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水産物の放射能汚染の解析(1)
生息域と汚染の変化

鷹取 敦

掲載月日:2012年1月23日
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関連コラム:水産物の放射能汚染の解析(2)東京湾内の汚染の継続調査の必要性

 2012年1月15日NHKスペシャルでシリーズ 原発危機「知られざる放射能汚染〜海からの緊急報告」が放映された。E-wave Tokyo では青山貞一東京都市大学教授が海の汚染による魚介類への濃縮の問題について警告している。

◆青山貞一:福島原発事故で本当に怖いのは魚介汚染(再掲)
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-fnp11144...html

 水産物の放射性物質汚染については、水産庁が2011年3月以来継続して調査している。現在、調査結果は下記のサイトで公表されている。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/housyaseibussitutyousakekka/index.html

 NHKスペシャルや青山貞一教授が指摘した海の汚染が、実際にどのように魚介類に蓄積されてきたかを定量的に把握するため、水産庁のデータを集計・解析した。

 今回は、どれくらいの調査がこれまでに実施されてきたか、そしてどのような生息域の魚介類に濃縮されているのか、時期による変化について示した。集計は水産庁1月19日現在の水産物放射性物質調査の公表データを用いた。

 調査検体数を図1、図2に示す。3月はほとんど調査は行われておらず合計で15検体に過ぎない。その後、調査検体数が大幅に増やされ11月には1083検体の調査が行われたが、その後大幅に調査検体数が減少している。生息域別に見ると「底層」の水産物について非常に多くの調査が行われていることが分かる。


図1 調査検体数の推移(1)


図2 調査検体数の推移(2)

 図3、4はセシウム合計の生息域毎の平均濃度である(「検出限界未満」は検出限界が分からないのでゼロとして平均を計算)。

 4月には「ごく表層」で平均1000Bq/kgを超える高濃度が検出された。当時大きく報道されたコウナゴ等の小魚である。これは5月には大きく低下し7月には「表層」「中層」と同程度まで下がっている。


図3 セシウム濃度の推移(1)


図4 セシウム濃度の推移(2)

 一方「底層」は5月から上昇をはじめて7月には「ごく表層」と逆転している。その後ゆるかやに低下するものの、1月19日までの平均でも70.8Bq/kgと高い。

 「淡水」も同様に5月に上昇しその後やや低下するものの1月には平均140Bq/kgと最も高くなっている。

 他には「海草類」や「無脊椎」が一時期上昇し10月には低下している。

 「表層」「中層」は「ごく表層」「底層」と比べれば低いレベルに止まっている。「表層」は「中層」よりも低い。汚染水が海に流出した直後は「ごく表層」を汚染し、その後沈殿して海の底に汚染が蓄積してきた様子がこのデータからも見て取ることが出来る。

 したがって今後は「底層」と「淡水」に注視する必要があることが分かる。これは先日のNHKスペシャルにおける指摘と一致している。

 しかし先に指摘したように水産庁は調査検体数を12月以降大幅に減らしている。底層の検体数はそれでも一番多い(1月19日までに67検体)が、淡水は少なく1月は19日までに5検体しか調査していない。

 ちなみに半減期8日のヨウ素(図5、6)は「ごく表層」で4月、「海草類」に5月に大きく出た以降はほとんど検出されていない。


図5 ヨウ素131濃度の推移(1)


図5 ヨウ素131濃度の推移(2)

 内部被曝につながる魚介類の汚染の現状の把握、構造の解明は今後の日本の食生活の安全、安心を支える上で重要である。水産庁は調査検体数を減らしつつあるが、むしろこれらこそ基礎的なデータの収集が重要である。

 今回は公表月(採取日の記載がない結果が多いので)と生息域で解析を試みた。今後は、水域毎、魚種毎、養殖であるかどうかなどについて引き続き検討を行いたい。