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水産物の放射能汚染の解析(3)

水域別・生息域別の汚染の変化


鷹取 敦

掲載月日:2013年1月5日
 独立系メディア E−wave 無断転載禁


 水産庁が実施している「水産物の放射性物質調査」結果を用いて、集計・解析し、H24年1月、3月に下記を執筆した。1月の報告では生息域毎の全体の傾向を、3月の報告では調査サンプル数の課題について示した。

◆鷹取敦・水産物の放射能汚染の解析(1)
生息域と汚染の変化

http://eritokyo.jp/independent/takatori-fnp0008.htm

◆・鷹取敦・水産物の放射能汚染の解析(2)
東京湾内の汚染の継続調査の必要性

http://eritokyo.jp/independent/takatori-fnp0009.htm

水産物の放射性物質調査の結果(水産庁)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/kekka.html

 H24年1月の報告から1年経過したので、12月までの公表データを集計・解析し、その後も含めた変化の傾向を示す。

 前回は生息域毎の平均値で傾向をみたが、今回はさらに水域毎の違いを把握するため全体を10の水域・地域に分けて推計した。

  北海道・青森・岩手(北海道、青森県、岩手県、オホーツク海等)
  宮城(宮城県、宮城県沖)
  福島(福島県、福島県沖)
  茨城(茨城県、茨城県沖、日立・鹿島沖)
  栃木・群馬(栃木県・群馬県)
  千葉(千葉県・房総沖等)
  埼玉・東京・神奈川(埼玉県、東京都、神奈川県)
  日本海(秋田県、山形県、山形県沖、新潟県)
  太平洋(太平洋沖等)
  その他(中部、近畿、四国、中国、九州地方)


 いずれもCs-134、Cs-137の合計の推移を示した。I-131は半減期8日と短いため、ここではCs合計の傾向をみることとした。

 全体としては、原発に最も近い福島で高く、次いで隣接する宮城県、茨城県と続き、栃木県、群馬県の内陸の淡水、千葉、埼玉、東京、神奈川と南側の方が北側の県よりも相対的に高いことがわかる。

 生息層別にみると、「淡水」が高いことはいずれも共通しており、「底層」、「中層」等も福島および近県では高い。その他の生息層は福島も含めて、きわめて低く、平均で1桁か検出されていない状態が継続している。

 汚染は事故直後から単調減少しているわけではなく、「淡水」、「底層」、「中層」ともに、濃縮されて一旦上昇し、その後下降している傾向が見られる。濃縮の理由はセシウムは生物的半減期が比較的短く排出が早いことから、「淡水」の場合には陸域からの流入によるもの、「中層」、「底層」は、海水の動きによって蓄積、沈殿、再浮遊したのではないかと考えられる。

 全体の汚染レベルとしては、H24年12月現在で、福島の「底層」でも今後の注視は必要であるものの平均で100Bq/kgを下回り、「中層」、「淡水」は25Bq/kgを下回っている。近県ではこれらの生息層でも平均でおおむね25Bq/kgを下回り、離れた県では1桁か検出されていないことが分かる

 以下に水域・地域別の傾向をグラフとともに示す。


■福島(福島県、福島県沖)


福島Cs合計


福島Cs合計

 福島県は他県と比べて際立って高い。隣接する宮城県、茨城県と比較しても依然として一部の生息層については高い。

 事故直後に高かった「ごく表層」はH23年7月には大きく低下してH23年12月〜H24年2月にかけて一旦上昇し再度低下している。

 H24年12月まで比較的高いのは「底層」、次いで「中層」と「淡水」である。

 「底層」はH23年12月には200Bq/kgを超えてたものがH24年12月には約70Bq/kgと低下しているものの、H24年9月から上昇傾向が見られる。

 「中層」はH24年2月には大きく上昇し270Bq/gに達し、その後低下してH24年6月、7月には1桁もしくはNDと低かったものが、その後、上昇し約25Bg/kg前後で推移しており、大きな変動が見られる。

 「淡水」はH23年6月の約460Bq/kgから一旦大きく低下し、H24年1月には約30Bq/kgまで下がったものの、同3月には約390Bq/kgと大きく上昇し、再度、低下してH24年12月には20Bq/kgを下回り、大きな変動が見られる。

 「底層」、「中層」、「淡水」とも現時点では国の基準を大きく下回っているものの、「底層」については上昇傾向が見られること、「中層」、「淡水」については、季節変動があるように見えることから、今後も注視が必要である。他の生息域は福島県においては低い濃度が継続している。


■宮城、茨城


宮城Cs合計


宮城Cs合計


茨城Cs合計


茨城Cs合計

 ついで福島県に隣接する宮城、茨城の両県をみると、福島県より大幅に低いものの「底層」、「中層」、「淡水」が相対的に高い。「底層」、「中層」はH23年12月はいずれも25Bq/kgを下回っているが、「淡水」は宮城県では約100Bq/kg、茨城県では25Bq/kgを上回っており、淡水において高いことが分かる。

 変動をみると、宮城県では「底層」、「中層」がH24年7月、8月頃にピーク、茨城県では「底層」はH23年8月頃、「中層」はH24年2月頃にピークとなっている。

 「淡水」は宮城県、茨城県ともにH23年6月頃とH24年4〜6月頃に高くなっており、季節変動がみられる。いずれも事故直後から上昇している時期があるため、今後も注視が必要である。特に淡水魚は宮城県では平均値で国の食品基準値近くまで上昇している。これは名取川のイワナが3検体全て基準値を大きく超えているためである。

 「淡水」、「底層」、「中層」以外は低い濃度が継続している。


■栃木・群馬


栃木・群馬Cs合計

 栃木県、群馬県は海に面していないため「淡水」のみである。両県は汚染の大きな地域があることから「淡水」への影響も大きい。H23年の事故直後よりもその後の上昇が大きく、H23年11月〜H24年1月には平均で500Bg/kg前後まで達している。

 その後、大きく低下しH24年7月以降は25Bq/kgを下回っているものの、土壌の汚染が大きいことから今後の傾向を注視する必要がある。


■千葉、埼玉・東京・神奈川


千葉Cs合計


千葉Cs合計


埼玉・東京・神奈川Cs合計


埼玉・東京・神奈川Cs合計

 千葉は宮城、茨城よりさらに低く、埼玉・東京・神奈川は千葉よりも低い。

 これらの県では「淡水」が25Bq/kgを下回っているものの、他の生息域よりも相対的に高く、H24年に入ってからも上昇、下降の変動がみられる。

 また千葉ではH24年に入ってからも25Bq/kgを下回っているものの「中層」が上昇している月がある。

 他の生息域は低い濃度が継続している。


■北海道・青森・岩手


北海道・青森・岩手Cs合計


北海道・青森・岩手Cs合計

 これらの道県はさらに低い傾向にあるものの、H24年2月に「淡水」で一旦上昇し100Bq/kgを超え、その後低下している。


■日本海(秋田県、山形県、山形県沖、新潟県)


日本海Cs合計


日本海Cs合計

 日本海側のこれらの県は、上記の道県よりもさらに低くほぼ検出されていないが、「淡水」は25Bg/kgを下回っているものの変動がみられる。


■太平洋沖、その他の府県


太平洋沖・その他の府県Cs合計


太平洋沖・その他の府県Cs合計

 太平洋沖やその他の府県では、おおむね1桁しか、検出されていない。ただし「その他の府県」ではH23年10月、11月に「淡水」で2桁の検出があり、陸上の汚染が広範に広がったことを示唆している。