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スコットランド+北イングランド
現地調査報告
   

〜スコットランドの原発事情〜

Scotish Nuclear Power Plant Situation


青山貞一 池田こみち

掲載月日:2012年7月28日
 独立系メディア E−wave Tokyo
 無断転載禁

スコットランド+北イングランド現地調査図(総延長約2200km)

 今回のスコットランド及び北イングランド現地調査のひとつ目的は、同地域におけるエネルギー事情を調査することにあった。

 現地調査の実質最終日、スコットランドのエジンバラ東部で現在稼働中のトーネス原発を現地視察することができた。


スコットランドに残る4基の原発の2基があるトーネス原発にて
撮影:池田こみち、Nikon CoolPix S10  2012-7-25


<英国全体の原発事情>

 1989年、英国サッチャー政権による国営企業の民営化に伴い、英国の電気事業も、電力法施行により分割・民営化が行われ、1996年には原子力発電の分野でも民営化がほぼ完了した。

 英国原子燃料会社(BNFL)は100%政府保有の国営企業であり、発電から燃料サイクル全般に至る広範な業務を行ってきた。また、ブリティッシュ・エナジー(BE)社は2000/2001年度の電力市場価格の急激な下落から原子力事業の大幅な赤字を記録していた。

 英国政府は2003年5月電気事業法改正法を改正し、ブリティッシュ・エナジー社(BE社)が発表した再建計画に公的資金を用いて支援してきた。

 英国にある旧式マグノックス炉(GCR)のうち20基をBNFL社、残りの原子力発電所をBE社が所有していたが、BNFL社は2000年5月、経済的な理由から所有するマグノックス炉20基全てを2010年までに閉鎖する計画を発表していた。

 2006年末現在、英国全体で運転中の原子力発電所は19基・合計出力は1195.2万kWであり、2006年末の原子力発電電力量は692.37万kWh、総発電電力量に占める割合は18.4%であった。
 
 図1に2010年1月1日現在の英国の原子力発電所分布地図を示す。英国では、国内初のPWRであるサイズウェルB(125万8,000kW)が1995年に営業運転を開始したのを最後に、建設中および計画中の原子力発電所はない。


図 英国における原発立地位置図
出典:原子力産業会議

<英国の原発事情への福島第一原発の影響>
  
 2011年3月の福島第一原発事故後、英国政府の原子力規制庁(Office for Nuclear Regulation=ONR)は、福島原発事故が英国原発産業に及ぼす影響についての調査報告書を公表している。

 原子力規制庁の報告書は、以下の理由から大きな影響はないと結論づけていた。
@福島原発は軽水炉型原子炉を使用しているが英国の場合ガス冷却型であるため、同様の理由、原因による事故は起きにくい、
A英国では約10年毎に英国各地の原発が安全性の点検をONRなどの規制・監督団体から受けていること、
B英国ではONRが原子力業界から独立しているだけでなく、過去、原発を推進する政策をとってきた英国政府から独立していること、
C英国では日本のような巨大な津波や地震が発生する確率が低いこと、
などである。

 上記は主として原子力規制庁の見解である。

 しかし、サッチャー政権以来、徹底的にあらゆる事業が民営化されてきた英国にあって、原発事業もその例外ではない。実務、事業、ビジネスとして原発建設に関与してきたのは主にドイツの企業だが、そのドイツの企業は、以下に示すように、実質的に英国の原発建設事業からの撤退を考えていることが分かった。

 2011年3月に起きた福島第一原発事故が英国の原発事情にどんな影響を与えてきたかだが、英国では閉鎖してきた原子炉の代わりにドイツの電力大手であるエーオンとRWEが英国で12基もの新規の原発建設を進めてきた。

 しかし、2012年3月、おそらく福島原発事故の影響などにより、従来、原発推進の英国は電力不足解消と地球温暖化対策のため最大12基の原発新設を進めているが、今後の英国のエネルギー政策の見直しが不可避の情勢となってきたこと、またギリシア、スペイン、イタリアなどEU諸国の債務危機が顕在化したこと、さらにドイツのメルケル政権が脱原発政策を表明したことなどから、英国の電力事業を傘下に収めるドイツの電力大手であるエーオンとRWEの両社の業績が悪化してきたことも原因と推定される。

 まず英国では2015年に国内の石炭火力発電容量の13%に相当する12ギガワットの電力と、2020年までに既存原発の老朽化でなくなる7ギガワットの電力を補完するため、英国内で8カ所、最大12基の原発新設を計画してきた。

 この原発新設事業に、ドイツのエーオン、RWEの両社、またフランスのEDF、さらにスペインのイベルドローラ社などが参加してきた。

 とくにドイツのエーオンとRWEの両社は2009年に共同出資会社を設立し、英国西部の2カ所の原発建設用地を購入した。さらに150億ポンド(約2兆円)の巨費を投じ原発6基(6ギガワット超)を2025年までに建設する計画であった。

<スコットランドの原発事情>

 図は2000年から2010年における燃料別のスコットランドの発電量である。この間の原発による発電割合は、おおよそ25%〜30%となっていることが分かる。


出典:Department of Energy and Climate Change, The National Archives, United Kingdom

 スコットランドの原発事情だが、過去から現在におけるスコットランドにある原発施設は、以下の通りである。

@北部DounreayのDFRとPFRの合計2基が閉鎖、
Aエジンバラ東部の北海沿岸にある2基のAGR型のTorness原発、
Bグラスゴー南にあるHunterstonの2基のGCRは閉鎖、2基のAGR
が稼働中である。
 さらにすでに完全に閉鎖されているが
Cスコットランドとイングランドの西側境界線近くの Annan in Dumfries and Gallowayに4基の原発があった。
 
 スコットランドで現存している原発は、エジンバラ東部のダンバー近くの北海沿岸にTornessのAGR型原発2基とグラスゴー南のHunterstonにあるAGR型原子炉2基の4基のみとなっている。


<スコットランドのトーネス原発視察>

 上述のようにスコットランドで現在稼働している原発は、エジンバラ東部のダンバー近くの北海沿岸にTornessのAGR型原発2基とグラスゴー南のHunterstonにあるAGR型原子炉2基の4基のみである。

 現地調査の最終日、スコットランドのエジンバラ東部で現在稼働中のトーネス原発を現地視察することができた。ただし、トーネス原発に到着したのが午後6時35分、すでに施設見学ツアーは終了していた。

◆トーネス原発の基本情報
Country Scotland, UK
Location Edinburgh, East Lothian
Coordinates 55.96799°N 2.40908°W55.96799°N 2.40908°W
Construction began 1980
Commission date 1988
Reactor information
Reactors operational 2 × 682 MWe
Power generation information
Installed capacity 1,364 MWe
出典:English Wikipedia

 下の写真がトーネス原発を上空方見た全体図である。施設近くにはA1の高速道路から簡単に入れる。また原発をぐるりと囲む、いわゆる防潮堤が誰でもが入れ歩ける2段の散歩道となっていた。

 これは防潮堤から原発施設の間がオフリミットとなっている日本の原発とまったく異なっており、市民は誰でも車を駐車場に置き、散歩道(図中Waklway)を散歩したり、防潮堤の外で釣りができる。


スコットランド・エジンバラ東約50km、ダンバー近くにあるトーネス原発
参考:グーグルマップ

 以下は、A1モーターウエー(スコットランドの高速道路)からトーネス原発に到着するまでの動画。

動画:青山貞一 Yashika HD 2012-7-25

 場所はイングランドとスコットランドをつなぐ北海側の幹線道路、A1のダンバー近くである。この地域には、トーネス原発以外、すこしの民家以外はほどんと何もないので車の車窓からすぐに分かる。


スコットランドのトーネス原発(2基の原発が稼働中)
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8  2012-7-25


北海側から見たトーネス原発。巨大な壁で陸側を遮蔽している
出典:The Guardian, UK
 
 肝心な防潮堤の構造と高さだが、下図がその構造を示している。鉄筋コンクリートの防潮堤はUpper WalkwayとLower Walkwayの2つがある。右側が北海側、左側がトーネス原発側である。


撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8  2012-7-25

 2つの防潮堤及びWalkwayは下の写真にある階段で結ばれている。構造は鉄筋コンクリート構造、海水面からの最大の高さは約7mである。


撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8  2012-7-25


スコットランドのトーネス原発の温排水の排水口構造図
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8  2012-7-25

 以下は、トーネス原発の温排水の排水口。釣りをする市民がいた。


スコットランドのトーネス原発の温排水排水口の構造図
撮影:池田こみち、Nikon CoolPix S10  2012-7-25

 なお、敷地の境界線で測定した空間放射線量は、以下に示すように0.11〜0.12μSv/hであった。線量計はロシア製のRADEXである。


コットランドのトーネス原発敷地境界で測定した放射線量
撮影:池田こみち、Nikon CoolPix S10  2012-7-25


<2011年6月末のスコットランドのトーネス原発事故>

 このスコットランドのトーネス原発では、福島原発後の2011年6月28日に、原子炉の海水冷却用フィルターに大量のクラゲがひっかかり、2基ある原子炉の運転を手動停止していた。

 この事実は、AFP(フランスの通信社)などの通信社を通じて日本にも一部配信されていたので、記憶にある方もいるだろう。

 トーネス原発を運営しているのはフランス電力公社(EDF)の傘下にあるEDFエナジーである。そのEDFが2011年6月30日に発表した声明によると、「大量のクラゲが詰まって冷却フィルターが使用できなくなったため、手動で原子炉2基を停止した」とある。

 EDFエナジー社によればこの措置は、安全のための予防的措置であり周辺住民や環境への危険は全くないと強調している。


EDFエナジー社のトーネス原発前にて
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S8  2012-7-25

 EDFエナジー社によれば、クラゲや海草などの漂流物によって冷却用の海水の流れが妨げられる事態は、原発の安全対策の想定範囲内で、めずらしいことではないとし、直後からクラゲの除去作業及び新たにクラゲが侵入するのを防ぐための監視を行っており、私達が現地を訪問したとき、トーネス原発は運転を再開していた。

 クラゲと言えば、再稼働が大問題となっている日本の関西電力の大飯原発でも類似の事故が起きていた。

 なお、過去の事故歴は以下の通り。翻訳未了

Shutdown after sea-water intake blockage by jellyfish ? June 2011 On 30 June 2011 both reactors were shut down due to blockage of sea water intakes by a large mass of jellyfish. The shutdown was required to comply with established safety regulations.

Shutdown after drumscreen blockage by seaweed ? August 2006 Complete blockage by seaweed of the main cooling water intake drum-screens is an initiating event considered in the Station Safety Report (SSR).

The event resulted in supplies of main cooling water being lost for a period. As a consequence, water supplies to the reactor seawater (RSW) system, which provides a safety role, were lost for a time on one reactor and restricted on the other. The station responded to the event by shutting down both reactors within 70 minutes of receiving the first indication of impaired main cooling water flow and provided adequate post trip cooling.

Unplanned power excursion ? December 2005
An unplanned power increase on Reactor 2 at Torness during the night shift of 30 December 2005. Operators responded to the event by taking corrective action to restore normal core reactivity levels. Station and Company investigations identified that improvement to the training of operators covering reactivity fundamentals is appropriate.

Failure of a gas circulator ? May 2002
This was thought, from forensic evidence, to be linked to the development of an unexpected fatigue related crack in part of the impeller. In August, another gas circulator on the other Torness reactor showed signs of increasing vibration and was promptly shut down by the operators. Its subsequent disassembly revealed a fully developed fatigue related crack in a similar position to the first failure, but the prompt shutdown had prevented consequential damage.

Crash of an RAF Tornado near the site - November 1999
In November 1999 a RAF Panavia Tornado crashed into the North Sea less than 1 km from the power station following an engine failure. The UK Ministry of Defence commended the two crew members for demonstrating "exceptional levels of airmanship and awareness in the most adverse of conditions"; they ensured that the Tornado was clear of the power station before abandoning the aircraft.[10]


つづく