝国」となっているアメリカ合衆国の存在と行方である。

 イギリスにおける最新の世論調査では、国民の3人に一人が「ブッシュ大統領はイラクのサダム・フセイン大統領よりも世界平和にとって脅威だ」(※1)と答えている。英国のブレアー首相だけでなく、世界各国の首脳の多くがブッシュ大統領の「ペット犬」(※1)と化していることも大いに気がかりである。ペット犬は、イギリス国民がブッシュに追随するブレアーを皮肉って呼んでいる言葉だ。

 (※1) 2003年1月3日、毎日新聞朝刊、欧州局長、コラム発信箱、「英首相、汚名返上せよ」 

 米国を「ならずもの国家」と公言してはばからないマサチューセッツ工科大学のノーム・チョムスキー教授(※2)は、「テロとは他者が『米国』に対して行う行為であり、『米国』がどんなに残虐なことを他者に行っても『防衛』や『テロ防止』と呼ばれる」と述べている。至言である。これこそ今や「帝国」化した米国の素顔ではないだろうか。

 (※2) チョムスキー教授については、「正当性なき米国のイラク攻撃」(5)を参照。

 私もコメントで出演した元旦深夜のTBS特別番組「歴史は繰り返す(Deja vu)は、今の米国をして2000年前の「ローマ帝国」になぞらえた。カエサル(シーザー)がしていたこととジョージW.ブッシュがしていると。両者は時代を超えうりふたつであると言うのだ。

 実際、強大な経済力と軍事力を背景としたブッシュ政権の覇権的な言動、マスコミやジャーナリズムの意図的操作による世論操作、各国を敵と味方に二分する政治手法、自由や正義を振りかざしながら実は自国のむき出しの欲望を満たし、権益をむさぼる問題のすり替え、次々に違う「敵」を作り上げては殺してゆくむごい戦術など、確かに米国がしていることはかつて「ローマ帝国」がしてきたことと酷似している。

 以下はそのTBSの特別番組の概要である。

 今回番組でとりあげるのは、イラク開戦が囁かれるアメリカ。「アメリカ覇権主義の行く末」と「歴史」の類似点を探リながら、イラク攻撃を着々と進め、国際世論を強引にそこに持ち込もうとするアメリカの行く末を占っていきます。

 昨年9.11のテロ以降、強硬路線をひた走るブッシュ政権。その強硬路線が、アメリカ国民の支持を得ていることは、上院下院、そして知事選挙での共和党圧勝で明白なものとなりました。「世界の警察」を自認し、イラクやイラン、そして北朝鮮を「悪の枢軸テロ国家」と呼び、「正義」の旗印の元、戦争にひた走ろうとしているアメリカ。しかし、その姿に一種の危うさを感じている人ば少なくないのです。

 アメリカの覇権主義の行く先に何が待っているのか? そしてこの世界情勢の中で日本はいかなる役割を果たしていけばよいのか? 「歴史」の中から、その答えを探っていきます。

 対イラク開戦を目指すブッシュ政権戦争の正当性を訴えるブッシュ大統領の演説に出てくる言葉「正義」、自由世界を守るという言葉....。しかしアメリカが唱える「正義」は本当に「正義」なのだろうか? 「アメリカ・イズ・NO1」そんな思いの中で、自らに敵対するものをすべて敵と呼び、それを掃討することを自国の論理で強引に「正義」と呼んでいるのではないのだろうか?

 歴史を振り返ってみると、自国の諭理で覇権主義に走った国の末路が見えて<る...。 例えば末期のロ一マ帝国。 演説によって、「略奪と搾取」の為の戦争を「正義」だと国民に訴えた事実が歴史から浮かび上がってきた。 ローマ帝国の富は、周囲からの略奪と搾取から産み出されたもの。つまり略奪と搾取を繰り返さなくては、ローマの栄華を保つことができなかったのである。国民には「正義」という旗印を掲げながら、その裏にあったのは、「侵略」以外の何者でもなかったのである。アメリカの場合も、「正義」という言葉へのすり替えがあるのではないだろうか?

 7つの海を支配したスペイン。その栄華の始まりは、イスラム教徒に征服された国土を回復しようとした「レコンキスタ」から始まっている。連戦連勝、イスラム国家から国土を回復しだスぺイン、しかし、なぜか「レコンキスタ」は止まらなかった。スペインの「国土回復」の理念は、いつしか「無限の富の拡大」にすり替わっていたのである。

 無限の富の拡大の欲望は、南アメリカ大陸を席巻、原住民を虐殺し、富を略奪し続けるのである。もしかしたらアメリカは自国の都合を「正義」とすり替えていないだろうか?

 アメリカヘの富の集中。そこにもロ一マなどの覇権国家との類似点が見られる。ローマは戦争によって富を得ており、それが元老院と呼ばれる一部の特権階級に流れていた。アメリカでも同じ事が起っているのでは....。

 「アメリカの諭理に従う」 世界が今、その方向に向かっている今、日本はいかなる役割を果たしていけばいいのか。歴史の中に何かヒントはないのだろうか? 歴史の繰り返しのわだちから抜け出すにばどうすればいいのか? 現在から歴史の陰翳を照射することで、今を生きるヒントをあぶり出していきます。

出典: 2003年1月元旦、TBS特別番組、「歴史は繰り返す」の制作企画書より

※ 帝国はラテン語の Imperium Romanumの訳。 Imperiumは命令、権力、支配、職権、命令権を表す。帝国は英語でEmpire 。 empireは帝国、帝王の領土、植民地また帝王の主権、皇帝の統治、支配権、主権を意味する。


「正義」の背後の見えざる手?

 今日の世界では、ブッシュ大統領が「正義」を振りかざせば、それがいやおうなく「正義」と化す、いや化さざるを得ない「関係の絶対性」に各国が追いやられている。

 本当は単なる物的な欲望の希求や利権の行使にすぎないことを「正義」とすりかえるブッシュ政権の流儀がまことしやかにまかり通ろうとしている。

 ブッシュは9.11の同時多発テロに対抗し、自分たちをイスラムに対峙する十字軍となぞらえ、今でも自分たちのしていることをキリスト教の神の思し召しと思っている。とんでもない思い上がりである。

 ブッシュやそれを背後から支援するいわゆるネオコン(新保守主義)(※1)勢力の神をも恐れぬ傲慢な言動によって、世界の国々が戦争に駆り出される状況が日増しに高まっている。 ネオコン勢力は米国の独善的な価値感を問答無用で他国に押しつける。もしそれに従わなければ容赦なく武力で威嚇する。

 彼らが掲げる「自由」や「正義」、「民主化」と言う言葉の裏には、絶えず他国のエネルギーや資源を一方的に収奪する権益が見え隠れしている。湾岸戦争しかり、アフガン戦争しかりである。冷戦構造終結後に米国の一極集中的な世界覇権を指摘するひとは少なからずいた。だが、これほどまで帝国化した米国の行状を予想したひとはいない。

 毎日新聞の2002年末の特集(※2)では、ネオコンの実態を次のように述べている(以下は概要)

 ネオコンの代表組織のひとつ「アメリカ新世紀プロジェクト」(PNAC)は、イラク解放委員会(CLI)と多くのメンバーが重なっている。新世紀プロジェクトは1998年1月26日付けでクリントン大統領(当時)に一通の書簡を送った。「大統領。フセインを政権から引きずりおろすべきであります。武力行使も辞さない覚悟が必要です」。 書簡には(現在の肩書きで)ラムズフェルド長官、ウルフォウィッツ国防副長官らの署名がある。1997年6月には、@国防支出増額、A敵対政権への挑戦、B諸外国への政治経済的自由の推進などを織り込んだ「原則声明」を発表した。これにはチェイニー副大統領やジェブ・ブッシュ・フロリダ州知事らも署名した。新世紀プロジェクトのウィリアム・クリストル会長はブッシュ(父)副大統領の首席補佐官を務めている。彼は「中東の民主化」を目標に掲げ、「ネオコンが現政権の知的枠組みを用意した。大統領のイラク政策は我々の意見が沿っている」と明言する。

 このように、ブッシュ政権の背後には、圧倒的な経済力、軍事力を背景に自分たちの価値観と相容れない国や地域に武力介入も辞さない権力行使を考える新保守主義の面々が控えている。

 さらに後述するように新保守主義はイスラエルを支援するキリスト教右派などの宗教組織とも有機的な連携をとる。それらの勢力は大統領選挙、上院下院選挙、州知事選挙などでも圧倒的な集票能力をもつに至っているのだ。

【参照情報】
※1 2002年12月30日、毎日新聞朝刊、アメリカンパワー民主帝国、
   イラクとの戦い「新保守主義」
    ネオコン(New Conservative)は、1960〜1970年代に米民主党の対ソ連、対イスラエル政策
    への反発から同党を離党した人たちが源流。

※2 2003年1月6日、毎日新聞朝刊、、アメリカンパワー民主帝国、イラクとの戦い
   「ネオコンと連帯する宗教右派」 
米国のネオコンについて
    
 ところで、2003年1月下旬から2月上旬早々にも、米国によるイラク攻撃が現実味を帯びてきた。

 ヘレン・トーマスさんが言明するように、米国にはどうみてもイラクを攻撃する正当性があるとは思えない。しかし、米国は単独でもイラク攻撃をはじめる構えを見せている。

 2002年12月末で7万人、今後1ヶ月のうちに総勢10万人の兵力をイラク周辺に結集しようとしている。 わたくしは、一昨年秋に「米国のテロ報復戦争の愚」(「非戦」、幻冬舎、収録)、昨年夏に「エネルギー権益から見たアフガン戦争」(岩波、「世界)」」を執筆するなかで、米国の傲慢で権益に満ちた単独行動主義(ユニラテラリズム)、さらには新たな帝国主義そしてエネルギー植民地主義とでも言えるビヘイビアを批判し続けて来た。残念にも、論考のなかで危惧したことは、ことごとく現実味をおびてきている。

 ここでは、年のはじめにあたり、世界を根底、底流からゆるがす米国、その米国のブッシュ政権がふりかざす「正義」に、どれだけの正当性があるのか、米国が掲げる「自由」や「民主化」にどれだけ正当性、妥当性があるのか、について可能な限り具体的に検証してみたい。

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