第一部 スコット・リッター氏講演


 
2003年2月6日午後6時〜午後6時50分
東京大学駒場900番教室


イラク攻撃不支持賛同署名受付中!

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<通訳 星川淳氏、トランススクリプト 池田こみち氏>

 イラクが大量破壊兵器をいることが世界の脅威となっているが、私は、イラク武装解除のため、査察官として7年間にわたりイラクで過ごした経験がある。91年当初、イラクは兵器を隠したり査察を妨害したりしたが、我々査察団はそんな中でも大きな成果を収めることができた。96年までにイラクの90〜95%の大量破壊兵器を検証可能なかたちで破壊することができた。それには兵器工場や設備の100%が含まれる。しかし、5〜10%は、不明なまま残った。それらについて、確認するため、94〜98年、イラク全土に査察・監視のための立ち入り査察を行ってイラクを包囲し、厳しく調べたが、大量破壊兵器が残されているという証拠はなかった。

 しかし、その後も国連安保理は100%の大量破壊兵器の破壊が目標であるとして、査察がまだ不十分だと主張している。査察が成功するためには、次の3つの要件が必要である。

@イラクが100%査察に協力すること。

A国連安保理がイラクの大量破壊兵器を除去することを選択した以上、 それをバックアップする体制を構築すること。

Bイラクに法の枠組みに従うことを求めるなら、査察自体が(国際)法 の枠組みに従って行われることを確保すること。

 しかし、イラクは私が査察官だったときには、十分な協力をしなかった。
国連安保理も法律の枠組みに沿った査察の執行を行うためのバックアップをしなかった。

 その責任はイラクにある。しかし、第三の要件が重要である。91年の初めからはじから査察がはじまったが、そのころからイラクのサダム・フセイン政権の転覆がアメリカの政策の最優先であり、査察よりそのことを重視してきた。

 アメリカがサダム・フセイン政権の転覆を最優先としたため、その目的を追求するためには査察を利用するが、そうでなければ査察を妨害するという政策が、第一次の査察活動を非常にやりにくくしたことは事実だ。

 国連安保理の決議による査察は、イラクの武装解除が目的であって、サダム・フセイン政権の転覆ではない。しかし、アメリカは、査察プロセスをフセイン政権を転覆させるために使おうとした。査察をサダム・フセインの身辺情報収集、すなわち諜報活動に利用した。さらに、多様な局面でイラクを挑発し、軍事活動の引き金として査察活動を使おうとした。

 イラクは査察活動、国連安保理の決議に完全に従った訳ではなかったが、イラクに査察を停止させる原因があったのではなく、アメリカが査察活動・査察プロセスを行き詰まらせるような妨害行為を行ったため、98年に中断せざるを得なくなった。国連安保理の決議のもとに行われた査察活動が、アメリカの単独主義によって中断せざるを得なくなったことは事実だ。

 98年に査察団がイラクを出て査察が中断されたが、その時点で100%、イラクが潔白になったわけではないが、イラクが国連案安保理の決議の査察中断に導いた訳ではない。その時点で国際社会にとって脅威となるようなものを持っていたわけではない。91年〜98年の査察で大部分の大量破壊兵器が破壊された状態だった。

 98年春、私は査察官を辞めた後、アメリカの国会で話をしたことがあった。そのとき、査察を引き上げれば、6ヶ月でイラクは生物兵器や化学兵器の工場を再建する可能性があると指摘した。その後4年間査察の空白があり、その間にイラクは再度、兵器を製造したり隠したりできた可能性もあったわけで、それを憂慮するのは当然だ。だから、自分としては、4年間の空白の間も査察を続行すべきであると主張してきた。国際法の枠組みの中でやることをやってから戦争に進むべきであり、法の枠組みの中で調べつくすことがまずは重要だ。

 昨年の秋、イラクは再び査察を認めた。今回はイラクはすべての査察を無条件で受け入れている。今回は国連安保理決議に協力しない場合には、イラクは深刻な事態を招くという条件がついていて、法の枠組みが以前よりしっかりしている。 従って、今回は先に述べた三つの要件のうちの@とAは満たされているが、Bの要件が整っていない。それは、アメリカが依然としてイラクの大量破壊兵器の破壊よりも、サダム・フセイン体制の転覆を最優先しているため、国際法の枠組みにそったものとなっていない点である。

 国連安保理決議の命令は大量破壊兵器の破壊であり、アメリカは国連安保理の一員である以上、それに従わなければならない。完全に国際法の枠組みから逸脱するものであり、査察をとりまく状況をゆがめている。

 アメリカは表面では査察を望むといっているが、実は、イラクの大量破壊兵器の除去が完全に行われてしまえば、経済封鎖が解かれて、再びサダム・フセインが国際社会に復帰することになり、アメリカにとってそれは絶対に容認できないことである。

 アメリカはイラクを武装解除したいのではなく、占領したいと考えており、それは査察を通してではなく軍事的に占拠しサダム・フセインを追い出して武力で取り除くということがねらいだ。

 したがって、査察が成功裏に進んで終了することはアメリカにとって敵(好ましくないこと)なのである。

 査察が理想的に進んだ場合、大量破壊兵器がなかったら査察にさらに時間が必要となる。

 4年間の空白があったので、査察にはある程度は時間がかかる。イラクの協力を得て、何も見つからないことが望ましいことだが、アメリカはこの結果にい満足しないし、想像もしたくない。アメリカはあくまでも大量破壊兵器をどこかに隠していたり、造ったりしていると主張している。しかし、それには証拠が必要だ。

 アメリカが出した証拠はほとんど状況証拠に過ぎない。昨日のコリン・パウエルのプレゼンテーションにも確かな証拠だと主張した割には、何ひとつ確定的な証拠はなかった。

 兵器工場の写真を見せていたが、裏付けがない。盗聴テープなどを出していたが、全体の文脈や誰がどこでどんな目的で話しているのかがわからなければ、証拠にならない。

 亡命者の発言や証言は、私も多くの亡命者から聞いているが、信用がおけないし、証拠がない。
 
 イラクが1200kmの距離まで届くミサイルをもっていると主張しているが、何も証拠を見せていない。また、18台のトラックが移動式の生物兵器、化学兵器製造工場として存在しているというが、絵をみせるだけで、写真も何もない。これらをみても、コリン・パウエルの昨日のプレゼンにはほとんど証拠がなく、失敗だったと言える。

 すべてのパウエルの主張については、査察をひとつひとつ行っていけば証拠としては退けられるものだ。査察はアメリカにとって敵、それを早くやめさせたいと考えている。

 18台のトラックをもっているなら、イラク中のトラックをすべて査察して見つからなかったどうするのか。イラクが査察の入る前に運び出したというのか。査察でみつけられないとすれば、そういうことでもないとおかしい。

 コリン・パウエルは世界の人々に査察に対する疑義を植え付けようとしているに過ぎない。2月8日、UNMOVIC委員長が査察を再開し、14日に国連安保理で次の報告を予定している。15日、おそらく何も出てこない。イラクの協力は十分だったという結論に達するだろう。

 しかし、アメリカはもし査察で何も見つけられなかったとしても、戦争への支持をどう取り付けるかが最大の懸案事項となっている。査察は意味がないと主張するだろう。

 イラクを武装解除させる唯一の方法がイラクを侵略することと考えている。力でねじ伏せるしかないと。

 アメリカの目的は結局、イラクの武装解除ではなく、フセイン体制の転覆であり、その目的のために、国際法上まったく根拠のないことをやろうとしている。

 日本も是非そのようなアメリカのやり方に反対してほしい。


 以下はスコットリッター氏のプロフィール

 In 1998, Scott Ritter resigned his post as chief weapons inspector for the UN Special Commission (UNSCOM) in Iraq, charging that the United States was purposefully obstructing the completion of the UNSCOM mission. Weapons inspectors have not returned to Iraq since, and the threat of unfound or newly constructed weapons of mass destruction forms the basis for the Bush administration's argument that the United States should again wage war on Iraq.

 Ritter, a former Marine intelligence officer and author of the book Endgame: Solving the Iraq Problem Once and For All, believes this war is already in the making.

 But is a new war against Iraq justified? Ritter does not think so. Despite UNSCOM's unfinished mission and suspect Iraqi accounts, Ritter believes that the UN inspectors destroyed 90-95% of Iraq's weapons of mass destruction in the seven years they spent there. He also argues that it would be impossible for Iraq to build new weapons in the three years since inspectors left, without being detected. In a September address to the Iraqi parliament he said, "The rhetoric of fear that is disseminated by my government and others has not to date been backed up by hard facts that substantiate any allegations that Iraq is today in possession of weapons of mass destruction."

If these allegations are false, the real impetus behind the Bush administration's call to war seems harder to fathom. With his experience relating to the previous Clinton and senior Bush administrations, Ritter hopes to offer his insight on what this impetus might be.


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