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東電、福島第一原発の敷地内から海に漏れ出る汚染水のうち、トリチウムを含む汚染水の影響については、新聞、テレビではほとんどまともな解説がありません。あっても、<問題ない>のオンパレードです。 巷では、「原子力学会が薄めて海に流しても問題ない」報道一色です。 しかし、トリチウムは、本当に海に流しても問題ないのでしょうか? また魚介類などへの影響はないのでしょうか? さらに人体への影響はないのでしょうか? 本論考では、現時点で入手可能な情報、資料をもとに上記の疑問に答えるべく努力してみました。 ●はじめに ~フランスのテレビ番組「終わらない悪夢」より~ 以前、フランスのテレビ番組「終わらない悪夢」が日本でも放映されました。以下はその後半部分のトランススクリプト(書き写し)です。 ◆鷹取 敦:フランスのテレビ番組、「終わらない悪夢」(後編テキスト) http://eritokyo.jp/independent/aoyama-fnp124..html 「終わらない悪夢」の後半(上記)を読むと、 仏アレバ社のラ・アーグ放射性廃棄物再処理工場から出たパイプは、毎日400立方メートルの放射性廃液を英仏海峡に投棄とあります。 比重を1とすれば400トン/日となります。1日400トンはどこかで聞いた数値です。 およそ50年の間、各国はドラム缶に詰めて海洋投棄されていた Source:Arte France/Bonne Pioche しかも、1993年国際条約で放射性廃棄物の海洋投棄は全面禁止。 しかし、これはあくまでも船からの投棄は禁止ということに限定されています。矛盾しているようだが陸上からの排出は未だに合法とされています。 驚くべき話ですが、 ラ・アーグ工場では延べ4.5キロメートルのパイプがラ・アーグ岬から1.7キロの海域に汚染水を排出しています。 4.5キロメートルのパイプがラ・アーグ岬から1.7キロの海域で 汚染水を排出している Source:Arte France/Bonne Pioche アレバ社の核燃料再処理工場があるコタンタン半島のラ・アーグ 工場から長いパイプで海に排水を1日400トン捨てている Source: Google Map さらに、トリチウムやクリプトン85のような一部の放射性物質を外に出さないためには膨大なコストがかかる。ラ・アーグ再処理工場はその殆どを環境中に放出することをフランスの原子力安全機関(アンドレ=クロード・ラコスト委員長)から許可されている。 とあります。 ●トリチウム(三重水素)とは
・半減期 12.3年 ・崩壊方式 非常に低いエネルギーのベータ線を放出して、ヘリウム-3(3He)となる。 ・生成と存在 水素の放射性同位体(記号Tで表わす)。 原子炉内では、リチウムのような軽い元素と中性子の反応および三体核分裂によって生じる。電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、原子炉ごとに異なるが、加圧水型軽水炉内には約200兆ベクレル(2×1014Bq)、沸騰水型軽水炉では約20兆ベクレル(2×1013Bq)が蓄積する。 水素の中に0.015%が含まれる重水素(2H、記号Dで表わす)の中性子捕獲でも生成するが、軽水炉内でのトリチウム生成への寄与は小さい。ただし、カナダで開発されて韓国に導入されているCANDU (Canada Deuterium oxide- Uranium) 炉では重水(D2O)を減速材としているために軽水炉の場合より大量のトリチウムが生じる。 出典:原子力資料情報室 ●トリチウムの影響について 調べてみれば、トリチウムの人体への影響は、DNA分子(つまり遺伝子)の中で結合し、DNA分子の中では、後になってから、癌に結びつく変化が引き起こされる場合があり、結果として(トリチウムがDNA分子内で起こす変化は)脳腫瘍、赤ちゃんの先天性奇形、多くの臓器でのガンの原因となります、とありけっして看過できるものではないようです。 以下、トリチウムの影響についての紹介です。 過去、そして現在、原子力、原発関係者は、自分たちに都合の悪い情報を公開しません。新聞、テレビなどのメディアは、いわば原子力村からの情報ばかりを記事に司法どうしています。 事実、新聞、テレビがトリチウムの影響についてまともに扱った報道は、この間ほとんどありません。 トリチウムの人体影響について京都大学の小出氏はセシウムよりも危険性が高いと次のように指摘しています。
さらに、小児科医のヘレン・カルディコット博士は、トリチウムおよびその人体、生物への影響について次のように述べています。
ちなみに、原子力資料情報室のトリチウムの生態に対する影響の記述は以下の通りで、一般のひとには、ほとんど何の影響があるのかわからない内容でした。 ・生体に対する影響 出典:原子力資料情報室 放出すされるベータ線は水中で0.0mmまでしか届かない。体内取り込みによる内部被曝が問題になる。10,000ベクレルを含む水を経口摂取した時の実効線量は0.00018ミリシーベルト、10,000ベクレルを含む水素ガスを吸入した時の実効線量は0.000000018ミリシーベルトになる。2つの間に10,000倍の差がある。 最近の雨水中のトリチウム濃度を2ベクレル/リットルとして、この水を1年間摂取すると、実効線量は約0.00004ミリシーベルトになる。ふつうの人がトリチウムによって受ける年間実効線量はこの程度であろう。 またWikipediaには、トリチウムによる影響についての記述はまったくありませんでした。 ●世界各地におけるトリチウムによる人体影響の具体例 次に、トリチウムによる人体影響の具体例です。 以下に示すように、世界各国で多くの報告があります。ただし、それぞれの報告についてどれだけの反論、議論があるかについては、定かではありません。
●薄めて海に捨てるしか能のない原子力学会 ところで、東電は当初、冷却水タンクが満タンのため、「多核種除去設備(ALPS)」を稼働させて処理した水を海へ放出する方針としました。しかし、ALPSでもトリチウムは1リットル、200万~300万ベクレル、トリチウムが含まれることになります。非常に高い濃度です。 その後、東電は、福島原発事故で汚染された地下水のトリチウムの濃度が1リットル当たり60万ベクレル前後であり、場合によりこれを海に放出せざるを得ないと言っていました。 これに対し、数日前、日本の原子力学会は、トリチウムに関しては安全基準(安全基準が1リットル当たり6万ベクレル/L)以下に水で薄めて排出すべきという提言を公表しています。 しかし、まさに国際的な原子力関係者間では、薄めて海に捨てる程度の認識しか無いと言うのは恐ろしいことです。もとより、原子力学会は、「原発安全神話」の総元締め、原子力村の中核にある団体です。
●トリチウム汚染水濃度の意味するもの すでに述べたように、「多核種除去設備(ALPS)」を通過しても、トリチウムは1リットル当たり、200万~300万ベクレルのトリチウムが含まれることになり、それを希釈してもせいぜい1/4~1/5にしかならないはずです。 下の記事には、福島原発敷地内の汚染された地下水のトリチウムの濃度が1 リットル当たり60万ベクレルとあります。まさに、200万~300万ベクレルの1/4~1/5と いうことになります。 おそらく実際には、今まで海に流出している汚染水は、それよりはるかに高いものを流している可能性があると思えます。
ここでは、仮に海に流れ出る汚染水に含まれるトリチウムの濃度を、1リットル当たり60万ベクレルとした場合、それは、日本の排出基準(安全基準)の1 リットル当たり6万ベクレルの10倍にあたります。 ※トリチウムについては、日本では、排出基準(安全基準)が 1リットルあたり6万ベクレルとなっている。 正確には、放射線障害防止法に定められている排水中 トリチウム濃度限度60Bq/cc=6万ベクレル/L 排出基準と飲料水基準を比較しても、あまり現実的ではありませんが、ここでは、カナダのオンタリオ州の飲料水基準と比較してみたいと思います。本来、日本政府は、早急にカナダ・オンタリオ州にならって飲料水についてのガイドラインをつくるべきです。ここでも日本政府が原子力村にばかり顔を向け、気をつかっていることがよくわかります。 ※カナダ飲料水基準の根拠 カナダでは、飲料水中のトリチウムの基準は1リットル当たり7,000ベクレルときまっています。 しかも、最近 のオンタリオ飲料水諮問委員会(ODWAC)報告では、現在、この基準を更に1リットル当たり20ベクレルまで大幅に減らすべきであると結論付ける科学的根拠 を出しています。 ※オンタリオ飲料水諮問委員会(ODWAC)報告 ★Report and Advice on the Ontario Drinking Water Quality Standard for Tritium Prepared for the Honourable John Gerretsen Ontario Minister of the Environment By the Ontario Drinking Water Advisory Council May 21, 2009 したがって福島原発からの汚染地下水のトリチウムレベル、1リットル当たり60万ベクレルは日本の排出基準の10倍ではあっても、カナダの飲料水基準に照らし合わせると70倍、さらにカナダ・オンタリオ州政府のODWAC科学諮問委員会の申請した基準より、実に25,000倍高いということになります。 さらに、トリチウムは、身体の皮膚からも容易に浸透することからして、最低限、福島県、宮城県、岩手県、茨城県、千葉県など太平洋側の海水浴については、慎重であるべきだと思います。 ひとたび太平洋に流れ出たトリチウムは、海流、潮流により拡散され、2~3年でカナダ、アメリカ、メキシコなどの太平洋岸に到達することになります。 以下は、 ドイツ・キール海洋研究センターの福島第一原発事故現場から流出した汚染水の拡散シミュレーションです。もとの時間を1/10としています。5年間分の拡散シミュレーションを1分でみることが出来ます。 ドイツ・キール海洋研究センターの福一水汚染シミュレーションの 5年間を1分でみる短縮版 出典:YouTube ●過去、各地の原発が高濃度トリチウムを海に流していた可能性 ところで、(独)日本原子力研究開発機構原子炉廃止措置研究開発センターの放射性液体廃棄物に関する平成21~22年度のデータを見ると以下のようになっています。 ※正式名称 平成22年度 原子力施設における放射性廃棄物の管理状況及び放射線業務従事者の線量管理状況について 平成 23 年 9 月 経済産業省 > ●放射性液体廃棄物中のトリチウムの年度別放出量 > (独)日本原子力研究開発機構原子炉廃止措置研究開発センター >> 8.6×10^11 Bq/年 > もんじゅ 1.5×10^8 Bq/年 > > 泊 3.3×10^13 Bq/年(H22) > 女川 2.2×10^10 Bq/年(H22) > 東通 3.0×10^10 Bq/年(H22) > 福島第一 2.0×10^12 Bq/年(H21) > 福島第二 1.6×10^12 Bq/年(H22) > 東海 7.5×10^7 Bq/年(H21) > 東海第二 4.2×10^11 Bq/年(H21) > 柏崎刈羽 6.6×10^12 Bq/年(H22) > 浜岡 6.4×10^11 Bq/年(H22) > 志賀 2.8×10^11 Bq/年(H22) > 美浜 1.3×10^13 Bq/年(H22) > 高浜 6.5×10^13 Bq/年(H22) > 大飯 5.6×10^13 Bq/年(H22) > 敦賀 1.2×10^13 Bq/年(H21) > 島根 2.3×10^11 Bq/年(H22) > 伊方 5.1×10^13 Bq/年(H22) > 玄海 1.0×10^14 Bq/年(H22) > 川内 3.0×10^13 Bq/年(H22) > --------------------------- > 合計 3.6×10^14 Bq/年(H22) そこで、事故後の福島第一原発から毎日、 1日 400トン 1リットル中のトリチウム 60万ベクレル(上述の値) の排水が 1年 365日 太平洋に流れ出たとすると、 =0.8×10^14 Bq/年 となります。 上記の年間 0.8×10^14Bq/年 という計算値は、玄海 1.0×10^14 Bq/年(H22)などより少なく、、排水の1リットル当たり60万ベクレル程度の濃度の排水を垂れ流していたことになります。 すなわち、東電は過去、そして現在も、排出基準の1リットル当たり、6万ベクレルを大きく超えるトリチウムを毎日、太平洋に垂れ流していたことになります。 このことの意味することは、稼働中の全原発では排出基準を5倍以上超えるトリチウムを何十年も垂れ流していたことになります。 だから原子力学会は、薄めて垂れ流せばよいとシラーと言ったのでしょう! 以下は、◆鷹取 敦 :フランスのテレビ番組、「終わらない悪夢」(後編テキスト) http://eritokyo.jp/independent/aoyama-fnp124..html の関係する部分です。
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