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ナチスドイツ、ホロコーストにみる

医師達の狂気


翻訳:池田こみち Komichi Ikeda
掲載月日:2019年2月20日
独立系メディア E−wave Tokyo
 
無断転載禁
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出典 Source: Science and the Swastika :The Deadly Experiment


 独立系メディア E-wave Tokyoでは、この間、次世代に残す情報遺産の一環として、20世紀の戦争について、その全貌を知ることができる特設サイトを立ち上げ拡充してきた。

 その一環として、日中戦争時の731部隊による医師や科学者達の中国人に対する常軌を逸した人体実験の実態をハバロフスク裁判の証言録などから振り、真実を追究し弱者を救うことが使命であるはずの医者や科学者達が軍事政権の下でいかにその使命をかなぐり捨て、国のため、軍のためを是としながら神をも恐れぬ非道な行為を行ってきたかを見てきた。

◆青山貞一・池田こみち 731部隊 関連資料 総集編

 他方、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線では、ナチスドイツによりヨーロッパ各地につくられた強制収容所におけるホロコーストの悲劇が世界に知られているが、1930年代半ばから1945年の終戦時まで、ナチスドイツの親衛隊には多数の医師が加わり、日本軍の731部隊と同様の恐るべき人体実験を行っていたことが1980年代以降になって次第に明らかになってきている。

 今回、ホロコースト関連情報の収集整理作業の一環として、ひとつの動画に巡り会うことができた。

 それが「科学と卍:恐るべき人体実験」(英文原タイトル:Science and the Swastika :The Deadly Experiment)である。

 この作品は、イスラエル人がYou Tube にアップしたものだが、もともとは、2001年3月にイギリスで作成されたテレビのドキュメンタリーシリーズ「科学と卍」4作品のひとつであることがわかった。

 これらの作品は、科学技術に秀でた国であるドイツで医学、化学、宇宙開発、原子力開発などの科学技術がなぜ、ナチスドイツのヒットラーの下でかくも本来のあり方を逸脱したものとして政権に利用されたのかに焦点を当てている点が興味深い。

  第1作 Hitler's Biological Soldiers
第2作 The Deadly Experiment
 第3作 The Wrong Stuff
 第4作 The Good German

 出典:Science and the Swastika (2001-) Episode List
     http://www.imdb.com/title/tt0808104/episodes?ref_=tt_ov_epl


 第2作のこの作品は、ヒットラー率いるドイツ第三帝国支配下におけるヨーロッパでの優生学と安楽死に焦点を当てたもので、ドイツ国内で撮影収録されている。幸いなことにイギリスのテレビで放送された作品だけに、ナレーションがすべて英語であったので、出演されているドイツの医師、科学者や強制収容所の生存者たちの証言がわかりやすく、約50分間の映像と証言者の言葉のひとつひとつが731部隊の実態を見たあとの筆者の心に重くのしかかった。

 ナチス親衛隊はヨーロッパ各地の強制収容所を管理していたが、その中で職能として医師の数が最も多かったという。彼らは、ドイツ全土の病院から親衛隊に加わり、収容所と病院や大学が密接な連携を取っていたことも証言されていた。

 なかでも、アウシュビッツでは、アーリア系ドイツ人のみが残すべき優性遺伝子をもつ人種として、囚人として集められたユダヤ人、ロマ人、スラブ人、ジプシーなどに対して人体実験を繰り返した。アウシュビッツでの人体実験は次のようなものだった。作品は、当時の記録映像とともに、関係者の証言、医師等科学者の解説を織り交ぜながら進んでいく。

Step-1 ドイツ全土の病院から実験材料とする患者、障害者、双子などを送り込む

Step-2 収容所では貨車やバスなどで送り込まれた囚人、患者、障害者などをゲートで待ち構え、選別する。強制労働に使える者、労働者として使えない者、 実験用に使える者、使えない者を見分けるのが医師の仕事だった。

Step-3 12歳以下の子供や高齢者、病弱者、障害者は労働者には使えない者として振り分けられ、即刻ガス室送りとするか実験に使えるかを判断する。ヒットラーはこうした弱者を「生きる価値のない命」として、安楽死させることを承認し医師達に実戦させていた。


 なかでも“使えない囚人たち”や“使用済みの囚人”そして“障害者たち"を集めてガス室で死に至らしめる方法がヒットラーの指示のもとに開発され、それに係わる医師達はポーランドに配置換えになって特別に「T4」というコードネームで呼ばれるようになっていた。


出典 Source: Science and the Swastika :The Deadly Experiment

Step-4 特に双子に注目し、双子をより分けるが、一卵性双生児だけでなく、二卵性やよく似ている兄弟(双子ではない)もターゲットとなっていた。


出典 Source: Science and the Swastika :The Deadly Experiment

Step-5 処分の方法は、対象の状態に応じて、ガス室、毒物の注射、餓死などが選ばれたが、実験を行った上で殺して解剖するという手順が医師の仕事となった。

Step-6 ドイツ人の血を汚さないように他の人種の女性囚人達は強制的に不妊手術を施され、その処置が成功したかどうかを確認するため一定期間を空けた後に強制的に男性囚人と性交させ確認した。

Step-7 成人に対しては、前戦の兵士の怪我を想定した傷を人為的につくり、泥や弾丸の破片、ばい菌などをすり込み傷の状況を観察した。

Step-8 実験材料に事欠かないアウシュビッツでは、収容所がドイツ全土の病院、大学研究機関に人体の各部位を教育・研究材料として供給していた。

 優生学の専門家であるカール・クロバーグ教授は安価に大量の不妊処置を行う方法を研究するため、アウシュビッツに招聘されていた。



出典 Source: Science and the Swastika :The Deadly Experiment

 一連の優生学・遺伝学の研究の名のもとに行われたこれらの人体実験は、親衛隊医師ヨセフ・メンゲレが中心となって行っていたが、其の背後には、彼の大学の恩師である優生学の権威、オットマー・ヴォン・ヴァシュア教授への便宜供与と地位の見返りがあったことも指摘されている。

 まさに、優生学や生殖学・遺伝学を研究する科学者達にとって研究材料が逼迫する時代、安定的に研究材料を得ることができるアウシュビッツ強制収容所はまたとない研究室となったのだ。

 そればかりか、ドイツ国内の主要な製薬会社や化学産業も深く関与し、医師等と連携して製品開発を行っていた。しかし、これらの企業はそのことについて口を開くことはない。

 日本の731部隊には京大、東大などから多くの医師や研究者が参加し、論文を作成して戦後も国内に戻って大学教授として生き延びていたが、ドイツでもアウシュビッツのメンゲレは訴追され逃亡したあげく死亡しているものの、多くの医師、研究者は戦後もその責任を問われることなく大学や産業界で生き延びていたという。

 本ドキュメンタリーにコメンテータとして出演しているドイツの著名な医師たちや歴史家たち、そして、強制収容所で奇跡的に生き残った人々の証言から、改めて戦争が人間の正常な判断を狂わせるか、それは日本もドイツも同じであり国境や人種の差がないことを痛感させられた。

 どんな詭弁を弄して正当化のための言い訳をしても通らない人間の狂気の一面を見せつけられ言葉を失う。高度な教育を受けているかどうかは問題ではない。

 日本は幸いにも戦後70余年の間、自ら戦争に係わることをしないで現在の繁栄を手にしてきたが、一方で、過去の歴史を直視せず、認めず、学ばず、触れないまま過ごしてきたことも否めない。

 過去を振り返り、辛い悲しい事実に目を背けず歴史に学ぶことこそが科学が信頼できることの証である、とこの番組の最後にベノ・ミュラー教授:ケルン大学遺伝学(Prof. BENNO MULLER-HILL;Geneticist-Cologne University)が語りかける。


出典 Source: Science and the Swastika :The Deadly Experiment

 日本軍の蛮行や731部隊の非道な人体実験について、長い間、日本の医学界がその事実に向き合うことをせず避けきたことはよく知られているが、日本の科学界、医学界がこのドキュメンタリー番組のように過去を見つめ直し歴史に学ぶ姿勢を示すことがまず必要なのではないだろうか。

 ただ、それは直接手を下した当時の医者、科学者だけの責任ではなく、ナチス政権を是認しヒットラーを信奉していたドイツ国民ひとりひとりの責任も問われていることを忘れてはならない。

 ドイツは今もその負の歴史から逃げることなく責任を受け止めている。翻って日本人はどうだろうか。現状を深く見つめ直せばその違いは明らかだろう。先の大戦について証言できる人はもはや僅かしか残っていない。これこそ、日本が、そして世界がこれから真の平和を築いていくためにもやらなければならない大事なプロセスであることに改めて気付かされた思いだ。

終了