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2012年7月中旬から下旬にかけ、スコットランドに現地調査に行くことになった。スコットランドは、先進国で唯一、ゴミを燃やさない、埋め立てない政策を実現したカナダ東岸の州、ノバスコシア州の「ふるさと」でもあります。 以下の地図は、2012年7月17日から27日に現地調査ででかけるスコットランドにおける全行程です。首都のエジンバラやグラスゴーだけでなく、北部、南部にも足を伸ばします。 スコットランド現地調査全行程案 青山貞一作成 スコットランド国旗 スコットランドの地理的位置(赤色部分) 以下のグラフと表は、スコットランドのセクター別の全エネルギー消費です。電気rメルギーが全体の約1/4、輸送用エネルギーが全体の1/4強、圧倒的多くは熱エネルギーとして使用しています。 ENERGY POLICY: AN OVERVIEW Source: Scotland Government スコットランドは、日本同様もともと原子力と化石燃料が過半を占める国(地域)でした。 スコットランド北東部アバディーン沿岸には、北海油田が広がっており、これがスコットランドの経済基盤、また英国からの自立、独立の基盤となっています。 下のグラフはスコットランドと英国全体の電気のエネルギー別割合です。 スコットランドは、現状でも原子力が30%程度(青の部分)あり、英国全体に比べその割合は多くなっています。 原発・火力を含めた発電源の割合 出典:スコットランド政府 以下はスコットランドの原発です。スコットランドの原発は、歴史的には4地域、合計12基ありましたが、現在、大部分の原発は閉鎖され、2地域それぞれ2基、合計4基だけとなっています。 スコットランドの原発立地 出典:日本原子力会議 このようにもともと原子力と化石燃料が主体であったスコットランドですが、現在、スコットランドは、過去10年間で自然エネルギーを中心とした更新可能エネルギーの割合が31%と、飛躍的に風力を中心とした更新可能エネルギーが増えています。さらに今後10年で更新可能エネルギーがスコットランドの全電力消費の100%をまかなう戦略的な計画を持つに至っているのです。 今回の現地調査は、もともとエネルギー関連調査ではありませんでしたが、スコットランドは、現状で自然エネルギーなど再生可能エネルギーが全電気エネルギー消費の31%となっており、何と2020年までに再生可能エネルギーで全電気エネルギー消費の100%をまかなう戦略的計画をたてていることに注目し、その現場を訪れることとしました。 スコットランドにおいても福島第一原発事故が、こうした再生可能エネルギー戦略を後押ししていることは言うまでもありません。 現状での再生可能エネルギー、とりわけ自然エネルギーによる発電の内訳は、風力、水力とバイオマスなどがありますが、風力発電が一番となっています。 以下のグラフは、2000年から2010年のスコットランドの再生可能エネルギーの電力設備容量の推移を示しています。凡例は、青色が水力発電、緑色が風力発電となっていることが分かります。 スコットランドの過去10年の再生可能エネルギーの電力設備容量(MWh) 出典:スコットランド政府 以下のグラフは、2000年から2010年のスコットランドの全発電量に占める再生可能エネルギーの割合の実績値です。2010年は一旦下がっていますが、2011年度は持ち直し、31%になっています。 スコットランドの過去10年の発電量(GWh) 右の割合(%)はスコットランド全発電量に占める再生可能エネルギーの割合 出典:スコットランド政府 以下のグラフは、2011年から2021年までの10年間における再生可能エネルギーの戦略的開発シナリオです。計画はA、B、C、Dの4つの代替案となっています。一番上(A)が100%再生可能エネルギーでまかなうシナリオです。非常に野心的かつ戦略的な計画といえます。 2020年までの将来シナリオ 出典:スコットランド政府 ところで、スコットランドで一番大きな都市は、グラスゴーです。 そのグラスゴー近くの丘陵に140基もの大型の風力発電が立地しています。 ホワイトリー風力発電ファームです。このウインドファームは、デンマークのサイトに次ぐ規模であり、今後さらに70基も増設する予定だそうです。このホワイトリーの風力発電施設は実にグラスゴーの18万世帯に電気を送っているそうです。今回、グラスゴー南部だけでなく、エジンバラ東部の風力発電サイトも視察します。 スコットランドの風力発電 Source: Europe wind farm, scotland wind farm 下の動画は、グラスゴー近くのホワイトリー風力発電ファームを移したものです。 Source:Whitelee Wind Farm, Eaglesham, Scotland You Tube Source:Scottish Wind Farm --- Glendevon -- Green knowes You Tube 以下はスコットランドにおける風力発電ファームの位置図です。グラスゴーの南及びエジンバラの東に大きなウインドファームがあることがわかります。これは電力消費地近くにウインドファームが立地されていることを意味します。 スコットランドのウインドファーム立地地図 Source:http://www.flickr.com/photos/riggott/6837794131/ 2020年までの将来計画でも、再生可能エネルギー、とりわけ自然エネルギーの中核はドイツ同様、風力発電にありますが、今後は海洋地形上、潮汐、潮流発電、波力発電も非常に有力であり、さまざまな意味で日本が参考にすべき地域(国)と言えそうです。 潮力エネルギー実験施設の告知板 下の写真はスコットランド企業がポルトガル海域に設置している波力発電システムのファームです。たくさんの鯨のように見える赤い装置が潮力発電システムで、長さは長いものでは180mもあるそうです。今後、これら波力発電システムが稼働を開始すれば、周辺を海で囲まれているスコットランドやUKで主要な電気エネルギーを供給することになるでしょう。 記事によると、以下のシステムは将来、スコットランド全体の電力消費の10%をまかなう可能性があるとしています。 システムは波力だけなのか、上層潮流+風による波浪をエネルギー源としたものなのか以下の写真からだけでは分かりません。わかり次第、報告します。 スコットランド企業がポルトガル海域に設置している波力発電システムScottish company Ocean Power Delivery is building the worlds first commercial wave farm off the northern coast of Portugal. Source:Tide Turns in Scotland、Maritime Journal スコットランド最初の波力発電ファーム Pelamis on site at EMEC, the planned location for Scotland's first wave farm. Source:English Wikipedia 下はスコットランドのオークニー島近くで稼働中の波力発電システムの動画です。 Source:E.ON Pelamis machine in Orkney, April 2012, YouTube
下はスコットランドの会社が開発している同じ潮力発電でも海の中に沈めるタイプの発電装置です。このシステムはスコットランドで商用第一号の潮力発電のようです。 スコットランドの海の中に沈めるタイプの発電装置 Source:Scotland’s first commercial tidal power array given consent スコットランド政府の承認を得た10MW規模の潮流発電システム Source:10MW tidal power station gets Scottish government's approval 設置している場所は、グラスゴーの西にある「Sound of Islay」です。 設置している場所は、グラスゴーの西にある「Sound of Islay」 出典:グーグルマップ
下の写真はスコットランド製の設置前の潮流発電装置です。 Source: Scotland boosts tidal, cuts biomass 一方、下図はスコットランドの首都、エジンバラにおける季節毎の日照時間です。スコットランドの日照時間は非常に少ないのですが、太陽光発電ではなく、太陽熱利用は日本の太陽熱温水器に類する設備が使われており、スコットランド議会の屋上にもスコットランド製の太陽熱温水器が設置されているそうです。 エジンバラにおける季節毎の日照時間 一方、スコットランドにおける地熱利用は、地熱発電ではなく地熱そのものを利用するプロジェクトが稼働しています。何でもかんでも電気エネルギーに返還するのではなく、熱をそのまま利用したり、ヒートポンプを利用することで有効利用するプロジェクトがあります。 以下は、スコットランドのエネルギー産業図である。北部地域は北海油田関連、水力、波力、潮力、南部地域は主に風力発電関連産業が多いことがわかります。 スコットランドのエネルギー産業の概要、 ENERGY POLICY: AN OVERVIEW、Scotland’s Energy Industries Source: Scotland Government ひるがえって、日本では政官業学報がつくった「原発安全神話」のもと、危険きわまりない原発を狭い日本各地に立地してきたのです。その結果、風力、波力、潮力、地熱などひとつひとつは小さくともまとまると原発を凌ぐ自然エネルギーや生ゴミ、下水汚泥から出るメタン発酵ガスによる発電などが、ことごとく軽視され、国の巨額の予算が原発分野ばかりに投入されてきました。 以下は、そのスコットランド、日本の東北地方、私達がこの間、廃棄物資源化政策に関連し何度も行っているカナダのノバスコシア州(この州の名前は、ラテン語であり、英語ではニュースコットランド)の3地域の面積と人口を比較したものです。
見ておわかりのように、スコットランドは日本の東北に近い地域であり、今後、自然エネルギーの研究開発をして行く上で、大いに参考になる地域といえます。 さらに、今回は訪問しませんが、スコットランドとグリーンランドの中間にありますアイスランドは、日本同様、火山活動が活発な地域であり、地熱発電が非常に盛んです。 私が理事をしている環境アセスメント学会の学会誌では、次号で、この地熱発電を大きく特集し、アイスランドにおける地熱発電も事例で取り上げます。また開発上の自然環境、自然景観への配慮についても論文を掲載する予定です。 私達は10年前から、廃棄物政策では、先進国で脱焼却、脱埋め立てをほぼ達成している上記のカナダ・ノバスコシア州の諸政策を日本や東北地方で生かすべくカナダ大使館、ノバスコシア州政府、ハリファックス広域市、地元NPO/NGO、企業、大学などの協力を得ながら、日本でのゼロ・ウェイストの実現に向けてその普及に努力してきました。 ノバスコシア州旗 今後は、自然エネルギー政策の促進について、スコットランド政府、エジンバラ、グラスゴー、インバネスなどの関連市町村と連携をとって行きたいと思います。 <関連ブログ> ◆青山貞一:全能の「否」が支配するスコットランド、自然エネ31%、2020に100% <関連ブログ2> ◆青山貞一:メアリー・スチュアートとノバスコシアの脱焼却・脱埋立政策@ ◆青山貞一:メアリー・スチュアートとノバスコシアの脱焼却・脱埋立政策A ◆青山貞一:メアリー・スチュアートとノバスコシアの脱焼却・脱埋立政策B |