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広域処理を基礎自治体
に押しつける官僚独裁国家、日本
青山貞一 東京都市大学大学院
掲載月日:2012年3月12日
 独立系メディア E−wave Tokyo

 
 沖縄普天間基地の県外・海外移転、八ッ場ダム建設中止はじめ数え上げればきりがない公約破りだ。次期総選挙で200議席割れも間違いないのが民主党だ。もちろん自民党に第一党に返り咲いてもらいたいと考える国民は多くはないが。

 田中宇氏の最新論考★田中宇:民主化するタイ、しない日本 が非常に興味深い。アジアの非社会主義圏で民主化が著しく遅れている2つの国、すなわちタイと日本を取り上げ徹底比較をしている。タイは民主化の可能性があるが日本はしないと田中氏は述べている。いうまでもなく官僚独裁国家であるからだ。ここで大阪市の橋下市長の大阪維新活動が頭を持ち上げてくるのだが、これについては本稿の最後に触れた。

田中宇:民主化するタイ、しない日本

 日本とタイは、政治権力の構造が似ている。両国とも、表向きは自由選挙が行われる「民主主義体制」だが、民意に基づいて選出された政治家の権力行使を阻止する官僚機構(タイは軍部と王室などの複合体)が強く、民主的に選ばれた政治家が権力を発揮できず、実質的な官僚独裁体制が続いてきた。日本もタイも、民主国家のように見えて、実は民意と関係ないところで国家意志が決まる非民主的な官僚独裁の体制である。

 日本もタイも、欧米列強の植民地に長期間なったことがないので、古くからの権力機構が近代化しつつ生き残っている。日本の官僚機構は、明治維新で権力を握った薩長が江戸幕府の経済機構受け継ぎつつ改組近代化して作り、第二次大戦の敗戦後、官僚機構が政治家と軍部の権力を排除し、天皇の代わりに米国を象徴的な権力者として抱く体制に転換して生き延びた。皇室は終戦後、官僚機構の一部である宮内庁に管理監督されることに同意した。裁判所、マスコミ、学界(大学)なども、官僚機構の傘下にある。 (日本の権力構造と在日米軍)

 タイも、20世紀初頭からの近代化の過程で、表向き議会が権力を持つ立憲君主制となったが、議会が政治力を持ちすぎると、軍部がクーデターを起こし、国王が軍部と政治家を仲裁することによって政界の権力が制限され、議会(政界)の権力が一定以上に伸びないようになっていた。官僚機構、裁判所、学界などが、王室と軍部の複合体の中にいる。 (タイのタクシンが復権する?)

......

  日本は、選挙不正が米国などより格段に少ない。それは、選挙で誰が当選して国会議員や首相になろうが、官僚機構があらゆる手を使って、政治家が官僚機構の意に反する意志決定を行ったり官僚潰しを画策したりすることを防ぐので、選挙の段階で不正をやって当選者を操作する必要がないからだろう。09年秋の与野党逆転以来、政界による官僚潰しが画策されたものの、失敗している。

 官僚を敵視すると、官僚機構傘下のマスコミに悪いイメージを塗りつけられるので、苦労して当選した議員たちは官僚と敵対しない。官僚の傀儡になった方が、良いイメージで報道してもらえるので、口だけ官僚批判して、実際は官僚の傀儡になる者が多い。日本では10年ほど前から、一般の人々の中に政治家をめざす人が増えているが、上記のような事情があるので、日本の政治家は、国政・地方政治とも、当選までの苦労が多い割につまらない仕事であると、私には思える。
......

 田中氏の論考は至言である。田中宇氏とは、その昔(9.11直後)、坂本龍一氏らと一緒に非戦のNPO Sustainability for Peaceを設立したときに数度お会いしただけだが、日本では希有な本格的なフリーランスの国際ジャーナリストであり、その論考は他の追随を許さないと思う。

 不幸にして日本に生まれた私たちは、世界にもまれな非民主国家、官僚独裁国家、日本と闘わざるを得ない! 以前ある女性衆議院議員と対談したとき、日本の民主化には100年はかかると私が言ったら、彼女はいや200年はかかると言い放った。それほど日本官僚機構は民主化を妨げ続けているのである。もちろん、私が常々言っている政官業学報のペンタゴンの存在は、日本の民主化をより先延ばしにしていることは間違いない。

 さて、本題に戻ろう。公約破りの大罪をこれでもかこれでもかと犯し、まったく恥もへったくれもない民主党政権は、災害廃棄物の広域処理でも行き詰まり、ついに立法措置で強権的に基礎自治体に災害がれきの処理を強制するという暴挙に出てきたわけだ。地方自治のイロハがまったく分かっていない。

 私は民主主義の最大のキーワードは情報公開であると思っている。腐っても米国が民主主義、草の根民主主義国家なのは、ラルフ・ネーダー氏が言うように「情報は民主主義の通貨」であると自覚しているからだ。
 
 こんな暴挙は、連邦国家、地方分権国家である米国、カナダ、ドイツなどでは原理的にあり得ない話だ。今回の措置は、明らかに基礎自治体への国家のブラフである。

 もともと、この問題の原点は、さもなくとも国民そして基礎自治体からまったく信頼されない環境省が完全非公開で災害廃棄物処理の検討会を昨年春以来、開催してきたことにはじまる。長い環境省の歴史でもこれほどふざけた馬鹿げた政策立案過程は見たこともない。

 環境行政改革フォーラムの鷹取敦事務局長が国の行政情報開示請求法に基づき検討会の開示請求をしたが、出てきたのは最初の4回だけ、それも60日も待たされた後だ。

◆鷹取敦:不開示理由書と意見書 情報公開・個人情報保護審査会より
◆鷹取敦:議事録作成をやめた「災害廃棄物安全評価検討会」
◆鷹取敦:環境省への議事録開示請求の経過報告(2012/02/17現在)

 その後、異議申し立てに対し非開示を通告、最後は議事録を作らないと鷹取氏に電話連絡してきた。録音もやめたとその後の決定で通知している。一国の官僚、それも最も透明性と信頼性が求められる環境行政の役人が、こともあろうか、開示請求されて、「議事録を作成していない」などと国民に言えるものだろうか。余りにもお粗末である。

◆鷹取敦:がれき広域処理・除染キャンペーンに国税30億円

 周知のように、もともと信頼性がない今の政府のなかで原子力規制庁などをたらい回しする先が環境省だ。しかも70%以上の職員は経済産業省からの異動になるという。これでは原子力村の中心地の一角が単に看板を掛け替えただけであり、まったく意味もない。税金の無駄遣い以外の何物でもないだろう。せめて長官に後藤さんか井野さんが抜擢されればまだしも、「利益相反」の東大工学部教授やそのOBjの任用では、まったくお話にならない。

 ところで、強権発動し、立法措置までして災害廃棄物の広域処理を基礎自治体に押しつけようとしている環境省は、23年度には9億円で広報事業を博報堂に委託している。この博報堂は、地球温暖化キャンペーンでも単年度で数十億に上る広報事業を数年間連足的に請け負った大手広告代理店だ。

 私たちは過去、何度も広域処理という国の政策とも言えない政策は、地方自治の原点そして物理学の原理からして間違っていると主張し続けてきた。けっして、利権や情緒で広域処理をすべきことではないと述べてきたのである。

◆池田こみち:災害廃棄物広域処理の環境面からの妥当性について 震災がれきの広域処理を考えるシンポジウム
◆青山貞一:日本は災害瓦礫処理でも「焼却主義」の大愚
◆池田こみち:瓦礫の広域処理への反発はNIMBYか!?
◆池田こみち:広域処理は問題の山、「がれき、復興足かせ」疑問 東京新聞

 河野太郎衆議院議員が3月8日のご自身のメルマガででおそらく環境省の担当者との間で行ったQ&Aが掲載されていた。

Q なぜ、がれきを県外に搬出するかわりに、被災地に、がれきの焼却場を建設しないのですか?

A 焼却炉を被災地に建てます、建ててます!

宮城県の場合、石巻市に5基、名取市に2基、岩沼市に3基、亘理町に5基、山元町に2基、この他に仙台市に4ヵ所、気仙沼市に2ヵ所、南三陸町に1ヵ所、建設予定地があります。

Q どれだけのがれきを県外で処理するのですか。なぜ、全部、現地で処理しないのですか。

A 被災地の復興を10年で、というのが目標です。そのためにはがれきの処理を3年で終わらせて、本格的な復興にはやくつなげたいというのが目標です。

宮城県の場合、衛星写真からがれきの総量を1500万トンから1800万トンと想定していますが、1年目がもう終わってしまうので、3年での処理はかなり厳しいというのが現実のようです。

宮城県の場合、被災地を仙台市とその他4ブロックに分け、焼却炉を建設して、がれきの処理を実施しますが、その処理能力で3年で処理できないがれきが350万トンと、当初想定されていました。

350万トンは「県外」処理ではなく、「域外」処理、つまり被災しなかった宮城県の内陸部にも引き受けを要請しています。域外、県外あわせて当初の想定が350万トンですが、3年での処理を目指すと、この量は増えると想定されます。

Q がれきを現地で処理した方が雇用が増えて、被災地の復興のためになるのではないですか。

A ネットなどでこうした意見が広まっていますが、県などは早く復興を実現し、本格的な雇用を創出したいと考えています。

宮城県などに尋ねると、がれきの処理で生まれる雇用は、分別のところが一番数が多いだろうが、域外処理に出すがれきは、分別が終わってから出すので、あまり影響はないとのことです。

域外処理で、現地の雇用が若干減ることはあるかもしれませんが、本格的な復興で本格的な雇用を、早く、たくさん創り出すほうが、少々の雇用を生み出すために、がれき処理に時間をかけて、復興を遅らせるよりも、はるかに被災地のためになります。

Q ある横浜市議のブログに、
「今何もない沿岸部に、発電もできるごみ処理工場を最先端の技術を持っている横浜市が建てて、現地の人たちがごみ処理場建設から灰の埋立まで携われば、漁業が復活するまで時間は稼げるし横浜にとっても、本当の意味の被災地支援になるはずです」

「放射能汚染の有無にかかわらず、市としては瓦礫を受け入れず、横浜市の焼却場を被災地につくる議論を進めたいです」と、ありますが。

A 今回現地に建設される焼却炉は、かなり大きなものです。がれき処理が終われば、その後は焼却炉に持ち込まれるゴミの量は以前に戻りますので、自治体が持っている焼却炉で対応可能です。

焼却炉のほとんどはがれき処理が終わると解体され、地権者に土地を戻すことになります。ですから、最先端技術よりも、はやく建てて、はやくがれきの処理をするのが大切です。

焼却の問題と同時に、焼却灰の処理も地域の処理場だけではやりきれないので、域外処理をお願いしています。

また、焼却炉の建設から運営に関しても、最初から現地の雇用を生み出すことが入札の条件になっています。

被災地にとって大切なのは、がれき処理が生み出す雇用ではなく、一日も早く、本格的に地域を復興させることだと思います。そのためには、がれきの処理を3年で、まず終わらせることが大切です。

Q 岩手県の岩泉町長は、時間をかけてでも地元で処理した方がよいとおっしゃっているようですが。

A 町長から直接お話を伺っていないので、意図をよく理解できているかどうかわかりませんが、岩泉町の場合、環境省のデータによると、がれきの総量が4万2千トン、すでに解体するものを含め、ほとんど仮置き場に移動できています。

これが、たとえば陸前高田市だと101万6千トン、気仙沼市136万7千トン、石巻市だと616万3千トンのがれきになります。また、石巻市などは、仮置き場が一杯なので、仮置き場のがれきを焼却などで処理してから、壊れて残っている建物の解体を始めることになります。解体により生じるがれきを含めるとまだ、半分近くのがれきが仮置き場に集められていないことになりますので、処理を急がないと復興ができません。

また、仮置き場での火災が発生していますので、災害を防ぐ意味でも処理が急がれます。被災地にも、様々な状況があります。

Q がれき処理は、東京のゼネコンの言い値の高価格で決まっていて、現地の雇用にもつながっていないのではないでしょうか。

A 宮城県はがれき処理のプロポーザル入札を終えていますが、県の予測した価格よりも全て安い価格で落札されています。地元業者が入ったJVでなければ応札できませんし、建設に関する発注などは地元の業者に出すことが求められています。

Q がれきを埋めて、そこに木を植えて森林をつくることもできるのではないですか。

A はい、仙台空港の近くなどで、宮脇昭氏等の協力を頂いたそういう計画があります。

ただ、有機物を埋めると、ものによっては硫化水素が発生したり、様々な問題が起きますので、そこに埋めることができるのは、コンクリートなどの無機物です。焼却すべきごみの量にはあまり影響がありません。

Q 被災地のがれきを県外に搬出したら、お金がかかるのではないですか。

A コストは確かにかかります。しかし、被災地の復興を早くやろうとすれば、必要なコストだと思います。

被災地には、当面、がれき処理の雇用があればよいという考え方には、私は賛同しません。本格的な復興を早く成し遂げて、本格的な雇用を創出するために、国の予算を使ってがれき処理をしてもよいと私は思います。


 河野議員の質問はそれなりに見識があると思えるが、官僚の答弁は「ああいえばこういう」の類で詭弁にすぎない。

 早くがれき対策をしないと復興ができないと電話相手(おそらく環境省幹部)は何度も言っているが、池田こみちが東京新聞で述べているように一部を除き、何らがれき処理が現場で復興の足かせとはなっていないはずだ。

 私たちは以下の市町村の現場を最低2回現地視察した。

 昨年、12月時点でがれき処理が遅れていたのは、山田町、気仙沼市、南三陸町、女川町、石巻市くらいであり、他はある一角にがれきが分別されていた。宮城県北部は地形が複雑でもともと平地が限られているという問題はあるが。

 もっぱら、福島県は自力で処理、仙台市も自力での処理を申し出ており、岩泉町などは後述するように町長自身が考えを持っている。このこと考えると、環境省の言い分は、まるでテレビ局の映像がひどい部分だけをクローズアップし、ことさら世論を煽っているようにさえ思える。

 以下は北から南へ青山、池田、鷹取が9回にわたり現地調査した基礎自治体、政令指定都市である。

◆岩手県
 久慈市
 野田村
 普代村
 田野畑村
 宮古市田老地区
 宮古市中心部
 岩泉町
 山田町
 大槌町北部
 大槌町南部
 釜石市鵜住居地区
 釜石市中心部
 釜石市南部
 大船渡市
◆宮城県
 気仙沼市
 南三陸町
 石巻市
 女川町
 塩竃市
 北松山市
 七ヶ浜町
 多賀城市
 仙台市北部
 仙台市南部
 名取市
 岩沼市
 亘理町
 山元町
◆福島県
 新地町
 相馬市
 南相馬市
  浪江町、双葉、
  大熊
富岡、楢葉
 いわき市

 北茨城市
 

 しかも、環境省は反対あるいは危惧する基礎自治体のほっぺたをカネでたたくようなえげつない方法をとろうとしている。まず基礎自治体がすべきは、現場を自分の目で見ることだ!
 
 私が日本計画行政学会に書いた論文でも書いたように、各種法令の立法措置、補助金、交付金のてまどり、さらに一番大きなのは、市町村参加のグランドデザインがほとんど行われていないのを棚に上げ、がれき処理のせいにしている。まるでマジメント能力がない。

 ※青山貞一、東日本大震災後の持続可能社会構築の諸要件 
   日本計画行政学会、計画行政学会誌 34(4),2011

 ※池田こみち:東日本被災地の廃棄物資源管理戦略
   日本計画行政学会、計画行政学会誌 34(4),2011

 もとより災害がれきには放射性物質だけでなく、アスベスト、重金属類、プラスチックが混入されており、それを敢えて全国各地で焼却処理すれば、未汚染地域を汚染することになる。

 しかも、東京、横浜はじめ世界に類例のない人口密度の地域で連日連夜、3−5年も災害廃棄物を焼却すれば、間違いなく排出される各種汚染物質の総量はかなりのものとなる。

 日本は厚生省、その後、環境省による明らかな政策ミスで、ゴミを燃やし埋める政策を永年やってきた。その結果、日本中にダイオキシンが蔓延した。ダイオキシン類対策特別措置法ができたのは1999年、それも所沢ダイオキシン大騒動が起き、日本中がパニックとなってからのことである。それでも欧米諸国に近い規制状態となるまでに10年を要している。

 多くの日本人はあまり知らないはずだが、日本は面積で25倍近く、人口で2.5倍近くの米国よりゴミの焼却量が多い。大型化、広域化で焼却炉の数を減らしたとはいえ、まだ1400基もの焼却炉、溶融炉がある。そこで燃やしているゴミの半分は何と残飯など有機物である。当然のこととして、残飯などは水分を多く含んでいるので、助燃として油を使う。これほど馬鹿な話はない。小学生でも分かることを永年やってきた。
 
 今の日本では、そのため国民は燃えるゴミ、燃えないゴミという2分別しかないが、世界の先進国ではいかにしてゴミを燃やさなくて済むかが廃棄物資源化政策や物作りの上流でいかにゴミをださないかに力を入れている。

 世界経済フォーラム(WEF、ダボス会議)でいつも日本が環境政策で下位に低迷しているのは、間違いなく何でも技術とカネ、それも重厚長大メーカー利権でその場しのぎのエンド・オブ・パイプをしてきたからだ。しかし、御用学者と環境省による焼却村の人々は、一向に諸外国から何もまなばず、利権と汚染に満ちた「焼却主義」を未だに強行しているのである。

青山貞一、「廃棄物焼却主義」の実証的研究〜財政面からのアプローチ〜、武蔵工業大学環境情報学部紀要、 

 ところで、環境省が新聞テレビの広告に数10億円を払ってまでも基礎自治体そして全国の市町村民がいやがることを一方的にしかも政策立案プロセスや立法プロセスを非開示のまま、立法措置して強行突破しようとすること自体、独裁官僚国家そのものである。

 私たちは昨年9回、東北被災地をつぶさに現地視察してきたが、池田が東京新聞にも書いたように、決して復旧・復興が進まないのは災害廃棄物のせいではない。何でもカネをちらつかせれば最後は基礎自治体は自分たちの言うことを聞くという、上から目線に反発しているのだ。それが分からない永田町や霞ヶ関は、当事者能力がないのだから早く地方主権、地方分権をすべきだ。

 大阪市の橋下市長の評価にはプラス、マイナスいろいろある。だがおそらくその本質は、あまにも思考停止で無能な前時代的な中央官僚や既存政党などによる国政にさんざん愛想をつかしていることだ。ガバナンスもリーダーシップもなくただ、政争に明け暮れ、利権政治をやっている国に変わりあたらな競争的分権国家をつくろうとしているのではないかと思える。同じ独裁と言われても、橋下市長が現在やっていることにはそれなりの哲学、理念があると思える(思いたい)。

 いずれにせよ、パソコンで言えば、いくら新しいハードウェアを買っても、その上にのるOSがどうしようもない代物だと、さらにその上で使うアプリケーションソフトの機能に限界がある。日本いつまでも超古いOSを使い続けてきたところに政治、行政、司法の本質的問題があると思う。

 ところで、最近になってやっと基礎自治体の長がこの問題で口を開くようになってきた。最初は昨年末に岩手宮城現地調査で訪れた岩手県岩泉町長だ。

復興に向けて 首長に聞く 
朝日新聞 2012年02月29日
http://mytown.asahi.com/iwate/news.php?k_id=03000001202290001

 大震災から1年。暮らしを、まちを、どう立て直すのか。各首長に聞く。

【伊達勝身・岩泉町長】

 現場からは納得できないことが多々ある。

 がれき処理もそうだ。

 あと2年で片付けるという政府の公約が危ぶまれているというが、無理して早く片付けなくてはいけないんだろうか。山にしておいて10年、20年かけて片付けた方が地元に金が落ち、雇用も発生する。

 もともと使ってない土地がいっぱいあり、処理されなくても困らないのに、税金を青天井に使って全国に運び出す必要がどこにあるのか。

 次は、私の盟友でもある櫻井勝延南相馬市長である。出典はあるブログである。

桜井市長・防潮堤にガレキ埋め立て
 
 昨日のBS11・InsideOutで南相馬市桜井勝延市長が出演。

  防潮堤を早く作るにはガレキを埋め立てるのがベストだ。しかし環境省はこれを許可しない。

  このままでは、土砂を他から持ってきて埋め立てるしかないが、こんなことをやっていては何年かかるか分からない。

 ガレキを埋め立てるとすれば、30キロある海岸線の防潮堤には福島のガレキだけでは到底足らない。岩手や宮城のガレキも受け入れなければならない。

  以上のように発言していた。環境省はあくまでもガレキを全国に拡散する方針のようだ。しかし桜井市長のアイデアは至極当然の発想だ。

 桜井市長は最後に、震災復興の最大のカギは「住民の命を最も大切にすると云う意思の存在だ」と云っていた。

 伊藤

 両首長の考えは、私たちが当初から提案してきたものに類する卓見だ。こういう見識に国が何ら着目せず、一方的に上から目線で自分たちのやり方を押しつける、そこにこそ大きな問題が横たわっていることを中央官僚は自戒しなければ日本に将来はないだろう。

 一周忌に当たる3.11、世界のメディアが復興にあえぐ日本の状況を特集番組で報じていた。その中の一つの番組で、特派員は次のようなコメントを発信していた。「日本の国民は今、3.11の地震、津波、原発事故の三つの災難だけでなく、政府・政治への信頼の失墜という4つ悲劇に打ちのめされている」と。まさにそのとおりであり、4つ目の災害こそがこの国の回復を妨げている元凶ではないだろうか。

 これこそ真実である!

 以下は我々の当初からの政策提言である!

復興は安全で安心、環境に配慮した
 持続可能なまちづくりのグランドデザインから


                 青山貞一、池田こみち

 ここに示す提案は、復興のための各種のインフラ整備はじめ巨額の資金がともなうものであり、ここで間違えると将来に大きな禍根を残すこともある。さらに平地にまちを復興する場合、将来、再度大きな津波がきた場合にどう物理的に対応するかという大きな課題がある。

 青山貞一、池田こみちは、この重要課題について、瓦礫処理に連携し、海岸側に20−30mの防波堤(防潮堤)を構築する政策提言をしている。この政策提言は、欧州諸外国における実例をもとに、日本の廃棄物処理法、沿岸法など現行法とも齟齬がない形で構築が可能であり、費用対効果にも優れた方法であると考えている。

 東日本大震災の瓦礫の処理に関連し、日本政府(環境省)は、私たちが30年間批判してきた燃やして埋めるやり方を瓦礫に適用しようとしている。

 だが、この「燃やして埋める方式」は、汚染を大気、水、土に広げるだけで、本質的な問題解決にならないことは間違いありません。ましてや放射性物質を含む場合は論外である。

 また瓦礫処理を廃棄物処理という範疇だけで、目の前の瓦礫をなくすだけの処理では今回、まちづくり、とくに津波対策との関連では問題解決にならない。

 津波対策を考慮した瓦礫処理として私はひとつの大胆な計画を提案する! 

 それは沿岸域の陸側最先端部分に、コンクリート構造物で管理型処分場に類する堰堤、防波堤型の処分場をつくることである。

 まず、提案する防波堤型の瓦礫処理の概念図を以下に示す。



出典:青山貞一、池田こみち

 これは堤防型の管理型最終処分場の中に、瓦礫類を燃やさず埋め立てることになる。 規模は、たとえば堤防ブロック一つ当たり、幅(30m〜50m)×長さ(50〜100m)×高さ(15〜30m)とする。この防潮堤、防波堤を兼ねた瓦礫の処分場を地域の実情に合わせ、10、20と連たんさせることになる。

 以下に平面図を示す。


出典:青山貞一、池田こみち

 処分場の上には、表土をかぶせ低木などを植える。

 当然、時間がたてば表土は沈降、沈下する。

 必要に応じ、たとえば福島県の場合には、遮断型として管理型処分場の上にコンクリートのフタを付ける。福島県内の海岸では、放射性物質を含む土砂、瓦礫が多くなるので、遮断型とすれば万全である。

 また瓦礫は分別し、この処分場に処分するのではなく、仮置し、将来、リサイクルなりリユースできるものはすればよい。

 こうすることで、ほとんど瓦礫類を遠隔地に運ぶ必要も、燃やす必要もなくなる。環境汚染は通常の管理型処分場と同じであるから、2次処理まですれば排水を公共用水域に流すことも可能である。

 ただし、福島県の場合は、放射性物質を含む瓦礫となる可能性が大なので、遮断型とし内部に雨水、海水が入り込まないような構造とし、放射性物質を含む排水が外部に出ない構造とする。

 一方、宮城県、岩手県など、放射性物質を含む瓦礫がほとんど存在しない場合は、コンクリート構造の管理型処分場とし、コンクリートのフタを付けない場合は、2次処理まで可能な水処理施設を50〜100mの間隔でつける。

 コンクリート構造物は汚染水の重力浸透を防ぐので水処理装置を常時モニタリングしながら監視すれば汚染の問題は深刻にならないであろう。

 10年以上経ったら、小高い古墳状の緑地でありスーパー堤防となる。もちろん、この場合には、その内側の平地でまちづくりが可能となるので、新たに山を削ったり造成する必要もない。

 この方式のヒントは、北イタリアでミラノ北にあるセベソにある。またスーパー堤防はオランダのペッテンやデンフェルダー地方にある。


オランダのペッテンやデンヘルダー地方にある堤防の断面概念図
出典:青山貞一、池田こみち

 以下の写真はオランダのペッテンにあるスーパー堤防である。

 堤防の海側は自転車道路となっており、自転車が高速で走行している。オランダのペッテンの堤防では、それより海側の波打ち際は散歩道や犬の散歩道、ドッグランとなっており、鎖を解かれた犬が喜んで泳いでいた。


オランダのペッテンやデンヘルダー地方にある堤防
撮影:青山貞一

 また堤防の陸側は、牛、羊などの家畜の放牧場となっていた。


オランダのペッテンやデンヘルダー地方にある堤防
撮影:青山貞一

 さらに上の断面イメージにあるように、陸側にはもう一つの防波堤があり二段構えとなっていた。その外側には、以下のようなかわいらしい住宅がたくさんあった。

オランダ・ペッテン地区にある防波堤の内側の住居
撮影:青山貞一

 費用対効果(費用対便益、B/C)は計算していないが、従来の日本の運んで燃やして埋める方式に比べれば環境負荷、環境汚染は大幅に少ないし、もとより大津波を考慮したフリーハンドのまちづくりが、震災以前の従来の平場で行えることになる。となれば高台を造成したり、隣地開発し大規模な住宅地を造成する場合に比べ、B/Cは絶大だと思う。

 なお、防波堤(防潮堤)の高さは、明治三陸津波及び東日本大津波の各地の波高を考慮すべきである。以下の表によれば、波高の高さは地形などの条件で、地域により異なるが、およそ15m〜30mとなろう。



<引用・参考文献>
0)田中宇:民主化するタイ、しない日本
1)Teiichi.Aoyama, Komichi. Ikeda and Atsushi. Takatori, For the lessons to be learned from the Past Disasters - Based on the Study Tours to the Sanriku Area affected by the Great East Japan  Earthquakes of 3.11-, Japan and Korea,
International at Tokyo City University Yokohama Campas, Jan. 2012
2)青山貞一、池田こみち、鷹取敦、福島放射線現地調査報告、2011年6月
3)青山貞一、池田こみち、鷹取敦、宮城県・福島県北部被災地・放射線現地調査、
 環境総合研究所自主調査報告書、2011年9月
4)青山貞一、池田こみち、三陸海岸 津波被災地 現地調査報告@〜O、環境総合
 研究所自主調査報告書、2011年8月
5)環境省公表資料、沿岸市町村の災害廃棄物処理の進捗状況、2011年8月30日
6)環境省、2011年3月4日、一般廃棄物の排出及び処理状況等について
7)青山貞一、池田こみち、原理的に間違っている国の汚染瓦礫処理と私たちの提案、独立系メディア、E-wave Tokyo、 2011年11月11日
8)池田こみち(環境総合研究所)、東日本被災地の廃棄物資源管理戦略、日本計画行政学会誌、34巻4号、2011年11月
9)池田こみち(環境総合研究所)、広域処理は問題の山、「がれき、復興足かせ」疑問、東京新聞こちら特報部、2012年2月15日
10)青山貞一:不透明な瓦礫処理と環境・利権問題、独立系メディア、E-wave Tokyo
11)宮田秀明(摂南大学薬学部教授、現大阪工業大学教授)、プラスチック焼却の問題点、小平環境会議における講演資料、2004年2月
12)梶山正三(ゴミ弁連会長、弁護士、理学博士):東京都日の出町広域最終処分場に関する東京地裁八王子支部で開かれた行政訴訟の公判審理、東京地裁八王子支部民事一部、2003年10月22日
13)湯龍龍、伊坪徳宏(武蔵工業大学大学院、現東京都市大学環境情報学研究科)、食品廃棄物のリサイクルによる環境影響削減効果
14)佐藤直樹(東京都市大学環境情報学部環境環境学科)、廃棄物問題と温室効果ガスの関連性〜一般廃棄物を例に〜、2012年2月
15)池田こみち(環境総合研究所)、日本の環境保全力は世界の62位、東京都市大学環境情報学部青山研究室公式Web
16)青山貞一、洞爺湖サミット(7)、持続可能な社会経済モデルの模索、独立系メディア、E-wave Tokyo、2008年7月11日
17)青山貞一、世界的に見た日本の環境持続力は30位!?、http://aoyamateiichi.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/30-3d94.html
18)鷹取敦(環境総合研究所)、議事録作成をやめた「災害廃棄物安全評価検討会」、独立系メディア、E-wave Tokyo、2012年2月17日
19)鷹取敦、環境省への議事録開示請求の経過報告(2012/02/17現在)、独立系メディア、E-wave Tokyo、2012年2月17日
20)原子力規制庁、独立果たせず?経産省と「同居」、読売新聞 2012年2月7日
21)青山貞一、「廃棄物焼却主義」の実証的研究〜財政面からのアプローチ〜、武蔵工業大学環境情報学部紀要、http://www.yc.tcu.ac.jp/~kiyou/no5/P054-059.pdf