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3度目の東工大学長選挙と
疑惑の
「学長選考会議」
青山貞一
掲載月日:2012年7月10日
 独立系メディア E−wave Tokyo


 東京工業大学の学長選挙で一位指名を受けた候補者が、何と2回にわたって研究費の一部を業者にプールしていた問題で学長を辞退していたが、やっと最近になって3回目の学長選挙で学長が決まったそうである。

一回目
◆東工大・大倉一郎副学長、学長就任を異例の辞退

 東京工業大学(東京都目黒区)は28日、次期学長に選出されていた大倉一郎副学長が、「一身上の都合」を理由に、学長就任を辞退したと発表した。

 東工大は学内外の委員で組織する「学長選考会議」を近く招集し、学長選考をやり直す。

 大倉副学長は今年6月、任期満了となる伊賀健一・現学長の後任に選出された。任期は今年10月24日から4年間の予定だった。 文部科学省は「次期学長の辞退は極めて異例」としている。

(2011年7月28日21時42分 読売新聞)

二回目
東工大学長候補また辞退 不正経理問題で混乱

 東京工業大(東京都目黒区)の次期学長に就任予定だった前工学部長の岡崎健教授(62)が、研究室の研究費不正経理問題をめぐり、学長候補の辞退届を提出したことが17日、分かった。

 東工大では当初の学長候補だった大倉一郎前副学長(67)も昨年7月に不正経理で辞退しており、極めて異例の事態となった。東工大は近く学長選考会議を開いて次期学長候補の再選定を急ぐが、2人続けての辞退で混乱は必至だ。

 岡崎教授は大倉前副学長の辞退を受け、昨年10月に就任する予定だったが、不正経理疑惑が浮かび、文部科学省が就任を留保。このため伊賀健一学長(71)の任期を延長した。

共同通信 2012年(平成24年)2月23日

三回目
◆東京工業大:経理問題で混乱 新学長決まる
 『毎日新聞』2012年6月30日付

 東京工業大は29日、任期満了に伴い退任する伊賀健一学長(72)の後任に、三島良直副学長(63)を選出したと発表した。任期は10月1日から16年3月31日まで。学長人事を巡っては、候補者2人が相次いで研究室の不正経理問題で辞退して混乱が続いていた。

 伊賀学長の任期は昨年9月までだったが、同7月に次期学長に内定していた当時の副学長が不正経理問題で辞退。次に候補になった別の教授にも再び同様の問題が浮上し、辞退していた。

 三島氏は、1975年に東工大大学院を修了し、97年に東工大大学院教授に就任。昨年10月から副学長だった。

 何とも異常な事態であるが、問題は単に学長選挙で第一位となった候補者の研究費問題だけでないようだ。

 しかし、いわゆる国立大学が故橋本龍太郎氏が首相だった頃に行った行政改革によって国立大学も独立行政法人(実際には国立大学法人)となったとき、学長選挙が次のような手続に変わっていたのである。

 すなわち、従来、大部分の国立大学では、たとえば助手(現在、助教)、准教授、教授がそれぞれ1票をもち、全学的な学長選挙を行い、その結果、第一の得票数を得た候補が、学長に就任していた。

 しかし、国立大学法人となった後は、まず、従来同様、助手(現在、助教)、准教授、教授がそれぞれ1票をもち、全学的な学長選挙を行い、その結果、第一の得票数を得た候補に対して、学長選考会議なる会議が設置され、そこで審理され承認された候補が学長になることになったのである。

 しかも、学長選考会議のメンバーは、学内外から選ばれることになっており、東京工大の場合は、東京工大卒業者(OB)が選考会議メンバーとなっているようだ。
 
 以下は、規約にある学長選考会議の委員選定方法である。

第2条学長選考会議は,次に掲げる委員をもって組織する。
一国立大学法人東京工業大学経営協議会規則(平成16年規則第4号)第2条第1項第3号に掲げる者の中から,国立大学法人東京工業大学経営協議会(以下「経営協議会」という。)において選出された者5人
二国立大学法人東京工業大学教育研究評議会規則(平成16年規則第5号)第2条第1項第3号から第10号に掲げる者の中から,国立大学法人東京工業大学教育研究評議会(以下「教育研究評議会」という。)において選出された者5人
三学長が指名する理事・副学長1人


 第2条の二と三は、まだしも第2条の一にある経営協議会に東京工大卒業者(OB)として参加しているようだ。そこでメンバーを調べてみると以下の通りである。

国立大学法人東京工業大学 経営協議会構成員

        所属・役職等        氏名
日本女子大学理事長・学長          蟻川 芳子
東京電機大学監事               工藤 智規
(株)日立製作所相談役
一般社団法人蔵前工業会理事長      庄山 悦彦
千代田化工建設(株)相談役         関 誠夫
(株)ぐるなび代表取締役会長 創業者   滝 久雄
(株)東芝研究開発センター首席技監   土井 美和子
一般社団法人蔵前工業会理事       中島 邦雄
元日本放送協会会長             橋本 元一
学長                       伊賀 健一
理事・副学長                  岡田 清
理事・副学長                  三島 良直
理事・副学長                  鈴木 啓介
理事・副学長                  飯塚 久夫
大学院社会理工学研究科教授       圓川 隆夫
大学院生命理工学研究科教授       広瀬 茂久
事務局長                    山田 道夫

 しかし、何とも不可思議なのは、全学的に専任教員により選ばれた候補者を、さらに学長選考会議なる会議で審議して決めることが理解できない。

 閑話休題

 調査を進めると、「選択」というインターネット上の有料雑誌で次のような見出しとリードの文章を発見した。

◆原発にのめり込む日立製作所
  東工大を「原子力村」の拠点に

 福島第一原子力発電所の事故以来、強い逆風が吹き続ける原子力産業の現状において、相も変わらぬ日立製作所の異様なのめり込み姿勢が一部で話題を集めている。ここにきて伝わるのが、東京工業大学における学長選挙への日立製作所関係者(庄山悦彦氏)の介入だ。

 自らの息がかかった候補者のゴリ押しにとどまらず、スキャンダルによる対抗馬の追い落とし疑惑、外部調査委員会の設立など、東工大出身者からの告発情報・・・

  確かに経営協議会委員に(株)日立製作所相談役、一般社団法人蔵前工業会理事長 として庄山 悦彦氏が在籍していることは間違いない。

 また原子力村のひとつの中核となってきた「日本原子力文化振興財団」の役員リストを見ると理事長が三菱マテリアル名誉顧問 秋元勇巳氏。理事には木誠関西電力社長、清水正孝東京電力社長(当時)、玉川寿夫民間放送連盟常勤顧問、加藤進住友商事社長、庄山悦彦日立製作所相談役、佃和夫三菱重工会長、西田厚聡東芝会長、林田英治鉄鋼連盟会長などの名前が並ぶ。

 ここにも庄山悦彦日立製作所相談役が間違いなく含まれている。

 もちろん、このことと3度にわたった東工大学長選挙における学長選定過程との関連については、いまのところわかない。また、「選択」の記事との関係も調査未了である。これについては、さらに調査を進め、結果を公表したい。

 ただ言えることは次のことである!

 いずれにせよ、異常なのは、専任教員全員の直接選挙で選ばれた候補者を学長選考会議で候補者案をその是非を審議することである。これは、たとえば、自治体の首長にたとえて見ればいかに異常な制度であるかが分かる。

 ある県で県民によって選ばれたA知事候補が、その後、知事選考会議で審議され、可否が判断されることなど、あり得ないことであるからである。

 このような学長選考会議の存在が、結果的に原発開発に限らず学長選挙を特定利害を誘導する場になりかねないことを文部科学省は知るべきである。