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2014年
衆院選挙結果の分析速報(2)

鷹取敦 Atsushi Takatori
青山貞一
Teiichi Aoyama

東京都市大学名誉教授(公共政策論)
掲載月日:2014年12月16日
独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁


 2014年12月14日投開票の第47回、衆議院選挙で自民党が引き続き大量の議席を得た理由は、小選挙区制度であるためと一般に理解されているようである。

 小選挙区制度の下では、二大政党に収斂すると言われていたが、日本の現状ではそのようになっていない。多数の政党で票を奪い合うことにより、いわゆる死票が増えてしまうためである。特に日本共産党は、全ての選挙区に候補者を立てており、他党と選挙協力を行った沖縄1区を除き、1人も小選挙区の当選者を出しておらず、全ていわゆる死票となっている。

 そこで、仮に自民党あるいは公明党が当選した選挙区において、日本共産党が候補者を立てなかった場合に、議席数がどのように変わるか推計してみた。たとえば東京選挙区の場合には、以下のとおりとなり、8選挙区で自民党が落選し、民主党あるいは維新の党が当選していたことになる。

東京 1区 当選 自民 共産無の場合 民主(逆転)
東京 2区 当選 自民 ここでは民主と維新が乱立
東京 3区 当選 自民 共産無の場合 民主(逆転)
東京 4区 当選 自民 共産無の場合でも自民
東京 5区 当選 自民 共産無の場合でも自民
東京 6区 当選 自民 共産無の場合 維新(逆転)
東京 7区 当選 民主
東京 8区 当選 自民 共産無の場合でも自民
東京 9区 当選 自民 共産無の場合でも自民
東京10区 当選 自民 共産無の場合でも自民
東京11区 当選 自民 共産無の場合でも自民
東京12区 当選 公明 共産無の場合でも公明
東京13区 当選 自民 共産無の場合でも自民
東京14区 当選 自民 共産無の場合 民主(逆転)
東京15区 当選 維新
東京16区 当選 自民 共産無の場合でも自民
東京17区 当選 自民 共産無の場合でも自民
東京18区 当選 自民 共産無の場合 民主(逆転)
東京19区 当選 自民 共産無の場合 民主(逆転)
東京20区 当選 自民 共産無の場合でも自民
東京21区 当選 自民 共産無の場合 民主(逆転)
東京22区 当選 自民 共産無の場合 民主(逆転)
東京23区 当選 自民 ここでは民主と維新が乱立
東京24区 当選 自民 共産無の場合でも自民
東京25区 当選 自民 共産無の場合でも自民

 上記に示したように、東京2区および23区では、民主党と維新の党の両方が候補者を立てている。両党は全国で選挙協力を進めており、多くの選挙区では、同じ選挙区に両党の候補者が立たないようにしているが、この2つの選挙区のように両党が候補者をたてている選挙区が残っている。東京の場合にこの2つの選挙区で民主党と維新の党が選挙協力できていれば、いずれも、合計票数が自民党候補の票数を大きく上回り、自民党が落選していたはずである。

 まず、日本共産党が自公が当選した選挙区に候補者を立てなかった場合を推計した。共産党の得票数を、民主、維新、生活、社民の候補のいずれか得票数の最も多い候補に加え、これが自公の候補者を上回った場合に当選するものとした。

 以下は、政党別の実際の獲得議席数と、上記の前提で試算した獲得議席数をグラフとして示したものである。自民党と民主党、維新の党との差が大幅に減少している。


 グラフ:実際の政党別の獲得議席数


 グラフ:共産党が小選挙区で候補を立てなかったと想定した政党別の獲得議席数

 以下は、自民党+公明党、民主党、維新の党、社民党、生活の党の合計、共産党を、実際の議席数と、試算結果である。与野党の差が大幅に減少していることがわかる。


 グラフ:実際の与野党別の獲得議席数


 グラフ:共産党が小選挙区で候補を立てなかったと想定した与野党別の獲得議席数

 次に、日本共産党が小選挙区(自公が当選した選挙区)に候補者を立てず、かつ民主、維新、生活、社民が選挙協力を行い、候補者を一本化した場合を想定した。方法は民主、維新、生活、社民、共産(このうち2〜3党が1つの選挙区に候補者をたてている)の得票数を加えたものと、自公の候補者の得票数を比較し、多い方を当選と判定する。


 グラフ:選挙協力した場合の政党別の獲得議席数


 グラフ:選挙協力した場合の与野党別の獲得議席数

 これをみるとわかるように、自+公で245議席、野党合計で221議席(無所属は含めていない)となり、小選挙区制度にも関わらず議席数は伯仲することになる。

 あくまでも得票数の合計による試算であり、実際に候補者を一本化した場合には、必ずしもこのとおりの結果にはならないだろうが、候補者を乱立することにより死票となっている部分がいかに大きいか分かる。

 報道も野党も、自民党の大量議席獲得を小選挙区制度のせいにしており、一般にそのように信じられているが、上記の試算をみると小選挙区制度であっても、選挙制度に適応した闘い方をしていれば、自民党・公明党は、野党と伯仲する程度の議席しかとれていなかった、ということがわかる。

 安倍政権にこのような大量の議席を与え、独断で進めてしまえるような状況を作った一番の原因は、小選挙区制度そのものではなく、共産党が全ての選挙区に候補者を乱立したことにあり(選挙協力をした沖縄1区を除く)、ついで、選挙協力が不十分であった他の野党にあるということになる。

 そして、安倍政権は、小選挙区制度を前提としても大きな議席を与えられたわけではないことを認識すべきである。