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翻弄されるイラク派兵主要国
〜ロンドン同時多発テロを考える〜


青山 貞一

掲載日:2005.7.9

 2012年オリンピックの開催地発表、そして主要国首脳サミット(G8)開催に会わせてか、英国のロンドン、金融街シテー近くの地下鉄内、路上の二階建てバスで爆発が起きた。

 死亡者は当初の2名から、日本時間7月9日早朝の段階で50名超、重軽傷者が700人超という情報もある。現地から新たな現地情報が届くたびに、被害が増えている。死亡者は最終的に100名を超す可能性もある。

 通勤時の地下鉄内における同時多発テロと言えば、私たちは霞ヶ関界隈で起きたオウムによるサリン事件を想起する。

 ところで同時多発爆弾に関し、国際テロ組織・アル・カイダ関連組織がホームページ上で犯行を表明したと言う未確認情報もある。

 私見だが、今回の同時多発テロに限らず「9.11」以降の「同時多発テロ」をつぶさみ見て取ると、そこにはある法則性と戦略があるように思える。実施時期といい、実施場所といい、きわめてある意図をもってテロが行なわれていると考えられるのである。

 以下、今回のロンドン同時多発テロが起きた背景を整理してみる。

(1)英国はイラクへの主要派兵国である

 言うまでもないことだが英国は、米国の同盟国として2001年以降、アフガン、イラクに多くの軍隊を送っている。私の
イラク派兵国の撤兵状況によれば、英国は米国に次、約85000人の巨大な軍隊をイラクに派兵していると言う、まぎれもない事実がある。


(2)主要派兵国への報復措置であること

 当初、40カ国弱いたイラク派兵国は、現在、アメリカ、イギリス、ルーマニア、デンマーク、アゼルバイジャン、スロバキア、ラトビア、リトアニア、アルバニア、グルジア、エストニア、マケドニア、カザフスタン、韓国、日本、オーストラリア、モンゴル、トンガなど18カ国に減少している。

 なぜ、派兵国数が半数以下に減ったのかだが、想定するに大幅に撤兵した理由の第一は、米英両国の説得や経済援助約束などの利害関係で出兵したものの、イラク戦争そのものの正当性が実質的にうすらいできたきたことがあげられる。

 第二は、いうまでもなく派兵国への報復的なテロ行為の存在である。たとえば、かつて主要派遣国であったスペインがマドリッドで大テロがおき、世論に抗し切れず撤退を余儀なくされている。これは同じ主要派遣国であるイタリアでも同様な対応がある。

 周知のように米国に次ぐ第二の派遣国である英国は、かつてトルコのイスタンブールにある大使館や銀行爆破事件など、本国でこそ大きな報復的テロ攻撃なかったものの、サインは以前からあった。


(3)ブレア首相は自分がしてきたことを忘れている

 英国ブレア首相は、この間、一貫して米国のブッシュ大統領と二人三脚でアフガン、イラク等への軍事介入してきた。とくにイラク戦争では、宣戦布告もなく一方的に先制攻撃をしたが、米英がイラク攻撃を行った最大の理由は、今更、いうまでもなく「大量破壊兵器」の存在、保有と言う前提があった。

 周知のように「大量破壊兵器」の存在と保有問題で分かったことは、きわめて簡単明瞭なことであった。すなわち、当時、国連査察調査団の主張を振り切り、先制攻撃の最大の理由とした「イラクに大量破壊兵器の存在」と言う事実が、結果として「真実」でなかったことである。しかも、これらの調査報告や告発は,何と米国や英国の政府や第三者機関から指摘されたのである。

 同時多発テロは憎むべきことだが、その原因について、もっとも重要なことを米国そして英国は忘れかかってはいないか。


(4)イラクではすでに2万人以上の市民等が米英に殺されている

 すなわち主権国家イラクを先制攻撃した最大の理由がなくなったことになる。にもかかわらず、米英を中心とした軍は今なお、実質的にイラクの国土のすべてに軍を駐留させている。その米英駐留軍は民間人を含む多くのイラク人らを殺略しているのである。

 このことに関連し、東京新聞2005.7.10朝刊の「本音のコラム」でマッド・アマノ氏は次のように述べている。

 「ブレア首相は厳しい表情で『テロを許してはならない。首脳たちはテロに断固として戦う決意を新たにした』と述べた。これに呼応してG8の首脳たちも異口同音にテロに対する『憎しみ』と英国への『連帯の気持ち』を表明した。 しかし、私には首脳たちの決意が”カラ威張り”に聞こえて仕方ない。爆発の被害者の一人は、『なぜ罪のない市民を狙うのか』と怒りを」ぶつけていたけれど、実はそれと同じことを英米両国がアフガニスタンやイラクでやってきた、ということを忘れている。石油の利権獲得のためならイスラム諸国の多数の市民を殺しても何の腰痛も感じないブッシュとブレアの”ダブルB”こそがテロリストなのだ、というイスラム過激派の言い分に耳を貸さなければ、2012年のロンドン五輪開催は不可能になるかも知れない」

 肝心はイラクにおける死傷者数だが、欧米の民間第三者機関(Iraq Body Accout)のイラク死亡者数調査によると、現時点で最低で22,787人、最大で25,814人いると報告している(2005年7月9日現在)。

 もちろん、米英などのイラク駐留軍死傷者も増えている。しかし、イラク人側の死亡者に比べれば数10分の1にすぎない。

 ちなみに、この第三者機関(Iraq Body Accout)は、次に示す米英を中心に欧米の大学教授、研究者等により構成され、既存の報道資料をもとに死亡者数をカウントしている。データの信憑性もかなり高いと思える。

ERIC CLARKE (Assistant researcher) is professor of music at the University of Sheffield,

NIKKI DIBBEN (Assistant researcher) is a lecturer in music at Sheffield University

JOSHUA DOUGHERTY (Assistant researcher) is a guitarist, private instructor and a graduate student in music at the University of the Arts in Philadelphia, PA, USA.

MARIANNE FILLENZ (Assistant researcher) is senior research fellow in neuroscience at St Anne's College Oxford and retired University lecturer in Physiology.

CHARLIE FORD (Assistant researcher) was awarded a doctorate for his holistic critique of Mozart's Cosi fan tutte in 1989 and has since published on popular music.

JORDANA LIPSCOMB (Assistant researcher) is a retired litigation attorney and mother of two. Supporting member and event coordinator of Musicians Opposing War (MOW).

SCOTT LIPSCOMB (Assistant researcher) is a co-founder of Musicians Opposing War, a collective of Northwestern University faculty,

DARELL WHITMAN (Assistant researcher) is a post-graduate student with the School of Politics, International Relations and the Environment at Keele University.

ROWAN WILLIAMS (Assistant researcher) is a graduate in Modern Languages from the University of Cambridge.


(5)アフガン、イラク占領が米英利権の巣窟となっている

 米英両国が中東、なかんずく「9.11」以降、中東でしてきたことをしかと見る必要がある。それは世界第二位ないし第三位と推定されるアフガンの天然ガスやイラクの豊富なエネルギー資源の占拠と収奪ではないのか。

 圧倒的な軍事力によって他国を軍事支配し、との後、米英系の多国籍資本、エネルギー産業が現地に入り利権を確保するのある。米英両国は、日本はじめ世界各国から集めた巨額の復興資金を使い米英系軍需企業などへ随意契約方式発注している現実がある。

 米英両国はアフガンやイラクを一方的に占領するのみならず、軍事力に物を言わせ利権行為、さらにエネルギー資源の略奪行為を行っていること、になりかねないのである。

 以上が、私が考えるロンドン同時多発テロ発生の背景である。

 次は、同時多発テロとアル・カイダの関与あるいはアル・カイダ首謀説についての私の推論である。


(6)ニューヨーク・マンハッタンの「9.11」同時多発テ

 2001年9月11日、ニューヨーク・マンハッタンの世界一の国際金融街、ワールドトレードセンター(WTC)で起こったツィンビルへの民間航空機の突撃はじめ米国国防総省などを含めた「9.11」同時多発テロは、オサマ・ビン・ラディン氏に統率された国際テロ組織、アル・カイダによって引き起こされたものと推定されている。

 
※このアル・カイダ説については米国、日本の識者などから、いまだ米国の自作自演説が出され、本やDVDも敢行されているが。

 アフガン戦争はアル・カイダを率いるビン・ラディン氏がアフガンを拠点に活動していることを最大の理由として、米英両国が中心となり起こした戦争であることは周知の通りである。


(7)イラクとアル・カイダとの関係

 米英がアフガン戦争を惹起したのはあくまでも「9.11」同時多発テロがアル・カイダグループが行ったと言うことにある。

 米英軍のイラク侵攻、国土占領、そしてイラク国内での大量破壊兵器の存在が各種政府調査により否定されたことから、国際テロ組織、アル・カイダの幹部と想定されるザルカウィ氏の存在がクローズアップされてきた。

 今回のロンドン同時多発テロに関してもそのザルカウィ氏の関与が取りざたされている。

 だが、ドイツばかりでなく、フランス、中国、CISといった国連安保理常任理事国の反対を押し切って、イラクを一方的に米英が攻撃する時点においてフセインとアル・カイダとの直接的関係を示す証拠は無かったことは事実であろう。


(8)アル・カイダとロンドン同時多発テロ

 筆者は、9・11以降、世界各国で起きている同時多発テロにはある共通した戦略と戦術が見て取れる。

 オサマ・ビン・ラディン氏が大規模テロを起こす最大の理由は、米英両国による世界経済(グローバルエコノミー)支配への抵抗であろう。もちろん、その背後には、イスラム教文明とキリスト教文明との間での各種の文明論史的な確執や価値観の違いはある。

 では、アル・カイダ・グループのその共通した戦略と戦術とは何であろうか。


(9)アル・カイダ戦略の顕著な特徴としての「国際金融」

 2001年9月の「WTC爆破等同時多発テロ」以降、「イスタンブールの英国大使館・銀行爆破」、「マドリード地下鉄爆破」 そして今回の「ロンドン同時多発テロ」をつぶさに見ると、そこにはオサマ・ビン・ラディン流の戦略と戦術を見て取れる。

 それが何かと言えば、ブンラディン氏やアル・カイダは、米英を中心に相互依存性を増す国際金融の裏事情を熟知していることである。

 ビン・ラディンとブッシュ家との過去の関係を見るまでもなく、アル・カイダの首領、ビン・ラディン氏はもともとサウジアラビアのゼネコン大富豪の長男であり、米国のCIAやエネルギー産業企業との縁をもっていた。そのビン・ラディン氏の行状を見ていると、ビン・ラディン氏はイスラム文明vs.キリスト文明と言う文明論史的反骨心がある一方、彼は世界経済、国際金融の実態を熟知していることがある。

 ※ビン・ラディン氏とブッシュ家には因縁の金をめぐる関係が過去から現在まで指摘されている。私は岩波の世界に「エネルギー権益から見たアフガン戦争(2002年9月)」や本HPの長編コラム、「正当性なき米国のイラク攻撃(2003年1月)」を書くなかでその一端を紹介したが、その後、たとえばマイケル・ムーア監督の「華氏911」でも、それがひとつの大きなエポックとなっていたのは、記憶に新しい。


(10)アル・カイダ戦術と同時多発テロ(金融地政学面)

 ここから先は、まったくの私見である。
 
 米英を中心とした先進諸国への文明論史的、怨念的な怒りをもつ、ビン・ラディン氏が単なる凶悪、卑劣なテロリストでないのは、彼が単なる暴力的テロ行為だけでなく、今日のグローバル経済の構造とあり方を熟知した戦術を駆使していることである。

 具体的に言えば、ビン・ラディン氏が指揮したと思われる大規模テロ行為は、いずれも、彼らの「資金調達」行為と密接に結びついていると思えるからだ。その状況証拠と推定できるのは、次にことである。

@最初の大規模同時多発テロ、すなわち「9.11」は、世界の金融の中心地である米国ニューヨーク、マンハッタン島のワールドトレードセンター(WTC)で起きた。

Aイスタンブールの英国関係施設爆破もイスタンブール新市街地の金融中心地で起きた。

B米英西の団結を崩し、スペインのイラク派兵を辞めさせたマドリッド列車爆破。これは2004年3月11日午前7時30分(日本時間午後3時30分)頃、スペインの首都マドリード中心部の三つの駅で四つの列車が10分の間に次々と爆弾が破裂、車両は大破した。マドリッドもいうまでもなくスペインの金融の中心地である。

Cそして今回の英国ロンドンの同時多発テロも、ニューヨークと並ぶ世界の金融都市ロンドンのシティーで起きている。 


(11)アル・カイダ流の戦術とは

 上記のようにビン・ラディン氏の指揮あるいはビン・ラディン流の大規模テロ、それも同時多発テロは、いずれも首都の金融街ないしその近傍で起きている。おそらくこれは偶然ではないと思える。

 それはただ単に国際金融の現場で同時多発テロが起きたにとどまらないことだ。具体的に言えば、それはいわば国際先物取引市場の原理を使った巨額資金の入手を兼ねているのではないかということである。もちろん、あくまでも推論であるが。

 言うまでもなく、先物取引とは、「ある商品」を、「将来の一定の期日」に、「今の時点で取り決めた価格」で取引することを「約束する」契約をいう。この先物取引の大きな特徴は、投入した投資額の10倍以上の取引が可能となることだ。もちろん投資者が抱えるリスクも10倍以上となる。

 この先物取引は、一般的には極めて投機性が高い投資行為であるが、あくまでも合法的取引である。それは一時に巨額の収益を得ることが可能だが、往々にして巨額の投資を一瞬にして喪失することもある。


(12)国際金融市場での先物取引

 ところで、以下の2枚の図は日本の東証のHPに掲示されている先物取引の説明である。

 先物取引では、先物取引とは、「ある商品」を、「将来の一定の期日」に、「今の時点で取り決めた価格」で取引することを「約束する」契約をいうわけだが、先物取引後、先物市場で投資対象の価格が高くなる場合はもちろん、価格が低くなってもその差額をリターンを利ざやとして得ることが可能である。





 通常、購入時には近い将来、先物の価格が上がるか、下がるかのいずれかを指定する。上がることを予想した場合は、「先物買い」と言い、下がることを予想した場合、「先物売り」と呼んでいる。


(13)同時多発テロと先物取引

 ところで、過去の同時多発テロでは、テロ勃発直後、いずれも先物市場で価格が大幅に下落している。したがって、もし、アル・カイダグループが世界各地の先物市場でそれぞれが「先物売り」を指定すれば、一夜にして間違いなく巨額の資金を手に入れられるのである。もし、同時多発テロがビンラディン氏らによるものであった場合、まさに「自作自演」となる。

 自作自演なら間違いなく、「先物売り」は大成功するだろう。ハンパでない資金を一夜にして獲得することが可能となるのである。しかも、自分たちが同時多発テロを起こすのだから、利益回収の期日だって思うように指定できる。

 事実、いずれの同時多発テロも現地時間で土日をまたがない火曜日から木曜日に起きている。

 @米国:ニューヨーク9.11  2001年 9月11日(火)
 Aトルコ:イスタンブール    2003年11月20日(木)
 Bスペイン:マドリッド      2004年 3月11日(木)
 C英国:ロンドン         2005年 7月 7日(木)

 とくにA,B,Cがいずれも木曜であることに注目する必要がある。


(14)国際金融とグローバルネットワークを裏手にとった戦術

 以上,簡単に過去の同時多発テロの現代史的特徴について述べてきた。

 よしあしは別としていえることは、オサマ・ビン・ラディン氏らは、アングロサクソンで白人、プロテスタントのいわゆるWASPを超える戦略と戦術を持ち合わせていると言うことだ。

 いつも事後的対応に終始してきた欧米,日本のテロ対策だが、これではいくら金を費やし「見えざる敵に」右往左往しても、本質的な解決にはならないと思う。

 解決はただひとつ、もともと正義も大義もない国への侵攻と資源エネルギーの収奪を辞めることである。日本政府も本気で自衛隊の撤退を考えた方がよいだろう。

 半端でない大量破壊兵器を有する米英が、他国についてあれこれ言ってもまったく道理も説得力がないことは言うまでもない。世界中の罪のない子供,老人,弱者をこれ以上、殺さないために、また持続的社会を構築するためにも、英米的そして唯我独尊的価値観で他国に迷惑をかけないことがもっとも望まれる。